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第二次日露戦争  作者: 畠山健一
15/25

ロシア連邦壊滅計画5

 目標はユジノサハリンスク!


「日本はとうとうその本性をあらわした。戦争を始めた目的は領土拡張の野心に他ならない。我が国の資源を強奪しようとする試みは失敗するだろう。我がロシアは侵略者に屈しない。ロシア軍兵士達よ、仲間の犠牲を奴らの血で償わせるときが来た!」

 ロシア国防大臣の演説はロシア軍幹部たちの拍手と歓声で迎えられた。

 日本の防衛省では深刻化するサハリン戦線の打開策について話し合われている。今回はロシアとの開戦以来、作戦の立役者であった人物が同席している。その人こそ、海自呉地方総監部の幕僚長である。

 しかしこのサハリンの作戦は彼の知らぬ間に実行されたものだった。

「ロシア国民がこれを祖国防衛戦争と受け止めて結束するのは厄介なことです。それよりも、自衛官に人的損害が発生したことはもっと深刻です。政治主導でお決めになるのは結構なことです。しかしこうなった以上、最善の策を考え決断しなくてはなりません」

 彼は防衛大臣をはじめ、陸・海・空の自衛隊トップを前に遠慮なしに言い放った。誰も発言しないので防衛大臣が代弁するように答えた。

「人命優先の見地で考えれば、議論の余地はない。サハリンから陸自隊員は即刻撤退すべきだろう。総理もその考えに傾いておられる」

「しかし目標地点は確保しています。撤退すれば占領の為に払った犠牲が無駄になる」

 即座に陸上幕僚長は撤退反対を表明した。すると陸・海・空を統括する統合幕僚長が疑問を呈した。

「ユジノサハリンスクから敵の主力が北上している。航空幕僚長に尋ねるが、空から奴らを止めることには可能なのか?」

「全てを阻止することは不可能です。攻撃機が足りませんし、昼夜を問わず敵は進むでしょう」

「つまり、一時的に確保はしているが、維持することは不可能ということだな?」

 小規模で軽装備の陸自隊員が占領地を維持できるわけがない。ロシア地上部隊の援軍が到着した時点で陸自隊員の運命は決まる。誰もがそう思っている。

 防衛大臣には、最後の意見を聞くべき人物が目の前にいた。

「呉の軍師殿の考えは?」

 しばらくの沈黙・・・海自呉の幕僚長は我に返ったように尋ねた。

「自分の事ですか?」

「知らないだろうが、陰でそう呼ばれている。敬意と皮肉が交じった言い草だな」

「それは光栄です」

「それで?撤退に異論はないだろう?元々この作戦は君の考えではなかったからな」

「撤退には反対です」

 防衛大臣は驚いて目を丸くした。彼の予想外の言葉は全員の注目を集めた。

「この作戦をやる前なら反対したでしょう。始めた以上は一時的な劣勢にうろたえず、悪手を好手として蘇らせる為の知恵を絞るんです。昔の軍部の過ちを二度と繰り返してはなりません」

「君はもともと地上戦反対派だったが、海自の立場としての意見と思っていた。今は推進派かね?」

「上陸作戦とは、本来は海軍の領域です。話を戻しますが、敵の援軍を阻止する方法があります。南部からの上陸を匂わせ、敵の北上を思いとどませればいい」

「まさか騙すと言うのかね?ロシアはそんなに馬鹿ではないと思うが」

「だから騙せるんです。この作戦は元々出来のいいものではありません。ロシアもそう思っているでしょう。つまり作戦の主目的がサハリン1および2である点に疑念を持っていると思います」

「ロシアが疑念を?地下資源狙いはフェイントだと疑っていることかね?」

「そうです。あれほどやかましく返還を叫んでいた北方領土を後回しにして、サハリンへ上陸したわけです。輸入の十パーセントしか依存していない天然ガスの為に、危険を冒して地上戦を戦うとは考えられないでしょう」

「ではロシアはどこを攻められると予想している?」

「ユジノサハリンスクはサハリン人口の半数が集中し、経済的にも軍事的にも要の都市です。北方領土のロシア軍司令部もここにあります。ここを攻め落とされるとロシアは大変困ることになります」

「待ちたまえ、我々にその力があるとロシアが思うだろうか?」

「防衛に不安をもっているということです。制海権と制空権を失い、我々の次の一手を恐れています。我々が地上戦をやる度胸がないとは思っていません」

「そうは言っても、地上軍どうしでは話にならない。ロシアは世界一戦車を持っている国だ」

「確かに、この地域に千両近くの戦車があると言われていますが、その大部分は使えないスクラップ同然の旧式戦車T-55です。モスボール保管といって劣化防止の処置を施し長期保管しますが、再び整備して動かすのは至難の業でしょう。これが予備の戦車一万両もの保有を誇るロシアの実態です」

「では実際の戦車の戦力規模は?」

「百両に満たないT-72が残っているだけでしょう。ロシア全土で三千両の戦車を運用していましたが、千両をウクライナで失い、その補充を国中からかき集めているところです」

「しかし、それでも陸自からみれば相当な戦力だ。そこはロシア第六十八軍の拠点で、狙撃旅団を中心に総勢一万以上の規模とも言われている」

「実際のところは相当数をヨーロッパへ引き抜かれています。我が陸自は彼らと違って透明性を第一に堂々と公表されていますから、無論ロシアも把握しているでしょう。十五万の自衛官に六百両の戦車を持っていることぐらいは」

「しかしそれを運ぶ船は、海自の輸送船を総動員しても足りないだろう」

「民間のフェリーで戦車を運ぶ実験がテレビニュースで公開されたことはご存じでしょう?無論、ロシアも知っています。民間の船舶に十分な輸送力があるということです。勿論ただではありませんが」

「では、ロシアの地上部隊は実際には戦力が不十分で、我々の地上部隊を恐れているとしよう。どうやって彼らを欺く?」

「ユジノサハリンスクからサハリン1と2の施設まで北へ七百キロ以上の距離があります。今の状況が軍隊を遠くへ誘い出す策略の可能性もゼロではないと思っているでしょう。ユジノサハリンスクは北海道最北端から宗谷海峡を隔てて二百キロ程度の距離です。空から攻撃をかけ、偽の上陸作戦をリークします」

「しかし、規模は減っても北へいくらかの部隊は移動するだろう。わずかな陸自兵力では守り切れない。そこはどうする?」

「空から攻撃すべき目標は、道路や橋といったインフラです。ルートは把握しています。敵の速度を鈍らせると同時に、攻撃も容易くなります・・・」

 防衛大臣はそこで発言を遮った。

「もういい。諸君、私は呉の軍師殿の話に乗ってみようと思うが、君たちの意見は?」

 全員が顔を見合わせ、少しざわついた。特に異議を唱える者はいない。

「やりましょう」

 統合幕僚長が代表して答えた。

「やるなら直ぐ行動すべきです」

 陸上幕僚長が付け加えた。

「では決まりだな。ところで君が進めている黒海作戦の方はどうなっている?」

「艦隊は分散して移動中です。先頭はスエズ運河の手前で、最後尾はアラビア海を通過中です」

「では、しばらくはサハリン作戦に集中して大丈夫だな?」

「分かりました。もし負けたら軍師の名を返上します」


 DDH護衛艦「ひゅうが」へブラックホークが着艦した。負傷者が次々と担架で降ろされている。そして交代の陸自隊員が乗り込み、離陸した。

 サハリン北東のチャイウオ付近に既に五百名以上の陸自隊員が展開している。ロシア警備隊との銃撃戦は一段落していた。

 陸上プラント施設の作業員を含む民間人たちは監視下にあるものの、拘束されることなく作業についている。海上プラント施設は陸自のレインジャー隊員たちによって制圧されている。こちらは銃撃戦もなく無血で占領された。

 護衛艦「しらぬい」艦長は大した効果のなかった地上砲撃の任務を終え、元の哨戒任務に戻ろうとしていた。

「艦長、呉地方隊の幕僚長から電話連絡です」

 艦長室に戻った彼はドアを閉め、受話器を取った。

「お久しぶりです、直々に連絡されるとは、何か重大なことですか?」

「手短に話す。君は四隻の護衛艦を率いてコルサコフへ向かってほしい」

「南部沿岸の都市ですね。聞いています、上陸作戦を装う陽動作戦ですね?」

「陽動作戦ではない。既に輸送艦隊と民間からチャーターした大型フェリーも向かっている。本格的な上陸作戦だ」

 艦長は驚きのあまり言葉が出ない。幕僚長はかまわず続けた。

「主目的は北のガス田施設で、その上陸部隊を守るために、サハリン南部からの、偽の上陸作戦の情報をロシア側に流す。きみたちはそう聞いているはずだ。しかしその陽動作戦自体の情報がロシア側に漏れ、敵の主力は北へ向かうだろう。だから本当に南から上陸する。一芝居うって奴らの裏をかいた。港は無防備で、敵の地上部隊は現に北へ移動中だ。港にいる邪魔な船舶は片付け、速やかに陸自の部隊を上陸させるんだ」


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