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第二次日露戦争  作者: 畠山健一
12/25

ロシア連邦壊滅計画2

ロシアの報復と空自の出撃


 打撃を受けたロシアは何らかの形で報復してくることが予想された。日本から最も近いロシア軍の基地は国後島にある。多連装ロケット砲の射程は70kmあり、根室市を攻撃できる。武装ヘリで攻撃してくるかもしれないし、400kmもの射程距離のある対空ミサイルで、北海道上空を飛ぶ航空機を撃ち落とすことも可能だ。

 そしてその時がやって来た。それを報じるニュース速報が日本国民に衝撃を与えた。

 十数発の巡航ミサイルが国後島から発射され、空自のレーダーがそれを探知した。千歳空自基地の第三高射群がPAC-3で直ちに迎撃し、その大部分を撃墜した。

 しかし結果として二発が防空網をすり抜け、帯広市と旭川市にそれぞれ着弾した。死傷者は30名を超え、ロシアとの開戦以来、初めての犠牲者が出た。

 札幌を狙えなかったことからみて、この巡航ミサイルは射程300kmの「カリブル」の初期型と推測された。旧型で精度は低いが、人口密集地へ打ち込んで心理的ダメージを与えようとする意図は明らかだ。

 内閣総理大臣は緊急声明の中で、ロシアの民間人を狙った攻撃を非難し、本土防衛のため敵基地攻撃も辞さないことを宣言した。

 メディアの論調もロシアの非道さを強調するものが多く、ミサイル攻撃を許した自衛隊への非難は見当たらない。今のところは・・・だから急がなくてはならなかった。 

 宣言通り、本土防衛のためには脅威となる敵基地を叩かなくてはならない。海自は大規模作戦の直後で母港に停泊中だ。となると、直ちに作戦可能な戦力は空自しかいない。

 海自が脚光を浴びる中、空自は補助的な立場に甘んじている。DDH護衛艦の空母化が進められているが、艦載機のF-35Bは海自機になるのか?戦闘機は空自の主役であり、長年にわたって北方の空を守っていたのは空自なのだ。

 F-15Jが200機、F-2が90機、この戦闘機乗りたちは厳しい訓練を積み、国際標準からみても間違いなく練度は高い。飛行時間と訓練の質はロシアを圧倒し、米軍に匹敵するほどだ。

 F-15Jは導入されて40年近くになるが、速度、上昇性能、航続距離は次期主力戦闘機のF-35を上回る。ステルス性能?しつこく追ってくる対空ミサイルは厄介だが、レーダー追尾にせよ、赤外線追尾にせよ、パイロットたちはこの運動性の優れたF-15Jを巧みに操り、回避できる技術をもっている。

 ただ、F-15Jは制空戦闘機であり、地上攻撃能力をもっていない。地上攻撃はF-2に任せるしかない。

 この区域のロシアの航空戦力は僅かで、大規模な航空決戦にはならない。しかし有力な対空ミサイルが多数配備されている。

 いずれにしても、北方のロシア軍の脅威が明らかになり、次の被害を防ぐべく、空自に防衛出動命令が下された。緊急事態であるため、細かい指示や制約を与えず、裁量は空自に委ねられた。

 空自の幹部たちは、これを大きなチャンスと捉えた。空自が必要不可欠である存在を知らしめるときなのだ。

 日本が近代的な軍隊をもって以降、先の大戦まで空軍の存在はなかった。航空機部隊はそれぞれ海軍と陸軍に属し、彼らを補助するための支援組織にすぎなかった。

 今の時代にそんな妙な伝統まで受け継ごうとする連中がいる。海自の中には「空自分割」論者までいる。空自は本土防空任務に徹すればよいが、海自は同盟国とともに世界へ活動範囲を広げ、国際平和を守る使命を帯びた別格の組織である。その海自にふさわしい航空戦力を与えるのは当然であり、その戦力を空自から転用すべきである・・・そんな一部の考えが広まりつつあるのだ。

 空自は迷うことなく直ちに行動した。全ての航空方面隊より精鋭パイロットからなる小規模飛行隊を15グループ編成した。

 第一陣は千歳空港から飛び立った第201飛行隊のF-15DJ編隊である。高度15,000m、南西の方角より択捉島へ接近している。3機編隊の1番機のコクピットでは、レーダーロックオンの警告音が鳴り響いていた。

  F-15DJは複座式で後席には教官が訓練目的で乗ることが多いが、今回はミサイルの迎撃、回避の為のレーダー及びシステム要員が乗っている。

「対空ミサイル接近中!距離300kmで発射されました」

 ロシアは地対空ミサイルS-300V4を国後島と択捉島に配備したと2020年に公表している。射程は400kmとされるが、その実力は定かでない。

「空対空誘導弾、発射します」

 向かってくるミサイルの飛翔速度から、F-15DJの装備する空対空ミサイルで迎撃可能と判断された。迎撃できなければミサイル誘導を妨害するチャフ・フレアを発射して回避行動をとる。

 同じ目的の飛行隊が、あらゆる方角から国後島と択捉島に接近している。

 全てはこの二島の防空システムを担うレーダー網を把握し、F-2戦闘機の誘導爆弾でそれを破壊するのが最終目的である。

「ミサイル撃墜!」

 国産の99式空対空誘導弾の有効性がここに証明された。後続の飛行隊も対空ミサイルの攻撃を受けたが、同様に「迎撃成功」が続々と報告された。

 F-15DJの編隊が二島上空を飛び回っているうちに、ロシアの迎撃ミサイルは次第に減少し、ついには全く発射されなくなった。

 撃ち尽くしたのか、温存しようとしているのか不明だが、既にレーダーの位置は空自に突き止められている。

 F-2の総勢75機からなる爆撃隊は、スマート爆弾とも呼ばれる誘導爆弾でレーダー基地を次々と破壊した。

 ついでに自走式のミサイル発射台十数台を破壊した。

 やることが無くなったF-15Jたちは、獲物を探し回るように低空飛行をした。武装ヘリをバルカン砲で仕留めた機もあった。

 無人機が幅を利かせる今の時代、このような攻撃は特攻機と変わらないと言われるかもしれない。だが戦闘機パイロットたちは実戦での勝利に、士気は大いに高まっている。

「Su-35接近中!」

 初めての敵戦闘機の遭遇にF-15Jは急上昇した。早い者勝ち、と言わんばかりに十数機がこの獲物に殺到した。

 初めに発見したF-15JがSu-35をロックオンした時、別のF-15Jが間に割り込み、この敵機戦闘機を撃墜してしまった。

「馬鹿野郎め!」

 獲物を横取りされたパイロットは思わず怒鳴った。

 空自の働きで、北方四島の制空権を完全に確保した。これで安全に、ロシアの地上軍を攻撃することができる。

 彼らは徹底的にやるつもりだった・・・海自に邪魔される前に・・・

 防衛副大臣がそのニュースを耳にしたとき、彼はちょうど海自の幕僚長と会合中だった。

「何と無茶なことをする。損害を受けなかったからよかったものの、撃墜されていたら我々が叩かれていたところだ」

 防衛副大臣は苦々しく語った。

「いや、空自は素晴らしい働きをしました。我々の計画していたことを早々とやり遂げたようです」

 海自幕僚長は率直に空自の活躍を称えた。

「ロシアは北方領土から一般市民を狙った攻撃を仕掛けました。これはロシアの大きな過失です。これで我々の北方領土攻撃の名分が立ちます」

「君の立てた作戦の正当性も証明されたわけだ」

「空自がここまでやれるとは・・・これはうれしい誤算です。樺太の基地に対してもこの攻撃は使えますよ」

「北方は君の作戦通りに実施すべきだと思う。しかし・・・」

 防衛副大臣の表情が少し変わった。

「黒海へ主力艦隊を送るとは、少々ハードルが高いな。承認されるかどうか・・・」

「今だからできることなんです。ロシアという国は、我々が近代国家に仲間入りして以来、過去も現在も未来も、我々の宿敵であり、本当の敵であり続けるでしょう。そのロシアが、かつてないほど脆弱な状況にあります。ウクライナは善戦し、ロシアに打撃を与えています。ただ、消耗戦になるとウクライナに不利に傾くでしょう。彼らの勝利なくして我々の勝利はありえません。そのために我々は行かなくてはならないのです」

 防衛副大臣は降参したかのように手を挙げた。

「君と心中は御免だが、今のところ君の作戦は当たっているし、そのとんでもない構想に乗ってみるしかない。だがトップの説得には君も付き合いたまえ。今のように情熱をもってな」


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