6話 ビッグシスター
カラオケ店でのアルバイトでヒデさんと同じシフトだが、謎の女が登場し、店を荒らして帰ってしまう。強烈な個性をもつ彼女は誰なのか。その後のヒデさんの様子もおかしい。
雲ひとつないよく晴れた日の夕方、ワイはシフトでカラオケ店に向かった。
この日はヒデさんと一緒だった。
「シンジ君、俺はボクシングジムに通ってるんだよ」
「すごいっすね。どちらにあるんですか?」
「このビルの2軒隣の地下だよ」
「へぇ、そこにあるなんて知りませんでした」
「体を鍛えるのが生きがいなんでね」
「なるほど、こないだ謎のドリンクを飲んでいたのもその為なんですね」」
「ああ、そうだ」
話をしていると見知らぬ女性が店に入ってきた。
「こんばんは」
「おお、きたか」
「ヒデさん、この方は?」
「妹のトモミだよ」
「よろしくでーす」
「え、ああ、シンジです。よろしくお願いします」
肌は色白く、白いTシャツでへそを出していて、短パンで健康的な感じでヒデときょうだいと言われると顔は似ていないが、そんな気がした。
「シンジさん、ハーバーシティは長いんですか」
「まだ来て1ヶ月です。トモミさんは?」
「ん〜2年くらいかな」
「すごいですね」
「せやね」
「え?」
「シンジ君、トモミはここに来る前は浪速で暮らしてたんだよ」
「そうなんですね」
「兄ちゃんからここのまかないマズいって聞いてな、シチューを作ってきたんや、シンジさんも食べてな」「え、いいんですか」
「もちろん」
トモミが袋から取り出した箱に鶏肉の入ったシチューをこしらえて、レンジで温めだした。
「チンすると温かくなって、美味しいから。あっ、そっちのチンとは違うで」
「え?」
「トモミ、せっかくだからシンジ君に抱いてもらえ」
「ん〜、ノーサンクスです!」
「……」
いったいどんなきょうだいなんだ?
チン(温め)が終わった。
「さ、どうぞ」
「ありがとうございます」
ヒデは勢いよくほおばって食べた。
「うまっ」
「うん、美味しいですね」
「せやろ」
「トモミは頭はおかしいが、料理は一品なんだよ」
「あんたに言われたくないわ!」
「なんだと!兄ちゃんに向かって」
差し入れを食べ終わると、トモミは嵐のように帰っていった。
「面白い方ですね」
「シンジくん、妹は、こっちに来てからインディアンの彼氏がいたんだけどね」
「へぇ」
「どうも宗教的な理由から、結婚を決めた人と初体験をするというのがあるらしかったのだが、ある日妹と関係を持ってしまった」
「マジすか?」
「それで当然結婚するものだとその彼氏は思っていたが、ほどなくして妹は彼氏をふってしまった」
「ええっ?」
「その後数ヶ月たって、たまたま共通の知人の老人が亡くなり、葬式に参列した時に彼氏をみかけたら、げっそり痩せて、頬もこけていて、まるで廃人のようになっていたらしい」
「ええ? そうなんですか?」
「ああ。変わり者だんだよ」
きょうだい揃って変わり者では?
この日は平日だったが、21時くらいになり客が増えてきた。
「シンジくん、これ頼む」
「はっ、はい」
「それから部屋の片付けも」
「はい」
しばらくして部屋の片付けが終わると、波が穏やかになり、落ち着きを取り戻した。
「ヒデさん同じ曲が同時にリクエストされてビビりました」
「そう、たまにあるんだけど、前は3部屋からきた時あったよ」
「ええ? VCDって2枚で、そういう時はどうするんですか?」
「テキトーに違うの入れたことがあって、客はローカルの人なのに、チャイニーズの曲が流れてるぞ!って怒りの電話がかかってきたり」
「マジっすか?」
「ああ。あとチャイニーズの女どもはやかましいから、カップラーメンのオーダーが入った時は、沸騰したての一番熱いお湯を入れて、あわよくばやけどみたいになればいいのにといつも心がけてるよ」
「ええっ?」
「じゃあ、そろそろ片付けて、店を閉めようか」
「は、はい」
この日も愉快な1日が終わろうとしていた。
ワイは類は友を呼ぶという言葉を肌で実感することができる奇妙なエピソード。