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「人生は劇的でもなければ、勿論劇でもない」
士官生エリア;フィスラフィルはいつぞやに教官に言われた言葉を呟いてみる。
窓から外を仰げば空は蒼くて、蒼穹の天蓋は鎮座をしているように確かにそこにあった。エリアは何とはなしに右手に青色の魔法を灯す。
「だが、役柄には囚われる。その役柄を超えて目の前の人間一人助けることは許されないのさ」
それは軍人なりの滑稽か。それとも皮肉だったか。
エリアはそう上等ではない馬車にガタガタと揺られる。だが、鍛えぬかれた肢体、あるいはその体全てには何時間揺られようが目立った疲れはない。
馬車は王都に向かっていた。明黎の治安維持推薦法によって一定数の人口を持つ街や村には相応の魔法少女の配備が義務付けられている。
エリアが迎えられた任地は広大な王都でも端の方だが、そうは言っても下手な国ほども人口のある【王都】の端だ。今回欠員が出た運びにより、急遽士官学校を出たばかりのエリアが派遣されることになった。
「うーん……うまくやれるといいな……」
エリア;フィスラフィルは不安げに、だがどこか期待にも似たような色で、独り言としてそう呟いた。
「お嬢さんは見た所、軍人の方のようですがお荷物の量から察するに滞在されるので?」
急な馬車引きからの呼びかけに驚いてエリアはビクッと肩を動かす。だが、すぐに平静を取り戻して。
「え? ああ、そうですそうです。春から警護の見習いなんですよ。新米だから上手くお仕事が出来るか不安なんですけどね。あはは」
「そうですか、それはすごい。法と秩序を守ってくれる魔法少女が少しでも居てくれれば街の治安が目に見えて良くなりますからね。ありがたいことです。……最近は王都も物騒だから、私もこの稼業をやってて気が気じゃないですよ。同業者から今度はやれあそこの馬車が”人間”に襲われたとか聞かされてはねえ」
「あはは。出来るだけ平和に貢献出来るように頑張ります」
「ぜひ頑張ってほしいねえ。どれ、あと数刻もしない内に王都の領域に入ると思うからそれまではゆっくり休んでくれよ。とはいえこんな安物の馬車じゃそうは言ってもられないと思うけれどねえ」
「そんなことはないですよ。快適です」
エリアは何とはなしに頬を拭った。