投手コーチの秘策
先発投手がそろそろ疲れてきたようだ。投げるボールの勢いが落ちてきている。
「しかし、うちの中継ぎは、いまいち信用が置けないし」
監督はぼやいた。それだったら、この先発にもう少し投げてもらった方が、ましな気がする。
「監督、ここは俺に任せてください! 秘策があります!」
投手コーチが目を輝かせながら、口を挟んでくる。
監督は少し迷ったものの、他に案があるわけでもないし、任せてみることにした。
投手コーチはさっそくベンチを飛び出すと、「タイム」をとる。これから使うつもりの秘策、自身の趣味と深い関わりがあった。
この投手コーチ、プロ野球界でも一、二を争う、特撮マニアだ。常日頃から、「戦隊ものや変身ヒーローは、自分の人生に欠かせない存在」と語っており、特撮関連のイベントには、足繁く通っている。
そして先日、知り合いの特撮マニアから、ある物をもらったのだ。
投手コーチはポケットから「秘密兵器」を取り出すと、周囲に見せつけるように高々と掲げた。
悪の組織が使っていたという、「巨大化光線銃」である。
このコーチ、正義の味方も好きだが、それと同じくらい、悪役も好きなのだ。
だから、こういった「お約束のアイテム」は、胸のワクワクが止まらない。
悪の幹部になったつもりで、光線を放つ。ライムグリーンの光だ。ビビビビビビビバァッ!
すると、マウンド上の先発投手が、あっという間に「巨大化」した。
「ぐぉぉぉぉぉぉぉ!」
両腕を大きくふり回しながら、奇声を発している。
期待していた通りの効果に、投手コーチは大満足だ。
あの先発投手、普段よりも興奮しているみたいだが、細かいことは気にしない。かなり元気になったのは確かだし、最低でももう一イニングくらいは、余裕で投げてくれるだろう。
目を白黒させている審判に対して、投手コーチはにこやかに言う。
「試合を再開してもらって大丈夫です。彼がそのまま投げますので」
次回は「雪かき」のお話です。