部活動紹介
爽やかな陽気の四月上旬、ある高校の体育館では、部活動紹介が行われていた。
今年入学してきた一年生たちに、各部が自分たちの活動を紹介し、新入部員を募集するという、毎年の恒例行事だ。
この日を迎えるにあたり、多くの部が春休みの大部分をつぎ込んで、しっかりと準備をしてきた。
部員が少なすぎると、廃部の危機を招いてしまう。すでに背水の陣となっている部には、「最低あと何人必要」というノルマが、春休み前に生徒会から通達されていた。
部員が多いことでのデメリットもあるだろうが、基本的にはメリットの方が上回る。人数が多ければ、それだけ活気があるわけだし、部費として使える金額も増えることになる。
ただし、新入生の数は無限ではない。争奪戦は必至。人気の部がある一方で、不人気の部が出てくる。
特に今年の場合、圧倒的に有利な部が、一つ存在するのだ。
野球部である。昨年の地方大会を制して、全国大会に出場した。
全国大会での優勝こそならなかったものの、かなり後半まで勝ち進んだ。
惜しくも敗れた試合では、「運命のスクイズ」という名場面を生み出し、日本中で話題になった。
もしも、あのスクイズがセーフの判定だったなら、全国制覇も夢ではなかったかもしれない。紙一重の敗戦だった。
そういうわけで、注目度ナンバーワンの野球部。
昨年の主力が二年生だった、このことが大きな強みになっている。今年もチームにそのまま残っているので、二年連続の全国大会が射程圏内だ。
野球部は今年、選手とマネージャーを、人数の上限なしに募集するそうで、キャッチコピーは二つ。「みんなで行こう、全国へ」と「あの場所へ、俺たちが必ず連れていく」。
昨年のことがあるだけに、野球部に興味を持っている一年生は、かなり多いと予想される。そのしわ寄せは、他の部を直撃するだろう。
そんな危機感から、多くの部が春休みの大部分をつぎ込んで、部活動紹介の準備に励んできた。
いくつかの部が出番を終えたところで、体育館のステージ上に、野球部のユニフォームを着た男子生徒たちが登場する。
この高校のユニフォームだけでなく、あの試合、「運命のスクイズ」で対戦した高校のユニフォームを着た生徒たちもいる。
そして、あの名場面を再現し始めたのだ。テレビで繰り返し流れた場面なので、新入生たちは大いに盛り上がる。
この展開に、他の部は苦々しい思いだ。
ステージ上の生徒たちは、審判が判定をくだす直前まで、その再現ドラマをやり通した。アウトになった部分を省略したのは、おそらく「わざと」だ。
万雷の拍手が乱れ飛ぶ中、彼らが明るい笑顔で告げてくる。
「さあ、君も誰かに感動を届けてみないか。俺たちは演劇部だ」
次回は「投手コーチ」のお話です。