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花とスーベニア-蛇足

 前話の端折った部分なんですが、もったいないので作品供養もかねて部分投稿。スーちゃんが花を咲かせた場面ですね。

 上層の一角にそびえたつ大屋敷、それがヒエロドルテ=オキュラスの家である。広いバルコニーで彼女は澄んだ水の入ったティーカップで口をつけ、選りすぐられた良質な石炭に舌鼓を打つ。


 そんな静寂のひと時に、喧騒とともに招かれざる客が訪れる。


「おい!ヒエロドルテ!私が来てやったぞ!さぁ、歓迎しなさい!」


「スーちゃん!元気なのはいいですが静かに!ここは中層じゃないのデスから」


 不遜な態度の客人であるが、声はよく知った声である。護衛に出迎えられて訪れる彼女の両手には、らしからぬものを抱えている。


 花だった、咲き誇るそれは決して高価でも珍しくもない。しかしスーベニアは自信たっぷりにそれを見せつけ、語る。


「花を愛でてみたの、どう?驚きで声もでない?」


 今朝、いつものように花に水やりに行ったスーベニアを出迎えたのは、つぼみではなく大きく開いた花弁をつけた満開の花だった。知識のない彼女はそれがどんな名の花なのかはわからなかったが間違いなく世界で一番に美しい花だと思った。


 とりあえずシャパリュに報告ついで自慢。それからこれまでの苦労の日々を語る。そして、偉そうに自分に説教垂れたこの騒動の原因の鼻を、自慢の花で明かしてやろうということになり此処へ訪れたのである。


 「どうしたの?押し黙っちゃって。見惚れて声も出ないのかしら?」


 「…酷いものですね、特に支柱の歪さはなぜこれで自立してられるのか私の演算機能をもってしても処理しかねます。」


 鼻を明かす筈が出鼻を挫かれスーベニアは言葉に詰まる。


「う…で、でも…」


「──でも、花は美しいと思います。」


 詰まった言葉の先をヒエロドルテが紡ぐ、普段の天邪鬼な態度からは考えられない素直さである。スーベニアは、自分の努力した部分は否定されたにもかかわらず何故かその賞賛の方が嬉しかった。


 「そうでしょ?趣味の悪いお前でも、この花の良さはわかるのね!」


 その後、賞賛をもらって満足したのかスーベニアはすぐに帰った。本当に自慢しに来ただけだったらしい。恐ろしいほど単純な少女である。


 「…一時はどうなるかと思いマシタが、随分素直に認めたじゃないデスか」


 「別に。私はいつでも事実を述べているだけです。彼女の奇行にはいつも驚かされます。花を育てるなど、私には出来ないことです。」


 「自分で勧めた癖に実践したことはないのデスか?」


 「あれはあくまで一例として、です。花など…そんな一瞬で枯れてしまうものに私は、ああまで情熱を傾けられません。宝石や、貴金属を愛でる方が私の性に合っています。」


 「一瞬だからこそ良いのではないデスか」


 「刹那の存在に価値などありません。人が真にそれを見出してきたのは、いつまでも不変であり続けるものだけです。私たちドールとて、不変であるから良いのです。」


 固く美しいダイヤ、輝き褪せることのない黄金、そして生まれながらに完成された存在であるドール。いつの時代の人も愛してきたのは不変なものであるというのがヒエロドルテの持論だ。


 「彼女が花を愛でる趣味を持ったことは、確かに意外でした。しかし、所詮私たちは前もって設定されたプログラムにより動く機械。彼女のあれは元々そういう余地が、彼女に刻まれたスクリプトの中に存在していたというだけです。」


 「そ、そんなコト言ったら人間達の遺伝子だって同じじゃないデスか…」


 「違いますよ。人間たちのそれと違い我々の行動には、制作者の恣意がどこかに必ず介在しているのです。」


 「…時には作ったものが作者の意図を超えることだってありえマス。彼女の育てたあの花、それがああまでウツクシク咲くと誰も思わなかったでしょう?」


 いつにもまして食い下がるシャパリュだが、最後の意見は冷静沈着な彼女らしくない屁理屈である。スーベニアのこととなると彼女はいつも熱くなる。


 そもそも花とドールは別物だ、彼女の意見は感情論でしかない。しかし、そんな感情論をヒエロドルテは否定できない。


 いつからだろう、元々シャパリュは機械を絵にかいたような無個性なドールであった。それが今は言葉の端々に訛りを残すのみとなっている。それはひとえにスーベニアの存在が大きいのだろう。


 自分はどうだろう。かつての自分ならきっと彼女の屁理屈に対し、その裏に秘められた言葉にできない感情など汲み取らずに、一部の隙のない正論を垂れたことだろう。


 ヒエロドルテはため息をつき、空を見上げる。


 「一雨きそうですね…」


 言葉に詰まって天気の話題。それは以前の彼女からは考えられない姿だ。


 「そうデスね」


  シャパリュもそれに同調し、空を見上げる。薄い雲が太陽にかかり晴れとも曇りともつかない空模様は、まるで彼女らの曖昧な心境を示すかのようであった。




 はい、こんな感じで前話の裏では上層ドール2体の会話が入ってましたっていう描写です。


 一作目の半分以上の文字量な割に、なくても別に大筋には影響しない場面です。しかし前話は、その序文が示していた通り成長をテーマに執筆してたんで最初はこんな感じの会話も入れていました。


 余談なんですが今作の執筆にあたってSPS本編でのシャパリュの性格をおさらいしたいと思ったんですが、困ったことに自分はゲームスキルが壊滅的でリリース当初から今までで一度もマリスステラの第二形態、およびその先のシャパリュに出会ったことがありません。


 なんか頑張ればいけそうなんですが、ゲームに対して頑張るっていうのが自分はどうも苦手です。ニコ動の大百科まで執筆したくせに不敬なものです。


 そんなわけで動画漁ったらありました、SPS本編クリア動画。流石天下のyoutube。


 早速確認したんですがシャパリュのスーちゃんの呼び方、「スーさん」でなく「スーちゃん」なんですね、上層のドールなんで、てっきりヒエロドルテと同じ前者だと思ってたんですが。


 きっと最初は「さん」呼びだったのが紆余曲折経て、段々と今の「ちゃん」呼びに変わっていったのだとか妄想してみると、彼女達を見守る目線に生暖かいものが加わるのを感じます。


 なんだかこれ以上続けるとさらに気持ち悪い自分語りが始まる気がするので、こんな蛇足部分まで確認しに来てくれた方々に感謝しつつ、今回はこの辺で失礼します。

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