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液晶母ちゃん

作者: 右京

高校3年生の時に出逢い、同じ大学へ通い卒業と同時に


結婚した妻が最近癌の闘病の末、56歳の若さでこの世を


去った。


私は、枯れんばかりに涙を流し、日々すっかり抜け殻状態


で過ごしていた。妻の看病の為に会社を早期退職した私は、


行く当ても生きる希望すらも持てずただ彷徨う様に日を重


ねていた。あの奇跡が起きるまでは・・・・



24の長女の結婚式。空席となった妻の席の傍らに陣取っ


た私は、精一杯の作り笑顔で子供の門出を祝う父親役を演


じるのに必死だった。式も披露宴も無事終了し家族団欒の


時間。記念に私は、ビデオカメラをまわし始めた。新しい


家族、娘の笑顔、家族の温かみ全てを記録しておきたかっ


たからだ。



カメラをまわし始めて間もなく私は、液晶に写る妻の姿に


気が付いた。んなバカなと疑いつつも見守り続ける。妻は


家族の間を歩き回り幸せを共有してる様な仕草が見てとれ


た。液晶から視線を外し部屋へ目を向ける、勿論そこに妻


の姿は無い。液晶へ視線を戻すと妻がカメラに向い私をじ


っと見つめていた。次の瞬間ニコリと笑った妻は口を開い


た。


「みんな元気そうで安心したわ。」


唐突な出来事に言葉が、出なかった。


「ねぇ、残り時間あと何分?」


妻の急な問い掛けに反射的にタイムカウンターを確認した。


「あと、2分しかないや・・・」恐る恐る返答する。


「そう、じゃあ話したい事だけ話すわね。」俯き顔も仕草


も間違いなく妻だった。途端に涙がこみ上げてくる感覚に


襲われる。


「あなた、いつまでもメソメソしないで。時間が勿体無い


ないじゃない。」それは、死んでしまった側にしか言えな


い事だろ、と返したかったが我慢し聞き入る。


「まだ61なのよ。残りの時間を、有意義に使ってほしい


の。再婚だってありよ、老後面倒を看てもらう必要性が出


てきてもおかしくないものね。」私は、口をへの字にし、


言いたい事を必死に我慢した。


「私は、幸せだった。貴方に出逢い家族を築き家庭の温か


さを知る事が出来た。」思いっ切り途中っぽい所でタイム


カウンターがゼロを表示していた。再度喪失感に襲われた


私は身動きが、出来なかった。液晶を見つめ涙を滲ませる


私を心配した娘が言葉を掛けてきた。


「大丈夫?、父さん?」液晶に妻の姿は無かった。部屋を


見渡すと全員が心配そうな顔をして私を見つめていた。



「大丈夫。嬉しくて涙が出てきただけだから・・・」そう


誤魔化しカメラをそっとしまい部屋を後にして仏壇へ向う。


部屋に明かりを灯し仏壇の前に腰掛ける。妻の遺影は、見


慣れた笑顔を振りまいている。


「泣いてばっかりの俺を叱りに来てくれたのか?。ごめん


な、情けない夫で。言いたい事を何も言えなかったから、


そっちで再会した時にでも話すよ。俺も・・俺もお前に出


逢えて本当に良かったよ。」


妻の遺影が、より微笑んだ様に見えた。




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