彼は体育系男子でした。
「それじゃ、二人一組になって軽く一周してこい。」
私達女子の体育の担当になった武田先生は、太い腕を組んで指示を出しました。
「え~。」
「すぐ走るの~?」
周りの女子達は、口々に愚痴り始めた。正直私も、同じ気持ちです。
「そりゃそうだ。運動の基本は体力作りだからな。」
武田先生は二十代前半。歳が近い為か、比較的フレンドリーに接する事が出来ます。
ふいに武田先生は、トラックを見ました。そして、
「今走っている男子は、トラックを五周走るんだ。お前達も五周にするか?」
直後、私達の後ろを男子達が、砂煙を上げながら走り去って行きました。それを見て私達は、
「「「一周が良いです!!!」」」
そんな男子の中で、たった一人だけ、独走している人がいた。
(あっ、二階堂君………。)
□ □ □
「は、は、は………。」
「は、速ぇ………。」
荒い呼吸と共に聞こえた声の中を聞きながら、俺は走り抜ける。
俺は、勉強こそからっきし駄目だが、運動は出来る方だ。
今、他の男子の集団と半周差をつけている。俺の前には勿論、周りにも誰も走っていない。
完全な独走状態で、それが爽快だ。
(完全に俺が一番。最っ高!!)
ふと俺は、横目でまだ走っていない女子の集団を見た。どうしても、そこから視線を感じる。(独走してりゃ当然か?)
………妙に熱い視線の原因が分かった。
朝川さんだ。
(何でだろう。………まさか!?)
(勉強は出来ないくせに、運動は出来るんだ。………変な人。)
(………何て思われているのかもしれない!!)
俺は思わず、顔をくしゃっとしかめた。そして、
「ま、まだ速くなるの!?」
俺は残り一周を全速力で走り切った。………悲しみを力にして。
□ □ □
「嘘っ!?」
「二階堂君、はっや………。」
残り一周を彼は、全速力で走り抜けました。この異常な光景に、武田先生も唖然としてます。
「誰だ、アイツ………。」
「ウチのクラスの二階堂徹です。」
「二階堂………徹?」
「はい!やっぱり凄いですよね!」
「あ、ああ。凄いと言うより、………あり得ない。」
なんと!武田先生の中でも好評価になってました!
(やっぱり凄いなぁ~。)
ーーーでも、ラストスパート直前に、何でこっちを見たんだろう?
それに、何故か泣きそうな顔にもなってました。
「?」
原因が他ならぬ、私自身だなんて、この時は全く気付きませんでした。