プロローグ 「ヴィーガン団体「ふきのとうの会」」
〜某所、とある肉フェス 入り口付近〜
「あなたたちは、肉を食べることに何も疑問をもたないのですか!?」
「動物にも心があります!動物にだって痛みがあります!そして泣きます!私たち人間と何も変わりません!」
「さあ!今日からみなさんも、動物製品のものを食べる事、使うことをやめ、野菜や果物、植物性のものへ変えていきましょう」
「そうする事により、私たち人間は幸せになり、動物たちも幸せになり、この世界全てが良くなっていきます!」
「ヴィーガン イズ オール!全てに愛を!みなさんもご一緒に!」
「「ヴィーガン イズ オール!」」
1人の女性を筆頭に後ろの人間達は声を上げる
数にしたら30人以上はいるのだろうか、その多くは女性で占めていた
「・・・・・・・・」
「なにあれ、なんか言ってる」
「っち、うるせぇな・・・」
それに対して肉フェスに参加してるものは、彼女らを冷ややかな目で見るもの、無視するもの、無関心のもの、中には野次を飛ばしてるものもいる
しかしそんな目も気にせず、彼女らはメガホンを片手に必死に訴える
「さあ、フェスに参加してるあなたたちも、せーの!ヴィーガン イズ オール!!」
「・・・・・」
「ふざけんなよ、こんなとこでやるか?普通?」
「野菜なんか食ってられるかよ、やっぱり肉だよ肉」
「強要してくんなよ、これだからヴィーガンは・・・」
「もっとよ!もっと!ヴィーガン イズ オール!!」
「「ヴィーガン イズ オーーール!!」」
「・・・・・・・」
「見ちゃダメよ、ほら行くわよ」
「あほくさ、帰ろ帰ろ」
「「まだまだ!もっと声を出すのよ!!ヴィーガン イズゥ ウォォォォル!!!」」
「「「ヴィーガン イズ ウォーーール!!」」」
その彼女らの演説とコールは日が暮れるまで続いた・・・
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〜ヴィーガン団体「ふきのとうの会」即席テント内〜
「お疲れ様でした!吉乃咲さん!良い演説でした!これ、お水です」
「ありがとう、頂くわ」
ゴクゴク、プハッ・・・
「・・・凄いですよね、吉乃咲さんって・・・」
キュッキュッ
「ん、そうかしら、私は至って普通の事をみんなに伝えてるだけよ・・・」
「その普通が凄いんです!誰もが少ならからず思ってても決して口には出さないようなことを、吉乃咲さんはいとも簡単に堂々と発言する!こんな事は誰にだって出来るようなものではありません!ましてや私には到底・・・」
「クスッ、それじゃあ私が常識外れみたいな人みたいじゃない・・・フフ」
「あっ、決して、そんなつもりで言った訳じゃないですよ!本気で凄いなって思って!憧れてるっていうか!そのー・・・」
「冗談よ、ありがとうね雪江ちゃん」
「い、いえ、そんな・・・」
「雪江ちゃんは、この団体に入って、たしか3ヶ月ぐらいだったかしら?どう慣れた?」
「あっ!はい!みなさん良い人ばかりで優しくしてもらってます!前は港区にある高級ヴィーガン料理専門店に連れてってもらいました!とても美味しかったです!」
「あら、それは良かったじゃない!」
「・・・・・・・」
「・・・・・・」
「え、えっと、吉乃咲さん、その一つだけお聞きたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」
「どうしたのよ、そんな改まって、フフ」
ジッ・・・
「・・・・」
「!」
「ふぅ・・・いいわ、私が話せる範囲ならなんでも聞いてあげるわ・・・そんな真剣な目で見られたら断れないしね」
「あ、ありがとうございます!吉乃咲さん!」
「で、聞きたい事って何かしら?」
「それはですね・・・私、ど・・・」
「「吉乃咲さん!!大変です!!」」
「何?今取り込み中よ、あとにしてもらえない?」
「す、すいません、ですが急に団員の1人が暴れ始めてしまって、私達の手じゃ手に負えなくて・・・」
「暴れてるって・・・どうせ、そんなの時期に収まるでしょ?こっちは大事な大事な後輩の相談事で・・・」
「いや、なんかそういう雰囲気じゃないんですよ!ガチです!ガチ!ナイフとかもってるんですよ!!怪我人が出てもおかしくないです!」
「!?」
「それを早く言いなさいよ!分かった、私が止めに行くわ!」
「あっ・・・」
「ごめんね、雪江ちゃん、これが落ち着いたら、ちゃんと聞いてあげるから、ちょっと待っててね」
「は、はい、気をつけて」
今に思えばここが分岐点だったのかもしれない
このあとまさか、ああ、なってしまうとわね・・・
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「おい、それ冗談じゃ済まないぞ!沙織!」
「そうよ、一回落ち着こうよ!ナイフもしまおう」
「うるさい!うるさい!うるさい!前々からお前らの思想にはうんざりしてたんだよ!こんな団体に入ったから好きなもの食べれなくてストレスは溜まるし、シワも増えるし、体重も増えるし、彼氏にも振られるし!全部全部お前らのせいで!!」
「どうするよ?沙織ちゃん完全に頭に血昇っちゃってるよ!」
「昨日彼氏さんから電話越しに振られたらしい・・・それがキッカケなのかな?日頃の鬱憤が爆発したのかもしれない・・・でも、ちょっと様子がおかしい気がする・・・」
「そりゃあ、どこからどう見ても様子おかしいでしょ」
「いや、いつもの沙織なら、こんな事で暴れるわけない!他にも何か理由があるはず・・・」
「というよりも、体重に関しては、普段隠れて肉とかお菓子食べてるのが原因だと思うんだけどな」
「えっ、それまじっすか?岡田先輩!?」
「マジマジ、ずっと黙ってたけど、半年前ぐらいに沙織の裏アカ見つけちゃって、気になって覗いたら、私達ヴィーガンの悪口とか、肉食ってますアピールの写真とか結構あってビックリしたなー、あっ、この話は吉乃咲リーダーには秘密ね、黙ってた私が怒られちゃうから」
「その話は本当かしら?岡田さん?」
「!!!?」
「吉乃咲リ、リーダ・・・居られたのですね?あはは・・・」
「第8条、団員内での裏切り及びその疑わしい行動があった場合は全てリーダである私に即座に報告する」ニコッ
「すいません!すいません!リーダ!そんな悪気があって黙ってた訳じゃないんです!そのっ、なんていうか、アレです!え~と・・・アレなんですよ・・・アレ・・・」
「いいわ、その件に関してはこの問題が解決したら後日ゆっくり聞かせてもらうわ、いまのうちに良い言い訳を考えときなさい」
「あはは・・・とんだ、とばっちりだぁ~・・・」「どんまい岡田さん」
「さてと、沙織さん、あなた今自分で何をしているのか理解しているのかしら?」
「ああん?リーダさんよぉ、さっそくアタイにご指導か!?糞ウゼェな!!前々からその余裕っ顔には腹が立っていたんだよ!!いっかい、このナイフでその顔グジャグジャになるまで崩してあげようかな??アヒャヒャヒャヒャ!!!」
「おまっ、リーダになんて事を!」
「いいの、勝手に言わしときなさい・・・」
「沙織さん言っとくけどそんなナイフ一つで私が怯えるとでも思ったのかしら?残念だけど、私はこのヴィーガン団体、通称「ふきのとうの会」創立者であり、リーダであるこの「吉乃咲 幸子」(38)にはそんな脅し通じないわよ」
「あぁぁあぁああぁあ!!腹立つ!腹立つゥゥッ!!糞ババアが!!!」
「私はただ良い美容とダイエットの方法があるって聞いたから、こんなとこに入っただけで、お前のしょーもないルールとか条例とか知ったことじゃねぇんだよ!!」
「それに結局は、髪も肌もボロボロになるし、体重も増えるし、彼氏とは別れるし・・・!!全部嘘だったんだ!この詐欺集団め!!死んでしまえ!死ね!死ねえええッ・・・・オエッ!!・・・ゲホゲホゲホッ!!!」
「・・・・・沙織、あんたまさか・・・」
「ハァハァ・・・まぁ、半年前からダイエットにめっちゃ効く薬使ってるおかげで、けっこう体重落ちてきてるけどね、あっ、でも髪と肌は中々良くならないなぁ・・・ゴホッゴホッ・・」
「沙織、その薬どこから手に入れたの・・・?」
「えっ、何?何?リーダさんも気になる?でも教えてあげなーい!私だけの極秘ルートだから教えてあげなーい☆んふふふふっ」
「・・・・・・・」
「分かった沙織、今回の件全て私が悪かったわ、反省してる」
私は膝を地面につけ、頭を下げた
「吉乃咲リーダ何してるんですか!?」「リーダは何も悪くないですよ!頭上げてください!」
「ありがとう、でも今は黙ってて、彼女はもう手遅れよ・・・」ボソッ
「あれれ?何か以外だなぁ、リーダがそんな土下座をするなんて、まぁ気分的には気持ちいいからいいけど!でもさプライドっていうのは無いのかな?そんな奴の下で動いてた私の身になってほしいな~」
「っぐ、あいつ好き勝手言いやがって・・・」「リーダ・・・」
「沙織さん、つらい目に合わせてしまい本当に申し訳ありませんでした、今後、私たち一同は、二度とこのような事が無いように日頃から改善をしていきたいと思っております」
「え?なに?その業務的な・・・」
「今後、沙織さんの対応としては、これまでの会員費、月2万円、14か月分全て返金致します、そして慰謝料として50万円及び退会費3万円は免除します」
「え!マジ!?ラッキー☆お金なかったから薬切れてたんだよねー、助かるー・・・って退会費?」
「はい、沙織さんあなたには今日をもって退会してもらいます、今後一切私たちに関わらないで下さい、お願いします」
「あぁ~、そういう感じね~、なるほどね~なんか癪に障る感じするけど・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「いいよ、その条件で飲む・・・明日には振り込んでおけよ」
「分かったわ、ならこの場から消えなさい」
「っち、最後までムカつく奴・・・行きますよ、行けばいいんでしょ?さようなら「自称動物愛護団体」の皆さん」
彼女はそう言い放ち、公園にある林の暗闇に消えていった
「・・・・ふう」クルッ
「さあみんな!私たちもここから撤収よ!帰る支度して!」
「さすがリーダ、あんなことがあってもすぐ立て直す」
「まじリスペクト!一生ついていきます!」
「はいはい、まぁ、さすがに今回のは私でも疲れたわ・・・このあと2次会パスしようかしら」
「えー、そんな事言わず来てくださいよー」
「冗談よ、行くわよ・・・・あっ」
「雪恵ちゃん・・・」
「吉乃咲さん・・・」
「ごめんねー、今終わったわ!えっと相談事だったよね、このあと2次会で聞いてもいい?」
「あっ・・・えーと出来れば2人っきりの方が・・・」
「・・・わ、分かったわ、じゃあ2次会終わったあと私の家に来なさい、そこで話聞いてあげるわ」
「ほ、本当ですか!嬉しいです!吉乃咲のお家に招待されるなんて光栄です!」
「フフ、そんな大げさな・・・」
「「「リーダ!!」」」
「いえ、本当に本当に嬉しくて!私にとって吉乃咲さんは・・・」
「私にとっては・・・何?」
「「「逃げて!」」」
「えっと、その~、やっぱ恥ずかしくて言えません!!」
「なによそれ!も~、本当に雪恵ちゃんはピュアで可愛いな~抱きしめてもいい?」
「「「後ろですって後ろ!!」」」
「えっ、こんなところですか!?それはちょっと・・・すごく嬉しいですけど・・・というよりも吉乃咲さん、先ほどから呼ばれてないですか?」
「いいのよ、そんなことよりも今は雪恵ちゃん抱きしめてパワー貰いたわ!」
「そ、そうですか・・・そうですよね、今日頑張りましたもんね・・・、私なんかでよければ抱きしめてもらってパワー全部吸い取ってください!あっ、でも、ちょっと心のタイミングが・・少し待ってください!」
「一回深呼吸、深呼吸・・・」
「スーーーハー、スーーーハー、スゥーーーーー・・・」ガバッ!!
「んぐっ!ビックリしたー!吉乃咲さん!?そんないきなり抱きしめられたら驚きますよ!?、まだ心の準備が出来てなかったのに・・・」
「って、吉乃咲さん?」
「・・・・・・・・」
「吉乃咲さん・・・・?」
「・・・・・・・っぐふ・・・」
「嘘・・・なにこの赤いの・・・?」
「・・・雪恵ちゃ・・・ん・・・逃げて・・・」
背中が熱い・・・
見えなくても分かる・・・これは刺されてる・・・
誰に?そんなの一人しかいないわ・・・
「ギャハハハハハハ!!!!!!!」
「ざまあああみやがあれええええ!!ノコノコと帰ったと思っただろ!!?」
「よく考えてみたら、こいつ殺して、口座奪っちまえばよかったんだぁ!!一石二鳥ってやつ?アタイって頭良いいいいいいいぃぃぃ!!!!!」
「てめぇ!リーダになんてことを!!」「みんなで押さえろ!ナイフは持ってないぞ!!」
近くにいた団員数名が一斉に取り押さえる
「ぐえっ・・・離せよ!、重いって、そんな大勢で、痛っ!痛てええよ!!」
「すぐに救急車!あと警察もお願い!!」「リーダ!しっかりして!!」
ダメね・・・これは死ぬ・・・
意識が薄れていくし・・・視界も感触も消えていってる・・
ただ分かるのは、雪恵ちゃんに抱きしめてもらってることだけ
「吉乃咲さん!吉乃咲さん!死なないで!まだ私の相談事聞いてもらってないのに、死んじゃうなんて嫌です!!」
ああ・・・そうか相談事か、聞いてあげないとね・・・
「・・・・言っ・・・て・・」
「!」
言葉を出すのも精一杯・・・
「わ、私どうしたら吉乃咲さんみたいに強くなれますか!?どうしたらそんなにかっこよくなれるんですか!?私でも変われますか!?どうすればこの世界は変わりますか!?」
ちょっと・・・雪絵ちゃん、質問は一つじゃなかったかのかしら?
死に際には少し多い質問だわ・・・
でも全てにあてはまる言葉を私は知っている
だから最後にあなたへ捧げよう、この一言を・・・
「信念に・・・・突き進ん・・・・・で・・・・」ガクッ
「・・・・・・・・・・・・」
「吉乃咲さん?」
「嘘でしょ!?吉乃咲さん!ねえ!起きて!」
「ッ・・・・・!!!!」
「吉乃咲さああああぁあああああん!!!!!」
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こうして私「吉乃咲 幸子」の人生は終わりを迎えた
とりあえず今は「ヴィーガン」として頑張った自分を褒めてあげよう
もし来世があるとすれば、こんな活動をしなくてもいい
みんなが幸せの平等な世界に生まれたいわね
それまで少し寝てようかしら・・・
38年間、お疲れさまでした・・・