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(有名無実の)最強種族は暇潰しを求める!!  作者: フリータイム
第一章「獣領の騒乱」編
29/30

第二十二話 続き


 話すべきことを終え、暗い沈黙の中心でリュファイスは話を元に戻す。


「という訳だ。領内機密の中でも話せることは全部話したから、君の要望は叶えたつもりだよ。....それでも、まだ不満が?」

「いえ.....ありがとう、ございます」


 唐突に声音の変わるリュファイスに動揺しつつ、アミネスは感謝を述べる。当然、その声は震えていた。


 まともに返せそうにないパートナーに代わり、カイザンが会話を繋げる。


「ルギが前々からそれを話さなかった理由が何となくわかったよ。.....ウィバーナのため、なんだな」

「もちろん、ウィバーナも自分が過去に多くの領民を殺めたことは理解している。だからこそ、話さなかったんだ。これを知った時、きっと君の相棒はウィバーナから離れることを望むだろうからね」


 推測の答えを問うようにリュファイスはアミネスに向き直る。その視線に気付き、声の震えを無理矢理にでも抑えて答えた。


「私は、絶対に離れません」

「......それは何よりだね」


 安心と何か他の思いで小さく呟くと、次はカイザンに。


「幸い、君たちが居ることだし、ウィバーナが一人になることはない。頼めるかい?」

「あぁ、それに関しては頼まれたし、任されたけど。光衛団の件はどうすんだよ」

「丁度いいんじゃないかな。門の影響でウィバーナはまだ怪我も治ってないし、この件から外れるのが一番さ」


 ウィバーナはレーミアらを除いて、獣領では二番手の実力と聞いている。それに関しては疑いようもない。


・・・でも、リュファイスの言う通り、このまま怪我の回復が遅かったら、さすがに戦うこと無理だもんな。無茶させるのは、さすがにさっきの話の後だと...。何にせよ、戦況はマズイままって訳か。


 無意識に歯を噛んで、事の重大さにようやく気付いたカイザン。ウィバーナのこれからを考えることも重要だが、依頼は獣領と協力して襲撃者を取り押さえることにある。


 正に絶望的状況。強者の損失は危機。それを覆すには、その上を行く実力者が必要となろう。


「大丈夫さ、安心してくれ。レーミアはウィバーナの代わりに戦っても良いと言ってくれている。戦力としては申し分ないはずだよ」

「なっ、それを早く言えよ。...って言うか、よく考えたら当たり前のことか」


 守られる側に適しない実力を兼ね備えたレーミア。種の本領を引き出すと言われる種王の神器を持つ存在だ。戦ってくれなきゃ困る。


 一人納得したカイザンを他所に、リュファイスは言いたい事を言い終え、早々に切り上げようとする。


「......これで僕の話は終わりになるが、何か聞きたいこととかあるかい?」

「...幾つか、お聞きしたいことがあります」


 最後に、と質問コーナーを設けたリュファイス。

 そこで小さく手を挙げたアミネスに、感情が隠された謎の笑みで答える。


「やっぱり、君からはあるんだね。創造種よ」


 まるで予想していた上であるかののように語ると、何の意図か、その名を種族名で呼んだ。相手がもし自身よりも下等な種族であれば、完全な煽り行為に他ならない。


 リュファイスのその反応に、アミネスは一切動揺を見せない。


「ウィーちゃんの追放がどうにもならない事は分かりました。でも一つだけ、どうしても納得できないことがあるんです」


  「それとは?」と無駄な返しはせず、言葉の先を待って無言のまま視線だけを送るリュファイス。


 ちょっとした緊張感を感じてカイザンは空気になっておく。パートナーに道を譲ったつもりである。


 そんなぱーとなーの行動を他所に、アミネスは親友のこれからを問う。


「ウィーちゃんに....獣種、ウィバーナ・フェリオルに、これから裏切り者の汚名を持ったまま生きていけと言うんですか?」

「そうだよ」

「っ」


 事情を知らない第三者から観れば、あの夜の出来事は領のひたすらなる破壊を望む者の行動。種の自尊心を失った裏切り者だ。それがたとえ、門を開いた状態であったとしても関係はない。


 無慈悲さすら感じるリュファイスの即答に一瞬気後れするも、 アミネスは負けじと問い続ける。


「獣領を守ろうとこれまで守衛団として精一杯頑張ってきたのに、獣領で裏切り者として名を受け継がれていくんですか?」

「そうだよ」


 自種の誇りなど一切持たず、獣領を追放される存在としてその名を刻まれ、後世へと話し継がれていく。


 それがウィバーナ・フェリオルの辿る末路。


「この領が大好きで、守りたいって、ずっと願い続けて。それに、それなのに....それ、なのに....」

「思いや頑張りなどの主観的なものでどうにかなる事は限られている。一方的な価値観で物事は進めるなと、そんな簡単な事はあの娘には教育済みさ。君にそれが分からないのなら、全てを要約してもう一度言う。あの娘にはもう、この領での権利が保障されてはいないんだ。故に、獣領の領民から除外された存在、獣領の裏切り者たる追放者なんだよ。僕はあの娘を、責任の落とし前もまともにできないような娘に育てた覚えはなくてね」


 親友への想いが溢れて、言葉がうまく繋がらなくなってしまうアミネス。....それを理解していながら、容赦はかけない。


 表情を一切変えず、アミネスの問いに答え続けるリュファイス。最後の決定的な発言とともに、アミネスに向けて人差し指を示す。


 それは、アミネスの表情にはまだ、絶望の色が少しも無かったからだ。潤いかけのその瞳には、信じる想いが満ちていたから。


「なら、僕からも一つ問おう。.....君はその答えを聞いたところで一体何ができると言うのかな?...それにだ。ウィバーナが何年も秘めてきた過去が閉ざしてしまった心を開けたとして、君の言う通り、その先に明るい未来なんてのは存在しない。.....さて、答えてくれよ。万物を創りし創造種よ」


 以前のリュファイスから全く考えらない言葉ばかりだ。口調も声音も変わっていないはずなのに、まるで中身が別人も同然。


 目の前で対峙すれば、恐怖感情すら湧いてもおかしくない。

 それを本人も分かっていてのことだろう。


 またも直接名前を呼ばず、肩書きを含んだ種族の名でアミネスに問いかけた。


「私は.......」


 おそらく、今のアミネスでは答えられない。

 判断理由は明確だ。そんな震えた声を聞いたのは初めてだから。


 一方的に信じてばかりなのかもしれない。ウィバーナがアミネスを信じているのかは分からない。仲の良さや一緒に居た時間は、信頼へと直接繋がる訳ではない。全ては主観で判断できてしまうこと。


 リュファイスの言葉に、アミネスは自分のできることが信じられなくなろうとしている。


 それが分かっていて、この状況でアミネスの味方になれるのは一人しかいない。


・・・アミネスが答えられないのは、今だけのことだからな。なら、できない今のサポートが出来てこそ、一流のパートナー関係ってもんだよな。


「ちょっと待ったっ!!...だぜ、リュファイス。俺のパートナーを見くびってもらっちゃ困るぞ」


 突然椅子から立ち上がったカイザンに、驚きと注目の視線が集まる。


 特に、アミネスから向けられた視線は今まで受けたことのないもの。.....いや、女神領に来た当初、初めて会った時以来のものだ。


 そのまま、言葉を直接的に受けたリュファイスに対して、指差しとともに続けた。


「今回、ウィバーナを助けたのは俺じゃない。アミネスだ。あの活躍は俺のもんじゃない。アミネスが居なかったら、あの夜、ウィバーナは助からなかっただろうな。でも、アミネスが居たから。アミネスが居たから、アミネスだったから俺は安心して役目を成し遂げることができたんだ。アミネスじゃなかったら、俺は何もできなかったんだぞ。他称有名無実の俺が断言してやるよ。....今の俺の語りで伝わらなかったなら、要約して言ってやるよ。...あの夜の救出は、信頼関係があったからこそ。だから、俺は信じてるし、必然的ですらあるとも思ってんだよ」


 アミネスが心に囚われたウィバーナを救い出すんだと、自ら言っていた。カイザンはアミネスを信じているから、その行動は当然と肯定する。必ず成し遂げるものだと。


 正直、アミネスがどう思っているかは分からない。

 カイザンはアミネスの心の声を知らない。お互い思っている事も心では信頼している事も、実は一方的なものかもしれない。


 .....それでもいい。アミネスがカイザンを信じれていないことに、アミネスが悪いことはない。


 だから、カイザンはただ信頼するための材料、信頼してもらう理由が欲しかっただけ。


「....カイザンさん」


 それでも、自分だけは、カイザンだけが信じているから。それだけの行為が、味方としての証明になる。


 だから、アミネスの為に、心が負けそうになってしまったパートナーに言葉で勇気付けるくらいはできて当然だ。


 今回、リュファイスから話を聞いた事でアミネスが動くに足る原動力がプラスされたことは確か、後は背中を押すだけなんて簡単に決まっている。踏み出すタイミングに気付けていないだけだから。


「行ってこい、アミネス。ウィバーナが待ってるんだろ。とりあえずは今だけを考えればいい。お前はウィバーナを助けたい、助けなくちゃいけないんだろ。お前なら、お前にしかできないことなんだって、理解はできてるはずだ。俺のパートナーならな」

「......」

「大丈夫。後の事は俺に任せとけ、この最強種族のカイザン様にな」


 立ち上がっているカイザンの上から過ぎる期待と自分への圧倒的な自信。その両方はアミネスに向けて譲渡された。


 最強種族のぱーとなー。これ以上に心強い言葉があるだろうか。


 ......思わず聞き入ってしまっていた。


「ありがとう....ございます」


 顔を下げ、静かに感謝を述べたアミネスは、ゆっくりと立ち上がり、再度顔を上げた。


 そうした時、表情も面持ちの一切に弱気なんて含まれちゃいない。


 いつも通り、カイザンをからかう時と一緒。これ以上に安心できる状態はない。


「リュファイスさん、最後に」


 そのままウィバーナの部屋へと向かうのだと思われたが、アミネスはまだリュファイスに問おうとする、


「.....ウィーちゃんの夢を、守衛団に入った理由を知っていますか?」


 先程とは関係のない予想外の問いに、リュファイスもすぐには答えることができない。しかし、それは答えを知らないということも当然とある。


「夢?理由?それって、目標か何かかい?」

「....いえ、知らないならいいんです」


 リュファイスが問いに対して答えられなかったことに悲しみらしき表情を一瞬見せると、答えを言うことなく部屋から出て行ってしまった。


 おそらく、早速にでもウィバーナの部屋に向かっていったのだろう。それなら安心だ。


 扉が閉まるまでをしっかりと見届け、少しばかり解けた緊張で深く息を吐く。


 さて、心も読まれないところで考えたいことがあるカイザン。


・・・アミネスにカッコつけて言ったものの、改めて考えると俺に何ができるんだろうな。というか、後の事って何だよ。何ができんの、後で。


 送り出しの後で早々に後悔してしまっている自分にとりあえずため息を吐いておく。


 アミネスが居なくなれば、リュファイスも話すことは特にないだろうし、しばらく独りにしてもら......。


「ところで、カイザン君。もう一つ、君に言っておくことがあるんだ」


 またも急な声音変換に、さすがのカイザンも察することがある。


「......お前、さっきのわざとやったな」

「さあ、何のことかな?.....僕から言わせれば、君も実に人を勇気付けさせるのが上手なようだね」


 ・・・その言い様は「はい、そうです」って言ってるようなもんだろ。


「..........まあ、いいよ。で、話ってのは?」

「先日、僕が植物領の外交官と会合していたのは知っているだろ。その際、一つ協力を申し付けさせてもらったんだ。もしもの時は、救援を頼みたいってさ」

「...........マジかっ」


 ここに来てさらなる驚き発言に心揺れつつ、明日の心配で心が持たないカイザンであった。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 リュファイスとの密談を終え、部屋に独りとなったカイザン。

 しばらく考えた末に、とある部屋へと向かうことにした。


 カイザンたちの居る王族無関係の者たちのための居住スペースから、唯一王城の一階へと繋がる階段を降りた先、とてつもなく長い廊下が待っている。


 先程まで居た居住スペースとは違い、本当に視界一帯が綺麗になるものだ。

 王城の端っこに備え付けられていたものとは格が違う。あそこはもはや、豪華と言い張られたら豪華なんじゃないかと思わなくもない階級の設備集合体。


・・・改めて考えると、本当に隅っこ暮らししてたんだな、俺。あと何週間もすれば現状に満足してそうだ。


 今のアミネスとの関係に満足している時点でその可能性はかなり高いだろう。


・・・それよりも、外見だと王城ってかなり大きくて威圧ありありだったのに、俺らが角へ追いやられる程に空き場所が無いもんかね。


 ちょっと考えてみたのは、迷路的に入り組んだ廊下の先の最深部。そこに巨大な金庫部屋が隠されている。


 それはそれで好奇心をそそる大冒険が待っていそうだが、自分でもさすがにそれはないと思う。


・・・獣種なら本能で金庫へのルートとか覚えてそうだけど、リュファイスの代でさすがに終わってるだろ。あいつがそんな文化を伝統する訳ないしな。


 それに、部屋面積が異常に小さい理由は、他が異常なだけだからだ。


 特に考えることもなくなり、変わらない景色を眺めつつ黙々と廊下を.....。


「.......そろそろ喋るけど、本当に長いよ」


 目的地へと向かう足をふと止めて、前方を見据えながらこぼす。


 どう考えたってこれはおかしい。海で遭難して次の島が全然見つからない時の絶望くらいある。


 初めて王城に来た時は、アミネスも居て、リュファイスから話を聞いたりしながらだったからあまり思わなかったけど、本当におかしい。


「廊下が長過ぎるんだよ」


 廊下だ。この廊下は本当に長い。

 前にもこんな説明をした気がするけど、あの時とは心の面持ちというものがまるで違う。


 しばらくは文句を思い続けたいが、時間も惜しいので歯を噛み締めた鬼の形相で廊下を進んで行く。


・・・しかも、廊下の奥なんだよな。本会議室は。


 今日何度目かのため息を吐いて、疲れるけど走ることを決意。


 やっとの思いで部屋にたどり着き、期待混じりに扉を開く。

 その部屋の中でカイザンを待っていたかのような男が居る。


「やっぱし、居るんじゃないかと思ったぜ」


 大して長い付き合いは全く無いからこそ、ここに居るんじゃないかと予想していた。


「...よお、ルギ。久しぶりだな」


 獣領最高守衛団の[五神最将]の実力三番手たる現リーダーにして、カイザンに対しては風邪薬・ウィバーナに関してはシロップ対応のルギリアス。


「たかが三日ぶりで何を言うか」


 相変わらずの仏頂面で大して辛くない口を吐くルギリアスは、本会議室の奥に堂々と立っていた。


 カイザンが来ることが何となく分かっていてのことだろう。


・・・気が合うような気もするし、仲良くしてもいいのになー。


「いや、三日でも久しぶりは言っていいだろ。せっかくお前が元気ないかもと思って声かけてやったのに」

「.........ウィバーナの件でか?」


 いつも通りの口調で話を始めようとしたら、いきなり本題まで飛ばされた。猛烈なスルーをされた気分。雰囲気を急にぶち壊す嫌な奴だと改めて実感する。


「まあ、それ以外にないしな」


・・・どーせルギは、要件なしに来たら無言で押し通しそうだからな。


 少し前までの殺意よりはマシなのだが。

 それはともかく、会話の材料があることは助かる。


 早速、ウィバーナの猫耳の素晴らしさについて語り合おうとしたところで....、


「あの時、俺はウィバーナに門を開いた事を忘れさせようとしていた。でも、間違っていたのだな」


・・・おいっ、急に重いとこから...。


 ここでもまた昔話が始まろうとしていた。


「先程、リュファイス領主と話をしたと聞いた。...六年前のことを、聞いたのだろう」


 と思いきや、現代との並行路線で話を進めてくれるようだ。


・・・よかった。リュファイスから聞かされた後だと、ルギのが後付け感のある説明文みたいになっちゃうからな。それを昔話にされたらマズイよ。


 いつもと何ら変わらない強めな口調にも関わらず、込められた感情は優しさの色で満ちている。


 いや、優しさの根源はもっと他のもの。過去に対する後悔の念だ。


「ウィバーナが昔、門を開いたって話だろ。...聞いたよ。前後に何があったのかも、犠牲者のこともな」

「その話に俺の名があったはずだ」


・・・確かに、監視要員とかそんな単語で出てたな。六年前となると、10代後半くらいになるのか、ルギは。


 そこらへんの話はきっとしてくれるのだろうと予想し、黙って頷く。この雰囲気で関係のない話はさすがに本気でキレられそうだし。


「あの時、俺まだ守衛団の末端に属する隊の兵長であった。王城周辺の守護と領内の見回りを交代で行う毎日を全うする中、突然俺を含んだ数名が先代の領主に呼び出されたんだ。そこでウィバーナを監視する義務を背負わされた」

「そこら辺はリュファイスからの説明通りだな。だいたいなら予想で捕捉はしてたし」


・・・ルギが監視を上手く出来てなかったから、ウィバーナがいじめられたりとかの結果に......。


「[五神最将]の到着が遅れる中で、俺は血に染まったウィバーナを一番最初に発見した。既に正気を失っていたがな」

「っ 」

「修羅風を感じたのは発見するよりも前。その血が、ウィバーナ以外の者であることは予想できた。それぐらいの覚悟はできていた。遠くに見えていた笑顔が黒に塗られ、対峙することになると」


 重い雰囲気に耐えきれずに心の中で意地悪でもしてやろうとしたカイザンを精神的に殺しにかかるように辛い事を淡々と語っていく。


 気持ち悪いくらいルギリアスがウィバーナへ向ける親愛のようなものは日々言動の数々から感じていた。だからこそ、その話には胸に刺さるものがある。


「いくら子供とは言え、獣の本能を呼び覚ますの門の開放をされては、俺も命が危うい状況であった」


 新兵の頃を考えれば、ルギリアスは今よりも遥かに劣る実力しか持っていなかっただろう。今のウィバーナの門に対し、獣身の異能ありきで互角以下だった今のルギリアスであれば尚更のことだ。


「そこで俺の前に現れたのは、当時はまだ特殊錬技を使えていなかったはずのレーミア様だった」

「レーミアが?」


 予想外の形で挙がったレーミアの名に思わずそう返した。


 特殊錬技[身体強化]を見せられた以降、王女的存在からはかけ離れた印象を抱いていたが故に、それを使えない状態で名前が出るとは思えなかったからだ。


・・・そういやあの夜、レーミアはずっと過去のことを言ってたんだな。


 もう繰り返さない、とレーミアは言っていた。その決意の意志の下、彼女は剣を振るっていたということだろう。


「.....あ、そうだ、ウィバーナってどうして王城で暮らしていたんだ?血の繋がりもないのに、レーミアたちとかなり気兼ねなく接してるって言うか」


 リュファイスに対しても同じような口調を一貫していたはず。今になって気になり始めるのも我ながらおかしいと思いつつも、気になることは素直に問う。


 再び表情を多少重くし始めたのは予想済み。むしろ、そういう内容なのだろうと分かっていて質問している。だから、返された内容には驚きなんて.....。


「十四年前、王城の裏に捨てられていだ」

「へっ」「ウィバーナは、そこを先代の領主により拾われ、それ以来、王城で育てられていたからな」


 反応を素早くスルーされ、端的に説明を終えられた。とりあえず開きっぱなしになりかけた口は閉じておく。


 いや、そんな事はどうでもいい。ルギリアスの答えを問いに当てはめて考えれば、レーミアにとって、ウィバーナは義理で収まるような姉妹では無かったという事だ。


「レーミア様の援護として動いていた俺は六年後、最高守衛団[五神最将]リーダーの地位を与えられた。そんな時、リュファイス領主の推薦でウィバーナが入団した」


・・・ウィバーナの願いは叶えてあげたって、リュファイス言ってたもんな。


「この昔話だけでは全てを伝える事は出来ないが、一つ理解すればそれでいい」


 沈黙を挟み、ゆっくりと目を閉じたルギリアスが開眼する時、それはいつもと同じ瞳をしていた。


「俺は今度こそ守りきってみせると、そう誓ったんだ。もう絶対に傷付けてはないないと」


 ウィバーナを守りきれなかった使命感への後悔がルギリアスにそう誓わせているかは分からない。


 ただそれは、もう繰り返さないための証明。


「それが俺の、過去に対する落とし前だ」


 カイザンはその日の詳しい事情も情景も理解してはいない。そもそも、リュファイスからもルギリアスからもそんな深くまで説明されてはいないからだ。


 ルギリアスの言う、過去に対する落とし前が領民に向けてではなく、ウィバーナを守る事への一心ではあれば、今回の一件でそれを果たせなかった事は...。


「.....の、はずだったのだがな。結局、俺はあの頃と何一つ変わっていなかったんだな」


 今ではあの性格のルギリアスだ。相当なショックは受けている。


 でも、特に気にする必要は感じられない。


 だって、当の本人、ウィバーナには心強い味方が居るのだから。


「今のウィバーナなら、アミネスに任せておけば大丈夫。俺の、最強種族のパートナーだぜ。信じるには一番良い相手だからな、ほんと。...いや、その場合は俺が一番か」

「......その娘だけにならウィバーナを託せると言うのにな。貴様だけが不安要素でしかない」


 ルギリアスは既にアミネスのことは信頼しつつある。遠くからの監視の中で二人の仲の良さは伝わっているに違いない。


 それに、ウィバーナの誰も傷付けたくない心が言葉としてアミネスに向けられたものは、親友という立場にとって、酷く痛々しいものだったにも関わらず、ルギリアスに対して笑顔で助けると宣言したみせたことも大きい。


 一方でカイザンは......、


「まだ俺のこと疑ってるとか言わねぇよな。あんだけ深夜にメイン張りの協力させておいて、貴様は光衛団かもしれないなんてのはふざけんなだからなっ」

「そこを言っているのではないが、それに関しても心配する必要はない。ウィバーナから話は聞いている」


 ちょっと何を言われたのか理解が追いつかなかった。

 尚もルギリアスは続ける。


「それに、あの夜、貴様は気の抜けた喋りの内容の中で、本気でウィバーナを心配していた事に俺は気付いている」


 このパターンは異世界に来てもまだ初めての事だ。


・・・こっ、この反応は知ってるぞ。まさか....


「なっ.......お前、ツンデレだったのか」

「..............はっ?」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




 日が正午を越えた頃、ウィバーナの居る治療室の前には、確かな意志を抱いた少女が立っていた。


 ドアノブに手をかけ、ゆっくりと深呼吸をする。

 胸に手を当て、自分に向けてこう呟く。


「思い出そう。あの日からの事を」


 出会ってからの二週間、思えばウィバーナはいつも寂しげな表情を隠すような笑みを常に浮かべていた。


 ウィバーナはずっと、苦しんでいたのだ。辛い感情をずっと秘めていた。


 ずっと見せていた笑顔の奥に何があったのか、それに気付けなかった。


 それが悔しい。悔しいから、今度こそは向き合わなければならない。彼女の背負ってきたものの全てに。


「ウィーちゃんには、いつまでも笑顔で居て欲しい」


 それは一方的な願望であり、ただ純粋に親友を想う少女の願いでもある。

 いや、これを願いのまま終わらす訳にはいかない。


・・・ここに来た。ここに居る。私が、ウィーちゃんの為に。


 自分以外にこれを出来る人なんて居ない。不思議とそう確信していた。だから、誇らし気に笑顔を作れるんだ。



 ウィバーナと出会い、今日に至るまでの事を振り返り、アミネスは決意を強く固め、その扉を開けたのであった。



 カイザンとアミネス パターン八



「ところでアミネス」

「さっきまで会話をしていた訳でもないので、接続させる必要ないと思うんですけど」

「ところでさー、ウィバーナの夢ってのは何だよ?」

「どうして私が答えないといけないんですか?」

「質問に疑問で返すな。...あれか、二人の中だけの秘密的なやつで俺には教えない感じか」

「物分かりが良い領主は簡単で助かりますね」

「なんで上から...って、それどういう意味でいいやがった?」

「どうして私が答えないといけないんですか?」


「じゃあ、次回、最暇の第二十三話「猫耳少女ウィバーナ」......アミネスとウィバーナが王城で出会い、レンディの一件に至るまでの日々に何があったのかって話になってるからな」

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