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(有名無実の)最強種族は暇潰しを求める!!  作者: フリータイム
第一章「獣領の騒乱」編
26/30

第ニ十話「久しぶりの活躍所」

 

 作戦はこうだ。


 獣種の門[獅子之獣乱]を開いてしまったウィバーナを止めるには、現状ではカイザンの特殊能力[データ改ざん]を使用する他ない。

 当初はルギリアスに動きを止めてもらう予定であったが、心強い援軍たるレーミアを加えて、今更ながら合流した残る[五神最将]団員の二人の総名四人でウィバーナの動きを止める事になった。


 相手が獣種である以上、背後からの奇襲は意味がない。むしろ危険過ぎる行為だ。故に、カイザンがウィバーナに近付くには、無事に放てるまでの時間稼ぎが必要。....と言いたいところだが、残念な事に[データ改ざん]は対象となる者以外に周囲内に他の者が存在する場合は成立しない嫌な特典が付いている。


 となると、残る要員は一人。アミネスだ。


 今までこれと言った活躍のなかったマイ・パートナー。タライを造ったところ以外は知らない。


 正直、密度の高いものを造れない創造種に何ができるのかと思うところは十分にあるが、ここはパートナーを信じてみようと思う。



 現在、カイザンたちは先程の位置とはかなり離れた場所での待機中。レーミアが相手をしつつ、自然に誘導して来てくれる手筈だ。


「とまあ、こんな作戦が本当に上手く行くかは未知数だよな。そりゃ初めてだし。ちなみに言うと、俺の中での不安要素ってのは.....」

「それが俺を指しているのなら、俺からしても貴様が不安要素だと言っておこう」

「この作戦の要に不安感じたんなら降りても構わないぞ。ルギ無しでウィバーナ救えたら、ちゃんとそう報告してやるからさ」

「そこで争われても困るんですけど」


 大事な作戦前だと言うのに無駄話を続ける二人にアミネスから不満の一言。

 別にカイザンとしては言い争っている自覚も何もないが、ルギリアスとしては対抗心か何かがあるのだろう。


 何にせよ、アミネスの言い分が正しい。

 緊張感を無くす迷惑な行為.....と思えているのは、アミネスだけで....。


「ルギリアスったら、噂の最強種族とそこまで仲良いなんてやるじゃない。アタシを差し置いて、もう♡。......まあ、そんなところが私のお♡き♡に♡入り♡り♡」


・・・意外にも低い声で最後の言わないでほしいんだが。


 [五神最将]団員、スネイク・フェリオル。獣身の異能[蛇足]。一応、性別はオスである。


「いやはや、感服ですな。リュファイス領主に続き、ルギリアス殿までもがこうも親しげに。これでこのフェリオルも安泰というもの。実に天晴れ」


・・・なんで長老的な視点なんだよ。


 [五神最将]団員、ツノーク・フェリオル。獣身の異能[一本角]。今年で二十歳になったばかり。


 後々合流の二人には緊張感なんてまるでなかった。


 とはいえ、カイザンにだって緊張感ぐらいある。むしろ、この新キャラ登場イベントに対して、ちょっとした危機感すら感じている。


・・・何なんだよ。この明らかにモブだろうに結果残しに来たみたいなキャラ祭りはよ。今更、本格登場とか遅すぎるんだよ。この場は俺のターンなんだからさ、控えて欲しい訳。久しぶりの活躍所なの。わかる?


 分かるはずがない。素直に諦めるまで何分かは要した。


 作戦前にギリギリで集合できた二人は、カイザンからあらかたの状況と作戦内容を知らされ、同じく待機中。さっきからやたらルギリアスとの会話に入ってくる。

 少しでも目立とうという作戦だろうか?


 先日のウィバーナ活躍によって忘れられてそうな主人公位置を取り戻すためにも、あのレーミアすら出し抜いて目立つ必要がある。

 そう考えているぱーとなーの心を読めるからこそ真に不安要素しか感じないアミネス。


「そろそろ本当に集中して......」


 そこまで言いかけて、ルギリアスを始めとした[五神最将]たちの目つきが変わったことに気付いた。


 カイザンも雰囲気から何かを察した頃、ルギリアスは拳を強く握り締め、全員の顔を見る。


「準備は良いか?」

「良くなくても強制スタートだろ。いいよ、心構えもバッチリ。だろ?アミネス」

「はい、もちろんです」


 急なスイッチの入れ替えに戸惑うのが普通でも、カイザンの心を見越して急な質問にも笑顔で答えるアミネス。自信はかなり高そうだ。


 自分への単純な自信なのか、ウィバーナに対する気持ちからの自信なのか。どちらにしろ、偽りでないことは確か。頼り甲斐があるというもの。


「その元気の良い返事を信じてるからな」

「私から信じるかは分かりませんけど、カイザンさんから信じるのは勝手ですから」

「ん?...なんか、急に突き放された気が...」

「後にしろ、来るぞ」


 背を向けたまま二人を静かにさせたルギリアスが、先陣を切って飛び出していく。

 続けてスネイク、ツノークと駆け出す。カイザンたちはもちろん最後。


 路地裏で隠れていた訳ではないカイザンたち、真っ向から迫って来るレーミアたちに対し、縦並びで整列。パーティー方針はガンガン活躍しようぜ。


 前から見てルギリアスの影に入ってしまっている件については後で愚痴をこぼす予定のカイザン。


 こんな状況な訳なので、アミネスはいちいちため息を吐いたりなんてしない。それが何故だか悔しくなったカイザンが何か言おうとしたその時、


「キキギギキキキーーー」


 とっさに耳を塞いでよかったと本当に思った。

 鋼が煉瓦を滑っていくような不快音が地面を打ち付けていくように迫ってきたのだ。


 レーミアによる自分たちの接近と無事を知らせるための行動だろう。しばらくの間、ウィバーナの注意を引きつける危険な役を任せたが故に、カイザンたちも心配をしていた。安心して耳から手を離す。


 心配していたカイザンたち.......その中でも一人、ズバ抜けた心配性男が。

 何かを察知したスネイクとツノークが瞬時に耳を塞いだ。釣られて同じ行動をするカイザンとアミネス。


「レーミア様っ!!!!」


・・・ぬぐぐくぐくぐぐぅるさいっ。


 身を案じてなのか、急にその名を叫ぶルギリアス。


 二人の行動が素早かったことから、癖か何かなのだろうか。ビースト・ペアレントといい、いろいろ大変なやつだと思う。あえて言うのなら、面倒なやつ。


「今からそっち行くから、攻撃しないでよ」


 とてつもなかったルギリアスのある意味の咆哮。それに答えたようで答えていないレーミアがよく分からない返答を返してきた。


 その発言の意図とは、獣種ならではの問題があるから.....。


 ルギリアスがそれに気付ける前に、遠くに居たはずのレーミアの姿が一瞬にして目の前にまで近付いていた。


・・・えっ.............あっ、速っ!!


 よく意味が分からなかったけど、そんな反応をしておく。


「......ぐっぬ。レーミア様っ!?」

「だから言ったでしょ、後一瞬、自制心が遅れてたら当たってたわよ。気を付けなさい」


 特殊錬技[身体強化]を足先に集中させた踏み込みの刹那的なまでの接近から、地面に足を刺すような雑な急ブレーキをかけたレーミア。その整った顔のすぐ横にルギリアスの手刀が静止していた。


 レーミアが予めこの事を伝えていなかったら、ルギリアスは本人の意志を無視した本能的行動によって危害を加えていたかもしれない。


 無理もない、今の緊張感だ。ウィバーナへの対処を考えるあまりにそうなってしまうのは当然。


 案の定、命令の意図に気付くのが遅かったルギリアスは、手刀を繰り出そうとしてしまった訳だが。


・・・当たってたら、ここが処刑場と化していたんだろうな。あー、怖い。


 後ろに下がるルギリアスへの刑罰を後にして、レーミアはその後ろに目を向ける。


「二人とも、やっと来たのね。お仕置きは明日するから、待ってなさい」


 言い訳を聞かない確定的死刑判決。当然だ。領主の妹が戦場に出ているのに、守衛団が遅れて登場など。ここは真摯に受け止め.....。


「これでも急いだ方なのよ。アタシは走るのがあまり得意じゃないけど、全力も全力で走って来たのー。もー、すっごぉい疲れてるのっ♡」

「スネイク殿の言う通りですぞ。爆発音を聞いて急いで現地に向かったが誰も居らんかったから、ちょいとそこらで五感研ぎ澄まさせてたら、たまたま見つけてかな。怒らんでほしいのじゃ、レーミア様」


 何の悪気もなく言ってみせた二人。

 その堂々たる振る舞いに、レーミアも許さざるを得な.....。


「最近、どんどんと礼儀が無くなってきてるわね。ちょっとどころか、かなり馴れ馴れしいっていつも言ってるでしょ。ウィバーナが特別なだけで、あなたたちも領民っ!! 分かる?」

「「・・・・・・・」」

「何か言いなさいよっ!!」


 思いの外、アットホームな獣領の守衛団と王族組。

 反省の色が見られない二人は、ルギリアスがすぐさま叱りつけた所で、レーミアはまだ刺さってた足を豪快に引き抜き、華麗に踵を返して大剣を構える。


 ゆっくりと近付いてくる小さな影。余剰分として漏れ出た魔力が微かに発光して、所々が見えてくる。


「さあ、ここからが本番ね。ウィバーナ」


 丁度、街灯に照らされ、八重歯を剥き出しにした無傷のウィバーナが現れた。

 レーミアがわざと急所を外し、刄を深く入れていないのもそうだが、再生能力が異常なまでに高い。

 レンディの一件よりかは高くはないが、門開放の凄まじさを物語り、改めて実感する。


 さらに言うならば、獣種とは思えない程の魔力保有量だ。


 でも、怯んだりなんてしない。むしろ獣種なら闘志を燃やすべき場面だ。レーミアだって例外ではない。


 ウィバーナがすぐに近付こうとしないのなら、先手を取る。圧倒的差を錯覚でもいいから見せつければ、それだけで隙を作れる。そうすれば、カイザンが。


「来ないなら、私か...っ」「ーーッ!!」


 ちょっとした瞬きの刹那、それを狙ってか、ウィバーナが踏み込んだ。

 足先にのみに雷を集中させた光速走行が迫り来る。


 それも、ただの接近ではなく、拳を構えた攻撃を伴う奇襲だ。


 レーミアが漏らした言葉は、ウィバーナの速さに驚いたもの。それが示すのは、この接近でのウィバーナの速度に......ではない。


 この接近自体、レーミアからすれば大した速さではないのだ。驚いた点はただ一つ。急激な速度上昇にある。


 ウィバーナはこの戦闘の中、常に本気の状態にあった。つまり、この速度上昇はレーミアと対峙してからの後天性のもの。


 ウィバーナはこの戦いの中で獣人型とは思えないレベルで経験を積んで自身の強化を続けている。おそらく、ここでの成長を平常時に引き継ぐことはできないだろう。だからこそ、この状況でこそ真に力を発揮する。


 本能のまま動くウィバーナには躊躇いがない。だから、攻撃は常に急所か確実に動きを止めることのできる箇所を定めてのもの。


 故にだ。低い姿勢で手を引くウィバーナがそれを放つ場所は簡単に予想がつく。上半身を傾けて、それに合わせて片足を後ろに引いた。目の前を拳が素通りしていく。やはり一直線に額を狙ったものだ。


 次に来るのは、予め予測して次の回避へと繋げる。前の足をさらに下げて、大剣を盾にしながら元の体勢へと戻る。

 そこからすぐに切り替え、いつまでも攻撃されっぱなしなど許さない。


 二人にとって、攻守の入れ替えはないと言っても過言がない程、速すぎる展開の連続。


 そんな二人の圧倒的戦いを前に、動こうとしたルギリアスは感情を抑えきれずに歯を噛んでいた。


 レーミアがリーチの長い大剣を扱う以上、不用意に近付けないルギリアスたち。それに、ルギリアスは作戦前にレーミアから「私の邪魔だけはしないでね」と脅しめに忠告されている。

 スネイクとツノークもまた、ルギリアスが動かない限り、勝手な判断で動くことはできない。


 レーミアの実力だけが唯一の頼りである。


 巧みに剣を振るい、拳撃の数々を受け流しつつ、隙の多い蹴り技の際にカウンターを返す。しかし、どれも回避か防御のどちらかで対応され、攻撃として入っていない。


 徐々に、だが確実にレーミアの動きとその速度に適応し始めている。否、このまま行けば、レーミアを超えるかもしれない速度の成長。


 もっともの脅威は、それが完全に魔力を纏っている状態でないこと。

 レーミアの持つ大剣、[獣王の獅子剣]の特性がウィバーナの魔力を喰らい続けているから今の状況が成立している。

 素早い動きの中で一瞬にして魔力を高密度にすることが不可能なため、今のウィバーナは本気になれていない。


 それでも、気を抜く瞬間的な隙を突かれてはある程度の密度を保った魔力が襲いかかることもある。

 そんな中でもし、大剣による防御に伴う魔力の吸収が間に合わなかったともなれば....。


「グゥウルルルァァアアーーーッ!!」


 単発的な強打で大剣を弾いたウィバーナ、計算した上での攻撃。レーミアが構え直すよりも早く、炎を纏った刄の如く獣爪を放つ。その斬りかかりを避けるために反対方向たる後方へと跳んだレーミア。

 大剣での受けは間に合わず、素手では受け止めきれないと判断した、とっさの回避だ。

 故に、次に繋げられない一手となってしまった。


 前衛姿勢のウィバーナからすれば、ただ正面へと飛び込むだけで連撃が成立するようなもの。


 レーミアが着地する前に、ウィバーナの踏み込む足が地に着いた。


・・・どうする。どうすれば....。


 動きを重視したがための一撃を受けることすら許さない紙装甲、猛威を振るわんとばかりの炎爪。


 絶体絶命、周りがスローに見えるほどの思考の中で、自分へと問いかける。思い浮かんだ答えは、自分以外に頼ることであった。


「道をっ!!」

「[クリエイト]っ」


 生命にも及ぶ危機感を感じ、反射的に叫んだレーミア。

 それに答えたのは、アミネスだった。特殊能力[万物創成(クリエイト)]とともに。


 空気の歪みを感知したレーミアの五感、何が行われたのかは自分の要求から予想はできる。後はそれを信じて、脚先へと力を集中させるだけ。


「っ!!」


 ウィバーナが驚いたのも無理はない。目の前でレーミアが空気を蹴り上げ、跳躍したからだ。


 標的を失い、体勢の崩れたウィバーナは、攻撃用に前に出した手で地面を跳ねて、前宙から華麗に着地。振り返って、不規則に動くレーミアの匂いへと目を向ける。そして、大きく目を開いた。


 そこに映るは、縦横無尽に空中間を跳び回るレーミア。見間違いじゃない、空気を足場として跳躍を続けている。


 本能だけでは状況を掴めずに困惑するウィバーナ。

 予想外の好機を得て、一気に下へと跳んで距離を詰める。不規則な動きの中で無理やり大剣を上段に構え、着地寸前に振り下ろす。


「っ」


 地面が破裂したように爆散する。避けられてしまった。空中での踏み込みの時点でウィバーナは攻撃に気付き、後ろに跳んでいた。


・・・やっぱり....


 大剣に次いで、レーミアも着地。

 勢いよく大剣を振り下ろしたことで、深く地面に突き刺さってしまったが、何の問題にもならない。


 何故なら、


「予想ぐらいしてたわよっ」


 柄を無理やり前に押し出し、刄と地面との間に隙間を空ける。そして、そのまま大剣を軸として足を浮かせて前へと一回転。

 回転の速度が異常、それだけでも攻撃になりそうな威力で足先が地面に窪みを作り出す。


 その瞬間、脚力に身体強化を集中。足で踏み込み、すぐさま腕力へと強化部位を移し、脚に力の余韻を残したまま大剣を引き抜く。


 その際に勢いを伴い、前方へと再度振り落とされる大剣。回転の時点でウィバーナは既に一歩下がり、間を取っていた。ならば、予想はできないはずだ。この一撃を。


「[獣王之一閃(レオ・フラッシュ)]ーーーーッ!!」


 カイザンたちから離れた戦闘の中で、ウィバーナが時折纏う三色から喰らい続けた魔力の塊を、剣撃として放射。大剣の軌跡を沿って、縦の斬撃が光を以ってして地面を割っていく。


 文字通り、光だ。アミネスを助ける際にも使用された不可避の奇襲はーーーーーーー雷光の横断を許してしまった。


 雷の加護を宿した光速の回し蹴りが大剣を側面から強打。威力は予想以上、縦に込められた力の方向に側面から力が加わったことで、大剣は簡単に動かされてしまった。


「なっ、ちょっと」


 大剣を防がれた理由は、側面からの力という点だけではない。

 門を開いたとはいえ、レーミアの[身体強化]を織り込んだ一撃のスピードに追いつき、そのうえ力ですら互角の威力を発揮した。


・・・この娘まさか、この土壇場で[緊急態勢]の力がっ。


 困惑が危機感を呼び、またも、レーミアは空中に逃げることを選択する。そのためには、ひとまずこの至近距離での戦闘から抜けなければならない。


 前のめりに倒れかけるレーミアに、ウィバーナは更に畳み掛ける。

 低い位置にあるレーミアの顔、そこに大剣を弾いた際の勢いを回転とした強烈な横蹴りが放たれる。しかし、その蹴りは速さよりも威力を重視した形であるため、雷の代わりに炎を纏ったものだ。


「っ!!」


 前のめりを利用して、さらに体勢を低くして攻撃圏内から脱するが、ここからの反撃への道筋が立てられていない。


 考えるより、戦場に適応してこそが獣種の戦士たる強さ。

 弾かれた大剣の衝撃は未だに散りきれてはいない。体勢不利になんて気を取られたりしない。衝撃に身を任せ、全力で剣を振るうだけのこと。


 大剣の刃を素早く回転させ、側面に働く力にその先を乗せる。あとはただ、豪快に振り払えば簡単。


 ウィバーナとは反対方向に下段から上段へと払われた大剣に体全体の動きを委ね、虚空を斬ると同時、地面スレスレでレーミアの体が剣の動きに釣られて回転。


「ふっ!!」


 起動が半周を描いた先に待つのは、蹴りの体勢にあるウィバーナの脚。このまま刃を放てば、その華奢な脚は獣種であろうとも断面を晒すことは確実的。


 そんなこと、なるはずがない。


 本能的にレーミアが体勢を変えた時点で反撃を想定していたウィバーナは、刃が届く寸前で、炎を水に還元して守りを堅めた。


・・・予想通りに動いてくれたわね。


 容赦なく振り下ろされた大剣が捉えたのは、水の発現地点たるウィバーナの右足首。狙ったに決まっている。


 先程に続き、攻撃手段を失うウィバーナは、それの処理へと時間を要するのは必然。


 体勢を崩されたまま地上でウィバーナを迎え撃つのは厳しい。それ故に、この戦場には空上の足場が存在している。


「[クリエイト]っ」


 軽く跳んだ先、空気を足場にしたレーミアはさらに上へと跳ねるように跳ぶ。


 その度に聞こえる[クリエイト]。アミネスが、創造種が創り出した空気の足場を跳んでいく。


 確かに、創造種は描いたものしか具現化することのできない種族だ。しかし、才能さえあれば、その者の意志によって本来描くことの不可能なものですら具現化することができる。それはもはや、存在する物体への命令に近い行為。


 空気が一点を中心として集合する創造だからだ。


 二つの意を持つ創造力。それを使い分け、巧みに展開する。その実力を、アミネスは才能の中で有しているのだ。


 空気を圧縮させたこの創成物の欠点は、側面からの衝撃に対して非常に耐性が弱いこと。そのため、防御としての使い道はないに等しいもの。


 でも、今はそんなことは関係ない。足場だけの有効活用だけで事足りる。


「っ」


 次々と形成されていく不可視の足場を、レーミアは研ぎ澄まされた五感だけで感知。空気中を漂う風の微かな変化を感じ取り、そこに意識を一点集中、形状と配置を完全に把握している。


 レーミアはリュファイス並みに生まれながらの才能を持っている故、特殊能力[強調五感]の精度は圧倒的。門を開いたウィバーナよりも上回っているのだ。


 本能によって、単純な考えが及ばないウィバーナは、創造物には気付けない。


 空中は今やレーミアの逃げ場となったが、それでは何も状況が進まないことはレーミア自身分かっている。


 ウィバーナが空中に無策にも跳んでくれるか、自ら地上へと戻るか。


 レーミアを見ながら呆然としつつ虎の威嚇のように声を漏らすウィバーナ。前者の考えはかなりの期待薄。となれば、必然的にとなるものだが...


・・・地上で攻撃を放っても、大した威力にはならない。だったら、空中で。


「ルギリアス、スネイク、ツノーク。上へ飛ばして」

「「「承知っ」」」


 遥か頭上で跳び交うレーミアからの唐突な命令に、三人は声を合わせて了解の返事。


 その声に反応したウィバーナ。その内で標的が変わり、迫る三人へと構える。

 獣種には死角からの急襲など意味がないので、真正面から突っ込む。


 リーダーとして先頭に出るルギリアス。だか、強者との戦闘を求めるウィバーナにとって、既に敗北したルギリアスは対象外。雷速の速さでスルーされてしまう。


 となると、残る標的はスネイクとツノーク。

 愛弟子の行動に胸を痛めつつ、そんなことではへこたれないルギリアス。即座に振り向き、前に出した足で踵を返しながら踏み込む。


「俺を無視するな。ウィバーナ」

「っ」


 可哀想なことに、ウィバーナが雷を纏ったのはルギリアスを通り抜ける際のみ。その後解いたのなら、ルギリアスであれば容易に追いつけるのだ。


 ルギリアスの動きを感じ取ったウィバーナにとって、それは予想外な行動であった。

 先刻、敗北していながら、何故戦おうとしているのか。ほんの数分では人は変われない。はずなのに。


 突然、ウィバーナの体勢が崩れた。

 背後からルギリアスの足払いが両膝を狙い、獣種ならではの力技膝カックン。


 ただし、相手もまた獣種であることを忘れてはいけない。


 本来、体重などの影響で倒れるはずの身体を無理やり起こしたウィバーナ。それでいい。ルギリアスの役目はこの一瞬だけの時間稼ぎ。


 会話をせずとも、団員内でのチームワークが出来上がっている。それぞれが自分の役目を既に理解しているからだ。


「スネイクっ」

「獣身の異能」


 起き上がったウィバーナの視界に映ったスネイク。撹乱要素を含む滑らかな足取りで間合いに入り込み、右手に握られた曲刃の短刀を差し向ける。

 ウィバーナは一目して見た時から気付いていた。その短刀は注意を引かせるものであり、本当の目的はそれを握る拳の打撃であると。


 円の半周を描いて迫る短刀をあえて身体に当たる寸前で受け止めるウィバーナ。そうすることで、二人の距離は近くなり、反撃が可能。


 もう、片方。空いていた腕をスネイクに放とうとした。そして、漏れた声は、


「ぐっ」


 ウィバーナのものだ。

 .....気付けば、拳の先は自分の頰に直撃していた。


「[蛇足]っ」


 衝撃だ。どこからか発生した謎の衝撃に腕を押された。タイミングとしては、スネイクの短刀を受け止めたのと同時。


 訳が分からないウィバーナを置いて、バトンは次へと受け渡される。


「ツノークっ」

「獣身の異能」


 自分の攻撃で寸秒よろめくウィバーナ、地に足を着けて体勢を整えることは間に合わず、ツノークの突進を身に受けた。


 突進と言っても、肩による衝突ではない。頭を前にして、相手の腹に勢いよく突き刺すようなものだ。


 それがイレギュラーであったのは、獣身の異能の力によって強化されたものであったこと。


 ツノークはレーミアからの命令が下りた時、否ーーーーーそれよりも前から額に魔力を集中させていた。それを獣身の異能により物理的なものとして一気に放出する。


 ツノークの額から魔力が具現化し延びたそれは、正しく一本角。ウィバーナを上に、下から角を振り上げるようにして全力で飛ばす。


「[一本角]っ」


 具現化された巨大な角が振るわれ、軽々と小さな身体が家々の屋根を越えていく。


 獣種は魔法とは無縁の種族。それ故に、体内で魔力を行使する事に長け、この長い種族の歴史の中で獣身の異能が生まれた。


 さっきまでの無駄話が嘘だったように本職を見せる二人。

 華麗なリレーのバトンを最後に受け取るのは、もちろん華麗な剣舞をその手に有するレーミア。


 真上に飛ばされたウィバーナが最高地点にまで到達すると、レーミアは空気の足場を伝ってそれよりも上に到達していた。

 この戦いで何度も見せた上段の構え、大剣が喰らった残る魔力を全て注いで斬撃の光と成す。


「じゃあ、後は任せたわよ。[獣王之一閃(レオ・フラッシュ)]ーーーーーッ!!」


 斬撃に音は生まれない。生じた真空の隙間に風が流れ、遅れて音が響くのみ。


 裂け目へと流れ込んだ斬撃の光が光線のように一直線に突き進み、ウィバーナを連れたまま街道の壁面に背面から叩き付ける。


 有り余る程の衝撃が近い地面に軽く穴を形成して、壮大な爆音が発生。相当な威力であったと分かる。


 だが、これだけではウィバーナは止まらない。最後の一撃でかなりの魔力を喰われたために魔法は応用できず、負傷も癒えきらずに体力すらも殆ど残っていないはずなのに、止まることはない。


 そうまでしても、戦い続ける親友は、見ていられない。


「お願い.....[万物創成(クリエイト)]っ!!」


 視界の真ん中に、何かが現れた。

 あまり嗅いだことのない臭い。ただ、この場では何もかもが敵であると認識するのみ。


 壁面から両足の踏み込みで飛び込み、現れたそれに獣爪を差し込む。


 直後、中から何が溢れ出し、周囲が黒に包まれる。

 あっという間に中心で包まれ、ようやくそれの正体に気付けた。

 煙幕のような何かだ。小包か何かに、大量に詰め込まれていたのだ。この暗さ、おそらく、灰も混ぜられている。


「....獣種」


 中世レベルの薄汚い煙幕が舞ったことで、ウィバーナの鼻と目がしばらく使えなくなるが、デメリットがかなり多い作戦。


 煙幕に乗じて現れたカイザン。もちろん、目を開けてはいない。最後に見たウィバーナの位置を記憶して、その方向に手のひらを構えている。


 それだけじゃない。五感の一つを奪ったところでは、獣種からの索敵から逃れることはできない。


 一言目の時点でウィバーナはカイザンの存在と、手のひらに溜められた魔力の輝きで居場所の特定は完了済み。


 なけなしの魔力を獣爪に纏う。迷わず、大きく振りかぶる。


「....ウィバーナ」


 この状況、時間的に今がウィバーナを止める一番の好機にして最後のチャンス。これをミスれば、門の限界が訪れる。奇跡的に時間が残ったとしても、ウィバーナは既に空気による足場への適応が可能な状態にある。


・・・ここで決める。恐れるな。退くな。負けるな。俺がここで決めるしかないんだ。


 自分の身を優先して[スィンク]に切り替えたりなんてしない。絶対にここで[データ改ざん]を放つために。


 ここでカイザンが自衛に入れないとなれば、他が助けに入らねばならない。

 しかし、レーミアたち獣種はカイザンの助けに入ることはできない。彼らの専売特許は身体能力。接近するには、[データ改ざん]の有効射程範囲に入ってしまうからだ。



 数分前、アミネスを優先してウィバーナを諦めようと決断した負い目はある。それを引き立っての捨て身。な訳がない。


 一重に責任感だ。これから、ウィバーナがどうなってしまうのか、それをカイザンは知っている。知っているから、ここでカイザンが救ってやらなければならない。アミネスのパートナーとしても。


 覚悟はできている。後は、ウィバーナの動きを抑えてくれる要員を待つだけ。


 そう、ここでの活躍もまた、創造種以外にはあり得ないのだ。


・・・信じるって、言っちゃったからな。


「[クリエイト]」


 目前にまで迫り、熱さすら届く距離にあった獣爪が、何かに引っ張られたように唐突に離れていく。


 爪の付け根の先、指と指の間に巨大な輪ゴムのような物が引っかかっている。瓦礫が地面に落ちる寸前にアミネスがその先をそこに挟ませたのだ。


「ッ.........グルゥァアアーーーーッ!!」


 腕力だけで無理やり引き抜こうとするウィバーナ。結果的に成功には至るが、時間をかなり無駄にし、なおかつ動きの勢いを消費した。


 予めこの状況を予測していたのかもしれないが、何にせよ完璧なサポート。作戦前に甘くみていた自分を大反省。そして、


・・・ありがとうなっ!!


「[データ改ざん]っ!!」


 パートナーへの感謝を残し、特殊能力を放ったカイザン。


 眩い光が輝き、ウィバーナはそれに包まれる。

 間もなくそこから飛び出し、その勢いのまま目の前に倒れ、カイザンは思わず尻もちを着いてウィバーナを受け止める。


「っとぉ」


 一瞬焦ったものだが、動く様子はなくて安心....はできず、一応確かめてはみる。

 

 完全に意識はない。だが、息をしている。


 光に包まれたウィバーナが振るった最後の一撃は、アザ一つ生まれないか弱い攻撃だった。

 ポンとカイザンの胸に優しく当たり、本体は激しい脱力感から暴走の反動を受けて気絶したようだ。


・・・....これってつまりは....。


「作戦完了ね」


 上から降ってきたレーミアが安堵の声音でそれを告げる。


 アミネスがカイザンからウィバーナを預かり、容態を確認。魔力残量は少ないながらも、命に別状はないようだ。



 これにて、作戦は無事に終了した。

 しかし、全てが解決した訳ではない。今回の件も含め、ラーダの目的は分からぬまま。一行は振り回されただけと言っても良い。


 死神種ラーダ、ひいては光衛団の企みを完全に阻止するまで、暗い夜はまだ明けることはない。それを理解できているのは、現状で彼らを除く一匹のみ.....。

 カイザン&アミネス パターン七


「なあ、アミネス」

「何ですか?」

「こんな夜にどうして外に出てきたんだ?俺としては助けられた訳だけど、レーミアが居なかったらどうなってたとか自覚してるのか?」

「あれだけの騒音がしたら、さすがに起きますよ。何かあったのかと思ったら、向かいの部屋にカイザンさんが居ませんでしたし、大慌てで宿を出たら....」

「あれ、もしかして俺のこと心配してくれたとか?」

「そうですね。カイザンさんにもしもの事があったら私の身代わりが居なくなりますから」

「命は平等だよ、ほんと。....あんな事があって変わらないその精神に感服だよ、まったく」

「得た増えたで信条が変わったりする程、私は曲がり者ではありませんから」

「ウィバーナの前では優しかったりとかってのは、十分違うと思うんだけどー」

「ウィーちゃんは特別です。女の子同士の友情やらを話に持ち出して自分の意見を正当化させようだなんて最低です。カイザンさんを見る目が変わりました」

「また変わってるし...」


「じゃあ、次回。最暇の第二十一話「閉ざした心」.....暗い夜がやっと明けてくれた訳だけど、全部が全部解決した訳じゃないからな」


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