9話〜変態と全身甲冑であーる男
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いつも更新遅くてごめんなさい!
真っ黒な体表に艶のある黒い毛、銀色の瞳が太陽光を反射させて鋭い眼光を放つ。
ランクという点で言えばEと弱い部類だが、目の前のダークパンサーはそのランクでは測れないような強さを秘めていた。
ダークパンサーは俺との距離が詰まってくると、足に力を込めて先ほどまでと倍くらいの速度で地をかけ突進するように向かってくる。
だがその速度は大したことはなく突進力という点ではグレートボアの足元にも及ばない。
だが武器とするのは突進力ではないのはいうまでもない。鋭い牙や爪は的確に俺の首を狙ってくる。
「猫は猫らしくかわいらしくしてればいいのにな」
時速100キロは超えそうなダークパンサーの速度でも俺の動体視力をもってすれば
「ぐはっ!」
あっれぇ!?
全然目で追えない、。
え?あれ?俺ってステータス底上げされてるよね?
ダメージ自体はそこまで深くないものの、攻撃をかわすこともカウンターをすることもできずされるがままに攻撃を食らってしまった。
「す、状態!」
少し痛むけれど、それ以上に状況を知りたくて状態を開く
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職業:神秘を求める男
名前:ケンヤ=イチゼン
魔力量:1000000
スキル:異世界言語(SSS) 鑑定(A) 精錬(S)再生(S)一撃必中(A) マッサージ(SS) 環境適応(A)
弱体化:全ステータスが激減
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ちょっと待って?なにこれ弱体化!?全ステータス激減!?
グレートボアと戦った時は圧倒的だったけど、今はそれよりも下位のランクで苦戦してるってことは相当下がってるのは理解できる。
原因はなんだ?…
慌てすぎてる頭の中を整理させようと現状の把握に努める
俺にダメージを与えたダークパンサーは、トドメを刺せなかったことに驚いているのか、警戒をさらに強めた目つきで俺を見据える。
無属性魔法状態は消そうとしなければ、閉じることはないので開いたままの状態で視界の隅に移動させる。
ドクドクと血が流れるが痛みから意識をそらし俺もダークパンサーの方を見る
今の状態でなんとかして倒す方法を考えなければ
「うぐっ!」
唐突に痛みが増大し出血量が増えた。状態には変化はないものの、体感的にステータスが下がったことは明白だ。
痛みと出血によって俺は膝をつく。
それを見ながらも警戒心を解くことのないダークパンサーは低い地鳴りを起こすような唸り声を立てながらジワリジワリと近づいてくる。
このままじゃ死んでしまう!
転生早々に死んでしまうとか、絶対嫌だぞ
『ゼディウスサンダー』
あのスマホに映し出されたダッサイ発動呪文を思い出す。
威力がわからない以上ムロメ村にここまで近い状態で使えばなんらかの被害があるだろうし、俺自身も相当なダメージを受ける可能性がある。細かい説明がないから使うに使えないじゃないか…
俺とダークパンサーの距離が10メートルもない。
こいつが攻撃に転じた瞬間俺の死が一瞬で決まってしまうこの状況、それにも関わらず俺の鼻はとある匂いを感知した。
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「一体どういうことですか?」
遠巻きにケンヤの圧勝を信じて疑わなかったエイミアは目の前の現実に動揺を隠せなかった。
昨日会ったばかりとはいえ、ケンヤの力量は常識的ではなかった。
だが今、村を襲ったダークパンサーを目の前に深手ではなさそうだが確かにダメージを受けているケンヤがそこにいる。
駆け出したい、今すぐケンヤのそばにいってなんとかしたい。
そういった思いは確かにあったが、エイミアは自分の無力さを知っていた。きっとケンヤのそばに行っても足手まといになるだけ。
そんな考えが彼女の足を止めていた。
もしかしたら若返り魔力が上昇した村人全員でかかれば多少の被害はあれどダークパンサーを退けられたかもしれないが、刻み込まれた恐怖は簡単に拭えるものでもなく、村の外に飛び出そうとするものはいなかった。
ケンヤが倒れれば次は間違いなくこの村に来るだろう。
「ケンヤ…さん…」
ケンヤとダークパンサーの距離がどんどんと近づいていく。
村からの距離はそう遠くはないが、ここから見ればもう目と鼻のさき
エイミアは次の光景を想像してしまいぎゅっと目を瞑る。
震えるその肩をおばあちゃんがそっと抱き、それを見たタルが落ちている木の棒を持って構えている。
「あれって…」
「どういうこと?」
村人がざわざわとし始める。
「おいおいどういうことだよ!?」
タルがひときわ大きな声で叫ぶ、それを聞いたエイミアは恐る恐る目を開けると
「え…?」
涙を目に貯めていたにも関わらず、エイミアは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をして
またもケンヤによって繰り広げられた非常識な光景に目を奪われた。
傷ついたケンヤの側には、ほおをすり寄せ猫のように甘えるダークパンサーがそこにいた。
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「こ、これは一体どういうことですか!?」
ダークパンサーを連れて村の方まで戻ってきたエイミアが涙ぐんだ顔で俺の方に駆け寄って訴えてきた。
魔物の方に怯えながらも、俺そばまで寄ってきたのはエイミアだけで、他は少し距離を置いて俺のことを見ていた。
エイミアの服装は元に戻ってはいたが、胸元が緩いのは相変わらずで身長差によって少しでも前かがみになられると、簡単に見えてしまう…あれ?ちょっと成長してる…2ミリくらい。
ほんの一瞬だけエイミアの胸に意識がいってしまったが表情を崩さず
「実はこのダークパンサー…メスなんだよな」
俺の言葉の意味が理解できず全員がキョトンとした表情をする。
俺自身も不思議でしょうがないことなのだが、何もこの世界でのみ起こっている現象ではなかった。
今回みたいに女性(?)を相手に喧嘩をしようとしたことはないのは言うまでもないが、美奈とは中学時代に腕相撲をしたことがある。当時でも男子のなかで群を抜いていたと思っている俺に美奈は圧勝して見せた。その時は疑問に思わずただ美奈が強かったと思っていたがよくよく考えればあの時もさっきみたいに、無意識な感じで力が抑制されていたんだと思う。
つまり俺は生物の女性と定義される存在を相手にする時そのものに敗北するまで力が落ちてしまう
実際、このダークパンサーを縛られている現状から救おうと思った瞬間、ステータスの弱体化はなくなり、それによってダークパンサーの魔法による洗脳が解除された。
俺の方も止まらなかった出血が幻だったかのように、村の中に入った頃にはほとんど完治していた。
「あー、ところでゼグサって男知ってるか?」
俺の言葉を必死に解釈しようとする村人たちに、このダークパンサーを洗脳していた男の名を訪ねる。
その名前を聞いて、村人は顔を見合わせながらその表情を曇らせる。
予想通りといったところか…
自分ではなく使役した魔物を使う利点をそう多くはない、自分の方が強いのだから、自らが攻め入った方が勝率が高く、魔物をテイムする分の魔力も節約できる、一度くらい偵察に向かわせるのなら話はわかるが、二度三度は意味をなさないだろうから…
俺に考えを肯定するように、村長は口を開く
「ゼグサ……様…は…この村を管理下に置く、アズシン国軍、第三支部・支部長の名です」
「様?つけたくないならそうすればいいじゃないか、まぁそれほど手口がひどいってことか」
俺の言葉に便乗する村人たちが口々に愚痴を吐き出す。
話を聞けば、この村に男がいないのは、そのゼグサとかいうクソ野郎が国への献上として連れて行ったそうだ。どうやらアズシン国には相当の男好きがいるらしい。
全く男女平等の世の中だと言うのに…ちゃんと女性も大切にしなきゃダメだと思うんだ俺は
「最近は力仕事ができるものが少なかったから、農作物がたくさん作れなくて…でも作った分のほとんどは国軍に取られてしまうの…」
エイミーが眉を下げて悲しそうな目で訴えかけるように言う。
どうりで食料庫らしき倉のなかにも何もないし、初めてエイミーに会った時も栄養不足だったわけだ。
全く、女性には栄養をたくさん取ってもらわなければならないってのをなんで分からねえんだろう?
エロい奴にわかって偉いやつには分からんとは…やはりエロが至高ということの証明だな。
っていうか、やっぱり見てたし気づいたみたいだな
「そのゼグサってやつが近づいてるみたいだぜ?多分こいつの洗脳が解除された事に気が付いたみたいだな」
「!!?」
まだ距離は結構あるが今の俺には普通に聞こえてくる、約4キロくらい先。
明らかに無駄なほど、金の掛かった装備をした男、こいつがそのゼグサだろう、まぁ男だからかな、細かいところはわからないし知りたくもない。それよりも注意したいのは、その取り巻き2人のほうだろう。
明らかに用心棒とかの類だろう、知りたくもないがすごいムキムキだ。
「まぁ、さっきの見てたんじゃ説得力ないかもしれないけど、俺がそいつらを倒してやるよ」
「や、やめるんじゃ。あいつは性格は最悪じゃがその実力は支部長の中でも上位、それにタチの悪い族とも繋がってると専らの噂じゃ!下手なことをしてこの村が潰されでもしたら…」
「もうすでに潰されそうになってるだろうが!!この魔物をここに寄越したのはそいつなんだよ」
つい怒鳴り声を上げてしまうほど俺は怒っていた
この村を襲うことはもしかしたら俺みたいなガキには分からない、政治的な戦略とかがあるのかもしれない。
私利私欲のためかもしれない
だが俺は許せなかった
「ケンヤさん…」
怒りに力を込めすぎて震えている腕にエイミーが心配そうな顔して掴む。
「大丈夫だエイミー、今度は負ける気がしない。それどころか手加減できるかの方が不安なくらいだから」
「そこは心配していません。でもとても、怖い顔をしています…」
「ダークパンサーな子供が生まれたばかりなんだよ、だけど近くには子供がいない。それに俺の言葉がわかるほどの知能を持っている。」
「それが一体なんだっていうの?」
エイミーのおばあちゃんが少し憤りを込めた声で俺に疑問をぶつけてくる。
「子供はエグサに捕まってるってことだ。母親の子供への想いを利用してるんだよ。そのクソ野郎は…」
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村から少し離れたところで、村人全員引き連れてゼグサを待ち構えていると、ゆっくりとした足取りで
だがその表情には余裕のない中世を彷彿とさせるフルフェイス甲冑を身につけたおっさんがやってきた。
もう理由とかどうでもいいから殴りたい
「おや、こんなところまでお出迎えとは殊勝な心掛けではあーりませんか?」
殴りたい
「しらばっくれるのもいい加減にしろよ、お前がこいつを寄越したんだろ?」
「そのような凶悪な魔物など知りませーっんっ「それ以上無駄口叩くなら、その口ごと潰すぞ」!!?」
「「!!?」」
誰もが気づかない中、俺はゼグザの顔面をアイアンクローする形で掴み、地面に叩きつけていた。
「言いたいことがあるなら言ってみろ、お前の死に際の言葉は俺たちが聞いてやる」
「貴様のような下等生物が汚い手で、私のような高貴なる者に触れていいわけがなのであーる。お前らやるのであーる!」
倒れながらも、口調や態度を崩すことなく取り巻きの2人
足音からしてわかっていたが、2人とも似たような背格好でおんなじ顔つきだ
身長は2メートルは超えており体重も120キロぐらいだろうか
「逃げるんじゃ!あやつらは盗賊団”チオーデ”のリーダー。双子のウゴンとサゴンじゃ!三対一は部が悪すぎる」
ちゃっかり、私たちは戦闘には参加しませんと宣言する村長はさておき、
おのおの二振りの曲刀を持って、構えるその双子のクマのような大男を見ながら、そっと手を離す
「調子に乗りすぎたようだな、今すぐ謝れば許しやグヘッ!!」
手を離すと、気持ち悪い顔ーー甲冑してて分からないけどーーしながら喋り出すが、気にとめることなく、腹の上に乗っかる。
「おら、こいよデカブツども。それとも何か?そのでかい図体して俺みたいな小物にビビってんのか?」
予想通りの脳筋は、俺の煽りに疑問を持つことなく突進し曲刀を振りかぶる。
俺は”足場に衝撃を逃しながら”全て受けきってみせる
ギィイン
「ぐへっ!」
「おお!すげぇ衝撃だ」
ガンッ
「グフッ」
「いやぁさすが、一撃が重いねぇ」
ドンッ
「ゴハッ!」
「いい攻撃だ」
数十発ほど攻撃をしてきてようやく気づいたのか、双子の熊男は攻撃をやめ、すでにボロボロになっているゼグサを心配そうに見つめる。
「こ、この役立たずどもめ…この私を踏むとはいい度胸なのであーる。火属性魔法”火炎球”!!」
腹を踏まれ息絶え絶えの中、ゼグサの口調は変わらない。その声とともに地面には直径3メートルほどの魔法陣が現れる。
その魔法陣にはおそらく異世界の文字で書いてあるのだろうが、俺には日本語にしか見えない。
『火を司る精霊 熱を炎とし 対象を焼き尽くせ』
…これが魔法?
そう思った瞬間俺の”頭上”から魔法陣と同じ大きさの火球が落ちてきていた。
このままよければ、自爆するんじゃないか、と思ったがホーミング性能があるようで普通に追いかけてきた
「ふはは、無駄であーる!そいつは対象を焼き尽くすまで止まらないのであーる。」
「へー?ねぇねぇウゴンって言ったっけ?これってそんなにすごいの?」
脳筋兄弟の2人はゼグサが発動させた魔法を見て、それなりの驚きを見せていたが、俺が声をかけるとすぐに戦闘態勢に戻りながらも、律儀に俺の質問に答えようとする。
「あぁ、ゼグサ様の魔法は支部長クラスでは最強の部類だ」
「その通りであーる、私の魔法は准尉…いや少尉クラスにも劣らないのであーる!」
「そうか…」
「諦めるのであーる」
「がっかりだ」
さっきの見てわかったけど、属性魔法は多分精霊の力を借りている、だからゼグサの魔力はそれほど高くなくても、この世界でも結構すごいとか言われるレベルなのだろう。
今の俺は魔法の知識もない、できそうな気もするが、実験するような場面でもないからな。
ただ単純にその火球を左手の平で受け止める。
当然熱さで皮膚が燃え、ただれ溶け始まるが、それ以上に早く再生される。
「やっぱこの程度か」
右拳で軽く殴りつけると、風圧によって火球が消し飛び
エイミーだけが呆れ顔をして
他はこれでもかと言わんばかりに目と口を開いていた。
「さてと、覚悟はいいか?」
腰を抜かし地面に尻餅をつくゼグサに向かって俺はできるだけ優しく声をかけた。
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今週中に短編ひとつくらい上げれたらいいなぁ(願