8話〜うまい飯と豹を操る男
更新遅くなりました!
来週からはちゃんと更新できると思いますのでよろしくお願いします!
数百キロはあろう巨体も、骨を除けば割と見慣れた形になっていた。
俺自身の希望ということもあって、大きな塊肉は、骨を突き刺して炙るようにしている。
まぁ丸かじりすることは無理だが、丸焼きをするというのはロマンだ!
だがこの世界で料理する上での最大の難所は、調味料だろう。だがそれも俺は解決していた。この世界にも当然海があるわけで、エイミーから聞くと、5キロくらい先にあるとのことだったので、昨日のうちに行っておいた。往復で1分掛からない俺だからこそできるパワープレーだな!
まぁ当たり前だが、海の水からすぐに多くの塩を生成することは不可能だ。
しかしその代わり見つけたのは、アイスプラントのような吸塩植物“ショッパソウ”。
鑑定のおかげで毒なんか気にせず、食べて見る。
結果はしょっぱそうではなく、しょっぱかった。
しかし、独特なクセもなくおそらく料理に混ぜても問題ないだろう。
その上こんなにも手軽に塩っけを得られるのに、全然人の手がつけられていないのだ。
まぁその理由は簡単だ、毒云々の前にしょっぱ過ぎるのだ。
だがそれは水につけて塩抜きすることで解決する。
焚き火のような感じでじっくり焼いている塊肉を片目にもう1つ焚き火を作り、俺の後頭部を殴ったことで、歪んでいる大きめのフライパンみたいなのを火にかける。
金属はかなり貴重なようで、ーーなんでそんなもので、殴ったのか意味がわからない。ーーかなり年季が入っており、そのまま加熱してしまえば、くっついてしまうのは、避けられない。
だがサラダ油やオリーブオイルなんてあるわけがない。
だがここにはグレートボアの脂身がある!
細かく刻んだ脂身を入れ少し焦げ目をつけるように焼く。すると、徐々に脂が溶け出し、香ばしい肉特有の匂いとともに、脂身が小さくなっていく。
油がいい感じになったところで、一口大に切ったグレートボアの肉を加える。
さらに海に行くついでに見かけた山菜も刻んで入れる。
異世界特有の山菜ということもあって見た目はかなり厳ついが、ニンニクのような食欲を掻き立てる“ニオイグサ”や、熱を通してもレタスのようにシャキシャキとした歯ごたえを持つ“ミズミズシソウ”など、食用に適したものが数多くあり、鑑定での評価を見て合いそうなものを突っ込んで行く。
割と量が多くなり、フライパンからあふれそうになるが、木べらでなんとか炒めてみる。
一瞬でも気を緩めると肉が焦げ付いてしまいそうになる。でもその苦労と引き換えに、隣からも目の前のフライパンからもとてもいい匂いがしてくる。
何故肉を焼く匂いはこんなにも魅力的なのだろうか…まぁ女性ほどでは無いが。
それから絶えず火をかけているとようやく村長の話が終わり、空腹を直に訴える匂いによって吸い寄せられるように周りに集まってきた。
「ケンヤさんいつの間に…それにこれはグレートボアの肉ですか!?」
エイミーが近づいてそう辺りに聞こえるような声で俺に喋りかけると、警戒していたほかの人たちも近づいてくる。
その中にはエイミーのおばあちゃんもタルの姿もないのだが…
「見たことないものばかりだねぇ」
「ボア肉だって?固くて食えたもんじゃないが、餓死しちまうよりはマシかね」
と口々に好き勝手言うのは見た目ピチピチでかなり露出の高いスリムなマダム達。体は若返っても口調まで変わるわけでもなく、少し毒づいた言葉はご愛嬌と言っていいだろうか。
「もう少しで出来上がりますので、少し待っててください。」
そういうとみんなは渋々ながらも食欲はしっかり機能しているみたいで、意思とは裏腹に匂いによる攻撃でもうノックアウト寸前といったところか。素直に生唾を飲みながら待っている。
心を掴むにはまず胃袋から!
これは女性にも言えることなのだということをここで見せつけてやろう!
塊肉の方は結構レアにしてあるが食中毒の心配はないのは鑑定で確認済みだ。
魔物の肉はその魔物が強いほど長期間持つらしい。
厚みのあるステーキと見た目はかなり騒がしい野菜炒めを、木製の皿に乗せる。
「食べたい人は並んでください」
だが当然と言えば当然だが、突然やってきたやつの意味不明な見た目の料理を食べたいと思うやつはまずいない。
「ひ、ひとつください!」
エイミーはまだ顔を赤くしたままだったが、それでも俺に気を遣ってか、それとも空腹でかはわからないが、料理を取りに来た。
皿と言っても、ちょっとしたサイズの木を適当な厚みに切って表面に大きな葉っぱを乗せただけのものだが、殺菌も兼ねて炙った時の木の香りが、肉の香りと相まってより美味そうに見える。
それは、エイミーも同様で、顔を赤くすることさえ忘れて、肉に釘付けだ。
「「いただきます」」
合わせるつもりは無かったが、エイミーとハモってしまう。そうなれば食べ始めるタイミングも自然と同じになってくる。
行儀が悪いと言われるが肉に箸を突き刺して豪快にかぶりつく!
歯で肉に触れた瞬間に、秘められた肉汁が滝のように溢れてくる、その熱さに火傷してしまいそうになるが、本能による肉への欲求に口を話すことは出来ない。
歯ごたえがしっかりしているのに、噛み切れてしまう柔らかさ、軽く叩いただけだから、これは肉本来の特性だろう。
塩だけでも十分すぎる甘みと旨み…いや塩だけだからこそ肉の味全てを引き出していると言えるだろう。
熱いのはわかっているけど口いっぱいに含みたくなりその衝動に抗うことは出来ない。
エイミーの方も見るとほおを目一杯膨らませて口いっぱいに肉を詰めている。
どうみても苦しそうなのだが、当の本人は目をキラキラと輝かせている。
何あの小動物、めっちゃ可愛いんだけど!
何度噛んでも旨みが口の中に広がり、飲み込むのにも一苦労だったが、喉を通る時でさえ美味しいと感じた。
「あーうまいっ!」
「ボアの肉がこんなに美味しいなんて!ケンヤさんは料理も出来るんですね!!」
またも俺に合わせるようなタイミングで、エイミーがそう叫ぶと、周囲からまたゴクリと唾を飲み込む音が聞こえる。
「わ、私にもいただけるのかしら?」
その言葉を皮切りに、続々と集まってきた。
やっと警戒心がなくなったのか、ちらほらと俺に声をかけてくる人も増えてきた。
それでも近づいてこなかったタルと俺を殴ったおばあちゃんは、エイミーが持って行き、涙ながらに食べていた。
少し冷めてしまったが肉野菜炒めを頬張る。
冷めたにも関わらず、肉の柔らかさは健在で、寧ろ肉の味が凝縮されてかなり濃厚になっている。ニンニクのような香りと、シャキシャキのレタスみたいな葉っぱのお陰でサラダ感覚で食べることができる。
ーー
「いやぁ、あんたさっきは悪かったね!村の救世主で、エイミーの命の恩人を殴っちまうなんて」
肉を食って満足したエイミーとおばあちゃんが、みんなが使った木の皿の片付けをしている俺のところにやってきて謝った。
「救世主だなんて、俺は自分がやりたいことをしているだけですよ」
嘘はついてない
食べたいから作ったまでで、助けたいから助けただけだ。
「こんなにいい男がいたなんてねぇ、私ももっと若かったらねぇ…」
見た目的には20代後半ぐらいのお姉さん的な感じなのだが、まぁ中身は50〜60代だからそうなるのだろう。
「おばあちゃん、ケンヤさんが困っちゃうでしょ?」
「あ!そうね!エイミーの大切な人だもんね、ごめんねー」
「ちょっと!おばあちゃん何言ってるんですか!あ、あのケンヤさん!今のはおばあちゃんの冗談ですからね!」
どうみても姉妹にしか見えない二人のやりとりを見てると俺は自然と笑ってしまっていた。
それを見ておばあちゃんも同様に笑い、エイミーは顔を赤くしながら頬を膨らませていたが、つられるようにしてエイミーも笑い出した。
その時、ふと鑑定スキルによって表示されているウインドウに目がいった。
最初はエイミーはまだ14歳だから、成長したのかと思った。
だが、その隣にいるおばあちゃんでさえもステータス…特に魔力量が増加しているのだ。
エイミーの魔力量は440に、おばあちゃんのは660に。
推測だが、こんなにも急激に上がることは無いんじゃないか?となると原因は、緊急回復薬か?それともグレートボアの肉?もしや両方か…
「どうしたんですか?難しい顔をしてましたけど。」
急に考え込んでしまった俺にエイミーが覗き込むような形で俺を見る。
結構危ない角度なんだが…
「エイミーは魔力ってわかるか?」
「少しだけなら分かりますが、私達庶民には縁遠いものでして、詳しくは知りません」
そうか、確かにゼウからも自分で学んだ方が楽しいだろうとかって言ってたから、勉強しなくちゃいけないのだろう。でもそれなら
「試しに、力を込めながら状態って言ってくれないか?」
自分が使った時の、無属性魔法状態の消費魔力は50だ。
今のはエイミーの魔力量なら問題なく使えるはずだ…
「それは自分の状態を知るための生活魔法ですよね?」
「多分できるはずだ。」
エイミーは少しだけ困ったような顔をしたが、俺がもう一度お願いすると、試しとばかりに目を瞑って
「状態!」
呟くように言ったあと、エイミーが目を開くと驚きの表情をした。
「ケンヤさん!私にも魔法が使えましたっ!」
こちらからは見えないが、エイミーは無属性魔法状態を無事発動出来たようで、急激にテンションと声のトーンが上がっていた。
だが、俺は別のことが気になっていた。
エイミーの魔力量は100減った、俺の時は50だったのに…もしかしたらスキルとは関係ないところで効率が上がる何かが働いているのかもな…
「ありがとうエイミー、それを見れば自分の今の状態や持ってるスキルが分かるから」
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名前:エイミア
年齢:14歳
職業:無し
魔力量:440
スキル:幸運(C)癒し(A)
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魔物による被害はなんとか落ち着きを見せ、緊急回復薬による若返りとグレートボアによる魔力量増加によってムロメ村の村民達はかなりパワフルになっていた。
活き活きと働く見た目は20代後半の女性達、割とぽっちゃり系が多いため、力強く歩くを自然と目で追ってしまう。
それを手伝うだように駆け回っているエイミーも元気そうで何よりだ。
村の畑ではタルが一生懸命にクワを振り下ろしている。
タンッタンッ!
軽やかな足音が聞こえてくる。
「やっぱり来たか」
ムロメ村を襲った魔物
グレートボアよりも2回りほども小柄だが、顔の凶悪さは数倍増しの豹のような魔物。
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名前:ダークパンサー
年齢:2歳
主人:ゼグサ♂
ランク:E
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確かグレートボアはDランクの魔物って言ってたっけ?あの時はちゃんと鑑定してなかったからなぁ…
「きゃああ!!また村にダークパンサーが!」
村人の一人が甲高い声で悲鳴をあげる。
それにつられる形でパニックを起こし始めるが、エイミーが悟ったような表情で
「あー、多分大丈夫ですよ?ケンヤさん強いですから」
おそらく粉々になったグレートボアを思い出しているのだろう。Eランクですらこれほどの被害を与えているだから、グレートボアなんて見た日にゃ卒倒するのも理解できるな。
それよりも問題なのは、このダークパンサーは飼われている。
ゼグサ?当然だが俺の知らない名前だな…だが少なくともコイツをテイムしたといことは、コイツよりも強いと言うことだろう。喧嘩が好きなわけでもないのだが、このゼグサが意図的にこの村を襲ったのならいずれ本人が来るはずだ。
そうなれば理由によって戦わざるを得ないだろう。そうなれば俺は容赦しないだろう、相手は男だからな。
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