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神秘を求める男〜女体を求める異世界人〜  作者: 環 九
第3章〜エルフの美少女〜
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56話〜狂う女と狂う男

突然ケンヤの目つきが変わり、言葉には何時もの優しさはなく、下衆い男が見せる目つきへと変わっていた。


「なぁ、クルフ今ここで抱かせてくれ」


突然出てきた言葉、言われた本人であるクルフも理解することに時間を要した。そしてそれは他のみんなも同じらしく唯一違う反応をしたのは高身長の美女アレコだけだった。


ケンヤは強引に力任せにクルフを抱き寄せる、狭い客車ゆえに引っ張られたクルフの体はリティやマリアにぶつかる。


「な!何を言ってるんだ!?こ、こんなところで…」


クルフが抵抗するがそれ以上に強い力でケンヤが押さえ込もうとする


「ふーっ…ふーっ…」


息を荒くするケンヤの顔がクルフへと近づいていく、抵抗しつつも顔を赤くしていたクルフだが、ケンヤの目を見たときにゾクりと体を震わし思いっきり蹴っ飛ばした。


「あら、酷いことをするのね?」


あまりの衝撃で手を離したケンヤはその勢いのまま客車の壁にぶつかった、しかしどうにもおかしい…すぐに立ち上がることも怒ることも戯けることもなく、ただ視線をこちらに向けるだけ。

何も感情を持たないように見える目、しかしその目は憎しみが染めた黒色だった。


そんな時アレコだけが声を出す。

美しい芸術品みたいな顔を僅かに歪めて。


「アレコ殿…いやお前はケンヤ…とミリュもだな!!一体何をした!?」


原因はこの長身の美女アレコにあると踏んだクルフは立ち上がって睨みつけた。


「何って…私はただ二人の本心を解放してあげただけよ?ただ…その為のキッカケとして嫉妬心を利用してるけどね」


肯定した、それがわかれば十分とばかりにクルフはアレコの胸元を掴み自らと一緒に客車から飛び降りアレコをぶん投げた。


全速力ではないにしても、かなりの速度で走っていた馬車から飛び降りたのだから、クルフは地面に激突し激しく転がった。


「ふふ、無茶をするのね」


しかしアレコは地面に転がることなくふわりと着地するだけだった。


かなりの衝撃だったものの、そこまでのダメージではなかったクルフは立ち上がる。それとタイミングを同じくして止まった馬車から次々と降りていく。その中にケンヤの姿はなかった。よほど先ほど蹴り飛ばしたときのダメージが残っていたのか…それとも


だがスロウとの戦いの時のように敵になるという可能性は低くなったことに、クルフは安堵していた。

あれだけでたらめな奴と戦うのは避けたいと思うのは当然だ。


クルフは魔法で木剣を作り杖のようにして立ち上がる。


「全くあいつの言う通りじゃ、無茶するんじゃのう最近の若いのは」

「そうなの、お兄ちゃんをおかしくさせたあの人は私の敵なの!!」


クルフの元へは、クリスとリティそして少し遅れてマリアとタルが来た。

全員が臨戦態勢でアレコへと視線を送る、しかし全員が同じような意見を持っていた。


あれに負けるイメージがわかない


それは、今までケンヤが相手してきた物が強すぎたということと、自身たちが強くなっているということ。ましてや数の多さによる安心感もあったのだろう。

そしてなにより、アレコから放たれる気配はとてもではないが、一般の兵10人分よりも劣るものだった。


それでも…勝てるイメージも湧かなかった


「それは不安なだけですよ!あの圧倒的なまでに強いケンヤがいないから!」


そう言って体に紫電を纏わせて、一人音速を軽々と超えて駆ける人影が見えた。

声でタルと分かったがそれを理解するころには、タルの拳はアレコに命中していた。


「女性の顔を遠慮なく殴るなんて…モテないですよ?」


パンチの強さは速度と重さでほとんど決まる。重さという面ではまだ、全体重を乗せられていない為まだまだと言わざるを得ないが、雷の大精霊ビリティカの力を使っての速度は、先ほども言った通り音速を上回る物。

出だしがそのまま超音速、ゆえに砂埃を巻き上げるほどの強風を生み出し、女性陣のスカートをめくれ上がらせる。

ケンヤでさえも精神的に倒せそうな一撃


それを直撃したにも関わらず、アレコにはダメージが無かった。


「不思議そうにしていますね…でも原因はあなたにあるんですよ!!」


そんなに早い動きでは無かった、その場にいた全員の総意だ。

しかし、タルはその時蹴られたことを自身の体が重力によって地面に激突する時まで自覚出来ていなかった。


「心に隙がある、心に壁がある、心に不純がある、心にウソがある。あなたたちは私に攻撃をすることなんて出来ないんですよ、人間である限りはね。正直になりなさいもしすべてを開放できたのなら、私にを倒すことが出来るわ…まぁその時には何もできなくなているでしょうけど」


それでもクルフは地面を蹴った、それほどまでに悔しかったのだ。

いくらおかしくなっていたとはいえ、ケンヤがアレコに言いよったと聞いたときは。

嬉しかったのだ、無理やりとはいえ、自分に言いよってきた事が


「私はケンヤが好きだ!ただ守ってくれたから、国を救ってくれたからってわけじゃない!!好きなことを思って無邪気に笑うこと、好きなことを好きだって言い切れること、私はそこに惚れたんだ!だから私はケンヤの為に戦うんだ!!」


振り下ろされる木剣に魔力が纏わされ、溶け込む


ケンヤ自身も無意識で屋って言った目気が付かなかった事だが、疑似的に作り出された神力は、本物の神力よりも上回る特性が一つだけあった。

それは浸透力である。本来神力はこの世界ではなく神様が持つ力であり、隔絶した代物である。

しかし魔力はこの世界で作り出された力であり、物体に定着させることに抵抗が無い

ゆえに不純物のない、濾過された状態である疑似神力は魔力の数十倍の浸透力でもって魔纏をおこなった物に定着する。


ギィイイインッ!!


木剣がアレコに当たる直前で、金属音のような高音を鳴らして止まった。


「それはお姉ちゃんだけじゃないの!!」

「わ、わしはただその、あれじゃ!ただの好奇心じゃ!!」

「好かれているんだなあの男は」

「お、俺だってエイミアのために!!」


クルフが拮抗した直後、全員でとびかかる。

しかし、突如として生まれた巨大な、水柱にアレコ諸共飲み込まれてしまった


「ケンヤはわたしの!!誰にも、誰にも渡さない!!!!」


その目はエメラルドの瞳を残して真っ黒に染まっていた。



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