50話〜解放の宴と英雄となった男
「長きに渡る支配が解かれた」
つい先ほどまで騒がしかった周囲はエルフ王の言葉で一瞬にして静まり返る。
「戦う気力、開発する思考力それらが怠惰を司るスロウの手によって奪われ続けていた。だがそれは、今私の隣にいる人族の男が救ってくれた。」
「俺はそういうの苦手って言ったよな?」
「あとでエルフの女性を何人か寝室に向かわせよう」
「快く受けよう」
隣同士でいるからこそ聞こえる声量での取引はなんの障害もなく成立した。
「人族、エルフ族の垣根を超えて持てる力を全て我々を救うために費やしてくれた。その者の名はケンヤ、未来永劫この男の名はエルフの国で英雄として語り継がれるだろう。」
言い切るのと同時くらいに拍手の波がドワっと押し寄せる。
国中のエルフやドワーフ、それに草木全てが拍手をしている様だった。目には見えないが数多くの精霊がいるという話は嘘ではないのだろう。
「俺がケンヤだ!正直俺はやりたいことをやっただけで、こんなに感謝されるとかなり照れる!」
声を上げて丁寧な言葉遣いをすることなんて気にせず思いのままに
「オーク王の一件を知る者はわかるだろうが、俺は大層な男じゃない、ただ悲しんでいる女がいれば涙を拭き、どんなに正義を貫いている男でも女から殴れとお願いされれば躊躇なく殴るそんな人間だ!」
ポカンと口を開けて呆然としているものがいれば所々笑っているものもいる。
「だから国のために俺は戦ったわけじゃない、この国に住む数多の女性が笑顔で長生きしてもらう為に俺は戦った!下心しかない。だから俺は救ったとは思っていない、これは諦めず戦おうとした、リノさんやリエリフ、リティ、クルフそして、命を賭けて報告してくれたクエリア彼女らを筆頭にエルフの国に住む全ての女性が居たからこその勝利だ」
最早勢い任せというのが国中に感染したのか、テンションがハイになっていく者が続出し始めた
「よく聞け男ども俺の強さの秘訣を教えてやる!お前らは女性から生まれることしかできない、なのにどうして女性を下に見る奴がいる、よく考えろバカどもが!女性という存在を崇拝し感謝し自分の出来うる全てを女性へと捧げろ!もし複数人にできないのなら一人の女性に全てを捧げても構わない!愛こそが最強で最大の力となる。愛するものを守るために全力を尽くせ、脳が焼き切れても救う事だけ考えろ!気力が奪われたからどうした、魔力がないからって諦めんな、おまえらの性欲はそんなもんなわけねぇだろ!!今回は俺が手を出したが次は自らの手で愛するものを守れ!そのための英気を養うために今は飯を食って酒を飲んで寝ろ!解放された喜びをその身で感じろ!自分の命に恥じない生き方をしろ!…以上!!乾杯!!」
|テンションがピークに達した《言うことがなくなった》瞬間に最後の一言を叫ぶ
エルフの王だけが、そのテンションについてこれず、「乾杯っていいたかったなぁ」と呟いているがすでに宴は始まっており取り返しはつかない。
そんなエルフ王を嫁に任せて、俺は俺の知り合いが集まっている場所へと向かった。
まず見て欲しい!
俺が一からミリュの為に作った最高傑作を
黒に染められたシルクのような感触をフリル3段に、そして最後の段は白いレースを少し長めにし、ミリュの魅力の一つであるスラリとして美しい脚をシルエットで写す。
そして臙脂色の長袖のブラウスのような生地の硬さあるが、胸元は大きく開いており白い紐を編み込むことで開き具合を調節できるようになっている。
割とシンプルな服装ではあるが寧ろミリュにはこれぐらいでないと許容量がオーバーしかねない。
「何て挨拶してんのよ、見てよこれもう収拾がつかないくらい盛り上がってるじゃない」
ミリュが諭す様な言い方をするが、表情はとても嬉しそうだった
こういった事は初めてなのだろうけど、苦手ではないみたいだ。
「流石お兄ちゃんなの!ちょっと前まで誰も明るい話なんてしなかったの、でも今はみんなが笑ってるの」
いつも通りツインテールをぴょこぴょこさせてリティはそう言って笑いながらも、目をうるうるとさせていた。
ここで抱きしめてやりたくなる
「本当に感謝する、オーク王、怠惰のスロウ、君がいなければこの国は滅んでいたことだろう。」
「たしかに今回は偶然俺がいたわけだけど、次はお前らがやらなきゃな」
「当然だ次はエルフの国総出で事態の解決に向かおうだが、それでも、どうしようもなく私が死んでしまいそうな時は…また助けに来てくれるか?」
クルフは今日は濃い緑色のドレスを着ており、普段の強気な感じと相まってかなりのギャップ萌え、それに加えて手を握られて上目遣いに見られては、いくら隣にミリュがいるこの状況であってもドキッとしてしまうのは男の性というものだろう
「美しい女の子ばかりだねぇケンヤの周りにわ!いいことだ!女性の美しさは男にとって原動力だからなぁ!」
既に酔っ払っているかのような言動のダンガに握られてるのは、ただの水だ。
「ダンガから貰った刀のお陰でなんとかなったんだが、後でそのこと王様にで言っとこうか?」
「不要だ、作りたいものを作っただけだからな」
ダンガは急に真剣な表情になる。まぁ俺は聞かずともわかっていたのだが、この場で聞いておくことに意味があったのだ。
「やっぱりケンヤさんにお願いして良かった…またこんな風にみんなで笑い合える日が来たんだもの」
今日のリノさんの格好はどこか固そうなOLのようなスーツの上着とヒラリとしたスカートという着こなすには難易度が高そうな服をきっちり着こなしていた。
「そうですよ、リノさん!今日からは笑って行きましょう、辛くても悲しくても必ず笑える時が来ます、そして一度笑ったらリノさんは無敵ですよ!」
というと少し微笑んで、そしてちょっと怒った表情をする
「それなら今すぐ私を笑顔にしてください!」
「え!?っとそれはどういう…」
「そうですねーケンヤさんが私のことをリノって呼んでくれて敬語をやめたら笑顔になるかもしれませんよ?」
悪戯っぽい顔をして俺に迫ってくる、ここで断るのもおかしいからなぁ…
「お!それなら私もお願いしたいところだな!」
と同時立候補したのはマリアさんで軍服は正装と言わんばかりに濃い青色をベースにした特攻服みたいな丈の長さの軍服を着こなしながら、辺りにある食事に手をつけながらこちらを見ていた。
「わかったよ、リノ、マリア、これでいいか?」
「それなら私もケンヤって呼ぶね」
「それでいい!」
リノはお淑やかに、マリアはニコッという効果音が付きそうな感じで笑ってみせた。
「でさぁ、俺が聞きたいのは俺たちが怠惰のスロウと戦ってるときにタルはどこにいたかって話なんだよな?エルフのお姉様達にもモテモテだったみたいだし」
と急に話を振ってやれば、辺りをキョロキョロして四方八方にいる美人、美少女にドキドキしていたタルが落ち着こうと口に含んだ飲み物を吹き出した。
「こ、このエルフの国には精霊が多く住む無人の区域があるって言われてそこなら、俺と契約してくれた雷の大精霊をどうにか出来るんじゃないかって」
なるほどなそれで、あの速さを手にしたってわけか。あれほどの速度があればグロウに少し手を抜いて貰えばかなりいいところまでいけるんじゃないか?
そんなことを思いながらみんなと談笑していると、リエリフとクエリアが近づいてきた。
完全回復水を与えた時にもわかっていたことだが。クエリアの傷は全く残っていなかった。
「ケンヤさん…この度は本当にありがとうございました」
「私からも礼が言いたい、私の命だけじゃなく家族を守ってくれてありがとう。せっかく救ってくれたのに戦いに参加できなくて申し訳なかった。」
二人は頭を下げてお礼と謝罪をしてくる。
「顔をあげて笑顔!笑顔!!せっかくの宴だみんな笑って…」
強い、今まで戦ったラストや、スロウとは比較にならない強い気配を突然感じた。
「ケンヤさんどうされたんですか?」
俺の言葉がぴたりと止まった事を心配したリエリフが俺の顔を覗き込むように見てくる。
「いや、ちょっとトイレ行ってくる」
恐らく気がついているミリュにはアイコンタクトと意志で待っててくれと伝え
俺はトイレに行くふりをして、気配がする方へと向かった。
そして2キロほど走った先には木々の影で闇に埋もれた人影があった
「早かったな、うんうん上出来だ。ちょうど私の姿は見えないだろうが問題はない」
「確かに問題はない、俺の目には女性ならどんな暗闇でもハッキリと映るからな、その金属バット…異世界人ってところか」
「これはただの闇ってわけじゃなくて魔法で作った遮断なんだが…関係ないか。たしかに私は異世界人だがそれがどうした?」
「それに…マリアの血縁者だろ?見た目からして姉ってところに見えるが、見た目通りじゃないんだろう?」
するとさっきまで闇に囲われていたそのものの姿がよりハッキリ視認できるようになった。
丈長のセーラー服に身を包み金属バットを片手で持ち、ペン回しみたいに振り回してこちらをまっすぐ見つめる少し大人びたマリアのような顔だった。
「私の名は八神アリアーー魔王軍幹部、暴食のアリアだ」
これにてエルフの国編終わりです!
次からはこの物語全体のストーリーが始まっていきます
どうかよろしくお願いしまふ!




