48話〜宴の前とライカの男
「あ、 マリアさん居たわ」
俺がなんとなーくエルフの国中の気配を探っていると、エルフやドワーフが全く居ない、木々草花100%みたいなところでマリアさんとタルの気配を感じた。
「え…でもそこって人気ない場所…よね?」
再契約したことで俺の思考を再び一方的に受け取ることができるようになったミリュは今全裸でベッドに横たわっている
「マリアさんにはスタインって言う旦那さんがいるし、俺ならともかくタルになびくとは思え…まさかマリアさんショタコンか?」
完全に事後に見える現状だが、これは今回みたいに俺からの力が切れてしまうことのないように、余力を与えているだけなのだ。
まぁそれでもミリュのスベスベ肌に触れらるのだから拒否する理由もないだろう。
ちなみに何故全裸かと問われれば、魔力を流し込みやすいという以外理由はない!
「流石にそれは無いんじゃないかしら?」
過剰とも言える魔力譲渡によって、俺の持っている知識までミリュに流れ込み、この世界にとって異世界の言葉を使っても理解できるようになっていた…分かり合えるって素晴らしいよな
「いやいや、わからんよ?やっぱあの筋肉だらけの男よりも弱々しくて守ってあげたくなっちゃう系に引かれるってことも、あるかもしれないし」
「うーん…取り敢えず行ってみようかしらね?」
宴は明日に控え、みんながバタバタとしている中俺とミリュは手伝うことを許されなかった。
というわけで自由だったのだが、やはり少し退屈だったので、暇つぶしという気持ちを8割以上込めて、マリアさん達の気配がする方へと向かった。
ーーーーーーー
「…マリア…さん」
「どうした?こんなんじゃ故郷の村に残したエイミアって女の子を満足させられないぞ?」
周囲が木々に囲まれた中で、二人の男女が言葉を交わす。
「わかってっっっますよ!!!」
力強く反撃とばかりに体を起こす
「っく!中々やるようになったな!だがお前には圧倒的に経験が足りない」
「経験がなくたって!」
だがタルの勢いある言葉は、再度マリアに押し倒される事で遮られてしまう
「っし!」
「誰か…来ますね」
タルの口元を密封しないように手で覆い、マリア自身も声をひそめる
「とんでもない魔力だ…それも二つ…ケンヤやミリュよりも強大な力」
「あれより強いとか最早自分の定規じゃ測定不能で同一解答なんですけどね!」
「取り敢えず先手を取りましょう」
「あぁ、もしかしたらこいつらが魔王軍幹部かもしれないからな」
タルの体には放電しているように細く光る電気の流れが見える、これは本来魔法を使えない格闘家が編み出した瞬間移動に似た体術と電気を自らの体に纏わせ、脳の電気信号を魔法というもう一つの脳に任せるという無茶を合わせた事で完成した技
構えは無し、どの状態であっても、何者よりも早く、そして脳への信号も魔法による電気信号で正確に伝えるため、反射神経さえも常人を遥かに上回る“雷化”
かたやマリアの方はミリュとの模擬戦で見せた金色に輝く剣をさらに圧縮し、今では刃渡り20センチほどしか無くなっていたが内包するエネルギーは圧縮するのに合わせて相当なものとなっていた。
5
心の中でのカウントだが、タルとマリアの息はあっていた
4
タルの握る拳に力が入るが、すぐに深呼吸をして脱力
3
迫ってくる足音が遠くから聞こえる
もう少しで間合いに入ることを感覚的に感じる
2
もう一つの脳である魔法がもつ電気が少し漏れる
1
静寂
ーーーーーー
「ん?どうした?」
「あら、マリアじゃない急に攻撃してくるなんて敵だと思ったの?」
気配がした方向に歩いていくと、隠してはいるものの気配をたどって向かっているのに感じ取れないわけがない魔力の揺らぎを感じつつも、特に何も考えずにいたら
唐突にマリアさんとタルが現れた。
タルの拳を受け止め
マリアさんの剣は相当なエネルギーを内包しているにもかかわらず、ミリュが瞬時に纏わせた程度の鱗に傷一つつけることは出来なかった。
おそらく二人は攻撃を当てる直前で俺たちに気がついたのだろう。
と思っていた。
「本物?だって今の人間じゃ…」
「今回は完敗ということか」
愕然とするタルと、諦めたようなマリアさんの表情を見ればそれは本気だったとわかる
「強くなり過ぎじゃない?」
タルが肩をがっくりと落としてそう呟いた。
タル「あんまりだ…」
マリア「まだまだ修練が必要だな」




