46話〜ソフェミードと隔絶させた男
クリスが発動した魔法はただ純粋に高密度の光エネルギーを回避できない範囲まで広げた、高音の極太レーザー。
それが内包するエネルギーは地面をプリンのように抉ってしまえるものだと直感で分かっていたのだが、それを避ける必要はないとも同時に感じていた。
結論
右手を突き出すだけで、そのエネルギーを霧散させただけでなく、風圧によって突風を巻き起こした。
クリスの貫頭衣がめくれ上がりそこだけが大人びた箇所が丸見えだ。
当然ミリュ達も同様の突風に煽られたものの流石エルフの国製の見えそうで見えないけどそれがいい服のせいで隠そうという素ぶりすら見せない。
なんとも物足りない
が
そんなことよりもだ、思考に問題は無いにしても体の権限がまるで自分にないこの状況はどうすればいいのだろうか。
というか、防がれたクリスは呆然としているが、ミリュを始めとしてクルフもリティもリノさんも遠慮なく魔法を放っている。
まぁその全てを俺は拳や張り手で消滅させており、被害を受けているのはクリスだけだった。
「お兄ちゃん…、そんな奴に操られてたらだめなの」
そう暗い雰囲気で言い放ちながら、太陽光のエネルギーをモデルにした細い高熱線を大量に降り注がせる。
太陽光線
「ケンヤのお陰でここまで強くなれたんだ、この力せめて君の為に!」
そんな支配から救うために殺すというかなり強引な意思を持ちながら発動されるのは、オーク集団を縛り栄養とし溶かしてしまったあな魔法であり、今回はそれを一人で完成させてしまっていた。
「あんたは私が仕留めるわ!それがせめてものお礼よ!!」
水の槍などという甘い代物ではない、巨大な握りこぶしが滝のように上から降り注ぐ
水拳の滝
容赦の無いそれら全ての攻撃が俺へと向かう。
「俺はお前らが大好きだ、だからそれを全て受け入れよう」
ちょっ、おまっ、ってか俺!
何言ってん!?
喋る方まで主導権握られてんの?嫌でもこの言葉を怠惰のスロウに喋らせる意図がまずわからん。
え、てことはこれ俺の本心とか?
うわぁ、いつもテキトーに茶化してる部分だからより恥ずかしい。
「リティ、君の魔法は暖かいな。いっつも笑顔で俺に安らぎを与えてくれるリティそのものだ」
何言ってんだコイツ…って俺なんだけど。
しかもなんかよくわかんないけど、防げるとも思えない太陽光線を抱きしめるように消失させるとリティは顔を赤くしてその場に崩れた。
次に襲うのは無数の蔓、クルフ一人でもって完成させたのに、オーク達を屠った時よりも多く太い
「クルフは束縛の思いが強いのかな?それでも俺は全部受け止めるけど、それじゃ二人のためにならないよな、お互いの妥協点を探そうか?」
そう言いつつイキってる俺は腰に下げた、ダンガの刀を抜き放ちピンクの残像を残しながら迫る蔓を全てバラバラに切り刻む
「安心しろクルフ…心は君に縛られていても構わない」
鞘に刀を戻し、そう呟いて微笑みかければ、クルフもリティ同様その場で膝をつく
やべえ完全に黒歴史だコレ!
「アンタねぇ!アタシというものがありながら…アタシだって!!アタシだってえええええ!!!」
ずっと頭上で大きさを増していた水の拳は、ミリュの叫びとともに表面が凍り
一瞬にして氷の塊へと変化し、ピシっと砕けると細かい氷の塊が無数の拳のように降り注いだ
水拳の滝…ではなく
氷拳の滝というべきそれの威力は自由落下の威力だけでなく、俺に追尾するように推進力を加速させた一撃毎に俺の体を撃ち抜かんとする。
「わかってるよミリュ、俺を一番理解しているのはお前だ、お前が居るだおかげで、俺は俺で居られるんだ。これがミリュの怒りだって言うなら全て受けよう」
先程まで防ぐか斬り伏せるかしていた攻撃を今回のミリュの氷拳の滝に関しては寧ろ当たりにいっている。
正直意思には痛覚はないからわからないのだが、めちゃくちゃ痛そう…
これ…俺の体なんだぜ?
そしてイキリ俺の宣言通り、ミリュの魔法を全て受けきるとミリュは力を一度に使いすぎたのか立ちくらみをしたようにフラリとして地面に座り込む。
シュッ
激しい攻撃によって生まれていた、土埃が切り裂かれる。
が俺が気づいたようにイキリ俺も気づき、切り裂いた槍の槍穂を握る。
「まさかケンヤさんが敵方に回ってしまうなんて思いもしませんでした」
埃が晴れた先に居たのは、道着姿に身長の二倍はあり、槍穂の両サイドには鎌のようなものが付いている。いわば鎌槍というやつを握るリノさんの姿があった。
体の周囲には魔力ではない闘気とも思える赤い歪みがあり、大きく見開かれた瞳は緑に輝いていた。
「美しい瞳だ、どんな宝石も君の前では石ころ同然だな。」
「残念ですが、先の三人ほど私は好意を寄せていませんよ!」
槍にこめられる力が増すが微動だにせず、俺の手には傷すらつかない。
「初めて会った時より随分と感情的にじゃないか?」
「あれは、下手に感情を出して私がエルフ族だと気づかれるのを避けたかったからです。そのために認識阻害のメガネもかけてたのに…」
たしかに初めて会った時に掛けていた眼鏡は無かった。
「その程度でリノさんの魅力がわからないほど自分の目は節穴じゃありませんよ」
今度は俺の体の方に力が入る、すると拮抗していたと思われていたが、あっという間に押し返してしまい、バランスを崩したリノさんはぺたんと尻餅をついてしまった。
「それに今からでも遅くありません、お互いに知っていきましょう?」
手を差し伸べたイキリ俺だったが、リノさんはそれには答えなかった
が
立ち上がることもせず、顔をこれでもかというほどに赤くして視線を合わせない。
「あっはっはっはぁ、まさかこれほどまでにぃ強いとはねぇ、女には弱いって情報は嘘だったのかしらぁ?それともぉアンタ達が弱いのかぁ?」
怠惰のスロウはたわわな果実を揺らしながら天へと手をかざす
しかし
何も起こらない
「おかしいわねぇ…魔力は十分に込めているはずなのにぃ」
いくら心が侵食されても
「お前に尽くす価値はねぇ」
俺は女を傷つけない
「鍍金だけ女のお前が俺の女に手を出すな!」
「っっく!!操られてなおその意思の強さなんてぇ!それに、私に一体何をしたのぉ!!」
体も言葉も操られているが本質は俺なのだ
考えていることは大体わかる
いくらお前が鍍金の女であっても
「その見た目だけは守るべきものだ」
故にお前の体を全てから守る
「だから究極の防御魔法を展開させた」
「お前自身からさえも…お、ようやく戻ったな」
手を握ったり足を軽く動かして、主導権が完全に戻ったことを確認する。だがどこか心の中で生まれてしまったイキリの俺がいるみたいだ。
「き、究極の防御魔法ですってぇ!?」
「そうだ、ーー干渉不可ーー世界からの隔絶、触れることも殺すことも、そして時が経つことも無い、すなわち風化する事のない体だ」
「はははぁ!なら安心ね、私ほどの力があればぁ、いずれこの魔法を解除して見せるわぁ!!」
「何度言えばわかる?俺が助けるのは女性だけだ、お前の意識は対象外だ」
「これは私の体よぉ!意識だけを隔離しても無駄よぉ!」
確かにそうだ、意識は魂と同義。
隔離しても体と共にある。まぁ魂が寿命を迎えるまで放置してしまえばいいが、恐らくコイツは怠惰の影響下でこの魔法を破るほどの力をつける可能性があるだろう。
かといって奴の体は絶対に手出しできない状況にあるのも事実で、こちらから攻撃することは不可能だ
普通なら
「そんなに騒ぐなよ、今消してやる」
腰にかけられたピンク色の刀身を持つ刀を抜き、余裕ぶって笑う怠惰のスロウに振り下ろした。
隔絶されているが故に刀は体をすり抜けて地面に当たる前に止める。
「何がしたかったのよぉ!お前の魔法だよぉ?どうなるかぁ…ぁああ゛!?たまし…ぃ…切っ…」
ダンガが言った
俺の為にあるような刀だと。
この刀は、魔力を込めることでどんなものでも切り裂く事ができる。
だが女性を切ることは出来ない
女除万物斬刀
別名ーーソフェミード
鞘に戻りチンっと音を立てた頃には、怠惰のスロウが放っていた雰囲気は霧散して消え、魂の抜けた体だけが残った。
ミリュ「ソフェミード?変な名前ね」
ケンヤ「そうか?俺は気に入ってるんだがな、和名ー女性主義の刀ー」




