42話〜ため息と気づける男
元々俺の目には人が持つ魔力とかその類の物が何となく見えていたのだが、そんな俺でも目を凝らさなければ見えないほど細い魔力の糸が左の肩につながっていた。
注目していなかったから確信は持っていなかったが、ドワーフを含めてエルフも男にははっきりと見える糸は無かった。
「ケンヤさんどうかしましたか?」
「ん、いや?確かに生物と思われるもの全てにエネルギーを集める糸みたいなのが見えるんだけど、どうして均等ではないのかと思いましてね」
そう、現在の俺の魔力がどれくらいなのか知るすべは無いのだが、このように男女で吸収する魔力量を分けるのなら、そのものが持つ魔力量で区分すればいいものだが
「例えばだけど、エルフって男女で魔力量に差があるとかってありますか?」
「そうですね…どちらかと言えば男性の方が少ない傾向にありますがそれでも平均的に言えば5%ほどの差しかないはずですよ?」
5%…糸の太さから考えるに女性に付いている糸の1割ほどしかない…明らかにおかしい差だが
「まぁ、いいか。怠惰のスロウって美人って聞くしそれと繋がってるって思えば多少の魔力くらい安いものだからな」
と、言い放った瞬間リノさんが明らかに引いた顔をする
が、それと同時に俺の肩に付いていた糸が一瞬たわんだ後にプツリと切れてしまった。
「切れた?」
あからさまにタイミングが良すぎる…
ここでの会話が怠惰のスロウに聞かれている可能性を考えるべきと思うが…どうしてそれが分かるような反応を見せたんだ?
「…早速だけど、明日には準備をして怠惰のスロウの所に行ってみますよ」
「明日…それは随分と急に。ですがそれをなんとかしてもらいたくて、ケンヤさんには来ていただきましたので、こちらとしては精一杯のサポートをさせていただきます」
その言葉を最後に、俺とリノさんは湖から離れ街中へと戻った。
そして丁度街中に入る木で作られた天然の門をくぐる所に、あからさまなまでに不機嫌な顔をしたミリュがいた
「武器屋のおじいさんに付いてったと思ったら女と湖畔デートだなんて!!」
顔を真っ赤にさせて怒りを露わにしながら叫ぶミリュは、選択肢を一つ間違えれば死を免れられない直感が働いた。
「ミ、ミリュさんこれには「あんたは黙ってなさい!!!」ひっ!」
リノさんが弁解しようと口を開くと、怒りの波動を向けて威圧で黙らせる。
正直ヤバイ、え?だって居なくなったのはミリュの方だし…その前に…
確か服がいいなぁとか…
と思考に至った
服が変わっている。
ミリュがいつも着ていたニーナの店でーーゼグサがーーー買った青のドレスではなく
薄いレモン色をベースにレースを重ねたヒラヒラした短めのスカートにエルフ国製の見えそうで見えない生地の薄いノースリーブで黄緑色のベストのようなものを着ていた。
青というはっきりとした色だとミリュの白い肌が目立ったのだが、こういった薄い色を合わせると、ミリュの輝きが一層増したように見える。
「ミリュって何でも似合うイメージだけど、なんていうかそれはめちゃくちゃ可愛いな!」
つい空気も読まずに言ってしまった。
言わずにはいられないそれほどの魅力がそこにはあったのだから
「ケンヤ!!」
悔いはない、先程までと表情を変えることなく近づいてくるミリュが美しくて可愛いから
「…あ、ありがと。アタシがいるんだからよそ見とかダメだからね?」
近づいて、他には聞こえない小さな声でそう呟いた。
ミリュらしくないが、ミリュっぽいと思ってしまった。うつむき表情は短い前髪で隠れてしまっているが、そこから覗く本来白い肌ははっきりと分かるくらい紅くなっていた。
その姿を愛おしく思ってしまい頭を撫でると、周囲からは安堵と別の何かが混ざったエルフ王の娘達のため息が聞こえた。
リティ「わたしも…撫でられたいなぁ」




