41話〜エルフ王の子と賢者タイムの男
ダンガが鍛冶屋を営んでいる建物から出てキョロキョロと見回すがミリュ達の姿はどこにもなかった。
目的もなく、ぶらついていると時々お礼を言われたり、手を振ってくる子供達が居たがどうやらオーク王を倒したのが俺だっていうことは、どこからか流れていたようだ。
悪い気はしないがどこか照れるというか恥ずかしいというか。心からの感謝ってのは中々受けられるものでもないからな
しばらく歩いていると木々がぽっかりと開いたところに、少し大きめの湖が見えた。
程よい感じで、今度ここにみんなで水浴びに来てもいいかもしれないな…
なんてことを思いながらダンガから貰った刀を持つ。
柄の部分は黒く細い紐で編みこむようになっており、金属部分や鍔は真珠のように透明感があり淡く虹色に光る白。
鞘は柄の色に合わせたのか、漆塗りのようにツヤのある黒色で太陽の光を反射する。
そこからスゥっと刀身を覗かせると、一瞬そのギャップに驚いた。
刀身がショッキングなまでのピンクなのだ、根元から切っ先まで余すことなく、ピンク。
ダンガはこの刀を渡す時俺に合ったものって言っていたけど…まぁこの辺で試し切りをするわけにもいかないしな。
再び鞘に戻しいっしょに貰った腰紐で結ぶ。
「あら、ケンヤさんこんなところに居たんですね」
湖面に映る空を見ながら妄想でもしようとしたところで、声を掛けてきたのはリノさんだった。
「エルフ王って子供何人いるんですか?」
やってきたばかりのリノさんにそう問いかける。背中を向けつつも、顔だけをリノさんの方へと向けると、リノさんは少し驚いた顔をしていた。
「どうして急に?」
「いや、リエリフ、リティにクルフそれにエルフの国に入る前に俺たちにオークのことを伝えてくれたクエリア、あとリノさんはみんなエルフ王の血を引いてますよね?」
そう言い放つと今度は本当に驚いた表情をする。
「え?いや、どうして…私たちはともかくクエリアのことまで……まぁケンヤさんですものね」
「あと、軽ーくエルフの国を散歩してる間に半径3キロの中に入ってきた女性のうち62人もそうだろ?」
リノさんの返答が答え合わせだと思った俺は、さっき気付いたことも言っていく
「え…っと…あのケンヤさん、それは私も知らない…というよりそれが事実なら王の血を引く者がそんなにいるということに…ケンヤさんその事は秘密にしておいてもらえませんか?」
酷く動揺というよりは、エルフ王の性欲に呆れているのか怒りを隠そうともしないリノさんはそのままの表情で言うと、直ぐに気を取り直したように少し乱れた髪を直しながら、いつも通りの表情に戻った。
「無事鍛治師ダンガに会えたみたいですね」
リノさんは、俺の腰にある刀を指差す。
「はい、やっぱり同じ志を持つ者と話せるのは素晴らしい事です…がダンガさんの実力って相当ですよね、握手してわかりましたけど、多分オーク王に勝てないにしても一方的にって事は無いはずです。」
「ケンヤさんはなんでもお見通しですね、たしかにダンガは昔30代くらいの少年期には当時の軍の中でトップレベルの強さで、今でもその強さは健在です、がーーーケンヤさんは賢者タイムというのをご存知ですか?」
リノさんの話を聞きながら俺の思考は凍りついたように固まってしまった。
「どうやら、それが時々あるみたいで、その賢者タイムという時の戦闘能力は10分の1ほどになってしまうようで…」
「ええ、確かにそれは病気ですね。あれは完治は出来ませんからね」
中毒という立派な病気です。
立派という言葉は相応しくないけどな。
「ところで…怠惰のスロウの被害ってそんなに大きく無いんじゃないのか?」
この国に来てから思っていた事だ、俺はてっきり動くことすら怠くなるほど力を奪われているものだと思ったが、実際にはある程度の生活が出来るところで留めているようで、今回のようにオークが攻めて来なければ被害も特に無さそうだが…
「そうですね…ですがどちらかと言いますと、この国を形成しエルフの数よりも多い木々や植物の方が持たなそうなんです。」
「このエネルギーを奪われているのは、人やエルフだけじゃなく植物やほかの動物も含めてっていうことか」
そう言いつつ、目を凝らしてみると、エルフ達に繋がっているエネルギーの糸のようなものよりも細いが確かに見える。
木々だけでなく湖からも伸びている事から魚もその対象らしい。
というかよく見たら俺からも伸びてた。




