36話〜2人のエルフと無力な男
ドッ!
密集する大木に背中をぶつけて漸く俺の体は静止した。
背中を強打したことで、呼吸がしづらい。
それでも水龍裂神剣を発動し続けたのは気合でしかない。
再度構築するまでの時間は恐らく無いと思っていたからだ
巨体のオークは、ダメージを一切受けていないようで普通にこちらに向かっている。
だが、その速度はかなり遅い
そう思いながら視線をやつの足元へと向ける
「蔓が巻き付いてるのか?」
巨体のオークの歩みを僅かに遅らせているのは、朝顔みたいな細い蔓が数十本と休むことなく足を絡め取っていたのだ。
「リティ!今のうちにその方に回復を!」
「う、うん!!」
突如背後から声が聞こえた
周りの木もそうなっているのだが、根元の部分が割と大きめの空洞になっておりそれら全部が下に続く階段が設置されている。
それは俺が背中をぶつけた木も同様で、そこから2人のエルフが出てきた。
2人ともリエリフと同じような金色に黄緑を足したような美しい髪を背の高い女性は首の高さで緩やかに纏めて背中に流していた、もう1人のリティと呼ばれたリエリフよりも小さな女の子はツインテールにしており、一歩ごとにぴょこぴょこと動いていた。
こんなに美しく可愛い女性がいたのに気づかなかったのか…怒りに我を忘れてちゃ救えるものも救えない
「まったく…無力だな」
呟いた俺の言葉を聞き取ったのか、俺に魔力を流し込み回復を掛けてくれいるツインテールのエルフ、リティがずっと泣いていたことを伝える大きな目で俺を見つめ声を上げる
「そんなことないよ!私たちエルフには強いやつに対抗する術はそこまで多くないの。あのオーク王の姿をみて、みんな戦う気をなくしたの…でもねエルフ族でもドワーフ族でも無いこの国には関係のない人であるお兄ちゃんが必死になって戦っているのを見て勇気をもらったの」
「そう!一人一人が弱くても残ったエルフとドワーフだけでも充分に時間を稼げる!」
狭まっていた視野を広げると、たしかに周囲からも魔法が発動されており、この森全体が蠢いているようにすら思えた。
そしてやがて、巨体のオーク…オーク王を含めた残り4万ほどのオークが蔓に埋もれてしまった。
「す、すげぇ」
そう呟くとリティがにこりと笑って
「これもあなたのおかげですよ」
と言い、目の前で魔法を発動していた背の高い女性は肩越しにこちらを見て、少し微笑みながら頷いた。
「だが、それはエルフ達が力を合わせた結果だ、俺では倒せなかったわけだし…!?」
こ
「この程度で俺を止めたと思ったか?」
重量のある声が、森の中に響く。
先程までの余裕と少しの品がある声ではなく、怒りと冷静さという矛盾する二つの要素を含んだ声。
そして、それの発する先である、一際大きな蔓の玉に目を向けると、それはあの鉈によってバラバラに切り裂かれるところだった。
「くっ!?それならもう一度足止めを!!」
「無駄だ!!」
オーク王が鉈を地面に向けて振り降ろすと、轟音が鳴り、その一撃によって生み出された衝撃波によってあたりの草木を根こそぎ倒していった。
「…ここまでか…すまないな、人族の男、せめてあなただけは逃がしてみせる。なぁにこの身を差し出せば少しくらいは時間を稼げるだろう。」
勇ましくも可憐な笑みを見せて俺に言う。
「お兄ちゃんは死んじゃダメだよ。そして少しでいいから私たちエルフのことを思い出してね。」
2人に見惚れていて気づかなかったが、俺の右手は再生されており、なんとなくだが前よりも強靭になっている気がした。
「忘れるわけないだろ…何度も会うんだから、可愛くて、美しくて、健気で、強かな君達に!!」
「君は人族だろ?どうしてそこまで」
「そうだよ、お兄ちゃん…」
「それは俺が正義の味方だからだよ。」
立ち上がり2人の前に出る。
そんな俺を驚いた表情で見ていたようだが、2人揃って可愛らしい笑顔を浮かべて
「本当に変わった人だ」
「よく言われる」
とカッコつけて歩み始めようとした俺の腕が掴まれ、割と強い力で引っ張られた。
「エルフ国戦大将クルフの名において、この人族にエルフの加護を与えよ」
「わたしからは、お兄ちゃんに魔力をあげるの!」
そう言って2人は俺の両の頰に口づけをした。
リティ「あれれ?なにこれ?」
クルフ「もしかして、わたしやっちゃった??」




