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神秘を求める男〜女体を求める異世界人〜  作者: 環 九
第3章〜エルフの美少女〜
34/59

34話ー怒りと無力な男

※今回の話に少しグロ要素があります

神級魔法ゴッズにより生成した完全回復水を飲ませ外傷が全て治ったのを確認した頃には、馬車からミリュ達が降りていた。


「クエリア」


リエリフが倒れているエルフの女性の名を呟く。

外傷は治っているにしても、怪我を負っていたことを生々しく表す服の乱れから現在の状況が非常に良くないことを理解させられる。


リエリフの声が聞こえたのか、クエリアはハッと目を覚ました。

死に瀕していた体が治っていることに驚きつつもリエリフの顔を見ると安堵と不安を混ぜた複雑な表情を浮かべて座ったまま頭を下げた。


「申し訳ありませんリエリフ様…現在エルフの国に5万ものオークの軍勢が攻めております。ドワーフ族と共に籠城戦をしておりますが現状が現状なだけに突破されるのも時間の問題です。」


事態は深刻

というのも怠惰のスロウがエルフの国でエルフ達の活力を奪っており、戦う気力さえ少ないところだろう。

リエリフから雑談的に聞いた話だが、エルフ族というのは感情の起伏が人間ほど大きくなく一度下がってしまった感情は中々上がることはないらしい。


「なら早く向かうのです!おじい様!」


「はっ!」


御者席から降りていなかったエルフのおじいさんは、馬車を引いていた馬の魔物に魔力を与えた。すると馬の口を閉じさせるようにしていたロープがちぎれ、一目で魔物とわかるような顔立ちになる。

感覚から見てもその魔物の強さが跳ね上がった気もするが、それ以上にエルフのおじいさんの体躯も倍以上になっていた。

あのじじい、世紀末覇者かなにかか!?って思うくらい


そしてその様子を見ていた俺を除く全員はその馬車へと乗り込んだ


「ケンヤさん早く乗ってください!!」


「エルフの国ってどっち方面だ?俺は先に行こう」


焦りが口調に現れるリノさんに対して

俺がクラウチングスタートの体勢で尋ねる


「本来の力を発揮したダークホースの力が人間に劣ることはまずありえませんぞ!?」


エルフのおじいさんが額に青筋を浮かべながら叫ぶ

っていうかダークホース?たしかに速く走りそうだな


「時間がないんだろ?早く教えろ」

「ですが…」

「アタシが案内するわ」

「え!?ミリュさん」


一度は乗り込んだミリュが馬車から飛び降りて俺の隣に並ぶ


「流石俺のミリュだな」

「…そ、そうよ感謝しなさい!いくわよ!!」


ミリュは赤面しながらも、叫び声と共にほとんど同時に地面を蹴る


だがその音が聞こえたのは、ミリュやケンヤの姿が見えなくなってからで、驚きと呆れ顔を残った全員が…ダークホースを含めて…浮かべていた。


「わかっていると思うけど、アンタにはもう戦う力は残ってないわ。それでも龍の全力と同程度に走れている意味はわからないけど、それって一時的なものだと思うわ」


音速を超える速度で走る中、ミリュの声ははっきりと聞こえていた。


「あんなボロボロになりながら助けを求めてきたんだ、ここで全力で向かわなきゃ男じゃないだろ?」


「アンタの男の基準がよくわかんないけど、確かにそれはケンヤじゃないわね」


「だろ?」

「…もうすぐエルフの国に入るはずよ!」


ミリュが声を上げるが目の前には広大な森が広がるだけで、国っぽさは見当たらなかった。


「…やっぱり今のケンヤには見えないのね?」


「ん?」


ミリュが聞こえないように呟いた言葉は、聞こえていたのだが理解はできなかった。

今の俺には見えていない?


「捕まって!」


ミリュに差し伸べられた手を掴むと、ノンストップで森の中へと入っていった。


すると、先程までは見ることも感じる事も出来なかった光景が目の前で起こっていた。


声を枯らして叫び続けたであろう掠れた悲鳴

何人もの致死量にも及ぶ血だまり

壊れた人形のように投げ捨てられた死体


俺の脳が伝える、目の前には既に死んだ女性が130人居る…と


そしてその全てが悲痛な顔になって死んでいる。


何をされたのか…火を見るよりも明らかだ


「人間の仕業じゃないな」


荒らされた目の前の状況、男の死体のほとんどは食い散らかされ最早人間だった原型さえもない。


「オーク…でしょうね…ってケンヤ?」


ミリュの言葉が耳を素通りする。

おかしいな、ラストの時はこんなにもならなかったのに、目の前にこうして突きつけられると


ガサッ


森の中にしては煉瓦造りの建物があったらしく、それが崩れた瓦礫の山が動いた。


あまりの事に気がつかなかったが、まだ生存者がいたのだ。


エイミーくらいの幼いエルフの女の子が


「ママ…?パパ…?」


現状を理解したエルフの女の子は涙を流し、膝から崩れ落ちた。


その姿に自分の無力さを感じて動けずにいたが、ミリュがその子を抱きしめ、視線だけで


怒りに満ちた龍の目で訴えてきた



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