3話〜神秘を作りし神と死んだ男
「うぃーっす!」
目を覚ますと俺はあぐらをかいて座っていた。
妙に落ち着いた感情に自分で驚きながらも周囲を見回すと、白だと分かるのだが、奥行きが感覚的にわからない壁に四方八方囲まれており、もしかしたら狭いのかもしれないしとんでもなく広いのかもしれないという錯覚に陥る。
そんな中で俺の目を覚まさせた声のことを思い出し、先ほど見回した時には見つけることができなかったのに意識した途端初めからそこにいたかのように、そいつはそこにいた。
見た感じ俺と同い年くらいの男だった。
そう思った瞬間自分で自分に違和感を覚えた。生まれてもの心がついてから今まで男という生き物を自分以外、人間として認識したことがなかったからだ。
だが今目の前にいる若い青年を俺は間違いなく男として認識している。
座っているから正確にはわからないが、身長は俺よりも少し高いくらいだろう、結構大人っぽく、もしかしたら成人している可能性も捨てきれない顔立ち。透明感の強い金色の髪を長く伸ばし、後ろで大雑把にまとめている。そんなそいつの黄土色のような瞳には光はなかったが、俺のことをしっかり見ていた。
格好は上下スウェットのような楽そうな格好で色は、周りに溶け込むかのような白色、だがこれでもかというほど白いはずの背景に対して、発光してるのではないかと勘違いしそうなほどの白い服のため、区別をつけることは可能だった。
「えーっと、とりま無事あんたは天に召されました。いやぁ不慮の事故ってやつ?まぁ元々決まってた運命なんだけどさ。あっ、とその前に自分が死んだってわかってるよね?」
「まぁ、そりゃあれだけ思いっきり轢かれればね、血とか出てないし痛みは実際にないけど感覚はしっかり残ってるからな。ところで、もしかしなくても神様ってやつ?」
この場所で意識が戻った段階で、想定はしていたが、このヘラヘラしていて威厳とかかけらも感じられないこいつは神様なんじゃないかという疑問を直接ぶつけて見る。
するとそいつは、死んだような目のまま、嬉しそうに拍手をして
「ご名答!流石フィクションの幅を広げただけあるなぁ、皆理解が早くて助かるよ。」
と言って見せると、立ち上がって右手をこちらに向けてドヤ顔になる
「俺は、第13派生世界担当管理神、神界序列第2位のゼディウスだ。どーだ恐れ入ったか!」
笑いながら宣言するその姿は調子乗った高校生男子のような感じで、アイタタタっていうのが正直な感想だ。
こういうのに構っていると損するのは自分だということを察し、俺は小さな挙手とともに話す
「質問なんだが、俺は一体どうなるんだ?まさかこのままずっとってわけじゃないだろ?それと分かるのなら美奈が本当に無事だったか教えて欲しい」
こちらには一切ふざけてる余裕なんてなかった。俺は死んでいても正直文句はない。心残りはそりゃ山ほどあるが、生き物は皆死んでしまう、それは避けようのないことだから、後悔はしていない。
だが美奈は別だ、生きて守れればベストだったが、俺が死んでしまったいま、美奈の無事を確認できる術はこの自称神様ぐらいだろう。
「少し冷静すぎないかなケンヤくん…まぁいいや、君はとりあえず生まれ変わるまでの49日間、俺の話し相手になってもらいたくて呼んだんだ。まぁ俺もかなり暇しててね、どうせ君も49日間はなんもできないし暇だから問題ないだろ?で、あとねその君が助けたミナという女性だけど、
君が助けたせいで生きてるよ?
まったく普通の人間が”運命の書”の決定事項を変更するなんてびっくりしたけどな。ごく稀にそういうことが起きるから、今回もそういった例外の一つなんだろうな」
そう言って、再び俺は目の前になかったはずのテーブルに驚いた。そしてそのテーブルを見ていると、瞬きもしていないのにテーブルには一冊の本が置かれており、ページが開かれていた。
そこには
「一全健也・神沢美奈 交通事故により同時刻に死亡」
と記載されていた。おそらく神様がその文だけ読めるようにしてくれていたのか、他の部分はピンボケしたように読むことはできなかった。だがこれがさっき言っていた”運命の書”というものなのだとしたら、本来あの場所で美奈も死んでいたのだ。それを俺が書き換えたらしい。
「なるほど…それで俺に興味を持ったってところか?」
「いいや、そんな程度の低いことで呼ぶわけねぇよ。それよりも俺が聞きたいのは一つだ」
ずっと光のなかった黄土色の瞳の奥深くに急に強い光が宿り金色の瞳となる
「死の間際そのミナって女のおっぱいに顔埋れていただろ?その感触を覚えているか?」
一瞬頭が真っ白になるほどキョトンとしてしまった。
自称神様のこいつの表情、力の入り具合、それが人間の仕草と同じような意味合いを持つのであれば、こいつは今間違いなくさっきまでよりもはるかに真剣に話しをしている。
それに応えるうように俺も意識を集中させて、死ぬ間際に感じていた、顔の上に乗っていたあれの感触を思い出していた。
ブラウスという少し硬めの素材であるのだが、当てられた触感は柔らかいの一言に尽きる。
大きさゆえに重量感はなかなかのものでブラウス越しのブラの感触も確かにあったがそれ以上に、そのさきの柔らかな二つの神秘が俺の感覚を刺激する。鼻には通るはずの血の匂いは一切せず、洗剤の匂いでもない女性特有の香りが鼻腔を刺激する。
「覚えています!!というかあれほどの感触!死んでも忘れることはない!」
「そうか!そうだろうなぁ、あの形状、大きさ、そしてくびれた腰…俺の世界の中でも5本の指に入る女の胸に抱かれた感触は死んでも忘れないよなぁ!!」
俺の魂の叫びに自称…いや神様は同等の叫びで返してくれた。
「おお!流石神様だ、話がわかるじゃねぇか!」
「神様なぞ大層な呼び方をするでない、気軽にゼウと呼ぶがよい”盟友”よ!」
「よし女体について語り合おうかゼウ!俺のことはケンとでも呼んでくれ!!」
そんなこんなで、俺の居た世界を管理している神”ゼディウス”と俺は固い握手を交わした。
まさか神様と盟友になれるとはな…エロってすごいな。
俺は改めて感心していた。
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13日目
「釣鐘・円錐・半球・お椀と色々な形状に対して名称があるが、俺が最も好きなのはDカップの半球型のおっぱいだ!!」
俺は高らかに宣言する。話し相手はゼウ一人だというのにその声はまるで大ホールで会議をしているよう。だがその声量に対して咎めるものは誰もおらず、対するゼウもヒートアップしている。
「だが好き嫌いをしてはいけない!男たるものすべてのおっぱいを愛さなければいけない。そう俺は思って時々意識の操作をネットとかでやってたんだが、皆個性が強すぎてな、ケンのような奴らばかりで少し悲しくなるな」
神様のくせに何やってんだ
とは思わない。ゼウも女体を愛しているのだ。人型の大元を作ったのは曲がりなりにもゼウなのだから。大雑把な管理をしながらも、こうして時々自分と対等に語り合えるものを見つけては死後、自分の空間に連れてきて語り合うらしい。
「…ところで気になって居たんだが、神であるゼウが人型ってことはもしかして…」
と俺が続ける言葉を理解したのか、ゼウはニヤリとした。おもむろに立ち上がり距離感のわからない壁に向かって歩き出す。そして手を伸ばしおそらく壁に触れると、ゲームとかで見たような魔法陣が俺たちを囲う6面すべてに紫電のような光を放って展開され、俺は無意識に光の刺激を避けるために目を強く瞑った。
そしてようやくその光が収まって目を開くと、目の前が少し霞んでは居たが、真っ白だった全面すべてが、書庫のように本で埋め尽くされた本棚のようになって居た。
ゼウがその中の一冊を取り出し、俺に渡す。
ハードカバーのような本の重さは結構あるようで、持った瞬間わかったがこれはアルバムだ。視線で開いてもいいか?と聞くとゼウは間髪入れずに頷いた。
一体なんのアルバムなのか、興味と好奇心のままに1ページ目を開いた。
「敬わず申しわありませんでしたゼディウス様!!!」
気づけば無意識にうちに土下座のような体勢で俺は最大級の感謝をゼウに示していた。
それもそのはず、俺に渡されたアルバムの中身は、男性が求める理想の女体像をそのままに写しどったような女性が写っていたのだ、しかもその写真は肉眼並み、いやそれ以上の画素数と鮮やかさで、まるで生きているかのような躍動感さえあった。
俺はこれだけ心を揺り動かされた写真を知らない。
カメラの性能という点だけでも素晴らしいのに、被写体を写す技術力、そして被写体本人の魅力。そのすべてが兼ね備わった写真がそこにはあった。
元来、女神といえば露出度が高く設定されている。文献やアニメ、ゲームのキャラなんかも例に漏れずこれでもかというくらい女性感を強調している。当然この写真に写っている女神であろうこの女性も相当な露出度だと言えるが、エロさを安売りしていない。チラリズムの究極系がそこにはあった。
なにより俺はここまで理想的な体の女性を見たことがなかった。
…だがそれでも完全ではなかったのだが
俺に無意識に土下座させるほどの破壊力を秘めていた。
「ふはは、流石俺が認めた男だ!この写真の素晴らしさに脊髄反射で気づくとはな」
「この女性はやはり…女神なのか!」
「その通りだケン!本来神とは、エネルギー体でしかなく、形はおろか実体もない存在だった。だが俺は自分の力の半分以上を使って、自分を含めてすべての神に肉体を与えたんだ。
まぁその時はみんな女にするつもりだったんだが、実は神にも性別的な情報はあったらしく不本意だが、男型の神も出来上がってしまった。
だがその失敗を帳消しにするほどの大成功がそこにはあった。姿形に関してはわざと指定しなかった、だがそれが功を奏した。まぁその時神力を使いすぎて序列2位に下がっちゃったんだけど、後悔はしていない!!」
あぁ、やはりこの世界に神はいたんだ。
俺の目からは感動のあまり涙が流れていた。
「そしてこのアルバムは、俺が数千年かけて秘密裏に撮って集めた女神たちだ。まさかこれを共有できる人間に会えるとはな…俺も俺の世界に感謝しよう」
ゼウが差し出した手を俺は握り、立ち上がる。
「「再び神秘について語り合おう」」
俺たちは無限とも思える神の産物を見ては感動と衝撃を覚え、
いずれ女神に会うということを心に決めた瞬間であった。