10話〜逆襲の魔物と覚悟を決めた男
更新遅れて本当に申し訳ありません!
魔法発動後、砂埃を払って立ち上がり多分どや顔をしていたゼグサは今尻餅をついていた。
「覚悟はいいか?」
俺の優しさを含めた声に反応し一瞬、反抗の素振りを見せたが、俺の顔を見るとすぐに顔を青ざめさせた。
「さっきまでの威勢はどうしたよ、それにウゴンとサコンももう終わりか?」
ゼグサの魔法があっけなく消えたことを見て、自分らの手に負える相手ではないと悟ったのか、その手に武器はなく戦意を失っていた。
「もういいみたいだな、で?ダークパンサーの子供はどうしたんだ?」
するとゼグサは
「わかったのであーる」
そういうと、懐からA4サイズくらいの羊皮紙を8つ折にしたものを取り出し、俺に渡してきた。
ゼグサに聞いてもいいのだが、面倒なので鑑定によって調べる
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名称:使い魔誓約書
契約者:ゼグサ
使い魔:ダークパンサー♂(1)
契約書に魔力を流すことで、使い魔をどんな距離でも転送することが可能となる契約書。
大きさや使い魔の持つ魔力量によって呼び出す際に消費する魔力量は比例する。
契約書を破棄する際は、契約者による契約の炎でこの紙を燃やすしかない。
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なるほどな、ゼグサが俺に渡してきたことやこの文面から察するに、俺が魔力を流しても使い魔は召喚されるってわけだ。
魔力の流し込み方はあんまりわかってないが、一度ポーションを作るときにやってるわけだし同じ感じでいいだろう。紙を持って目を閉じ力を目いっぱい注いでみる。
すると契約書が青白い光を放ち大きな魔法陣を地面に出現させる。
「ここが好機であーる!!」
俺はさておき他の皆が光に目を奪われているとき、ウゴンかサコンが落とした曲刀を拾い上げ俺に突っ込んでくる。さっきの俺の力を見て、突っ込んでくる勇気はすごいけど、無駄だってなんで気づかないかな…
!?
魔法陣の中心にはおそらくダークパンサーの子供が現れようとしている。そしてそれをゼグサはめがけていたのだ。気づいたのが遅かった。このままではあの曲刀によってダークパンサーの子供が死んでしまう。
そんな負の予想はあらぬ形で覆された。
召喚されたダークパンサーの大きさはゆうに10メートルを超えており、
その場にいた全員、当の本人さえも驚いていた。
『え?なにこれ』
俺の頭の中に直接声が聞こえた、だがそれは俺が例外だったわけではなく、周囲にいた人全員に聞こえており、揃いも揃ってあたりをキョロキョロとしていた。
その中で唯一というは、状況を判断できていなかったゼグサがその曲刀を持って出現したおそらくダークパンサーの子供に攻撃を仕掛けた。
だが大岩に突き立てるように、刃は容易く跳ね返され、甲高い金属音と共に折れて地面に突き刺さった。
「…!?なんだ…こいつは!!?」
ようやく事態に気がついたゼグサは、今自分が攻撃した相手を見て、今日何度目か分からない驚きの表情を見せた。
『お前…僕を攫ったやつだ』
ゼグサの存在に気がついたダークパンサーの子供は先ほどまで、驚愕と動揺を浮かべていた表情をスッと変え。その眼光はEランクの魔物という面影など一切なく、格上であったはずのゼグサを射すくめるほどであった。
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種族:ダークパンサー♂(1)
名前:未
魔力量:300000
スキル:威嚇(A) 自然回復(B)
状態:ゼグサの使い魔
ランク:B
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なんとなく鑑定をしてみると、魔力量が俺の3割くらいになっている。
だがゼグサの使い魔という状態に変わりはなかった。
前に親の方を鑑定した時はここまで表示されなかったが…
弱体化の影響もあるんだろうか。
「つ、使い魔なのだから慌てる必要はないのであーる」
今にも泣き出しそうな声で去勢を張るゼグサの淡い期待を打ち破るように、軽く振り抜いた巨大なふわふわそうに見える前足がゼグサの体を吹き飛ばし、高価そうな甲冑を破壊した。
「どういうことであーる?使い魔は主人に攻撃など」
甲冑が壊れると中から現れたのはハゲ散らかした所謂バーコード頭だった。顔立ちも予想通りと言える悪人ぶり。表情に浮かべるのは恐怖と絶望、リアルタイムでハゲた可能性があるほどだ。
「今の攻撃じゃないだろ?ただ触ろうとしただけだ。それをお前が攻撃と感じたのであればお前がそれだけ弱いってことだろ?」
実際ゼグサに鑑定をすると魔力量は8000で、今のダークパンサーの子供の40分の1くらいしかないわけで。それが全てではないにしても、この力の差をひっくり返せる方法はまず無いだろう。
『もっと遊んであげるよ』
再び巨大な前足を振り上げ、あくまでも触ろうとする
「ちょ、ちょっと待つのであーる」
たまらずゼグサは叫び、自身にとっては攻撃以外の何物でもないそれを止める。
「使い魔の契約は解除する。もうこの村に危害を加えることはしない。だから許してくれ!」
乱雑なハゲ頭をこちらに向けて地に頭をつける、土下座スタイルで頭を下げてきた。
それを見ていたウゴンとサコンは足早に逃げ出し、その場に残るのはダークパンサーの親子とムロメ村の村人そしてその村を破滅させようとしていた国軍の支部長、ゼグサだった。
ゼグサの腕を縛り座らせ、使い魔の誓約書を解除させる。
誓約書が燃える消えただけで、本人にはなんら変化はなかったが、鑑定で見れば状態の記載はなくなっていた。
「っていうか、最初からこのサイズなのか?」
俺がそうたずねると、何言ってんのお前?みたいな顔でゼグサが俺をみる。
今更だが、開きっぱなしにしていた自分の状態を見ると魔力量が30万くらい減っていた
「あ、俺のせいか」
「お前は一体何者なのであーる」
その問いには何も答えず、ダークパンサーの親子へと視線を移すと、もうどっちが親かわからないサイズ感であったが、子供の方が親に甘えていた。
しかし、魔力を魔物に与えることで、魔物を強化させることができるんだな。
…だが拡大解釈すれば人間も魔力を持つ魔物といえるよな…ってことは人間に魔力を渡したら人間も大きくなるんだろうか?実験をしてみたいが、女性の体の大きさを大きくしても面白くないしなぁ、一部だけ大きくできるのなら有用性はあるのだが。
などと高尚なことを考えていると、
ざわめきが起こり、再びダークパンサーの方へと視線を移すと、そこには本来の大きさに戻ったダークパンサーの子供が寝そべった母親の腹に寄り添う形で眠っていた。
あのままサイズがキープされたらどうしようかと思っていたが、杞憂であったようだ。
こいつらはそのまま放置しても大丈夫だろう。大きさが戻ったにせよ、子供の方にはまだ俺の魔力が少し残っておりランクもDとなっていた。
「こいつどうしましょうか?」
「うぅむ…村につれていこうかの」
俺の問いかけに迷いながらも村長は少しだけヒゲだかまゆだかわからない毛を動かして、おそらく困ったような表情をしてそう答えた。
もうすでに反抗心を失っているゼグサに適当に縄をかけて村まで連れて言った。
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ムロメ村に戻る頃には日がかなり傾いてきており、スマホの携帯も16時と表示していた。
「それで、あんたは一体何でこの村を潰そうとしたんだ?」
村長の家にみんな集まり、壁際にゼグサを座らせ一挙一動を見落とさぬ勢いで全員が見つめている中、俺が先陣切って発言する。対するゼグサは力なくうなだれてハゲ頭をこちらに向けている。
「私はこのような場所を管轄するには余りある人間なのであーる。だが上層部に申告しても聞き入ってもらえなかったのであーる。だから」
「管轄下の村がなくなれば自動的に移動になるって思ったのか?」
ゼグサは頷いた
俺は少しため息をついて、言葉を続けた
「お前バカか?この村を発展させて栄させたならまだしも潰してしまったらお前に責任が行くのは明白だろ?降格はあっても昇格はねぇよ」
「はっ!!」
「はっ!じゃねぇよ!!普通考えれば分かるだろうがよ」
ゼグサはうなだれた頭をさらに倒し、床に顔面を押し付ける形で倒れこんだ。
泣いてるんだか、笑ってるんだかわからない声で叫び出し、俺たちはその様子を冷めた目で見ることしかできなかった。
あまりにも長く叫び続けるので、村人たちは次第に怒りをという感情を失いその代わりとして呆れた顔やため息をつきながら各々の家へと帰っていった。
村長はとりあえず残ってゼグサを監視するようで、俺は放置しても安全と判断し外へと出た。
村のいたるところから夜ご飯の準備をする、木を燃やす匂いやなんかが充満する。
沈みかけている太陽がいい具合に影を落とす。
思わずスマホのカメラを起動して一度シャッターを切る。
女体好きの俺を魅了するとは、本当に綺麗な景色だ…
「なんだそれは!」
突然うしろから声をかけられ、思わずドキりとする。
振り返ればそこには小さな少年、タルがいた。なぜか目を充血させていたが…
「見たことない道具から妙な音がしたが…まさかエイミアに呪いでもかけたのか!?」
…
「少年よ、少しきてもらおうか」
俺は警戒するタルを連れて村の影の方へと連れていった。
「なんだよ、まさかお前もあの軍人みたいにこの村を襲うつもりなのか?」
勘違いをしているタルの目の前に先ほど撮影した一枚の絶景を見せつける
「これは、村か?なんだこれは…景色を切り取ったのか!?いやだけど村にはなんの変化もなかったぞ」
「難しく考えることはない、これは記録をする道具だ、その時その瞬間をこうして絵のように保存することができるこの世界唯一の道具だ。まぁそういうものだって思ってくれていい。誰かに危害を加えるような代物じゃない。」
「そ、そうか。疑って悪かった…と、ところでそこに写っているのはエイミアだよな?」
俺は少し照れながら言うタルの表情を見て全てを察した。
「お前エイミーに惚れてるのか?」
「うぐっ!……あぁそうだよ!だから悔しかったんだお前がエイミアを救ったって聞いて、さっきも簡単に村への脅威を払って!すげぇって思うと同時にめちゃくちゃ悔しかった」
否定すると思いきや思いの外大きな声で心の内を吐露した、
へぇ、こんな男もいるんだって俺は思ってしまった。
「強くなりたいのか?」
「あぁ!」
タルは小さな体で大きく頷いた。
ここまで一直線に女性を思う気持ちを尊重しなければ、同じ男としてダメだろ
「俺の力は通常では得られない方法で手にしたものだが、軍に入れば相応の力をつけられるだろ」
「だけど、軍入りなんて相応の実力者の紹介とかじゃなきゃ、あんたならともかく…」
「今なら偶然にも支部長クラスの軍人がいるじゃないか、そいつを説得して話を取り付ければいいんだよ」
タルは少し迷ったような表情を見せ黙ってしまった
「どうした?エイミアのために強くなりたくないのか?」
タルの耳元で囁くように発破をかける
するとすぐに目を見開き、声を大にして
「俺は強くなりたい!エイミアを守れる強い男になるために!!」
叫び声と重なるように木製のボウルが落ちる音が叫び終えたタルの耳には、衝撃的なまでに大きな音のように響いた。
「お前気づいてただろ!?」
「いやいや、俺の真後ろだし気づくわけねぇだろ?」
必死の形相で食いかかるタルに対して俺は飄々と答える
「い、今のどういう意味でしょうか…」
「あ…今のはだな…その」
先程までの勢いを失ったタルはの思考は、どうやら誤魔化そうと必死に答えを求めている。
「ここで言わなきゃ何も変わらないだろ?強くなりたいならまず心から!覚悟を決めろ!」
俺がそう言うと、キッと睨みつけてきたがその瞳には覚悟の光が宿っていた。
「エイミア、俺はこの村を…なんて勇者みたいなことは言わない。お前を守れるだけの力をつけたい!だから俺はアズシン国の軍に入る。だから待っててくれ」
そう言い切ると流石に許容量をオーバーさせたようで、頭からぷすぷすと煙を上げそうな勢いで顔を真っ赤にさせ、今言った言葉を頭の中で反芻したのか足早に逃げ出し。
その場には俺とエイミーが取り残される形となった。
「そこまでの勇気はなかったか」
タルが走り去った方向を見て俺は少し笑った
「…一体なんの話をしてらしたんですか?私を守るとかなんとかって」
「それはだな…覚悟を決めた男の言葉ってやつだよ。」
状況は理解していたのか、エイミーは少し顔を赤くしながら俺に声をかけてきたので、必要最小限のことだけ伝えて、そっと持ったままのスマホでエイミーの写真を撮った。
なんとかして画像を印刷できるようになったらタルにくれてやるか。
日が沈みきった直後で空が青と赤のグラデーションを作る中、その空よりも赤くほおを染めるエイミーはとても可愛らしかった。
これが恋ってやつかな
なぜかふと頭には美奈の顔が横切った。
500PV達成しました!!
もっと更新ペース上げられるよう頑張ります!