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02 ひねくれ者、異世界転生にビビる

 ムカムカした気持ちのまま、今日も就寝前の読書タイム。ちなみに俺の大きめの眼鏡はブルーライトのカット効果もあるらしく、長い時間携帯を見ていてもあまり目に疲れを感じることはない。


 そして眠気の波が一気に来たのを感じて、俺はブックマークを挟んでスマホを置いた。

 眼鏡をとって目を閉じれば、瞼の裏に浮かぶのは先週の土曜日の夜の記憶。



「え?健くんリストラされたの?」


「うん…ごめん、早く次の仕事見つけるから…」


 俺は元々大手企業に務めるそこそこ優秀なサラリーマンだった。ほかの人よりは結構稼いでいたし、そこそこ優秀だったと自負している。が、会社が経営不振に陥って社員の大幅なリストラが行われ、俺は突然職を失うことになった。


 その頃付き合っていた彼女は、俺が無職になったと知ると翌日には「別れてほしい」と言い出してきた。

『あぁ、所詮女なんでみんな金目当てか』そう思うと自分の中でなにか心にポッカリと穴が空いたような気持ちになった。



 それは小説の中でもきっと同じ。女は、人は、力や権力、金があるところに群がるだけだ。

 主人公への愛情とか、そんなものこれっぽっちもない。


「あ~あ、つまんねーの」



 何もかもが面白くなくなった。目に入ってくるものが全てつまらないもののように感じてしまう。


 周りの人の見る目が、今までとは全く変わっていて、『みんな一緒なんだな』と感じる。


 あ~あ、人の世なんてこんなもんか。所詮恋だの愛だの言ってられるのはほんの一瞬。そんなものはただの幻想に過ぎない。あっという間に風に吹かれて飛んでいってしまう。それくらいに呆気のないものだ。


 なんだこの世界。


 なんだこの世の中。


 クソつまんねぇじゃねえかよ。




「…チッ、クソッたれ」





 --------------------



 パチっ



「カイ様、お目覚めですか。」


 ん…


 目を覚ますと真っ白い知らない天井。覗き込んでくるのは見たこともない青髪のメイド服の少女。


 近い、なんか近い。


「ヒィっ…」


 思わず布団から飛び出して後ずさりする。そんな俺の行動に青髪の少女は頭の上にはてなマークを浮かべて首をかしげている。


 不法侵入者ですか?メイド?そもそも今どきメイド服?え、何コスプレ?


 つかそもそもこの子誰?


「カイ様、どうかなされましたか?」


『カイ様』そう呼ばれた途端、突然ズキズキと頭が痛みだし俺の中に一気に何かが流れ込んできた。



 な…っ…なんだなんだなんだ…!なんだこの記憶…


 一気に何かを思い出す様な感覚に、思わずふらりとベットに再び倒れ込んでしまう。


「か、カイ様!?大丈夫ですか…っ!?」


 慌ててメイドが駆け寄ってくるが、俺に近づくのはやめて欲しい…とりあえず、俺はゴロンと転がりメイドから逃げるように距離をとった。


 そんな俺の態度にメイドはオロオロして、どう対応していいのかわからないような様子だった。


(なんだよこれ…)


 さっき頭の中に流れ込んできたのは、『カイ』という少年の記憶だった。


 生まれてからの、5年間の記憶。カイという少年が送ってきた一生の記憶。


『ハッハッハ~どうどう?俺のことわかってくれた?』


 突然頭に響いた声に、俺は慌ててあたりをキョロキョロと見渡す。

 しかし部屋の中には俺とメイドの二人しか居ない。


『ニャハハ!俺は見えねぇよ!』


 み、見え…ない…?





 …ゆ、幽霊…?






「ぎゃああああああああああああ!!」



『ええぇ…?』


「カイ様…っ!?」




 ドダァっと大きな音を立てて俺はベッドから転げ落ちた。


 えっえっ誰?幽霊なの?幽霊なのね!!幽霊退散っ!いやぁぁぁぁぁぁ!!


『えぇ…ちょっと、お兄さん大丈夫?』


 再び聞こえた声に思わずギョッとしてまた叫びそうになるけれど、俺の叫びはその声に遮られた。


『俺はカイだよ。カイ・アルフレッド。頭のいいお兄さんならわかるでしょ?』


 カイ…アルフレッド…?


 それはさっき頭から流れ込んできた記憶の少年の名前だった。


『そーだよ、この体だって元はと言えば俺のもんなんだから。』


 んんんん?なんだこの状況、全く理解ができない。

 元は俺の体…?どういうことだ…そもそもここどこ…


『あのさぁーじゃあとりあえず説明して上げるから、メイドのリウ、下がらせてくんない?』


 オロオロとしている青髪メイドの名前はリウと言うらしい。確かに記憶をたどるとそんな感じの名前だと思い出すことが出来る。


「リウ、俺は大丈夫だから一旦下がってもらってもいいか?」


「は、はい、かしこまりました。」


 そう言ってペコっとリウは頭を下げて部屋から出ていった。


「ふーぅ…」


『ニャハハ!なに?お兄さん女の子苦手なの?チョーウケる!』


「あぁ゛っ!?」


『怒んなってー!そもそも、わざわざ声に出さなくても心の中で言ってくれれば俺には伝わるっつーの!』


 な、なんだと…


『じゃないとお兄さんひとりで喋ってる頭おかしい人じゃん!アッハッハ』


 なんだこいつ、無性にぶん殴りてぇ。


『俺のこと殴りたい?殴りたい?いやいや無理だからやめとけって、だってそしたらお兄さん自分で自分のこと殴るんだよ?

 絶対無理だろ!ニャッハッハ!』


 この頭の中に流れてくる声をシャットアウトしたい…どうしたら出来るんだ…


『そんなの無理だからやめとけ~俺らは同んなじ身体に宿ってる精神なんだからな!』


 精神…?


『あーまぁ実際俺は身体の方の支配権ねぇけどな!魔力専門だし?』


 ま、魔力…?馴染みのない言葉に俺は必死に頭の中に流れ込んできた記憶を探る。


「…なっ」


 その中にあった答えは衝撃の真実だった。


「ここは…俺の知ってる世界じゃない…?」


 そう、ここは魔法溢れるファンタジーな異世界だったのだった。


 勇者や魔王といった存在が実際に存在している世界。



「な、なんで…」


 異世界転生とかそういう話は腐るほど読んできたが、まさか実際にこんなことになるとは思わなかった。


 そもそも俺は読むのは好きだったけれど、実際に異世界転生なんてしたいと思ったことは一度もなかった。


『なんでもなにも、お兄さんは死んでたし、構わないでしょ?』


 …え?し、死んでた…?


『うん、俺ちゃんとルーちゃんに頼んで死んだ異世界の人の魂入れてもらったんだけど』


 ちょ、ちょっと待てよ。俺は死んだ記憶なんてない…最後の記憶は、夜寝る前の読書の記憶だ。


『えー?なにそれ』


 そしてその声のあとに、ピピピという謎の機械音が続けて聞こえた。


『もしもーし、ルーちゃん?』

『あ゛?んだよカイかよ…こっちも暇じゃねぇんだ。なんか要件あんならさっさと言え。』

『うんうん。あのさ、今さっき俺のとこに合わせてくれた魂ってもういっぺん死んじゃった人だよね?』


 いやいや、もういっぺん死んじゃった人ってどんな表現だよ…


『あぁ。つか、つい昨日あの世界魔力爆発で消滅したし』


 せ、世界が消滅した…?

 あまりにスケールがデカすぎる話に俺は全くついていくことが出来ない。


『あーなるほどねー。ルーちゃんありがとっ♡』

『キメェんだよクソガキが』


 そう言って何かがブチッと切れる音がした。


 ちょっ…ちょっと説明プリーズ…


『ニャッハッハ!そっか!お兄さん魔力も知らないんだっけ!』


 魔力なんてファンタジーで御伽噺の世界でしかありえないと思ってた。


『魔力っていうのは、簡単に言うとこの世界に溢れているエネルギーのことだよ。魔力を使ってイメージを具現化させることで魔法を行使することが出来るんだ。』


 ま、魔法…

 頭の中の記憶を漁ると、実際に魔法を使って様々なものを生み出したり変化させている記憶もあった。


『まっ普通の人は詠唱なしでは行使ができないんだけど?まぁ?俺って天才だし?無詠唱で魔法が使えちゃうんだなぁ~これが!!ふふふっ』


 あ~やべぇこいつ超うぜぇ。精神年齢5歳児のはずなのに超~うぜぇ。


『ごめんって~。まぁ本題はここからね。人の体内を流れる魔力って、普通は体に害を与えたり、体に影響があったりはしないんだよね。でも俺の体内にある魔力の量って普通の人と比べると半端ないんだよ。天才だから』


 真面目な話のあいだで自慢が入ってくるのうぜぇな。ほんとうぜぇなこいつ。


『まぁまぁ。でもあまりに魔力の量が多すぎると身体が耐えきれなくなっちゃうんだよね。

 あ、そうそう、お兄さんの前の世界で起きた魔力爆発って、魔力を使わないからどんどん世界に魔力が充満して、それが突然爆発するって現象ね。魔力に気が付かないと起きるんだよね~魔力爆発。』


 魔力爆発か…全く死んだ時の記憶がないけれど、どんな風に俺は死んだんだろうか。


『まぁそれと同じことが俺の身体で起きようとしてたわけよ。でも俺は天才だからさ、チョーいい案を思いついちゃったわけよ!』


 それが、俺の魂を自分の体に入れるってことか。


『ん~まぁそれだと60点かなっ☆』


 ………


『ちょっとー!スルーしないでよね!まぁ詳しく説明すると、俺の身体の中で担当配分したわけよ。お兄さんは普通の人間としての体担当。俺は魔力操作担当ってね。』


 なるほど…ってわざわざ魂一つ分もいるってどんだけこいつの体の中の魔力あるんだよ。


『いやぁ…それほどでも?』


 褒めてねぇよ。


『むぅ~お兄さんちょっとは5歳児に優しくしてくれてもいいんじゃない?』


 んだそれ。お前と話してても全く5歳児と話してる気分にはなんねぇんだよ。


『ひどいなぁ…でもこれから一生付き合ってもらうんだから仲良くしてよねっお兄さん!』


 こいつと一生同じなのか…やだな…

 つかお兄さんって言うのやめろよ。


『えー?だって名前知らないし』


 俺の名前は芦屋健。


『へぇ~ケンちゃんか~』


 ちゃん呼びはやめろ!鳥肌が立つから…


『ケンちゃん♡

 あ、でもこれからはケンちゃんもカイ・アルフレッドだから。呼ばれた時はちゃんと返事してね。』


 やだぁ…こいつと同じ名前で呼ばれるなんてやだぁ…


『もうすぐ学校も始まるし、ちゃんと新しい名前になれてもらわないと困るんだけどー』


 新しい名前…か。


 こうして俺芦屋健改め、カイ・アルフレッドの新しい人生が始まった。

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