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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
迅雷の魔王
87/436

43 散華

 力で国を奪い、支配下に置いた悪魔は困惑をしていた。

 その身に迫るのは何の変哲もない自国の騎士が所有していた剣。

 武装していない一般人の命を奪うのならばそれで充分であっただろう。

 全身に鎧――それが人智を越えた特別なモノであるのだから、剣など受けた所で傷すら付かないはずだ。なのに、彼はただの少年だと見縊(みくび)った相手から放たれる斬撃の回避に専念していた。


 ――何だ? ただの剣だ。俺が恐れるはずがねえ。それなのに……!


自ら、強大な魔王に向けて敵であると大言壮語を吐いた少年であったが、放つ太刀筋の鋭さが先程まで相対した時と段違いに仕上がっていた。襲い来る刃を(かわ)し、いなしながら迅雷の魔王は思い(ふけ)る。刃が肉薄する度にゾクリとした不愉快な汗が冷たさを持って肌に貼り付く感覚がした。


 ――早い! さっきまでわざとか? いや、……何だ? 何なんだコイツは!?


「――シッ!!」


降り(しき)る豪雨――濁流(だくりゅう)(ごと)き連撃を繰り出され、迅雷がそれを耐え忍んで反撃に出るも(やなぎ)の如く身を(かわ)される。さらに剣閃に緩急を付けられ、ついに一分の隙すら見当たらなくなる。いや、常人を越えた速度を出せる迅雷ならば付け入る隙はあるのだが、加えて、


『チィッ!!』


赤い閃光が巨剣を振り回し飛んでくる――紅蓮の魔王だ。雷瞬の僅かな溜め(、、)の予兆を見抜き、どちらかの剣が迫るのだ。颯汰自体の動きは最低限であるが、紅蓮の魔王は縦横無尽に動き回って攪乱(かくらん)し、確実に弱点と成りうる装甲の薄い箇所――鎧の関節の辺りを正確に狙って星剣が振るうのだ。一撃一撃が爆撃のようで、受け止めた部分が痺れを感じるほどに重くなる。

 魔王に向けて敵と称した――立花颯汰の振るう剣を爪では受け止めるが、他の装甲部分で受け止めるのを極力避ける立ち回りをすると、そこへ紅蓮の魔王が容赦なくそこを狙う。まるで予め話し合って決めた……というよりも、互いの動きを未来視しているかのような神憑り的な連携によって迅雷の魔王を追い詰めていく。

 追い詰められていると迅雷はついに自覚し始めた。

 激しい剣戟(けんげき)の嵐の中、頭に浮かんだそれを否定するように迅雷が叫ぶ。放出される雷撃を颯汰が即座に下がり、紅蓮が割って入って星剣で防ぐ。

 それが止んだ瞬間に二人はまた攻撃へ転ずるのだ。


 受ける方もそうだが、繰り出す方も思考し続けていた。消えた邪念の代わりに、視界に映った状況を分析し、


 ――もっと、もっとだ! 師匠の剣は、もっと鋭く、もっと強く、もっと早かった!


彼に剣術を授けた幽世たる仙界に住む人ならざる者――名を伏せた『湖の貴婦人』の剣技を思い浮かべながら握った剣を振るう。

 畏怖(いふ)として一番脳裏に焼き付いているその剣舞の如き美しく、緩急自在の水のような剣術を、全神経が働かせ身体が模倣(トレース)し、再現を試みる。


 ――脇を締めて、腕だけで振るおうとしない! 腰で、いや全身を活かすんだ! 剣に振り回されるな……! 芯をしっかり持って、そこだ――ッ!!


たった五年。されど深い憎しみが彼をここまで強くした。森の中で、雨の日も風の日も、木の葉が散る日も、雪が身を震わす日も、いつだって休む事なく、少しでもチャンスを掴むために剣を振るってきた。必死に相対する彼女を観察して身体が、それを覚えていたのだ。


『さらに早くだとッ!?』


加速した刃が顔目掛けて振るわれる。

 それを咄嗟に出した爪で防御した時に迅雷はおかしさ(、、、、)に気づいた。

 ただの剣であるのに、己の鎧の一部たる爪と打ち合って火花を散らすも、刃こぼれすらしない異様さに迅雷は違和感を覚え注視するが、なおも放たれる斬撃と刺突、襲い来る暴風の如き重剣と火炎の乱撃が、迅雷の身を削る。

 永いようで短い猛攻の末、それを理解した――。

 立花颯汰の握る剣の白銀の刃が先程までの黒いオーラではなく、包むように集まる銀の光の粒子の存在に迅雷は気づいたのだ。


『クソ共がッ!!』


 それと同時に、何としてもあの一撃を喰らう事が許されないと脳が警報を鳴らし、毒づいた。正体不明であるが、星剣以上に受けてはならぬと本能が叫ぶ。



「………………すごい」


エリゴスが、這いつくばりながら勇者の元へ近づき、敵わなかった暴虐の化身を圧倒するその二つの背に向けて呟いた。

 無影迅(ファントム・シフト)による無理な加速で颯汰の足に過度な負担を掛けたために生じた激痛を鎮めた魔力――それは紅蓮が颯汰の頭に触れた際に魔力を流し込んだのだろう。

 だが、元は魔法に通ずる種族である魔人族(メイジス)であるからこそ知っている。

 魔力の譲渡など出来るはずがない――否、やれば受け取る側にそれこそ拒絶反応が起きて即座に死ぬ。

 そうやって同族に制裁を下した暗黒の過去が魔人族には存在していた。それなのに、彼は生きている。生きるために剣を振るう。一太刀一太刀振るうたびに洗練され、完成に近づいていく。窮地(きゅうち)が彼を進化させたとはいっても、その急激な変化はもはや異常の領域であった。


 ――ソウタは、本当に何者なんだ……!?


エリゴスはその背中を見つめるしかできない。ただ懸命に勇者を守るべく急いだ。


 荒れ狂う連撃は続く。

 得体の知れない剣に困惑しながらも背後から襲い掛かる赤い斬撃を腕を背にして防ぐ。それを弾いて体勢を整えようとした時、ついに颯汰が無理に身体を突き動かす――無影迅だ。


「――()った!」


 生じた隙を見逃すまいと、最速の挙動で最速の剣閃が迅雷の喉元へ突き刺さる。

 ついにその刃が敵を捉えたのだ。


『グオっ!?』


 黒い装甲に穴が開き、ワインよりも色濃い紅が噴き出し剣を伝う。だが、


『ググ……てめぇ、らぁ……! いい加減にぃ! 調子こくんじゃあ、ねぇぞ――!!』


最大の電撃、剣を伝う鮮血のあとに赤黒い轟雷が走った。

 寸でのところで紅蓮の魔王が颯汰を掴んで離脱する。

 超高速で掴まれ、その衝撃で手から零れた剣は一瞬で焦げて炭化したのを目の当たりにして、颯汰は声を失って戦慄した。

 放電が終わった魔神は荒い息と若干の血を零しながら、手を空に(かざ)した。


『もう、我慢ならねぇ……! 生かすのは止めだ……! 

 …………全員だ! 全員まとめてぇ、俺が、喰ってやるッ!!』


そう宣言した瞬間、周りにいたドロイドたちは溶けて人型を失い始めたのだ。

 揺れ動く粘着質のある黒泥は互いに溶け合い一つとなり始める――。


「何だ……!?」


それは魔獣も死兵も同様だ。黒い人波が弾性と光沢を持ったゲル状の半液体となる。それが地面へと溶け込んだと思った矢先、颯汰と紅蓮の真下から何本の触手となって襲い掛かったのだ。まるで影が実体に向けて反逆したかのように見えたが、素早く溶け込んで伸びては獲物を捕まえようと躍起となったのだ。紅蓮の魔王が颯汰を守るために突き飛ばしたが、触手は紅蓮の魔王を絡めとった。漆黒の魔手が幾本も伸び、紅蓮の両手足の自由を奪うことに成功した。手から離れた大剣がカランと大きな音を鳴らす。

 突き飛ばされた少年よりも平静な紅の王は、大して驚かずに冷静に手足を動かし力だけでは脱出が困難だと判断すると、己の身を魔力の炎で包みそれを消し去ろうと試みた。

 激しい音を立て、あっという間に火柱が全身を包む。だが、火柱が消えても泥は纏わりついたままだ。

 再度火柱を上げたが、それは消える事がなかった。そこで紅蓮は泥に起きた異変を理解して眉を寄せて嫌な顔で言う。


「……闇の勇者の力か」


『ハハハハハ!! ご明察! 闇の勇者の『吸収』の力だ! 今まではキャパオーバーで吸収しきれず自壊しただろうが、こうなればもうお前の魔法も効かない! 栄養をたくさん吸って溶け合い、進化したからなぁ……! 今頃、王都中に溢れている泥が集まって栄養を吸いながら一つになるだろうぜ』


養分とは、泥に飲まれた兵士――この国の民たちを指していた。さらりと自国民を襲っていると言い、彼らの血肉や骨に至る全てが魔力に変換され勇者の血が目覚めたと嗤った。

 湧き上がる怒りに颯汰は握る拳が強くなる。だがその時、自身の足にじわりと痛みが戻り、それが次第に激痛に代わり立っていられなくなった。声を殺して顔を上げるが、その表情に余裕はない。――こんなときに時間切れか、と颯汰は(うめ)く。

 予想よりかなり早く痛みが戻った事に一瞬驚いた顔を見せた紅蓮であったが、平静に、自身に注意を惹かせるために、あえて挑発的な物言いをした。


「ではやはり、それは《王権(レガリア)》ではなく勇者の血を取り入れ造った模造品――いや、組み込んだ贋作(がんさく)と言った方が相応しいか」


初撃に迅雷の胴を斬りつけた際に感じた違和感で、ある程度は予想は付いていた。


『本来ならばアストラル・クォーツが破壊された今、しばらく《王権(レガリア)》は使えねえからな。そうさ、贋物(ニセモノ)だ。本物に及ばないが、それも工夫次第だ!!』


邪悪な笑みを浮かべる王に、幾本の黒い線が泥の塊から伸び、背面中に突き刺さる。泥が吸った栄養分――魔力に変換したそれを迅雷へ供給する仕組みだ。

 そのケーブルにエネルギーが伝うのが本体の反応から見て取れた。


『あ、あぁ……! 染み渡るぅ……! キタぜぇっ……!』


恍惚とした悶えるような動きと声。直後、叫びと共に迅雷の魔王の全身から放たれた電撃はより一層強く、輝いていた。零れた血は焼き消え、傷口は塞がる。鎧に付いた傷も徐々に修復され、疲労感すらなくなったようだ。

 チャージ完了の合図か放電が治まり、ぶちぶちと勝手に泥のケーブルは千切れて溶けていった。


『フゥー、ハァー……! この力までも最後まで“引き出す”つもりはなかったんが。ま、これも成り行きか……。アストラル・クォーツでドロイドを操るには俺自身に“欠片”と“黒泥”を埋め込む必要があったが、こついはスゲー危険な賭けだった。何せ得たこの力を、今みたいに全開に引き出せば六割で死に、それ以前にアストラル・クォーツを破壊されればその時点で九割方で死ぬって話だから、破壊された時はさすがに超焦ったもんだぜ? 魔王――いや、王権(レガリア)が使える状態であれば不老不死であるが、それでも勇者の血が暴走すればさすがに自壊は避けられないようだからな』


余裕が生まれた王は薄笑いを兜の奥で浮かばせて続けて言う。


『まぁそれすら俺は乗り越えた! お蔭で、めでたくお前と同じバケモンの仲間入りだ……いや、俺の方が優に超えている存在だろうがな!』


“欠片”というワードに引っ掛かりを覚えた紅蓮であるが、要するにそれが魔王の肉体に勇者の血を流し込む事を可能としているのだと悟る。

 星輝晶(アストラル・クォーツ)を、勇者の血を加工した汚泥を操る制御装置にするにはその主である魔王が勇者の血を受け入れなければならなかったのだ。だがその影響で戦闘中に一時的であるが、紅蓮の魔王と拮抗するほどの力を得ていた。


 得意げに語る迅雷に火球を手首の力だけで投げつけたが、迅雷は今度はそれを回避せずに手を前に出して受け止めた。すると火球の魔法が掻き消えるのではなく縮んで吸収されて消えていくのが見えた。


『無駄だ! 『吸収』の力までもが俺に流れ込んだ。つまりは勇者の力そのものが俺のモノとなったに等しい! その馬鹿でかい剣であってもう斬れやしねえ。フハハハ!! 星剣では勇者同士の同族殺しが出来ない仕様が仇となったなぁ! 光の勇者の力『光速』ですら俺を殺し得なかった今、もう誰も敵ではない! 最強だ! 俺こそが、――最強の魔王だッ!!』


 紅蓮の魔王とは別のアプローチで魔王と勇者の力を得ていたのだ。

 そしてその影響が言動や思考にまで影響が及んでいたのにまだ迅雷自身は気づいていない。


「……そうか、動けなくなった相手に(いき)がるのが最強か。聞いて呆れ――」


失笑した紅蓮の魔王に雷撃が直撃した。挑発に応えるように落ちる激しい血のような赤黒い雷。たっぷり十数える間も紅蓮の魔王に浴びせたのだ。

 激しい轟雷に紅蓮の魔王は黒く焦げるが彼を拘束する魔手はその雷すら吸い取っているのか壊れる様子はない。

 雷撃の直撃にさすがに項垂れた紅蓮に向けて今にも爆発しそうな迅雷は怒りと衝動を懸命に抑えて言い捨てる。


『て、め、ぇ、の、相、手、は、最、後、だ、畜、生』


安い挑発だとわかりきっているが、注がれた魔力で昂り、今にも怒りで我を忘れそうになった迅雷はそれを別の方向へ向けた。


『まずは、――痛めつけてくれた御礼だッ!!』


足の激痛が戻り、床からやっとの思いで立ち上がった颯汰に迅雷は一瞬で近づいた。

 颯汰は息を呑む。何か武器はないかと辺りを探そうと視線を移した瞬間に頭を掴まれ地面に物凄い力で叩きつけるように押し付けられた。

 かなり加減をしているのか頭は潰れていないが、石材に叩きつけられ大きな痣に、頭からは血がさらに流れた。


『勇ましいガキ。どうする? 頼みの綱のご主人様はあのザマだぞ。――抵抗して見せろオルァっ!!』


髪を掴んで持ち上げ、もう一度叩きつける。また持ち上げてはケラケラと嗤う迅雷はそのまま、


『なんだなんだ? もうおしまいかぁ、よっ!!』


軽い蹴りが腹部に入いれる。加減しているとはいえ魔王の攻撃――人体が壊れる危険性のある一撃だ。胃の中にあるものすべてが逆流しそうな吐き気と痛みが襲い来る。迅雷は相手が耐えうる限界の一歩手前まで、絶妙な加減で痛めつけ、意識を失わせずに(なぶ)る。今までの報復以上に、ただ相手を痛めつけたいという心で颯汰を襲う。

 髪を離し、倒れ悶える颯汰を見て嗤っていた迅雷であったが、突如嗤い声が途絶えた刹那、颯汰を壁際に放りなげた。


 何度も転がり壁の前で止まる。だが、その瞳は怨敵を睨むだけの力があった。


『その目は何だ……? まだ希望に(すが)っているのか? ……クソ生意気なガキが!』


黒の瞳の奥にある蒼だけはまだ生きていた。当人は霞みゆく視界に何を見ているかすらわからなくなりつつある中、その睨む目に迅雷は兜と面頬の奥で一抹の不安を抱いたのだ。

 怒りを込め合わせた右手と左手を開くと赤雷が(ほとばし)る。それをゆっくり伸ばすように手を広げると、雷が魔槍となった。破壊力は槍の範疇(はんちゅう)を越えたものだ。


『お前は喰わん……! 道化はここで、――消えろッ!!』


酩酊(めいてい)したかの如く視界が霞み揺れ動き、いつ意識が途絶えてもおかしくない。

 雷撃を真っ直ぐ、迅雷の魔王が投擲する。

 全身を使って投げたそれは力強く真っ直ぐと、空気すら押し潰して突き進む。

 颯汰のぼやける視界の真ん中に、全てを消滅へと導き、直視した目を焼き焦がすような光が迫るのが見えた。


 ――あぁ、こんな、ところで……


この世界に来た頃の様々な記憶が廻る。

 荒地での出会い。

 非現実的な景色。

 木々を掻き分けた日々。

 火をくべて星空を仰ぐ夜。

 種族間の避けられぬ差別意識を感じた時。

 海賊の襲撃で血塗られた港。

 王都の大樹と光。友との交流。

 最後の旅と温かな篝火。

 幼龍の温もり。

 村で過ごす掛け替えのない日々。


 走馬燈だ――。

 廻る情景が、時間を延ばす。


 狩りで初めて大物を獲った喜び。

 野盗を撃退した記憶。

 怨讐に駆られながら剣術を教える師との思い出。

 森の濁流と傭兵たち。

 紅の契約。

 焼ける村。

 家族との別れ。


だがどの景色も、これを乗り越える術を教えてくれるものではなかった。


 ――もう、打つ手がない


眼前に迫る死が、思考を白く変えていく。


 ――帰らなきゃ、いけないのに


元の世界で、待たなければならない(、、、、、、、、、、)


 ――それなのに、それなのに……


諦観が生じていた。

 むしろ心のどこかで、家族の元に逝けるとさえ思ってしまっていた。

 生を、放棄しようとしたのだ。

 不幸を予見する黒い靄すら光に飲まれたのか一切見えずに、ただ動かぬ身体が死を受け入れかけていた。意識も視界も光に染まる。それは赤と黒であった。


 そこに、突如、紫の影が躍り出たのだ。理解が出来ず一瞬戸惑ったが、その影の意図を知って、心が叫ぶ。悲鳴を上げる。“それだけはしてはいけない”と。 

 耳障りな雷の轟音。その雷撃は颯汰まで届かない。見開いた目には、自身を庇う様に立ち、赤黒い雷槍によって貫かれた紫の少女の姿が映った。

 目覚めた勇者の力と、自身の血が利用され命を奪ったという事実に目を背きたかったが彼女は勇気を以て踏み出した。……いや、一人の女として守りたいと誓った男を救おうと動かなくなった身体が勝手に動いたのだ。 


「………………なん、で?」


蒼白の表情で吐いた息と一緒に弱々しく出た颯汰の問いに、勇者である少女リズが、リーゼロッテが、口から血を垂らしながら何かを言おうとした。でも彼女は未だ声を出せず、口だけが動いているが零れた血が痛々しくて、それを見ていた颯汰の視界は目覚めたかのように鮮明になったはずなのに、溢れた涙で歪んで見えなくなる。

 懸命に咲いたスミレ色の希望の花が、今無残にも荒らされて散ったのであった。

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