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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
迅雷の魔王
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36 風にのって

 一方、覇者たちの死闘は意外な局面を迎えていた。


降破(コウハ)雷閃拳(ライセンケン)!!』


上空からの突撃――目に視えぬ速度で敵の死角へ現れ、全身に雷電を纏った攻撃に対し、紅蓮の魔王は振り向いて空いた右拳を突き上げて迎撃する。振るう際に左手に持ち替えていた星剣では僅かに間に合わないと判断したのだ。


 避難所や家から顔を出して様子を伺っていた人民はその光景を、音と光を忘れられないだろう。どの時代よりも強く、激しい雷――まさに神鳴と呼ぶに相応しい強烈な光と衝突する地獄の業火。灼けた空気は離れている民や兵たちにも息苦しさを感じるほどであった。


 紅き鎧の魔神と黒い雷の鬼神が街を巻き込みながら戦闘を続けていた。


 ヴァーミリアル大陸西部、アンバード領内の王都バーレイにて、二柱の魔王が互いに距離を取り、相手の出方を見て、ぶつかり合う。それを繰り返していた。

 迅雷の魔王は神域を越えた速度で動くため大した攻撃が与えられず、紅蓮の魔王は単純に技量が何周りも上であるから、迅雷のどの攻撃も受け流していた。――つまりは互いに国を亡ぼす力はあっても決定打とならなかったのだ。迅雷も相手が勇者の力を持つと知ってからわざと星剣による攻撃を受け止めるような真似をせず、一撃離脱ならぬ瞬間数撃離脱を繰り返していた。剣から力を流し込まれれば即座に不利となると理解していた。


 だが、大技をぶつけた中、異変が起きる。


 紅蓮の魔王の纏う《王権(レガリア)》――《黙示録の(レイジ・オブ)赤き竜王(・ヴァーミリオン)》の燃ゆる装甲が炭化するように焦げて、黒ずんでは塵に帰っていく。

 そんな当人よりも、攻撃を加えている迅雷の方が驚いていた。

 黒雲から落ちる雷の如く振り下ろされた雷拳を受け止めていた赤熱する腕の装甲も剥がれ消え、人の手が露出する。


 拮抗していた強大な力と力のバランスが今、崩れ去ろうとしていた。


 理由はわからないが好機である事には変わらない、と迅雷の放出される雷がより一層激しく、眩しくなる。ついに紅蓮の頭に被っていた兜の面すら灰に還る。長い金の髪は心なしか少しだけ赤く焼けていた。翡翠のような色の鋭い眼光は相も変わらずだが、迅雷の目にはどこか感情的に映ったような気がした。

 白の閃光に包まれ、互いの姿が見えなくなったが、迅雷は正確にその気配を追い、稲妻の足蹴――光波刃(コウハジン)を放つ。

 足先に感触があり、すぐさま光は消えた先――紅蓮の魔王は民家の方へ吹き飛び、家々を再び壊しながら進んでいった。

 塵煙が舞う中、迅雷はゆっくりと近づく。

 またもや似た構図となり、迅雷は飽きたように嘆息を吐く。

 理由は不明だが王権(レガリア)を使えなくなった直後に渾身の一撃を喰らえば、勝敗など既に決していたと迅雷は勝ちを確信している。


『なるほど、勇者の力と魔王の力を両立をさせると長くは持たない、か……。さすがにそこまで便利じゃねーか。……で、どうする? 俺の軍門に下るなら生かしてやってもいいが――』


言葉を言い切る前に、民家の内壁をソファーのようにして倒れ込む男の右腕から火球が飛び出した。まさに唾棄すべき提案であったのだ。

 迅雷はそれを黒腕で弾くと残念そうな溜息を吐いた。


『――あぁ、そうかい。まぁ惜しいが、死んでも有効活用(、、、、)してやっからな!!』


稲光を宿した拳を掲げ、神速で動く――はずであった。

 壊れた外壁の先、溢れた光が背後から突き刺さる。

 それは陽光とは違う。嫌に眩しく、不自然すぎる黄の光。

 迅雷は振り返り、王権(レガリア)の全身装甲の下で青ざめた。


『…………なんだと……ッ!?』


そう言葉を残してその場から離脱する。

 紅蓮の魔王は静かに古城の尖塔の上に浮かび出す星輝晶アストラル・クォーツと、渦巻く風に乗ってそれを追う影を見つけて口角がわからないくらい僅かばかりに上がった。



 暫し時間を塔の内部の階段から少女が墜ち始めた頃合いから巻き戻す。


 目標物が浮かんでいた当初の地点よりも高い、十ムート(約十メートル)以上の場所から少女は飛んだのだ。

 両手に双鎌剣――勇者の証たる星剣を二本握り締め、叩きつけるように振るったのだが、それは虚しく虚空を斬るだけで星輝晶アストラル・クォーツは健在であった。


 螺旋階段は最上段から少しずつ壁へ収納されて行き、もうすぐ足場が失うという焦りがなかったわけでもないが、それ以上に心の中で星輝晶あれを壊さなければと操られたように躍起になっていた。


 勇者としての本能が、星輝晶アストラル・クォーツの存在を許そうとしないのか。


 だが、彼女はそれを破壊できず、石材の床へと落ちていく。

 当たり所が悪ければ死に至る位置だ。

 最強の現地人と言っても人の子である。

 斬られれば血は流れるし、死ぬときはあっさり死ぬ。

 防具もない。半身は裸で外套を被っただけの勇者が受け身も知らない少女が落ちれば待ち受けているのは強烈な痛みか、それを越えた終わりか。


 声も出せない少女は恐れた。このまま床に落ちるのもそうだが、それ以上に救ってくれた恩人に何も返せないまま終わる事を。

 しかし、彼女は飛ぶ術も空中から無傷で降りる術もない。

 羽もなければ翼もないのだ。


 そんな落下する少女を見て、一人だけ冷静さを保っていた。

 瞳が黒から碧く輝く色に染め、囁くように唱えるように言う。


「子よ、翼だ(、、)。 魔力を口ではなくて翼に送るんだ。意識を両翼に集中しろ……!」


どこか調子がいつもと違う颯汰の声――龍の子は混乱しながらも応える。

 今まで試した事も考えた事すらもなかったが、シロすけは言われるがまま意識を翼に集中させた。

 白い身体の小さき龍の翼――骨から飛膜に至るまで全てに血液とは異なる目に視えぬ体内魔力(オド)が集まっていくのをシロすけは感じた。己に流れる竜種(ドラゴン)の血が何をすべきかを理解していたように動き出す。


「きゅう!」


その身体に浮かぶ緑のラインは光を放ち、両翼の上方に突き出た爪のような部分――まだ幼いから鋭さはないそこから新緑の小さな魔方陣がそれぞれ浮かび上がった。


「羽ばたきはまず一度、優しく短く。さぁ、……やれ!」


「きゅううう!!」


白く滑らかな小さな龍から爆発的なエネルギーを感じ、魔力に通ずる者――魔人族(メイジス)であるエリゴスは階段を下って落ちるリズを先回りするように走っていたが、その強大な魔力に気づき、段差から飛び降りた。綺麗に着地した瞬間に顔を上げるとほぼ同時に、竜種(ドラゴン)の心臓によって生まれた奔流が放たれた。

 片翼から白い風が一つずつ、混ざり合い上空へと昇っていく。


 約六メルカン半の高さ――風のクッションが、落ちてくる紫を受け止めた。


「――!?」


驚く少女――勇者リズは目を見張る。風に(まく)り上げられ視界が重力に引っ張られた方向と真逆に向いていた。激しい風で外套が(めく)れ出すので少女は反射的に膝下辺りで押さえ込み、そして下を覗くと龍の子から風を放ったのだと理解する。


「闇の勇者……! その風に乗れ」


颯汰が上空へ指をさした。彼女は視線を星輝晶アストラル・クォーツへと運ぶ。

 星輝晶アストラル・クォーツはもう、開いた筒となった尖塔から飛び出す直前であった。

 困惑。畏れ。湧き上がる感情が上空を向いた時、一つの答えとなる。即ち、覚悟が決まったのだ。


「子よ、もう一度だ。次は少し強く! だが加減を間違えるな! 少しでも(たが)えば勇者は粉微塵になるぞ!」


颯汰のオーダーに、シロすけが咆え応える。

 落下を止めた風は緩やかに少女の身体を上へと昇らせていたが、そこへ薙ぐような風が奔る――もう一射、風が放たれた。

 ゆっくり落ちる不可視の足場がさらに勢いが増した風によって上へと運ばれていく。


 無風だった塔の中、嵐が渦を巻く。

 烈風が激しい唸り声を上げる。


「――――…………っ!!」


輝く黄色の宝玉がもう塔の外へ出て行っていた。

 リズは歯を食いしばり目標物を捉え、外套はもう風に任せ激しく靡かせながら、ごく自然に足に体内魔力(オド)を巡らせて荒ぶる風を完全に我がものとして、乗った。

 そこへ不可視の双鎌剣を出現させ構える。


 風に押され、少女は塔の内部を沿うように回転して昇る――風に乗って勇者は今度こそ真の意味で飛翔した。



 時間が合流する。


 空。再び雲が太陽を隠した薄暗い灰色が広がっていた。

 

 そこへ無粋なほどに眩い光が地上へ投げかける。

 塔の内部で日の光を受けていた時より強い“警告”色を出していたのだ。

 迫りくる危機を知らせるために星輝晶アストラル・クォーツはより一層の輝きを放つ。

 それを視認した主――迅雷の魔王は必死の形相で城へ戻る。

 最速の走りが出来ない――。蹴りを放った瞬間に星剣の一撃を喰らったのだとそこで迅雷は気づいた。

 勇者の力による魔王(テンセイシャ)の能力の一時的な封印。それは時間にすればほんの僅かな間であるのだが、当人にとっては永く、最悪な物と感じた。

 大通りを雷瞬で駆け抜け、空いた壁から内側を通り、瓦礫を踏んで屋根の上に上る。全て速度を落とす事無く、次は屋根から屋根へ飛びながら自身の居城へ足を運ぶ。


 敵は誰だと考え、まず勇者は捕らえた少女リーゼロッテである事はわかりきっているので除外する。おそらく地下牢の番人たる亞人は勇者によって葬られたのだろうと彼は予想する。得た情報を鵜呑みにすると勇者は『光と闇』のセット――つまり二人。その二人がたまたま一つの大陸に集まり自国の中枢まで攻め入っている事実はあまりに出来すぎていて迅雷は逆に笑みが零れるほどだ。

 内通者――獅子身中の虫がいるのだろうとも考えたが、自身でも恨みを買いすぎていると自覚しているため誰が裏切ってもおかしくないかと答えが出なかった。エリゴスの存在はどうでも良くて忘れている。

 ただ塔の仕掛けを知っているビムだけは味方だと現状から判断出来た。裏切るなら起動させる必要がないためだ。


 ――誰かが勇者を逃がしたのは間違いねぇな。搭の中にあの闇の勇者(メスガキ)がいるはずだ……! アストラル・クォーツが浮上し、光を放ってそう俺に言っている! いや、待てよ……


上空に浮かぶ星輝晶アストラル・クォーツで焦りが生まれたが、塔の仕掛けが動いた――と言う事は階段も壁に収納されたのだ。速度は変えていないが迅雷は少し安堵する。何故なら星輝晶アストラル・クォーツは傷も付かずに空に昇ったのだ。隠し場所を知られていたのは誤算であるが、竜魔族(ドラクルード)のビムが仕掛けを始動させたのは間違いない。


 ――あの高さなら、人間に届くはずがねぇな……!


 勇者は間違いなく人族(ウィリア)の娘であり、敵方にもし獣刃族(ベルヴァ)(ルー)の民がいれば鳥となって背中に乗せて向かうなど出来るだろうが、絶滅したとされる(ルー)の民がそう都合よくいるはずがない。

 塔の内部の壁を蹴って進むにも、あの足の怪我では不可能だろうと勇者の回復力までも迅雷は侮っていた。自身が頂点でそれより他が下であると捉えているからこそ、彼はこの自体を引き起こしていたのだが、それすら気づかないほどに暗君なのである。


 ――だったら、まずはあのメスガキを牢にぶち込む……前に俺様に逆らうとどんな目に合うか再び身体に刻んでやるか! その後にアストラル・クォーツを塔の中に戻し、あの赤い魔王をやっちまおう。いくら弱っても、炎のジェット噴射しながら飛ばれてデカい星剣で斬られちゃあどうにもならねえ。……まぁ、楽しかったが、残念だがここまで…………だ――!?


 視線の先――、小さな点が映り、迅雷は思考を放棄して走る事へ意識を飛ばした。


 民が、人が、龍が、――意思のある者全てが、空を見上げていた。


 狂気に彩られた月光よりも怪しい光を放つ星輝晶アストラル・クォーツ――。

 王都バーレイに住む者は皆、その光を――王座が奪われた日に降り立った光を覚えていた。

 その時よりも一層、不気味な光が空も大地も染め上げていた。

 古城の上、塔から飛び出て数メルカンの位置で灯台のように光を放つ。

 まるで新たな王の威光は決して消えやしないと言い張るように、眩く、他のものが霞んで映る。


 だから、その一瞬――現れた嵐に気づいた一部の者たちは目の錯覚だと思った。


 圧倒的な力でねじ伏せられ、圧政を強いられた救いなどなかった国に今、希望が風に乗って運ばれる。


 その吹き荒ぶ魔風の先端に一人の少女が立って進む。


 星剣から与えられた魔力――紫の光が身を覆うと、上半身裸の上に薄汚い外套、質のよろしくない腰布に素足と言ったみすぼらしい姿から大いに変化があった。

 衣服が形成され、全身を包む。

 薄紫の金属の脛当てと靴。紫地のホットパンツから伸びる太腿は白く、だが病的な程ではなく健康的であり、濃紫の腰から伸びる外套は足首まである。

 胸と臍を覆う生地は一見変哲もないが見た目以上の堅さと伸縮性を有している。決して人の手では生成出来ない代物だ。

 長く靡いた髪に二つのリボンが巻き付いて髪型が二つ結びになった。

 最後に外套が紫の光に変化し、首元から後方へ二本ずつ伸び、それが形付くと光は弾け、マフラーが形成される。

 身体の一部は魔力装甲を身に纏っているが、両肩と背中は出たままだ。動きやすさを重視しているのか過度な装備はなかった。

 臆病に震えていた儚げな美少女の瞳は、凛として咲き誇る魔界の華のような強さが宿っていた。


 勇者と呼ぶには暗く落ち着きがありながら華がある、そんな装いに変わった少女リズは豪風を足場にして空を翔ける。


 上空に浮かぶ星輝晶アストラル・クォーツの前で風が止むと、空かさず双鎌剣が振るわれる。


 風の如く荒ぶる雷の悪鬼の怨嗟の叫びが轟くが、誰もその声に耳を傾けやしない。視線と意識は全て上空の結晶とその行方に注がれていた。


『止せッ! 止めるぉぉおおおおおお!!』


叫びは虚しく響くが、勇者の剣は止まらない。


 両手に握られた鎌剣『カストル』『アルヘナ』による二連撃――エックス字の残光と少し遅れて響く甲高い金属音と共に、結晶は四分割し粉々に砕け散ったのであった。




舐めプしたらいつのまにか追い詰められていて、非常に見苦しい醜態を晒していくスタイル。


次話は来週です。

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