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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
迅雷の魔王
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21 邂逅

 ヴェルミ王国の王子・クラィディムと魔女グレモリーを処刑する。通信機の役割を持つ道具から聞こえる声は確かにそう言った。


「なん、で……!?」


蒼白とした顔で颯汰は疑問を口にすると、


『……国王は自国で魔王を呼び出した王子と私を反逆罪とか何かで殺すつもり。自分と血の繋がっていない&王家の血を引く正統後継者の王子が邪魔なのと、…………ダナンが裏で迅雷と繋がっているのは聞いたでしょ?』


魔女は潜めた声で答え、続けた。


『今、私たちは王都の牢に捕らえられているわ。…………私たちの首をささげ物として迅雷に渡す気よ』


どうにか小さな石のような道具を体のどこかに隠し通せたが、今の今まで見張りがいたのか何度語りかけても返事はなかったのだ。


 颯汰は、感情のまま壁を叩く。ボロ屋に鈍い音が響き渡った。


「…………どうすればいい? ――迅雷の魔王(ヤツ)の首か?」


『私たちのボス(、、)が迅雷の首を獲って王都に訪れれば、たぶんアイツ――ダナンも止めざる負えないでしょうけど……。王子の処刑を反対する貴族が多く現れているから、何日かは持つハズだけど、バーレイからベルンまでの移動が間に合うかどうか……』


戦争中に自国の王子を殺そうなんて真似が簡単に行えるはずがないが、それでも確実とは言えない。ヴェルミの現国王は権力を求めて暗躍しながら、敵国の暴力に屈した暗愚の王であるからだ。


 ヴァーミリアル大陸・ヴェルミ領内でゴミ掃除――迅雷の魔王が放った黒泥に戦士を、ボスこと紅蓮の魔王は一人残らず灰も残さず討ち滅ぼした。

 その間に颯汰とラウムはアンバードの王都バーレイへ侵入に成功したが、次は王城へ入り込む必要があるのだ。

 だがこのままでは迅雷の魔王に気配を察知されてしまうので、紅蓮が迅雷をおびき寄せる必要があった。

 紅蓮がすぐにヴェルミの王都――ベルンへ戻ってダナンを正面から叩き潰すのも“有り”だが、現状は彼と連絡する手段がないためそれは現実的ではない。


 ――契約者なんだから考えてる事が伝わるとか不思議パワーでも無いのか……?


自身の胸に手を置いて颯汰は苦い顔をした。



 一方、アンバード領内――王都バーレイから南東部ケマルという村にて。

 少し規模の大きい村であり、茅葺かやぶき屋根の家が並んでいる、少し地は荒れている村だ。アンバード内ではまだ自然が豊かな方であるが、やはりヴェルミ――国境であるエリュトロン山脈を越えた付近から自然が衰退している。ここまで王都ベルンの神の宝玉(リーゼ・クライノート)の影響が及んでいないのだろう。町としてはていを成していないが、流通の窓口と言われるこの発展中の村では人通りも多く、露店も並んでいる。少し物珍しい風景であるのだが、本日は殊更ことさらおかしかった。


 露店の前はざわめきが起こる。

 人だかりの先に、倒れた人間が五名――すべて魔族とさげすまされた魔人族メイジス獣刃族ベルヴァ鬼人族オーグであった。

 そして、六人目――魔人族メイジスは首を右手で掴まれ持ち上げられていた。最初は暴れていたその男も、ぐったりしている。

 その腕に持った気絶した男を、主は放り投げた。

 男が地面に投げ捨てられたと同時に、野次馬から短い悲鳴が重なったが、それ以降は自身にその手を向けられないようにと静まり返っていた。

 ドサリと音を立て地面に捨てられた男に一瞥いちべつもくれず左手に持った骨付きの肉を再度、食らった。


「……まったく、せっかくの美味い肉が台無しだ」


と言いつつ、頬張った鳥肉を飲み込む。羽織ったレザーマントのフードを被り自身の種族を察しられるのを避けていたが、それも必要ないだろうと髪を掻き上げるように外した。

 金色の髪に鋭い刀剣を思わせる翡翠の眼光。肌は白く、耳は尖ってもいなければ、獣の耳も鬼の角すらもない。


「うぃ、人族ウィリア……!?」


野次馬の一人がその存在を口にする。この国にいる人族ウィリアは奴隷か敵国の兵、ならず者と相場が決まっている。だが自由な身であるなら、どうあれ近づくべきではない危うい存在であると知っているのだ。

 再び騒めき始めた人だかりにすら興味がないのか、その男は自身の懐に手を突っ込み、革袋の財布を取り出した。中はたった数枚の硬貨しかなかったので少し困った顔をしたが、一枚の銀貨を指で弾いて肉を売ってくれた店員に渡した。


「すまない。持ち合わせがこれしかなかった……」


安い肉で銅貨一枚で済む料金であったが、おおよそ二十倍もある銀貨を渡したのだ。


「もし足りないならそこで寝ている奴らから奪うか――」


露店へ、いちゃもんを付けていた既に伸びている男たちを指さして青年は言う。

 『何を騒いでいる』『そこのお前、動くな!』と魔人族メイジスの憲兵らしき者たち――金のボタンに紺の制服を着た男たちがレザーマントの男へ咆えていたが、


「――“次の王”に十倍くらいで請求してくれ」


店主はその言葉の意味を最初は理解できなかった。

 男はそう言うと人族ウィリアの男はマントをバサりと脱ぎ去っては憲兵に投げつけた。

 目くらましを受けた憲兵二人は身体にかかったマントに面を食らいながら、慌てて外した。


「……!!」


人族の男は紅い外套と金髪を風になびかせながら、いつの間にか屋台の裏の民家の茅葺きの屋根の上に登っていた。そしてその男は急に反対方向へ走り始める。屋根伝いで逃げる気かと踏んだ憲兵たちは叫ぶ。


「ま、待――!?」


待てと叫ぶ前に、急に方向を反対――こちら側へ方向転換した男が屋根から飛んだのだ。誰もが飛び降りるものだと息を呑む。大した高さはないが、何をしたいのか理解できなかったのだ。

 宙をぐるりと横に回る男。

 憲兵を含めて何人も頭から落ちると思った。当たり所が悪ければ死んでしまう。


 だが、男は地面へ足を着く事はなかったのだ。

 人族の旅人風の男の足元に魔方陣が浮き、そこから巨人の手が伸びたと思ったら、男が宙へ投げ飛ばされていた。

 理解でし難い状況に、誰もが目は見開き、口が開いたままとなる。

 紅い青年が、空を飛んであっという間に遠くへ行ってしまったのだ。


「ま、魔王だ……!」


誰かの声――かつて魔術に精通していた種族である魔人族メイジスの声。


大罪七帝たいざいしちていの申し子が、また一人現れたんだ……!!」


恐怖や不安が声と一緒に伝播する。

 憲兵の一人は騒ぎを沈めるために、もう一人は王都へ連絡するために奔走した。

 巨大な手が主を飛ばし、紅い炎は羽ばたいた。

 馬よりも風よりも遥かに早く弾丸の如く――。




「……そろそろ、か」


紅い青年――紅蓮の魔王が上空で呟く。飛ぶというより投げ捨てられたのを炎で無理矢理姿勢などを制御している形だ。

 そろそろ自身と契約をした少年たちが王都へ辿り着いただろうと思った魔王は一直線で王都へ向かう。

 迅雷の魔王と因縁は一切ないが、やり方も生き方も気に入らないため滅ぼすと決めていた。



 王都が見えて来た――。

 広大な荒れ地の上に立つ石造りの家々を囲う防壁。そしてその奥にある自然の要塞たる岩山を背に、黒の根城が堂々と屹立きつりつしている。

 地面に黒い点が幾つも見える。王都を走り回り、門から出兵した者たちがあわただしく動き出していた。


「少し、早かったか……」


 敵国領土内に侵入し、颯汰たちを下ろして王都へ向かわせた間に、ヴェルミ領内の敵兵を殲滅せんめつさせ、エルフたちに攻めずに身を固めろと忠告し回った紅蓮の魔王。

 わかりやすく自身の存在を示し、荒野に出来る限りの兵を立ち並ばせ、王城内の警備を薄くさせようと考えていたが想定より敵の動きが遅かった。


 ――……迅雷の魔王もアストラル・クォーツの機能を活かし切れていないのやも知れない。それか、極度の慎重派で王都へこもるつもりか?

 

途中で思い出したが星輝晶アストラル・クォーツの機能の中で領民以外の者を探知するという項目があるが、それを使っていない様子であった。

 だが、よくよく考えれば、そもそも転生者(マオウ)は一定の距離にいれば他の魔王(テンセイシャ)の気配がわかり、天敵である勇者はその探知にすら引っかからない存在であるから、取るに足らないと見下しているはずのニンゲンがどう動こうと気にしない迅雷がその機能を使っていない可能性もあった事に気づいた。


 ――どちらにしても、動いてもらわないと困る。アストラル・クォーツの破壊はどうでもいいが、城のどこかにいるはずの“勇者”は保護しなければな


まだバレない距離――おおよそ六クルス(約六キロメートル)であるだろうと、降下して敵の手筈が整うのを待とうと考えた瞬間――。


「――ッ!!」


王城の尖塔が青白く煌めくと、雷がほとばしった。

 薄暗い空に目立つ紫色と青白い光が交わり、空ごと断つ勢いでそれは飛来する。

 紅蓮の魔王は、殺気がこもった雷撃の大剣を避け切った。

 その雷刃は王が持っていた星剣よりも少しだけ小さいが、生者を貫き殺すには充分以上の大きさがあった。

 矢をも超える速度で放たれた光を、全身を捻って回避に成功したが、それで終わりではない。

 再度キラリと輝いた後に光が明滅し、ナイフのような短さとなった雷剣が幾つも飛来する。

 一度で、一点を狙った攻撃は通用しないと理解した“敵”が、紅蓮の魔王という外敵を撃ち落とすために()での攻撃を行った。先ほどよりは威力は低いが、一本でも当たれば体制が崩れ失速し、残りの刃も突き刺さるはずだった。


 ――狙いが甘い


 紅蓮はその場で降下、回転、浮上をして幾本の刃を避けた。防御用に大剣を抜くまでもなかったほど敵の攻撃は苛烈であったのにつたなく粗末なものであった。



「チッ、やっぱ遠距離攻撃はうまくいかねえか……! つーか炎の翼っていうか、無理矢理、炎のジェットで飛んでんじゃねーのかあれ」


忌々し気に迅雷の魔王は呟いた。自身が不得手とする遠距離で放つ魔法の行使をして、相手の実力を測ろうと考えた。

 光速で放たれた雷は大抵の兵ならば回避不能の速度であったが、距離があるせいで今もなお避けられ続けている。


「チョコマカ、うろちょろとしやがって! さっさと墜ちやがれ!!」


光線の如く放たれる雷撃の刃は苛烈さを増すが、一向に当たる気配がない。

 そろそろこちらから出向こうと考えた矢先、赤の王は動き出す。

 巨腕を魔方陣から出現させ、紅蓮の魔王の腕の動きと連動するように雷の針を振り払う。キラキラと光るそれは自然へ溶け込み消えていく。

 次に巨腕の人差し指の先に乗った紅蓮の魔王。迅雷が何をする気だ、と呆けた顔で見ていると、


「――んなアホな!?」


親指で弾かれた人差し指の反動で、紅蓮の魔王は加速する。迅雷の魔王は電撃、雷剣と様々な魔法で迎撃を試みるが、どれも避けられた。

 約一クルスまで距離をほんの少しの間に詰められたが、近ければまた有効射程の攻撃手段が増える。待っていたとばかりに迅雷の魔王はサングラス越しにわらう。


うなれ雷撃の魔槍――ヴォルト・ジャベリンッ!!」


左手を前に突き出し、迸る雷撃を右腕に収束させ槍を生成し撃ち放つ魔法だ。投擲競技の選手のような美しいフォームから投げられた魔槍は神速の域に至り、真っ直ぐ紅蓮の魔王を捉えた。今までの攻撃は言わば囮であり自身の実力はこの程度だと悟らせ、この最速の槍が本命であったのだ。

 白き光が、紅蓮の魔王を包む。雷槍が直撃し空気が爆ぜた。


 ――っ……てねぇ!!


紅蓮の魔王の手に大剣――星剣カーディナル・ディザスターが握られていた。命中する直前にそれを引き抜き、切り落としたのだ。

 さらに迫る王に、迅雷は多方面から雷撃を放つが、ことごとくを剣で振り払われかわされる。


 ついに領空内に入られ、迅雷の魔王は地面を蹴って飛び出した。

 身に雷を纏い、紅い炎へ向かう。

 その顔は敵対する無表情と真逆で、闘争の狂気に歪み切っていた。


「――その実力なら、楽しませてくれるよなッ!!」


鬼人族オーグ……武人としての本能が、迫りくる外敵の実力を認め、身体が闘争を求め始めている。


 邂逅かいこう――これは宿命の出会いであった。

 神々の糸の導きか、この魔王と魔王は闘う運命にあったのだ。


 暴獣と災禍が、今、ぶつかり合う――。

投稿遅れて申し訳ありませんでした。



仕事&母の入院もあり、次話は来週か再来週になるかも。



2018/07/12

一部誤字脱字修正。

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