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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
迅雷の魔王
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19 防衛都市ロッサ攻略作戦

 ヴェルミ王国領内、国境たるエリュトロン山脈を越えた魔族たちの進攻――きりに包まれたルベル平原にて起こったいくさは南方のアゴーニ砦への襲撃とほぼ同じタイミングで決行された。

 また同時刻、港町カルマンや王都ベルンから北東にある村々でも比較的小規模であるがアンバードの黒泥こくでいの兵が出現し始めていた。

 そして最も多く現れたのがヴェルミとアンバードとの国境を越えた先のルベル平原であった。

 正規の兵も当然いるが、漆黒の液体で形作られた人形――ドロイド兵が半数以上を占めている。魔獣に鳴り損なったゾンビのような失敗作――死兵よりは遥に有用な兵士たちだ。死兵は死兵で相手に対する精神的なダメージを負わせるといった意味では有効ではあるが、その前段階であるドロイドたちの方が汎用性が高く、今回は魔獣と死兵は抜きで実戦投入された。

 国土と兵の数――戦力差をめる為にアンバードの現国王は倫理観を無視した禁断の術に手を染めたのだ。

 迅雷の魔王は、表向きには“その方が面白いから”と言い張っているが、彼の側近である竜魔族ドラクルードの男は真実を知っている。もちろん、国のためではない。彼もまた怨嗟えんさに駆られて戦争を起こしたのであった。


 そうしてルベル平原を進攻し防衛都市ロッサを攻め入って、ついに赤い旗が降ろされた。代わりにアンバードの国旗――リンドウの紫に迸る白い雷が描かれた旗が立ち、揺らめいた。

 

 ――やっと、…………落とせたか


褐色の肌に白銀の髪を持つ魔人族メイジスの騎士団長は安堵の息を吐く。

 攻城戦を開始してから六日経ち、ついに落城を果たした。


 当初、ルベル平原にて優勢であったアンバード軍は直ぐに城攻めを開始したのだが、ヴァーミリアル大陸一の領土を持つヴェルミは、資源を人材も豊富であったのとエルフと人族ウィリアの連携により、城塞の守りがとても堅牢であった。

 

 高くそびえるロッサの城壁――即席とは言え、投石機の攻撃を寄せ付けない程に石の壁は高く、堅かった。

 その上部にある歩廊ほろう矢狭間やはざまから、エルフの狙いのするどい矢が飛んできては正確にアンバードの兵を射貫いぬく。

 投石機自体も木製であるから火矢ですぐに潰されてしまった。

 裏手に回り、堀のない部分から壁をよじ登ろうと梯子はしごを付けるのも困難であった。まず近づくのに丸腰では矢によってハリモグラにされるのが関の山だから、矢避けの盾を用意して突撃する。しかし防御が甘い兵はわずかな隙を突かれ、倒れていった。梯子が付いても歩廊から大きな石や煮えた油が落とされ被害が増え、そこからの進撃はあきらめざる負えなかった。

 正面の厚い扉は堀の上を歩くためのね橋で、樫木かしのきの間に鉄板をはさんだ堅いものとなっていた。跳ね橋は砦の内部――扉上部にある部屋へと侵入し、巻き上げ機を手で回して鎖を降ろさなければ入る事が出来ないものであった。

 そこへ、何百ものドロイド兵を投入し、身体を溶かし堀の水をけがしながら、その溶けた身体が水を埋めて道となる。扉までの道は出来たが、堅い扉は素手ではビクともしない。その間もヴェルミの兵からの攻撃は止む事はないのだ。

 だが、自然豊かなヴェルミであるからこそ、遠方から木を切り倒して即席で破城槌はじょうついを作り上げてこじ開ける事に成功する。もちろんその際に犠牲ぎせいとなった勇士たちがいた。犠牲を嘆く暇もなく、開いた穴をつるはしなどで広げ、盾を持った兵たちが侵攻を開始しようとしたが、まだ内部へ入れなかった。


 次に待ち構えたのは鉄で出来た落とし格子こうしであったからだ。かなりの重量があり、持ち上げている合間の奥から矢、横の穴からは槍による攻撃が止まらない。ヴェルミが落とした石を格子の間に挟み込み、何十の兵とドロイド兵を犠牲にして突破に成功したが、更なる金属の格子と、鋭い針が隙間なくサメの歯のように並んだ落とし穴が広がっていた。壊した跳ね橋は正面からは見えなかったが、扉が長いシーソー状であり、降ろせば平行となり、入り口もこの道も通れる橋となる仕組みであったのだ。

 無理矢理穴を開けて通ったため、橋の先端にあるはずのり金具とくさりは、内部からでも天上のくぼみに隠れる仕組みであるから破壊し――橋を降ろす事が出来ない状態であった。

 これはまずいぞと大いになやんだアンバードの兵であったがドロイド兵に突撃させ、彼らを踏み台として進む事を決行した。もし、生きた人の兵であれば躊躇ためらいがあっただろうが、彼らは魔獣の血から生み出された(と迅雷の魔王に伝えられた)存在であり、数日前までは小瓶こびんに入った黒い泥そのものであったから生き物ではなく兵器としてあつかえたのだ。何より見た目が真っ黒の人型である泥人形なぞに愛着あいちゃくなどきようがなかったのだが。


 そうして道を開けて、ついにアンバード軍は内部へ踏み入った。


 都市部に入り込み、襲い来るヴェルミ兵を打ち倒しながら領主がいる城搭キープを目指した。指揮しき騎士きしはまだ略奪りゃくだつ行為こういを許可せず、勝手に居住区へ走ろうとする兵をドロイド兵に襲わせるぞと脅す。彼らは正式な騎士ではない農民や野盗、傭兵の寄せ集めの烏合の衆であったので高潔な騎士たちは頭を抱えていた。だが、敵方も似通った事情があるのか、侵攻され士気しきいちじるしく低下し、練度が低い雑兵ぞうひょう鬼人族オーグを中心に、次々とヴェルミの兵を蹴散けちらしていく。残ったものの多くがエルフであるから人族ウィリアより筋力が劣る彼らは近距離戦で分が悪かったのだ。


 ついに防衛都市の最期の要――城搭キープを兵たちが取り囲んだ。

 数え切れぬ犠牲があったが、敵と比べれば死んだ兵は少ないと言えよう。

 内部へ侵攻できればこちらのものだとばかりに暴れ倒したからだ。


 城搭キープもそれなりの大きさがあったものの、破竹の勢いに乗った兵たちはすぐに内部へ侵入出来た。黒煙がくすぶる都市は血に染まり敵味方両方の遺体が転がる。


 ――ドロイド兵、なんたる恐ろしい兵器だ。…………もしこの場に“魔獣”と魔獣と成り損なった“死兵”が手元にあれば、もっと攻略は容易よういであったのでは?


無いもの強請ねだりをしても仕方がないとはいえ、城塞内で指揮しきるイグナイト隊を率いる騎士団長はそう思わざる負えない。何せ非人道的な兵器を除く兵数だけではなく、領民の数ですらアンバードはヴェルミよりおとっているのだ。戦争に犠牲は付き物とはいえ、無駄死にではないと信じたいが、その犠牲が最小限で済むならその方がいいに決まっている。

 兵の中ではいずれ我々の代わりに戦争に立ち、お役御免やくごめんとなるのではと冗談じょうだん半分はんぶんで笑うものもいた。が、実際のところ、彼らは総じて“脳”無しに等しいので、先導せんどうするものが必ず必要なのだ。


 ――……でも正直、味方を襲わないかヒヤヒヤする

  ――あぁ、コイツらも真っ黒で怖いなぁ


恐怖を押し殺し、騎士団長はドロイド兵を近くで指揮を執る操影者ソウエイシャという役職の兵たちの帰りを今か今かと待ちわびていた。ちなみに操影者は敵に判別されて潰されるのを防ぐため、見た目は他の兵とは変わらない姿をしている。

 ドロイドが勝手に敵兵に憑り付き、魔獣化しなかったのは彼らがそうなるように命令を下していたのだ。それも迅雷の魔王の命令であった。


 そして、遂にヴェルミの自由の翼が降り、代わりにアンバードの国旗が昇る。


 城搭の攻略が完了し、城塞が落ちたのだ。


 領主であるオズウェル公爵は――まとめ上げた国防の要たる黒狼騎士団、延いては堅牢な防衛都市ロッサに大打撃を受けて、ついに降伏こうふくした。



 落城を果たしたロッサにて、生き残ったエルフや人族ウィリアの兵たちは次々と武器を捨てて拘束されていった。勿論もちろん、抵抗したものは結果的に死んでいく。


「た、頼む! 私の命ならどうなってもいい! 妻と娘、民と生き残った兵たちの命だけはどうか……!!」


選ばれた兵たちと共に騎士団長はロッサの城塔で降伏した公爵の元へ訪れる。既に服は簡素な布に変えられ、手足は拘束されたオズウェル公爵が騎士団長へ懇願こんがんしたのが、それを聞いた仲間のアンバードの騎士たちが吠える。


「ふざけるな! 貴様らの抵抗で多くの者が死傷した!」


「今更、命乞いのちごいいなどするな! 金銭なぞ要らぬ! 全て我らがアンバードが奪うからな!」


「つーか防御上手すぎなんだよコノヤロー!!」


 ――騎士としてその怒号と言葉遣いはちょっとどうなの……?

  ――思えばみんな兜越しとはいえ人相悪いなぁ……。まるでこっちが悪者だ

   ――……奥方も涙を必死にこらえてるよ……


少し呆れて部下たちを横目で見た魔人族メイジスの騎士団長は咳払いを一回、それと少し目を伏せてから、正面を向いて公爵へ問う。


「貴様ひとつの命で、生き残った兵――彼らの数ある命と同等と言う気か……?」


赤の瞳が壮年そうねんのエルフをとらえる。だが、捉えられてもなお、彼は真摯しんしに答えた。


「それは断じて違う!! だが、私から差し出せるものと言えばそれしか思いつかんのだ……!」


赤と青の視線が交わる。肌の色、髪の色まで対照的な魔人族とエルフ。

 騎士団長は一度(うつむ)き、決断した。


「――……わかった。約束しよう」


「な、本当――」


「――ただし!」


公爵の言葉をさえぎる。狭い石の壁の中で声が大きく響いた。


「貴様も共にろうへ連れていく! 生きて貰うぞ。うちの国は人材不足だからな。……あなたのような聡明で慈悲じひの心を持った者がいつか必要となる」




 降伏した兵をろうへと送るがぎゅうぎゅう詰めとなるため、負傷した兵は医務室に送り、縛られたままその辺で座する敵兵がけわしい眼でアンバードの騎士をにらんだ。騎士の一人がそこへ突っ掛かるが騎士団長が止めた。

 イラついた騎士たちがついに騎士団長へ問い掛けた。


「本気ですか団長!?」


「奴らはエルフです! ねちっこくて何百年も恨みを忘れないというエルフ!」


「…………」


部下の言葉に対し、無言であったが、騒めく部下を押さえるために口を開いた。


「これから我らは王都ベルンまで獲りに行かされるだろう。そうして戦争が終わればどうなる?」


団長の言葉に困る騎士たち。騎士団長は続けて言う。


「広大な領土を得るが、我々が直接(おさ)められるはずがないだろう。それこそ報復の可能性があるからな。何人か我々を置くだろうが、エルフを領主として立てるに決まっている。その方がいさかいも少なく楽だろうから。だから、そのまとめ役として何人か残す必要がある。彼のような良い領主を。民にとって国が変わるのはそこまで大事ではないが、ただしぼり取る税収ぜいしゅうの量が、上に着く人間の種族が変われば反抗的になるものだ。だから今感情に任せて、無駄に殺すのは後々自分たちの首を絞める事に成りかねない」


感情に任せて彼らを生かしたのが騎士団長であり、騎士たちもわめく子供でも節操がない野盗でもないため、それぞれ敵国の領主に思う所はあるが押し黙った。


「それに、あの男は私より遥かに優秀そうだ。いつか私か、お前たちの上に立つかもな」


珍しくふざけた事を言う騎士団長に騎士たちは面を食らう。なんだよ笑えよ、と言われてからやっと自我を取り戻しくすくすと、次第に大きく笑い始めた。

 一転、少しだけ雰囲気ふんいきなごやかになったが、騎士団長は直ぐにまじめな顔で正面を向いて歩きだした。


 ――そしてあの“王”の事だ。間違いなくきびしく搾り取る。敵兵(ヴェルミの兵)農奴のうどに落としてまで。そしてまた領民が武器を取るだろう。そうすれば……。


そう考えて憂い始めた時であった。


 まだヴェルミと戦争は終わっていない。奪い取ったここは重要な拠点となり、またエルフや人族ウィリアからの攻撃を今度は防ぐ頼もしい城塞となるはずだった。アンバードがドロイド兵を用いて攻略に時間を掛けたのだ。破損個所を直せば、そう易々(やすやす)と攻略は出来まいとたかくくった。

 それにすぐ奪い返しに襲い掛かる敵もいないはずだと思い込んでいた。


 災厄さいやくがひとつ、地に降りた。


 大地がれる轟音ごうおんと共に、城塞までもがふるえた。

 そう、例えるなら隕石いんせきの落下音。衝撃で石材、木材、死体までもが壁へと吸い込まれては砕けていく。城搭の前――十数ムート(約十数メートル)をおおうほどの土煙が舞い上がり動ける兵たちはあわてて武器を持って飛び出した。


 最初は騒がしかったが、誰もが言葉を失った。

 大地が揺れるでは済まない。石畳がえぐれ、岩盤がんばんが周囲に隆起りゅうきしていた。

 その中心点――何かが落ちた場所へ誰もが注視すると、駆け抜けた熱い風と砂塵さじんに目をつぶる事となった。


 眼を開くと、そこには一人の騎士が立っていた。

 紅を基調とした鎧姿の騎士だ。

 着地地点で火が揺らめくがそれよりも赤く、紅い血色の外套マント

 紅い二本角の飾りが、鋭く天を突く。

 赫灼かくしゃくたるほのお、それが肉体を持って顕現けんげんしたような存在がそこにはいた。

 その騎士は右手を振り上げて焦げて砕けた地面へ手を突っ込み、引き上げるとそこから剣が出現した。暗く赤い、重厚な大剣であった。

 かつて魔術に秀でた魔人族メイジスの兵だけではなく、全ての生きる者がその存在が何者であるかとその身体に纏う魔力を持って知る事となる。


「…………そんな馬鹿な」


騎士団長は思わず、呟く。


 想像力不足、いや、むしろ現実逃避をしていた。

 “敵側に魔王がいない”と決めつけていた。


紅い鎧の騎士が剣をその場で振り回し、地面へ突き刺し、腕を組んでは君臨する。

 間違いないと誰もが理解できた。


 ――魔王、だ


異界から現れる強大な存在で、全てを圧倒する理不尽の塊。

 紅い凶星きょうせいが、白亜の空から降って着たのであった。

2018/07/11

一部ルビの削除及び修正。

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