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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
迅雷の魔王
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16 魔獣との対決

 耳障(みみざわ)りな金ぎり声を上げ、目も背けたくなるほど醜い姿を現した炎獄(エンゴク)から這い出たような魔獣(マジュウ)

 両手足を持ち、二足歩行なのは人と共通しているが、あまりに不気味で黒い肉塊(にくかい)はどこか別の惑星(わくせい)から現れた侵略者(しんりゃくしゃ)のようにも映る。

 実際、彼の体液は強い酸とまではいかないが、有害なものであるのは明白である。

 まるで異星の生命体ような見た目のワラスボの他、深海に()む――闇の世界に生きる生物の仲間だったとしても、それはあまりに異質で異形な存在であった。

 黒の巨体を揺らし、眼前に映る全ての生き物に対し敵意を()き出しに()えた。

 相対する憎悪(ぞうお)憤怒(ふんぬ)に駆られた少年も叫び、狂奔(きょうほん)する。


 周りの炎の熱にやられ、怒りで血液さえ沸騰する勢いで憎しみという感情を燃やす立花(たちばな)颯汰(そうた)であったが、その内面は非常に冷静であった。――いや、本当に冷静であったならば、得体(えたい)の知れない気色の悪い魔獣を相手に取るなどしないだろう。

 心のどこかは冷え切っていると表現するのが正確か。


 どこを()(くず)し、痛めつけ、後悔させて殺そうかと脳で考えた指令を神経が伝達し身体は加速し始めた。



「キシャァァアアアアアッ!!」


剣を構え弾丸の如く直進する立花颯汰を迎撃(げいげき)しようと、魔獣は身体を(ひね)り細長い腕を振るう。地面を(かす)め、土煙(つちけむり)()い上がる。


「――?」


直撃コースであったが当たった感触がしない。首も肉で埋まっているため、頭ごと(かし)げた時、風塵(ふうじん)の中から白銀の剣が飛び出した。


「――シッ!!」


急接近した颯汰の斬撃が、魔獣の左腕を見事に(とら)え、斬り落とした。黒色の血が壊れた消火栓のように勢いよく飛散し、大地を黒く染めた。その闇のように深い黒の血だまりから、炎がボゥっと立ち上がるのが見えた。


 ――何なんだ、あの化け物は……?


 斬られた腕に激痛が走っているのか、奇声を発し、クネクネと動いて(もだ)えている。斬り落とした方の腕も、しばらくジタバタと血の上で()ねていたが、魔獣から出血は止まり、再び怒号(どごう)(とどろ)かす。


「――何であれ……速攻でカタを付けるッ!!」


更に剣で胴体(どうたい)を斬りつけたが浅く、血は流れても致命傷(ちめいしょう)へと(いた)らなかった。白刃に黒い血が(したた)るが颯汰はそれを()るって飛ばした。

 燃えるのを見た後にその(たぎ)る血に手で触れるのは、勇気ではなく無謀(むぼう)だろう。

 歯のような部位も剣で斬れるようには見えないため避けたが、相手が何か奥の手を持っていると予感がする颯汰はその腹の口を警戒(けいかい)していた。飾りではなく、バクりと開いて幾多(いくた)の鋭い(きば)()き出してくるやもしれない。

 何を仕出かしてもおかしくない。この初めて見る生物――しかも、死者で(もてあそ)ぶためにおそらく生者を殺す事に特化した魔獣が相手では幾ら用心しようと()したことはない。一度、地面を()って後方へ下がった。


 首を()ねるにも高すぎる位置にある。ならば転倒させればいいと考え、颯汰が次に狙いを付けたのは足であった。

 巨体を支えるには余りに貧弱に映るその足を崩せば自由を(うば)え、こちらに被害がなく、ジワジワと(なぶ)り殺せるだろうと予想する。

 人を一撃で粉砕(ふんさい)する戦槌(せんつい)に似た重い振り下ろしを避け、走り抜けながら足を斬りつけた。


「――ッ!? (かた)い……! 他と比べてだけど……!」


魔獣の血や油が付いた刃とはいえ、まだ肉を斬るのに余裕があるはずだが、刃が思った以上に通らない。それらで切れ味が落ちている訳ではなかった。感触は鉄を斬るとまではいかないが、大木に剣を斬りつけたような手の(しび)れが走る。斬ったことも実物も見た記憶もないが、サイの表皮を思わせる硬さであった。

 薄く切り傷は入ったが(ひざまず)かせるにはまだまだ足りない。

 このまま注意を払いながら斬り続けようとしたが、魔獣も攻撃されっ放しで黙っているわけではない。魔獣は巨体を大きく揺らした。先ほどより早く、腕はしなる(ムチ)というより刃の付いた振り子(ペンデュラム)のようで、一撃で肉体を斬り(つぶ)す力強さを感じさせた。腕を振り回した風圧で炎の揺れの変化と見た目の重さから、その威力(いりょく)()らえば一溜(ひとたま)りもないだろう。


 ――迂闊(うかつ)に近寄れない……! それなら!


左腰の新調したホルダーに携帯していた手製のクナイを二本指で掴む。以前、この近くの森で傭兵と対峙(たいじ)した時よりも()()まされた投擲(とうてき)が魔獣を襲う。

 投擲の精度(せいど)も、黒い鉱石製の(やじり)を改造して作り直した暗器自体の性能も良くなっている。

 飛んできた殺意が込められた黒のクナイの存在に気づいた魔獣であったが、巨体ゆえに(かわ)すことが出来ず、肩と腹部に直撃した。

 柔らかそうなぶよぶよとした肉に突き刺さり、魔獣はよろめいた。

 動きが鈍った巨体に、さらに追撃でもう二本飛ばし、吸い込まれそうな黒の眼窩(がんか)に向かって突き刺さった。

 再び魔獣は叫ぶと、身体の暗器が刺さった場所の肉が盛り上がり、クナイが抜けて地面へ落ちた。黒い体表に真っ黒の血は見えづらいが、確かに流れずにいた。目に刺さった方のクナイは、長い手で振り払って地面へと落した。

 効果はあると断じた颯汰は、このまま遠距離で攻めつつ、(すき)を見て倉庫へと戻って弓矢を取るべきかと考えた瞬間、

 追撃を仕掛けに、宙を()けていたクナイが一本が落とされた。

 ポンプから汚泥(おでい)(かたまり)噴射(ふんしゃ)するような轟音(ごうおん)と共に、口から黒い液体――流した涙と血と全く同じ物質を吐き出したのだ。

 若干固まりの混じった黒の吐瀉物(としゃぶつ)は襲い来るクナイを飲み込み、そのまま颯汰に向かって伸びた。


 ――(まず)いッ!


即座に最初に隠れた石壁の裏へと回った。黒い液体がビシャビシャと嫌な音を立て石壁に当たるとそこから火が着き、燃え上がる。欠片が服へ飛び、そこが少し焦げてほんの小さな穴が開いた。あれすら直撃を受ければ身体が持たないのは見ればわかる。

 近づけば暴れまわる槌の腕があり、離れても吐瀉物を吐きかける攻撃がある。あの体液が尽きるまで待つのも一手だが、一刻も早くあの魔獣を殺さなければ死んでいった村人たちも()かばれず、颯汰自身の気も済まない。怒りに震える手を握りしめ、どうすべきかと考えていたが、


「――……キシィ?」


魔獣がうろうろと周りを見渡すように動き、落ち着きが見えない。


 ――目が、見えなくなったのか?


そもそも見えていたのか(うたが)わしい空洞に錯覚(さっかく)するほど深淵(しんえん)の闇を体現した目。颯汰が投げた暗器の直撃で完全かどうかは不明だが、今は見失っているのは様子から見て取れた。

 試しに、落ちていた石を思いきり遠くの地面へ、音が鳴るように投げつける。すると、魔獣はそちらに向かって咆え、口から体液をまた噴出したのだ。


「…………チャンスか」


思わず小さく呟き、颯汰は息を潜めた。

 敵の魔獣に、知性が完全にないとは言えないため多様は出来ないが、フェイントを()り交ぜながら、足への攻撃を繰り返す。そうすればいずれは崩せるのではないかと考えた。

 石をまた拾って先ほどの近くへ投げる。万が一でも射線上に入らない方向へ誘導し、石が地面に落ちる瞬間に、颯汰は素早く駆けた。


「――ハッ!!」


一度攻撃をした左足を再度斬りつける。頑強さはあるが相手が完全に敵を見失っているのが確認できた。駆け抜けるのと同時に足を狙って斬撃を放つ。途中でフェイントを挟み完全に攪乱(かくらん)に成功した。


 ――いける! ジワジワと甚振(いたぶ)って殺せるッ!!


手にした剣よりも鋭い殺気を放ち、復讐者は自身の顔の変化に気づいていない。


 ――死ねッ! 死ねッ!! ただただ死ねェエッ!!


目はギラギラと暗い光をたたえ、口角は上がっていた。まるで、殺す事を楽しむように。斬りつけ、突き刺し、痛みに悶えている敵に対し狂った笑みを浮かべていたのだ。

 遠くでそれを見物していた紅蓮(グレン)魔王(マオウ)は何を考えているか表情からは読み取れない。ただその凶行を止めるわけでも()めるわけでもなく見ているだけであった。


 また石を投げ、走り出した時、ついに魔獣が新たな行動を取り始める。

 黒い肉からギチギチと千切れるような不快な音を立てた。

 そうすると、腹部にあった縦に並ぶ歯が、開いたのだ。

 真横にぱっくりと開いた口――その奥にあったのは舌ではなかった。


「――ッ!? 眼!?」


ギョロリと見まわす人の顔くらいの大きさもある、巨大で赤い眼球が飛び出て来たのだ。血走ったわけではなく、虹彩(こうさい)が血や赤ワインのように(あざ)やかな色であると、不思議と颯汰は気色悪さよりも先にそのような感想が出てきたが、その眼光に射貫(いぬ)かれ、足を止めてしまいそうになった。


「――ッ!!」


数瞬の躊躇(ちゅうちょ)。それが死を生むものだと頭で理解していたはずなのに、その予想外に奇怪な見た目に驚いたのか身体が強張(こわば)って固まったのだ。

 既に魔獣は残った右腕を振りかぶっていた。あとは横方向へ()(はら)うように振るえば颯汰はトマトのようにグシャリと潰れるだろう。

 全神経を回避行動へ回すが、もう遅い――射程距離……長い腕が届く範囲内に颯汰は入っていた。

 颯汰からジトッと汗が流れる。血の気が引き、周りに燃える炎があっても熱がなくむしろ冷たく感じた。

 死という恐怖が(サイズ)を構えて目の前に躍り出られれば、誰もがこうなるだろう。

 明確な殺意が、風を切って進んでいくのが見え、颯汰は死を覚悟した。


 だが、


「――?」


 ――何だ?


魔獣の動きが、(にぶ)りだした。振るおうとした腕はゆっくりと地面へ吸い寄せられ下降する。加速していた巨体は元の速度よりもゆっくりとなっていく中、赤い(ひとみ)だけが眼前の復讐者(ふくしゅうしゃ)を捉えていた。

 その隙を、颯汰は逃がさない。


「――ッエエェェェェエエイッッッ!!!!」


回避のために後退し、その距離を助走をつけて無影迅(ファントム・シフト)で加速すると、赤い眼球に向かって、次こそ躊躇(ためら)わずに剣を突き刺した。

 そこだけは黒色ではなく、生物らしい赤黒い鮮血(せんけつ)を吹き出てくる。ぐにゃりとした結膜から剣を(えぐ)り抜き、更に斬りつけた。勢いよく流れる血に、颯汰の服も剣も赤く染まるが、当人は気にせず剣を振るう。

 巨体がぐらりと動いたと見るや否や、颯汰は下がって様子を(うかが)う。まだ、何かあるかも知れないと疑いかかったが、


「――……!!」


魔獣は、仰向(あおむ)けに倒れた。

 巨体が倒れたことで回りに(ちり)が舞い、それが落ち着くまで颯汰は息を(あら)く肩を上下させながら見つめていた。(のど)(かわ)き、口に入った血では(うるお)せない。

 ついに動きを止め、ゲームのように身体の大きい敵キャラ特有の死んでからの自爆攻撃、のような気配もないと判断して剣を向けながら近づいていく。


 魔獣は完全に沈黙(ちんもく)した。

 腹の口から舌のようにだらりと力なく()れた眼球もその機能を失っている。

 念のために首を刎ねておこうとゆっくりと近づく。


「ハ、ハハ……ハハハ……」


ざまぁないぜ、とばかりに颯汰は(かわ)いた笑いが出た。

 しかし、この生物は一体何なのだろうかと落ち着いてきたからか疑問が再浮上してきた。どこから現れ、真に何を目的として村を襲って炎の海に変えたのかと。


 ――隣国(アンバード)の……迅雷(ジンライ)魔王(マオウ)の駒か……? まずは紅蓮の魔王(あの王サマ)に会わないと……あの人は、どこにいるのだろう。


自身が知らないだけでこの世界では常識の災厄(さいやく)なのか、あの魔王と魔女に聞けば答えが出るのではないかと颯汰は考えていた。



 その求めていた答えと異なるものが、望んでいない答えが、嘲笑うかのように明らかになっていくのであった。


諸事情であっさり戦闘を終わらせました。

こいつ主人公なんですよ。過激な発言が増えてますけど。


真夜中に寝落ちしながら書いてたもの。三度くらい意識失ってました。

もしかして投稿された時間帯に寝てるかもしれません。

ルビも文章もどこか変かも。


あと、ざっくりした『前章のあらすじ』を書こうかなとか思ってます。




次話は来週で。

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