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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
迅雷の魔王
56/434

12 紅蓮の魔王

 ――元・魔王。


その言葉を聞いた瞬間、あらゆる疑問が頭によぎるが、それ以上に身体が既に動き出していた。一瞬で距離を詰める。

 鞘から抜き放たれた白刃が森の中央部(ここ)では日が差すため、まばゆきらめきをたたえながら、魔女の首元へせまった。


 刹那せつなの出来事にクラィディム王子も、魔女の弟子であるラウムもおどろくだけで何も出来ずにいた。騎士たちも柄を握って動き出したが――少しばかり遅い。


 首をねる勢いで振られた剣身が、魔女の白い首のごく近くで止まった。

 切っ先を避けるため少しだけ顔をらすが、その目、表情に恐怖や怒りといった感情が魔女からは見られない。

 むしろ状況を楽しんでいるようにすら見えた。


「あら、悪い子。手が早いのね。遅すぎるのも問題だけど、早すぎるのはつまらないわぁ。丁度一緒に楽しめるくらいが女はいいのよ?」


何のことを言っているかわかりかねる魔女の言葉を無視して颯汰は口を開いた。


「魔王、と……言ったな」


「えぇ、“元”ね」


 余裕がある含み笑いで魔女は答える。緊張した空気が流れ出す。

 騎士たちも数歩動いたが、どうすべきか考えあぐねていた。

 柔らかいとげですら触れたら最後、その場を壊すような一触即発の空気であった。

 ひどい剣幕で颯汰は魔女グレモリーと名乗った女を睨み、声を荒げた。


「答えろ……! お前が、お前が俺を呼び出した魔王か(、、、、、、、、、、)!!」


颯汰が口にしたその問いの意味を知るのはこの場では魔女のみであり、誰もが意味がわからずに心内で首を傾げていた。


「やっぱり坊や、誰かの仕業で“ここ”に来たのね。……残念ながら私じゃないわ。私が呼び出せるのは生前に触った物体――無機物だけよ」


そう言いながら手から何かを生み出した。

 白い手だからより一層浮いて映る黒だが、よく見れば透けている。

 華麗なレースが付いたデザインの布きれ。

 魔女はそれを片手で広げるとその正体が瞬時にわかった。


「パ、パン――!?」


「反応が初心うぶね。可愛らしいわ。あっ」


魔女が颯汰に笑いかけるとエロティックな下着が風にさらわれて飛んでいく。

 それが騎士の一人の顔に当たった。知らないのか興味がないのか、はたまた魔女の物だからか、まんで風に流していた。

 魔女グレモリーがそれを見れば激怒していたかもしれないが、彼女の視線と颯汰の視線は合ったままであった。

 吹く風は冷たく寂しい音を奏でる。

 それでも、颯汰はまだ剣を下ろさない。


「“元”とはどういう意味だ! いや、そもそも魔王――転生者は、何故この世界に生まれる!? 何が目的で!!」


「ふふ、がっつく子は嫌われると言われてるけど私は好きよ? そんな怖い顔しないの! “元”ってのは文字通り。前回の魔王戦の参加者なんだけど、ちょっとイレギュラーがあってね。今はただのこの世界の住人の一人……って何その顔? ……あぁ、まず魔王戦がわからないのね」


颯汰の表情を見て察した魔女は続けて言う。


「魔王戦――正式名称は転生魔王支配戦争ドゥームズ・ウォー、だったかしら。地球で何らかの事情で亡くなった人が魔王になる。ここまではわかる?」


颯汰は黙っていたが、数秒後にコクリと頷く。


「よろしい。それで何故、この世界に転生者が産み落とされるのかと言えば、私もわからない。ただ、この世界で普通に生活し、ある時――私は死にかけた時だったんだけど。前世の記憶と魔王としての力、権能が与えられたの。そして脳裏に声がしたわ……随分前だから曖昧だけど……たしか、『なんじは選ばれた。来るべき時に六の魔王をて。さすれば望みが永遠に汝の手に渡るだろう――』何のこっちゃと思ったわ。それ以外の説明なしだもの。ただ、不思議と固有能力イデア・スキルと魔法の使い方とかはそれまで生きていて一度も使ったことがなかったのに、まるで息を吸うように簡単にできるようになったの。まぁ、今の私は前の魔王戦の名残りで固有能力イデア・スキルだけしか残ってないんだけどね」


魔女は尋ねられた事以上の情報を赤裸々に話す。元よりお喋りが好きだってのもあるが、この少年にからめ手や嘘を吐いても意味がないだろうと思ったのだ。真摯に話して理解して貰う方がいい。


「で、どうやら、私は今回の魔王戦は参加できないようなの。まぁ、その以前にこの能力だけで他の魔王に挑むなんて正直無謀も良い所なんだけどね。というわけでお姉さんは今はただのか弱い女の子(、、、、、、)なの☆」


「……おんなの、こ?」


「おい今誰だ? 騎士のくせに誰かなんか言ったよな? あとで実家にネズミの死骸とキツイ臭いの薬草を混ぜた芳香剤を送り付けるから覚悟しろよー!」


女の子という年齢でも見た目でもない魔女に対して、放たれた騎士の内の誰かの呟きにグレモリーはご立腹のようであった。

 向けられた剣を手で掴みながら顔を動かして騎士の一団を睨みつけた。

 ゴホンとわざとらしく咳をしてから魔女は元の位置に戻って――否、先ほどより剣を首擦れ擦れの場所に置いて言った。


「それでも私を殺したいならどうぞ。ただ、私が死ねばあの魔王も蘇らず、あとは同じく反則はんそくみた魔法に固有能力イデア・スキルを持つ迅雷の魔王に蹂躙じゅうりんされてこの国もおしまいね。それが望みなら振るいなさい」


急にシリアスに戻したせいで変な空気が漂う中、真っ直ぐな黒の瞳が合う。真剣な表情だ。颯汰は目を逸らし、暫し考え込んだ後に別の問いを口にした。


「…………迅雷の魔王はどんな能力を?」


「これも残念な事にわかってないの。あの変態(HENTAI)強姦魔ごうかんま、意外にも慎重派なのか尻尾しっぽすら掴ませないのよ」


続けて前尻尾が云々(うんぬん)かんぬん言っている魔女を無視した。


「強姦魔……?」


「自国でそりゃ、お城でやりたい放題ビックバンよ? 自国民から他国から拉致らちしたりね。合意もなしなんて本当、サイテーよ。女の敵だわ……!」


 ぷんすかと怒る魔女。彼女の怒りも当然だろう。同じ性別だから、いや異性でもその行為がどれだけ罪深くいやしい行為か理解できるものだ。

 強姦は己の劣情――性欲のために、相手の身体だけではなく心に大きな傷を残す下劣な行いに違いない。


「私がこの国に――クラィディム王子に手を貸す理由は、あの男が好き勝手やってるのが許せないからよ!」


力強い宣言。

 弱き者を挫く魔王が許せないとその瞳は怒りに燃えていた。


「まぁ、王子から報酬も確約されてるってのもあるけど。……ただで協力するなんて言う人間信用できる?」


現実的な本音を言った魔女に少し冷めた視線を送ったが、言ってることは最もだと颯汰は剣を下ろして鞘に収めた。


「良い子ね坊や。あと三、四年したら……、って無言で手と首を振って拒絶するのやめろ☆ 傷つくわ」



 信用は出来ないが事を進めなければならない。自身の目と胸の内の予感を信じる事にした颯汰を見て、魔女は魔王を復活させる準備へ取り掛かる。

 とはいえ、準備と言っても特に何かを用意するわけでもなかった。

 ただ、黒ずんだ瓦礫の中心部へ近づいただけだ。

 全員が足元を注意しながら、慎重かつ迅速に進みすぐに到着した。


「じゃあ、気を取り直して始めましょうか」


指定の位置にゴスロリ幼女ラウム、クラィディム王子、龍の子シロスケが着いた。

 魔女を中心として前方に二人と一匹が等間隔にいて、そこに少し後ろに離れて颯汰がいた。騎士たちは周りの監視役を担う。


「――それで、どうやって魔王を? あんたのその能力は物しか呼べないんだろ?」


「えぇ、でもそれさえ呼べば、あとは自動的に魔王も呼び出されるわ」


そう言うと、魔女はそっと祈るように目を瞑る。

 今まで出したものは一切予備動作が必要なかった物であったが、これだけは特別であったのだ。

 脳内で描くイメージ――実物を鮮明に思い浮かべる。


 どんなに時間が経とうが、忘れもしない――の王の持つ唯一の武器。


 真昼に星が瞬いた。

 晴れ空の下の空気が変わる。温度が下がったかのように誰もが特異な涼しさを感じた後に、息苦しさを覚えるほどの熱が駆け抜けた。


 魔女の手のひらから十メルカン(約十センチメートル)浮いた場所に“それ”が出現した。


「あいつの、“剣”よ」


それは巨大な剣であった。

 厚く、重く、大きく――剣という形を成しているが、過剰に、必要以上の質量を誇る金属の塊。

 深紅の鍔の飾りは炎のように燃え、銀の剣身が鈍く輝く。

 黒の柄にも脈動する溶岩のように赤々と光が奔る。

 直径は二ムート(約二メートル)はあるのではないだろうか。

 そんな巨剣が、宙に浮かんでいた。


 今までの物とは勝手が違うのか、魔女は表情こそ余裕があるが息遣いや滴る汗から、かなり消耗が見られた。


「……あとは、大剣これにラウムと白竜ちゃん、王子が思念を飛ばせば、……あの王さまも、おっもい腰を、上げて出てくる……はずよ。考えてることを、ただ剣に伝えるように、『イメージ』するの。……私がやれば、あの王さま、へそを曲げて来ないかも、しれないから……そうね、坊やが参加すれば、絶対釣られるんじゃないかしら」


「……え? ちょ、待ってくれ、イメージって言われても、その……ピンとこないん――」


「――迅雷の魔王について、考えてみなさい。きっとそれで充分よ」


他人を釣りの餌のように言う魔女に。

 だが颯汰は悪態つかず、導かれるように身体が動き、王子と幼龍の間に立った。

 魔女が両手を掲げると、剣も上昇する。そこへ三人と一匹がそれぞれの想いを浮かべては、手を剣に向かって差し出した。


 一人はエルフの国ヴェルミの現状を――。

 一人は魔族の国アンバードの惨状を――。

 一匹はこれまで見て来た世界と人を――。


 一人は溢れ出す感情、憎悪と憤怒を――。


 そして中天に差し掛かる光より眩しい星の光を剣が放つ、瓦礫が宙に浮いて粉々に消し飛んだ。当たりに埃と粒子をまき散らし、そこには薄汚れた玉座が現れた。

 その衝撃や現象に驚き、皆が少し身を退しりぞく中、颯汰は足元に建物の破片があって足を滑らせ尻餅をついてしまう。


 そして、それがついに始まった。


 ――それは、魂の記憶にき付くものであった。


 瓦礫の上、尻餅をついて“彼”を見上げた。

 煤塗すすまみれの金色の玉座の前、青空はいつの間にか暗雲に満ちていた。


「…………!!」


 キン、と甲高い、金属同士をぶつけ合ったような音が響く。最初は誰かがハンドベルのようなものを鳴らしたのかと思い、辺りを見渡そうとした。

 だがそうしなかった。

 否、出来なかった。眼前の光景に釘付けとなったからだ。


 何もないはずの空間に大きな亀裂きれつが入っていた。目の錯覚さっかくであるとうたがう前に、まるで傷痕きずあとのようなヒビが走り、そしてガラスがくだるのに似た音と共に、空間の裂け目が大きく開き、欠片は光となって飛散する事無く消散した。


 数秒が、まるで永遠と錯覚する程の、重く長い時間が過ぎるのを感じた。


 反射的に左腕でさえぎろうとするほどの眩い光と共に、空間の裂け目からは、全ての命を焼き尽くすような煉獄れんごくの炎がい出てきた。


 その姿は紅蓮ぐれん劫火ごうかを身にまとった真紅しんくの罪人。


 血色の鎖が全身に絡みつかせ、顔までおおう兜、鎧は紅く、黒く、そして輝きを放っているが傷だらけで、真紅のマントも痛んでいる。

 騎士と呼ぶにはあまりにも禍々(まがまが)しく、思わず平伏へいふくしてしまいそうな負の力が感じ取れる。

 その圧倒的あっとうてき存在感そんざいかんと空間からき出た強大なエネルギーの奔流ほんりゅうにより、誰もが気を失いそうになった。

 ひざを突きながらも必死にそれを見上げる。他の行動が全く取れないのだ。


 割れた空間からゆっくりと紅い鎧を身に纏った“王”が現れた。


 音を立てて鎖を引きずり、王が地面を踏む。瓦礫であるそこから炎が立ち上る。

 だが、まとわりつく鎖はまだ彼を自由にしない。


 這い出てきた者の姿は、決して神の使いや世界を守る存在ではない。

 逆に世界をあだなす者であることは一目瞭然いちもくりょうぜんであった。


 ――魔王だ……


 鞘のない身の丈ほどの大きな剣が彼の前に移動し、妖しく煌めく。熱を帯びた風で顔をしかめたが、目を反らすことはできない。


――それが、彼の王との出会い。


 最凶の魔王が隔絶された幾層の軸を越えて召喚された瞬間であった――。

降臨、満を持して。


ここから紅蓮無双が始まる予定ですが、

私が立てる予定だからあまり信用なさらないでください。



――

2016/07/01

一部修正。

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