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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
迅雷の魔王
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10 再会

 立花たちばな颯汰そうたは布と木材で出来た天井を仰向けで見つめながら悩んでいた。

 騎士学校の断りを言うために、わざわざ辺境の村であるプロクスから出発し、王都まで行くのは別段いい。

 問題の一つは置いてきた姉にある。

 居候先の少女で自称姉のシャーロットが拉致されかけた事件から日が経ち、近隣から騎士を呼び込み、村での警戒を強めた。

 その犯行を実施した傭兵団は、様々な罰を森から受けたが全員が無事であった(死にかけた者もいたが)。そんな傭兵を縛り上げ牢屋に収容し尋問じんもんを開始してもう終わった頃だろうか。そこからは大人の仕事で颯汰が出る幕はなかった。

 ちなみに不夜の森が赤く染まった原因もすべて擦り付ける事に成功したが、やはり独断で救助を決行した点は問題であり、きっちりしかられた。

 それで何が問題かと言えば姉が心配である事だ。

 颯汰は何故、彼女が狙われたのかが解せないでいた。思いつきで襲ったにしては帰りの準備までするほど計画的であった。

 口ぶりから、彼らが依頼されていた事までは颯汰も知っている。エルフの幼女に価値を見出したHENTAIが陰で糸を引いているとしたら、それはそれで心配の種となる。芽が出る前に早々に掘り起こして焼却したい気持ちだ。

 シャーロットの父であるジョージも殺意の波動に目覚めそうな勢いであったから尋問が拷問ごうもんへと変わる可能性はあるが、どういう意図でやったのか、もしくは他に首謀者しゅぼうしゃがいるのかなどを吐かせる事はできるだろう。

 今更、別の場所にいる颯汰が悩んでも仕方がない問題であるが、やはりそれが頭から離れないでいた。


 もう一つの悩みは颯汰の(数少ない)友人であるディムこと、ヴェルミの王子であり正統後継者たるクラィディム王子のことだ。なお颯汰が友人であるかと問われれば、きっと日本に居た頃と同じように必ず、否定するか返答をにごして曖昧あいまいにするだろうが。

 それで、これも颯汰が悩んだところで解決する問題ではないのだが、彼の境遇きょうぐうは重く、知れば心配になってしまうのは無理もない。

 彼の父である『ウィルフレッド=レイクラフト=ザン=バークハルト』は死去し、王座が彼に渡るものと約束されていたにも関わらず、姉婿であるダナン公爵が“歳が若い王子よりも自身の方が相応しい”と言った。確かに、ディムの存在が明るみにならなければ彼がヴェルミ王国の王として君臨するはずだったのだがそれにしても露骨であると誰もが思った。

 しかし、当のディム自身があっさりと譲り渡したのである。

 今はダナン国王が王都ベルンに座しているが、やはり反対派がそれなりに出てきて、きらびやかな世界の裏――脈動する影の中でいさかいが起きていたようだ。

 本人の口からではないが、ディムも何度かダナン派に殺されかけたらしい。

 王子と手紙のやり取りを何度か行い、そこでわかったのは『大丈夫?』と心配すると例え毒を盛られている最中でも『大丈夫』と強がる事だ。彼からは決して王都の陰で行われている醜い争いを手紙にしなかった。だが颯汰の耳に入り、問いただす文面を書くと、本人曰く「毒の耐性は高いからこの程度の量なら死なない」と返って来たがそんな訳があるはずなかろう。

 やはりダナン国王は、ディムが邪魔者として敵視しているようだ。

 王の死もダナンが絡んでるに違いないと颯汰だけではなく多くの民までもがそう考えている始末だ。

 さすがのクラィディム王子も、彼に王座を明け渡したのは失敗だったと痛感しているが、それを力づくで奪い返すわけにもいかず民にも見えない闇の中で争い続けている。王族の権力争いに介入する余地も力もないが、一人で抱え込むにしては余に大きく重い問題に、つい考えずにいられない。


 そう思えば、と颯汰は思い出した。ここ数月、マクシミリアン卿の容体が悪いらしく、手紙も代筆が増えていた。何か見舞いの品として土産でも用意すれば良かったと気づく。

 その事を浮かんだ時、連鎖的に彼の娘の事もふと思い起こした。王族であるディムとは昔会ったきりだが、手紙でやり取りもしていた。

 しかし、リーゼロッテとは一度も会っていないだけではなく、手紙もしたことがない。タイミングが悪いのか避けられているのか、マクシミリアン卿に会いに行った際にも会わずにここまで時が経っていた。

 二年ほど前に、王宮のバルコニーで演説をしたディムの成長した姿は見たが、リーゼロッテに至っては別れた時の幼い姿のまま更新されていない。髪と外套で殆ど顔は見えていなかったが。


 ――父譲りの双剣バーサーカーになっているかもしれない……


 一度、体躯より長い双剣を振るう女ゴリラの姿が浮かび、急いで霧散させる。あまりにも失礼な妄想だ。 


『突破するぞ、ついてこい!』

次に美しく凛々しい女双剣士へと成長した彼女を想像したが、それも何かしっくりこない。


 ――ないな。ないない


 身勝手で過ぎた妄想を中断したところで、身体は一切動かしていないのに揺れた。

 そう、最後の悩みはこの“乗り物”だ。

 颯汰は鳥獣ガルカーゴの引っ張る車に揺られて移動中だ。

 飛ぶよりも走る方に特化し、進化した魔物であるガルカーゴの――しかも赤いエドワゥ種と呼ばれる品種で、他のガルカーゴと比べると幾分か素早い。

 さらに通常のガルカーゴに比べると勇敢――というより脚に自信があるから魔物などの気配を感じてもさほど動じないで突き進むことが可能であった。

 今、手綱を引いている騎士曰く、三倍近く飛ばせるらしいが、さすがに話を盛っているだろう。


『(伝説の生き物である)サラマンダーよりもずっと――』


『――それ以上はいけない』


ピシャリと颯汰は騎士の言葉を遮る。トラウマが掘り起こされかけた。


 確かにエドワゥ種は素早く、横に空いている空間を覗く景色は黒の軍馬ニールの時よりも歪み、溶けては流れていくようにその目には映る(、、、、、、、)

 だが速度の分、揺れが尋常じゃなく吐き気をもよおすのだ。


 また、後に研究が進み分かる事なのだが、ガルカーゴの羽毛に含まれる微細な粒子――主に外敵から身を守るために出す毒が漏れ出て、それが人間の未熟な子ども(外見年齢)では“酔い”を誘発ゆうはつする。特に毒性が強いと判明するエドワゥ種のそれによって颯汰はグロッキー状態におちいっていたのだ。

 ちなみに毒は熱に弱く、よく火を通せば毒性は消えるので食べられないこともない。心臓ハツは知る人ぞ知る珍味であり、それ漬け込んだ酒はまわりが早く、すぐに酩酊めいてい状態となれるというが、颯汰には無縁のものだろう。


 高速で移動するガルカーゴ車に酔って天井を見るしかできない。

 酔い止めとして渡されたジフェンの実をせんじた苦い薬も飲んだが、効いていないのか、効いてこの有様なのかもわからず、気を紛らわせるために思考を現実から切り離すしかない。昔の事を考えすぎると揺れも相まって吐き気が強くなる。


 ――はやくおうちかえりたい……


 王都までおそらく一月も掛からず辿たどり着けるだろう。

 王都ベルンに到着した後は、まずマクシミリアン卿をたずねて、クラィディム殿下とは会えないだろうとは思いつつも一応向かう。騎士学校への転入を断る旨が書かれた手紙を用意した。

 行きは王都に用意されたガルカーゴに乗ったが、帰りはさすがに遅くなるだろうが馬で帰るべきだ、と思案していたが――それは叶わぬ願いであると颯汰は知る由もない。


 そして、


「やぁ、ソウタ。気分はどうだい?」


「――……で、殿下でんかァ!?」


 王都に着く前にクラィディム=レイクラフト=ザン=バークハルト王子と会うなんて、想像もしていなかったのだ。


 ……――

 …………――

 ………………――


「な、何故ここに殿下が!?」


「殿下は止してくれよ。僕とソウタの仲じゃないか」


騎士に到着だと言われ、身体を起こしたがそこは見知らぬ土地であった。

 キャリッジから見えるのは鬱然と広がる木々と山であるが、見慣れた不夜の森と違って何処か雰囲気が暗い。

 快晴であるのに関わらずそこだけ空気が冷めていて、切り取られた別世界となっているのを肌で感じる。

 颯汰は思わず持っていた剣の柄と鞘を掴んで身構えた。もしや――、と敵意を察知しようと神経を研ぎ澄ました。

 キャリッジの屋根の上で寝ている小さき白竜シロすけはまだ寝ているのか、警戒の声音も発しない。だとすれば敵ではないのか、と一瞬だけ気を緩めたがすぐに気を引き締める。その決めつけで足元がすくわれては洒落しゃれにもならない。

 呼吸を落ち着かせ、身体の各部位をチェックする。

 気分は最高とは言い難いが、最悪でもないと確認が終えると気配がする方を向きながら、馬車のキャリッジから飛び出して草原を踏みしめると、ぎょっとする。


 そこにいたのは成長して更に見違えたが、ヴェルミ国の王子だったからだ。


 かつて王都で会ったディム少年は今では颯汰よりも背が高い。エルフゆえに顔も整っており眉目びもく秀麗しゅうれいとは彼のための言葉ではないかと多くの人が思うだろう。

 青い大海を宿した瞳を持ち、金色の髪は風に撫でられる。あの頃の面影も残るが、立派な青年となっていた。颯汰よりも外見の年齢は二、三歳も上だろうか。声もすっかり男性のものとなっていた。


 輝ける星が今ここに君臨しているという状況に颯汰は混乱していた。



「……それでクラィディム王子、何故貴方がここに?」


「…………次、僕を友人として扱わなかったらプロクス村から徴収ちょうしゅうする税は七割増しで――」


「――悪魔かお前は! 村人が生活できねえよ!」


そう言うとディムは冗談だよと笑う。


 ――その冗談一つで村が滅びるんですがそれは


颯汰は呆れた視線を飛ばすと、クラィディム王子は真顔になって本題へ入った。

 整った顔に真剣みが加わると芸術的な美しさすらあった。


「ソウタ、頼みがある」


「……頼み?」


「一緒に来てくれ、シロすけ君が必要なんだ」


龍が必要。只ならぬ様子を感じ取り、颯汰は質問をする。龍の子であるシロすけを『竜神さま』以外で呼ぶ人間は彼と名付け親の颯汰ぐらいであった。名前を呼ばれて反応した龍の子であるが、遠目で拝見したのを覚えているのか訝し気ではなく、どちらかと言えば友好的な鳴き声で返していた。


「どういう訳だ? お前がここにいる事と関係しているのか」


王子に対する口の利き方に近くで待機していた計四名の騎士が動こうとしたがディムが手を上げて制止させる。颯汰も反射的に鞘に触れていた。

 質問に対しディムは頷き、身を翻して歩き始める。

 彼が向く先は、怪しい気配のする森――。


「もうすぐ、…………戦争が始まる」


ディムの返答に驚き声を失う颯汰。王子の台詞は続いた。


「アンバードが、攻めに来る。そして、それを招き入れようとする人物がいるんだ」


「なんだって!? そんなの……、……一体誰が!?」


幼龍はフワフワと飛びながら定位置に着地する。

 頭にと肩に圧し掛かった重みを颯汰は気に留めない。それよりも気になる言葉を待っていた。


「……ヴェルミ王国、現国王ダナンだ」


苦虫を噛み潰したような苦悶くもんの表情で王子はうつむいて言い放った。


「国王が……!? 何で国を治める王がそんな真似を!? 確かなのかそれは!!」


質問続きの颯汰に、ディムは悲しそうな顔で答える。


「アンバードに降臨した魔王の、力に屈したんだ……。()は、国を売って自身とそれに連なる者だけで助かろうとしている……! 大勢の、民の命を犠牲ぎせいにしようとして……!!」


握りしめた拳が怒りで震えていた。そこにあるのはダナンの身勝手さと、そんなダナンの方が幼いころの自分より優れた王として国を守れると思った無知さと無力さに対しての深い後悔と絶え間ぬ憤りだ。


「そんな約定、あの残虐ざんぎゃくな王が守るはずがないのに!! ……それでも、ダナンはこの国と僕の首を差し出して、迅雷の魔王の災いから逃れようとしている……!!」


王子がここにいるのは、その追手から逃れるためでもあるのだった。


「…………、それで、……何をする気なんだ?」


まさかシロすけと魔王を戦わせる気なのだろうかと考えた颯汰に対し、クラィディム王子はしば沈黙ちんもくをする。その答えを出せば、颯汰が協力を拒む可能性があると思った。しかし、そこで何か取りつくろう嘘を吐けば友情に亀裂が走り、彼は永遠にディムを憎悪するかもしれない。ならば、と彼は覚悟をする。もとよりその方法は、最悪を呼び込む敵に対して災禍をぶつけるといった大博打もいいところなのだから。

 そうして王子は斜め上の回答をする。

 それはこの世界で殆どの人間――特に王族であれば、彼の正気を疑う言葉であった。様々な意味でだ。

 そんなものあるはずがないと言う者もいるだろう。

 それが存在するならば、王位を生涯捨て去るのと同義であると知る者もいる。

 そして、その伝承の真実を知る者であるからこそ、それに賭けるだけの価値があると思ったのだ。



「伝説の魔王を、……蘇らせる……!」


振り向き、王子は宣言した。

 森の方から、不気味で生暖かい淀んだ空気が漂ってきた風に錯覚してしまうほど、立花颯汰の額や手は汗ばんでしまった。


ギリギリスライディング投稿。

次話、ついに物語の核たるもう一人の男、凶星の王が降臨(予定)。

来週までには投稿しますよ。


おっさんやイケメーンの登場ばかりでヒロイン・女の子の活躍が……。数話先になるかなぁ。

まだ冒険がやっと始まったばかりなので……、これからどんどん増えると思いますよ。




――――


2018/06/27

一部修正。

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