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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
迅雷の魔王
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01 異界の戦争(前編)

 白い闇が視界を覆いつくす。

 

 醒刻歴四四三年の“王の月”。

 異世界――クルシュトガルを形成する大陸の一つ、ヴァーミリアル大陸にて。

 今まさに、戦争が始まった。


 揺らめくはたが両陣を分かつ。


 一つは、自由を意味し、世界樹の頂に立つと言われる白き巨鳥フレスヴェルグの片翼。それかたどった紋章もんしょうが赤い地にえがかれた旗を持つ、平和を愛するエルフたちの国――ヴェルミ。


 もう一つは、リンドウのような淡い紫色の地の上に、中心にある白い球から周囲へほとばしたけき雷をえがいた旗を持つ、魔族とさげすまされた者たちの国――アンバードだ。


 ヴェルミとアンバードは長年お互いの思想や種族の違いから相容あいいれず敵視し、対立はしていたものの、直接戦闘は極力きょくりょくけ静観し合っていた。

 統治者とうちしゃの観点から国外に敵がいる事で統治がしやすいというメリットがある。例え存在しない敵の暴虐さや醜悪さを語れば、国や統治者に向かうはずだった不満やストレスが敵国に向けることができる。だが、お互いが滅亡するまで殺し合うのに何もメリットはない。かえって食料や物資の消費が激しくなり、その後に勝利した国が他の勢力や内部からの反乱にでもえば存続の危機に陥るからだ。

 多少の小競り合いはなかったわけではない。

 それでも互いにうまく立ち回っていた。

 ……だが、魔族を統べる王が変わってから戦争は始まってしまったのだ。


 ヴェルミでもベルンよりの地域で、荒地であるルベル平原にて、初めに攻勢に出たのはアンバードの魔族たちであった。先手を取り、敵国ヴェルミの国境付近の防衛都市――ロッサを潰しに掛かる。

 本来ならば朝の陽ざしが顔を出し、地上を照らしてもいい頃合いであるのに、突然の濃霧のうむに戦を仕掛けられたヴェルミのエルフや人族(ウィリア)の兵たちはさらに面を喰らう出来事に襲われていた。

 互いの国境となっている、赤褐色せきかっしょくの岩山の連なりであるエリュトロン山脈を背に、アンバードの軍はおよそ一万を優に超える人数で現れていたのだ。

 半年前、ヴェルミのとある貴族の領地の住人がこつ然と消え、失踪しっそうしたのを機に、以前から不穏な動きを見せていたアンバードの魔族たちに警戒けいかいをしていたものの、想像以上の敵の数にヴェルミの兵は動揺は隠せない。

 エリュトロン山脈のアンバード側、見晴らしがいい地点で待ち構えていたヴェルミの斥候せっこうの報告を、兵たちは誤報であろうと最初はあざけ笑った。そうして今、敵を前にしている兵士たちは報告を頭に入れつつも眼前の光景が信じられなかった。

 様々な声が飛び交う中、答えを探る時間は残されてはいない。白い視界でもはっきりと動く膨大ぼうだいな数の歩兵の影が見えているのだ。

 エリュトロン山脈は人が通れるような道は限られている。また道といっても大人が二、三名も横に並べば窮屈きゅうくつに感じるような荒れた岩山の道をあの人数で、かなりの速度で超えてきたのだ。普通ならば万を越える軍団ならばあの岩山を越えるだけで一日、二日をついやすだろうに、数刻もしないうちに超えられるはずがない。

 常識を打ち破る兵数の襲撃に理解ができず混乱が波のように後方へと伝播でんぱしていく。兵の総数はロッサよりも倍以上多い。

 そしてさらに連なる山を迂回うかいしたアンバードの騎馬隊総勢三中隊――約四百五十名と合流したのも確認された。すなわち、山の北部にあるヴェルミのとりで――ダラムを蹂躙じゅうりんし終えたのだ。


 ――なんて素早いのだ……!!


 兵の一人であるの黒狼騎士団の男はアンバードの行動の速さに戦慄せんりつを覚える。

 おそらく、ダラムを数日前から襲撃し、さらには兵の一人も逃がさなかったのだ。故にダラムが陥落した事はヴェルミ中に伝わっていなかったのだろう。半月ほど前に失踪したマクシミリアン卿もおそらく、既にこの世にはいない。


 ――しかし、それでもダラムの兵数はロッサよりも多かったはずだ、それを落とせたというのか!?


 ダラムに回すだけの充分な戦力もあったに違いない。いくら夜の闇に紛れた襲撃であろうと、最も魔族からの奇襲を想定した堅牢な砦を打ち破った事実に身震いが止まらないでいた。

 安寧の平和を受けて育った彼らと水面下で牙を研ぎつつ睨みを利かせていた魔族では、練度の高さが一枚も二枚も上手うわてであるのは当然のことであったが、それでも圧倒的な差を生む要因は別な点にあった事に、彼ら――ヴェルミの兵は気づかぬまま戦場で散る事になる。


 アンバード軍の先陣を切るのは誉れ高き騎士――魔人族メイジスと呼ばれる種族の者たちだ。褐色の肌にエルフに似た長い耳を持ち、天にまたたく星の川を思わせる白銀の髪を揺らしながら突撃槍ランスを水平に構えて進む。

 鉄色の鎧を身にまとかぶとの中から鋭い眼光で敵を射貫く。

 ダラムを襲撃し、勝った彼らの士気は疲労ひろうを感じさせない程に高まっていた。その騎馬隊を率いる騎士団長を先頭にして両翼の騎馬たちが斜めに並びついてくる形で展開されている。

『ランスチャージ』――馬の機動力から生み出された勢いをそのままとがった穂先に乗せて繰り出す刺突しとつの破壊力は絶大である。

 霧が立ち込める痩せた土の上、か細い草がまばらに生えている荒地を魔人族メイジスの騎馬隊が一気に駆け抜ける。いかに人の壁が展開されようとも、その両脇から突破し、背後から突いて包囲する。動揺している敵のつたない陣形を崩すのは容易たやすかった。

 見るからに精神的に折れた兵を見ながら、他愛もないと吐き捨てる魔人の騎士たちであったが霧にまぎれて前方から現れたヴェルミの兵を――その手ににぎっているやりを見て、騎士団長は号令をかける。

 騎馬隊は次々と左手で手綱たづなを引いて馬を静止させざる負えなくなった。

 騎馬隊の突撃槍ランスの長さは三ムート(約三メートル)ほどであるが、現れた新手のヴェルミの兵の手に持っている槍は優に六ムート(約六メートル)は超える長槍――パイクであった。霧の中でもわざと見えないように槍の穂先を前に向け、水平にして構えていたのだろう。また、穂先を土で汚して目立たないようにと徹底的てっていてきだ。

 出現した二百数名ほどのパイク兵は、騎馬隊が退く前に一気に近づいて馬を貫くつもりだったのだ。それらは見つかった今も変わらず、俊敏しゅんびんに戦場を駆けて騎馬隊へ向かう。


「全身鎧と身を隠せるほどの大楯を持ってあの身のこなし……、エルフではない。人族ウィリアの兵か……!」


魔人メイジの騎士たちは、もし敵がパイクを掲げて歩いていたならば、警戒してそこまで接近しなかっただろう。

 更に、数は少なくとも自分たち(メイジス)やエルフを越えるフィジカルとポテンシャル――鬼人族オーグと並ぶと噂される人族ウィリアと正面からやり合うのは避けたかった。――実際鍛えた精鋭の黒狼騎士団所属の人族ウィリア鬼人族オーグと渡り合える実力はある。


 ――何あの蛮族、超怖い


 全身を黒の鎧で武装した人族たちはパイクを威嚇いかくとして使わず、霧の中で槍を隠し、危険をおかしてまで敵である騎馬隊に接近し、それを討ち、敵軍の士気の低下と自軍の絶望的にまで下がった士気の回復を謀って飛び出してきたのだ。霧でアンバードの騎士たちにはまだ視認できていないが、後方から更に援軍が飛び出していた。

 騎士団長が先頭に進む事で更に上がった士気は、騎馬隊を潰す事で一気に下がり流れは変わってしまうかもしれない。普通ならば騎士達はここは一時的にでも退くのが賢明けんめいである。――普通ならばだ。

『人族のパイク兵の精鋭が集まっている』――密かに侵入させた間者の情報通りで、隊を率いた先頭にいる騎士団長は一瞬だけ驚いたが、すぐにほくそ笑む。無意識に表情に出ていた。


――今こそ、“試すとき”である!


「イグナイト隊! 第一準備ッ! かまえッ!」


 騎士たちは騎士団長の号令により陣形じんけいを変え、横並びとなった。一歩たりともすり抜ける事敵かなわぬ数百の人馬は壁となる。そして、半数近くは馬から降りて、馬の前に出て槍を構え始めた。騎馬隊は元から盾も持たずに鎧と槍だけであるから、人族もエルフもその行動の意味を理解できなかった。馬を降りる理由と、迎撃げいげきするのに盾を持たない意味が分からない。その不可解な行動ににパイクを持った人族は驚きはしたが、隙を見せまいと突撃を再開した。今は長槍の範囲外であるが、少し詰めればで一刺しは余裕に入る距離だ。

 しかし、人族の兵たちがここで敵を倒す、退しりぞけるために前に出ようが、警戒して退こうが結果は変わらなかっただろう。アンバードの魔人族メイジスたちの持つ『手』はどこまでも長く、命を刈り取りにせまるものとなっていたのだ。


 魔人の騎士たちは槍を掲げ怒りの声を上げた。魔族とさげすまされた者たちの怒りが、慟哭どうこくが、その双眸そうぼうに宿り、白い結膜けつまくが黒く燃える。純血の魔人族の特徴で感情がたかぶるときや集中するときは目が赤い部分はそのままで、白から黒へ変わるのだ。

 そして隊をひきいている騎士の掛け声と共に全騎士が突撃槍ランスを再び水平に構えた。覚悟を決めて捨て身で来ると思った人族は突進を止め、その場で待ち受けるべく立ち止まって長槍を構えた。わざわざぶつかり合う必要はない。突撃槍の倍かそれ以上の長さのある槍で獲物を待ち受けるだけでいいのだ。例え今から騎乗し捨て身で迫ろうとも最悪相打ちで倒せると踏んだ。……だが。


「――放てぇぇえッッ!!」


騎士団長の号令の直後、聞きなれぬ破裂音はれつおんのようなものが幾重いくえに重なる。人族ウィリアのパイク兵たちは、何が起きたか理解できずにいた。気が付けば視界がゆがみ、意識が遠退とおのいて行く。当たり所がある意味で悪かったため生きていた一人の兵は『撃ち抜かれた』大楯と肩を見て愕然がくぜんとしふるえる。


 ――何が、一体何が起きているのだ!?


 にじむ血と熱くなった傷、それで冷たくなる身体に、思考は正常に働かない。まさか魔人メイジスである彼らは失われたという“魔法”を復活させたのだろうか、と遥か昔に聞いた寝物語の“神秘”を連想させていた。それくらい、理解できないものに対して対応ができずにいたのは仕方がない事であろう。

 人族の、動きが止まる。見るからに効果てき面であり、騎士団長は続けて声をあげる。


「第二射!! 放てぇぇええッッ!!」


直後に馬上から響く音と溢れるけむり。その正体は騎士達の槍から発せられていた。そこに気づいたからといって一介の兵は何が起きているのか、あの武器が何なのかを全く理解できていない。ただ一つ分かるのは、あの音が聞こえた時、誰かが死ぬということだけであった。

 騎馬隊の持つ突撃槍ランス――その握り手を守るバンプレートの装飾そうしょくの一部に見えた穴から、銃弾が放たれたのだ。

 敵も、撃った騎士たちも、銃声と悲鳴の協奏曲コンチェルトの後に訪れた、一瞬の静寂せいじゃくに呑まれた。

 一列に構えた三中隊の騎士達から放たれた弾丸によって、二百名を超える人数に増えていたパイク兵のほとんどが息絶えた。残った者は戦意が喪失そうしつした案山子かかし同然であった。


「最早、敵は瓦解がかいした烏合うごうしゅう! 潰走かいそうしている兵を一人残らず打ち倒せ!」


敵兵がひるんだすきに騎士団長は突撃槍をかかげて叫ぶ。


「いざ突撃! 我らの敵を蹂躙じゅうりんせよッ!」


突撃の令を出し自ら前に出ると、数瞬遅れて騎兵たちがときの声をあげる。降りていた兵も馬を駆り、その背中を追いかけるように動き出した。――戦の流れは、誰の目から見ても明らかであった。

結構前、現在掲載されている“00 異界の伝説”より前に書いてたやつ。

それをほぼそのまま引っ張ってきたものです。

前章の前置きが長いので、はやく異世界で主人公戦えよと思った方がいたと思います。私です。

なので一応、ここから読んでも大丈夫なように意識して次の次の話からは書こうかなと思っています。

ここ数日ほど風邪で自宅療養していたので一日一話のペースでしたが、

さすがに明日or明後日以降はペースが落ちると思います

(咳と喉の痛みが止まらないけど出ろという圧力がかかりました)。

何卒宜しくお願いします。


(あ、感想や評価、ブックマークなどのアクションを取ってもらえるとチョロいのでたぶんペース上がります)


2018/06/13

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