表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
輝ける日々
432/435

05 黒い血

 廃城はいじょうの地下深く――。

 天然の洞窟どうくつ侵食しんしょくするような形で、機械が並んでいた。

 この時代にそぐわない製造工場。

 人の手も借りず、自動化したそれらは勝手に動き続けていた。

 そこへ突然の発火で、一定間隔の音だけが響いていた地下が騒然となる。

 さらにそれは災害ではなく、悪意によって成り立ったと判明した。

 侵入者の確認、攻撃を受けたという報せを受け、洞窟内に警告音が鳴り響いた。

 いきなり投げ飛ばされた勇者リーゼロッテは闇の中へ降り立った。

 辺りは暗くて見通せないが、広大な地に着いたとわかる。

 警告ランプの赤い光が届かない暗闇に、光る赤い眼たちに囲われていた。

 うごめく悪意。

 耳障みみざわりな駆動音くどうおん

 足と地面がぶつかりかなでる甲高い金属音。

 八匹の“鉄蜘蛛テツグモ”――幼体と呼ばれる型の殺戮兵器さつりくへいきたち。

 幼体と言っても人体より一回り以上大きいモンスターマシンだ。

 それらが獲物えものを囲んでいた。

 正確に言えば、侵入者を抹殺まっさつするためにやって来たのだ。


「ここは“鉄蜘蛛”の巣――製造工場? というらしいな。まさか地下で敵が自動で造られつづける場所があるとはな。おどろいただろう?」


 悪魔か貴様。

 魔王でした。

 勇者として本能――魔王への殺意から道を外してしまう事を恐れた彼女(リズ)のため、紅蓮の魔王が用意したメンタルトレーニングがこれである。


「ここではどうやら、幼体と呼ばれる個体しか製造されていないようだ。残念だがな。ただ幸運なことに、それらどんどん生み出され続ける。まずはそれらを蹴散けちらすのだ。最初は魔力は使うな。まずは準備運動がてら、たわむ……戦うといい」


 戯れと言いかけていた。

 そこに関して抗議こうぎする余裕よゆうは無い。

 彼の言葉が終わる前に、鉄蜘蛛たちは動き出していたからだ。

 む機械の魔物。金属のするどあし先で人体をつらぬかる。

 ガコン、と大きな音を立てる。

 巨体にし掛かられただけで致命傷ちめいしょうとなりる質量である。

 リズはすんかわしながら、斬撃を加えた。

 何も持たない徒手空拳としゅくうけんに見えたが、リズは不可視ふかし星剣せいけんにてりつけた。

 普通の金属ではつのがむずかしい堅牢けんろう装甲そうこうであるが、やはり可動部分のある関節などは、幾分いくぶんかはやわらかい。

 正しく目の利かぬ闇の中であっても、リズは正確に敵機の可動部を切断する。

 ななめに切り上げられ、痛覚も感情もない機械であるのだが、おののく。脚が一本切断されたことによりバランスがわずかにくるい、想定外の事態に混乱こんらんが生じたためか。

 両の手ににぎられた双振ふたふりの鎌剣れんけんを並んだ脚に引っ掛け――機械の脚を利用、さらにうでの力で身体を持ち上げ、のぼる。

 星剣の力を着々と使いこなしているリズは、鉄蜘蛛の身体をび、縦回転から双剣を鉄蜘蛛の背部にたたきつけた。

 背面の装甲をやぶり、リズは鉄蜘蛛の内部機構を深く損傷そんしょうさせたのである。

 今のリズにとって、機械の兵器たちなど敵ではなかった。単体ならば。


「あぁ、仮にあの者が害をそうとした場合、私が全力で止めに戻るから安心していい」


 何か上で言ってるけどリズは聞いていない。

 全力で命をみ取りに来ている殺戮兵器複数体を相手に、さすがに余裕がない。

 あの者とは、首都バーレイにて颯汰と相対している新手の魔王のことだ。

 心配でわだかまりが残る。心残りというやつだ。

 ただリズ本人は、内面の必死さに反して身体はしなやかに、華麗かれいに動けていた。

 おどるように、美しく敵を死へとみちびいていった。

 地下洞のここは広くても、屋内であるのと誤射ごしゃ誘爆ゆうばくの危険性から、鉄蜘蛛たちはビーム砲撃は使用せず、粘着弾ねんちゃくだんも味方に命中するだけであった。

 仲間同士であれば粘性ねんせいの物質がバラバラに解けるようにはなっているが、着弾した瞬間から粘着物が消滅していくわけではない。そのわずかな時間だけでも動きが低下する、あるいは視界が有効に働かない。そこが狙い目であるのだ。


「…………」


 呼吸の音が少し大きくなる。

 敵のむくろが辺りに転がる。

 どれも破壊され、バチバチと配線から火花が散っているのが見える。

 魔力に頼らずほぼ自力でリズは鉄蜘蛛を全滅させた。


「……」


 自身はきずつかず、一方的な破壊を敢行かんこうし切ったリズであるが、まだ力を使い果たしてはいない。軽い運動というには幾分もヘヴィなものであったが、無事に乗り越えてみせた。


「ウォーミングアップはここいらで良いだろう」


 リズは遠距離攻撃を欲した。

 上から腕を組んで見ているだけの男をそろそろち下としたい。


「やれるものならやってみるといい。投擲とうてきの練習もすると、いざというときに助かるだろうからな」


 すごいむかつく、とリズは思った。

 実際、戦闘においてリーゼロッテお嬢さまは、剣以外はわりと残念な子である。

 身体を動かすことは天性の才でどうにかなっているが、他の近接武器もあまり得意とくいではない。弓矢もどこへ飛んでいくか分からないので、本格的にやるとしたら根気こんきづよが必要だろう。リズ当人も結構、気にしているらしい。


「どうだ気分は。身体を動かして、変化はないか?」


 紅蓮の魔王が問う。

 リズは、少し考え込んだ。

 自分自身との対話を試みるように内面を探り始める。

 ……心境の変化こそはないが、戦うことに夢中であった。

 いかりやにくしみ、がれるような殺意をわすれていたとは言いたくはないが、そこに固執こしつすることなく眼前の物事にだけ集中できた気はしていた。

 やはり、怒りや殺意といった感情は戦いのさまたげになるのだろうか。


「…………」


 感情のない武器として振る舞えたならば、どれだけ良かっただろうか。


「いいや、感情は無くしてはならないものだ。それでは人間ではなくなる」


 当たり前のように言葉を口にできないリズの考えを読んでいるのは、“契約者”越しに言葉が伝わっているからだと思われる。不気味な男はさらに続けた。


「心のない武器なぞ、あの少年は求めていない」


「……」


 この男の発言はまとている。

 戦うだけの道具なんて、颯汰は求めてはいない。

 それをリズは心得ている。だが、自分がこのくるうような殺意をおさえねば――感情を消さねば、いつか歯車が狂ってしまう。

 最期の瞬間まで共に在り続けるためには、無くさねばならない。

 そう強く感じていた。


「……戦いの中で答えが見つかるだろう」


 今の彼女に言葉をくしても届かないと早々にあきらめたのだろうか。

 紅蓮の魔王のその言葉は、一見すると投げやりになっているように見える。

 だが、これはマジの本音である。

 自分がそうやって見つかったのだから、彼女もまた見つけられるだろうという類いのアレだ。これだから人の心が希薄きはく怪物かいぶつ厄介やっかいとなり得る。


 彼女は非常ひじょうに不安定な状態にある。

 それは精神性の話ではなく彼女のり方が、である。

 勇者の力と●●の力。

 相反するものがけ合うことなく一つの身体にある。

 紅蓮の魔王とも境遇きょうぐうだけは似ているが、まったくちがう。

 でも必ず彼女(リズ)がその力をモノにできるし、己の中に生じる本能さえぎょせると信じている――上方じょうほう腕組み師匠面(ししょうづら)浮遊(ふゆう)おじさん。

 

「……む? 敵が来ないな」


 工場は一旦いったんストップしていたのが、戦闘途中に再開されたため、改めて敵機が生産されているものだと思っていたが、敵機がやってこない。

 紅蓮の魔王は目論見が甘かったのだろうかとあごに手を当てて考えていた矢先である。

 

「!」


 リズが気配を感じて飛び退いた。

 ぞわっとする感覚が、足元からやって来る。

 軽やかにステップを踏んで、元居た場所を見る――。

 地面の色が変わった。暗がりでもぼんやりと色づく白とだいだい

 赤熱されて融解ゆうかいし、光線が踊る。

 地面から伸びた光が足場である金属を破壊し、紅蓮の魔王のいる空中どころか、本来の洞窟の天井まで届いた。

 魔王が手をかざして光線を障壁バリアにて弾いていたところ、リズのいる床の金属板に変化が起こる。


「――!?」


 下から伸びた光によってバラバラに切断された足場が落下する。リズもまたさらなる地下へ深くみ込まれていった。

 床がくずれ落ち、天井から瓦礫がれきとなって降り注ぐ中、リズも一緒になって落下していく。

 再び自由落下から、風魔法にて着地をケアしようとしたが――敵意が殺到さっとうしてきたのであった。

 地下からリズのいる足場を狙ってビーム砲を撃ってきた鉄蜘蛛の大群。

 それらが落ちてくる外敵を排除はいじょするために、砲撃ほうげきを開始した。

 後部を変形させ、ビーム砲を展開し、狙い撃ち始める。

 少女に目掛けて、光が飛び込んでいった。

 リズは落ちる瓦礫をって位置をずらしながら、トリッキーな動きで翻弄ほんろうしつつ、落下際には敵機へ飛び込んで破壊する。

 慣れたものだ、と紅蓮の魔王が感心して肯いている。かなりうざい。

 天板が落下したことにより発生する塵煙じんえん。敵機は暗視機能が付いた視覚センサにて姿を捉えていたはずだというのに、リズは闇にじょうじるように敵機をこわしていく。

 敵の数は、膨大ぼうだいだ。

 十数で済まないかもしれない。何十もの機体がいるかもしれない。

 さらに広大な地下が広がっているのも異様であり、先ほどよりも真っ暗で赤い光る眼だけがおびただしいほどに映って正しく状況が把握はあくしづらい。恐怖しか感じないような光景であるが、リズはまよわなかった。ウォーミングアップが済んだなら、本気で戦ってもよいと判断する。

 身体能力に加え風による飛行にて、三次元的立体機動で鉄蜘蛛たちを翻弄する。

 まるで羽でも生えているかのように宙を駆け、敵を破壊していく。

 当然やられっぱなしというわけにはいかない。

 闇を貫く光線の嵐。鉄蜘蛛たちの狙いは正確であった。

 何十もの放射された光はあみとなり、のがれることはできない。

 ついに、リズも捕まった。


「!」


 リズの肉体を焼き切るはずの熱光線。

 しかし、届かない。

 暗闇よりも深い黒。

 どろりとしたのろいがあふれる。

 粘性ねんせいの液体がリズの右腕からい出る。

 それがリズの身体を保護する防護フィルムのような役割をたしたのである。

 鉄蜘蛛の電脳に、新たな警報情報が加わる。

 侵入者を侵略生物と断定し、徹底的てっていてきに排除を試みる。それはこの生産施設()がどうなっても構わない、この場が崩壊ほうかいしてでも敵を誅戮ちゅうりくする、と巣にいる全機体が捨て身で立ち向かうと決めた瞬間である。

 鉄蜘蛛たちのカメラアイで捉えた侵略生物は、“黒い血”を流していた。

 深い闇に光沢が生まれたように白いつやが見えた。

 汚染された黒泥コクデイと似ているがことなるもの――。

 それこそが、つみなき少女にめ込まれた大罪たいざいあかし

 彼女の秘密。

 知られたくない過去。

 そしてこの星をむしばむ“呪い”の源流ルーツ

 溢れ出た濃密な“黒”は両袖から双鎌剣そうれんけんつつみ、不可視の存在を徐々にあらわにしていった。

 したた漆黒しっこくを振るい、リズは敵機を両断する。

 比較的柔い場所ではなく、そのまま一撃で兵器を断ってみせた。

 リズが次々と、敵機を破壊していく。

 さながら、死の風を運ぶ者だ。


「……!」


 着地と同時に敵機をくだき、敵の猛攻もうこうを切り崩して踏み込む。

 一挙手一投足、何かをやる度に敵機が壊れ、動かなくなる。

 まぎれもなく、幼体であろうと鉄蜘蛛は殺戮兵器である。

 人類にとって脅威きょういとなっているそれらが、今のリズにとって動く木偶でく扱いであった。

 それが、たまらなく――、


「悪い顔になっているぞ」


「!?」


 紅蓮の魔王の指摘してきで正気に戻るが、黒い液体は急に意思を持ったように動き回る。ぎょせぬ生き物、へびか何かのようにのたうつ。

 リズは自分が倒した鉄蜘蛛の遺骸の影にかくれて攻撃をやり過ごしながら、消えろ消えろと心の中でとなえておさえ込もうとする。かべとなっている残骸ざんがいにその黒い流体をぶつけたり、指でまんで引き千切ろうしても、無駄であった。

 黒い血はひんやりと冷たく、気持ちが悪い感触があった。

 紅蓮の魔王の一言が無ければ、リズは道を踏み外していた事だろう。

 だが今は別件で危険な状況になっていた。

 気を抜けばこの黒い血が制御せいぎょできずに暴れ出して、誰かを傷つける事と大切な人たちに嫌悪けんおされることを、リズは心から恐れていた。

 また、こののうわたるような悦楽えつらくまれかけることも同様だ。

 こんなものを感じる怪物になるくらいならば、感情なんて要らない。

 

「好意も感情であろう――おっと」


 なんか余計なことを言ってくる怪物にリズは鎌剣を振るった。

 これも感情的になっている証だ、とはさすがに言いすぎと思って心のおくにしまいこんだ。

 リズは紅蓮の魔王を直接斬りかかるのではなく、黒い液体を衝撃波のように放ったのだ。

 当たる気配がない。紅蓮の魔王がおっと、と口では言ったもののける動作など必要なかった。へたり込むように座っているが、立っていても結果は変わらなかっただろう。


 地面に滴り広がる黒。

 あふれる黒い血の量は増えていくのに、どんどん熱くなっていく。

 水面からにゅろにゅろとタコみたいな触手しょくしゅが出てきたり、黒かったが白骨化したヒトの腕が飛び出してきたのを、リズは懸命けんめいに押し戻そうとする。

 これらの存在が本当に不気味であり、認めたくない異形なる力であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ