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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
輝ける日々
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02 見て、考えて、判断する。

 時はさかのぼること昨日さくじつ

 突如とつじょ現れた“魔王”が鉄蜘蛛てつぐもを撃破した直後である。

 爆風が周囲の空気を焼き、空まで熱まで届く。

 あらぶる風がかみみだし、空に居るふたりにも伝わった。

 風魔法によるサーフボード型の乗り物が、衝撃でれ動く。

 荒波だって乗りこなせる気概きがいであっても、今の勇者は最高で最悪のコンディションであった。

 本能のまま疾走しっそうすれば、誰よりもわたる剣技にて魔王を圧倒できる。

 だが、そうすると背後にいる少年が悲しむ事となるのは明白だ。

 ゆえに彼女は、本能にさからい続ける。

 強く刺激する殺意を懸命におさえるのは至難しなんわざであった。

 歯をいしばり、視線が勝手に向くが脳内のうないで別の事を考えて紛らわそうとする。『寝顔、寝顔、寝顔。よし、大丈夫』。全く大丈夫そうに見えない。

 魔王なんて加減して戦えるような相手ではない。かと言って本気で行けば誤って殺害してしまう恐れがあるし、見せたくない姿(、、、、、、、)さらす事となる。

 討伐とうばつして仮にソウタが望む『転移の固有能力(イデア・スキル)』持ちであれば、彼は二度と元の世界へ戻れない事になる。『……あれ? 別にそれって何一つこまらないのでは』頭の中で悪魔がささやいた。これはいけない、天使も何か言ってあげて。『っちゃえ殺っちゃえ』。あ、ダメだ両方とも欲望と本能に忠実すぎる。

 少しばかり真実と願望にれ、ますますリズは冷静さが欠けていた。強く、気がくるいそうな衝動を消し去るには、やはり根本となる原因を取りのぞいた方が手早くおさまるだろう。

 リズがかろうじて理性を保ちながら己の内面で戦っているとき、外敵から声がする。


『ほう。貴様がこの国の魔王か』


 空にかぶ魔王が勇者の背後にいる颯汰を指さした。

 岩石と鉱石が組み合わさったゴーレムを、シュッとスタイリッシュにしたような戦士――背部のエメラルドグリーンの翼を広げたままたたずむ魔王。

 単独だと素朴そぼくな感じであるが、宝石のきらめきを有した外装を身にまとったことでヒロイックな外見となった凄まじき戦士が、颯汰に問う。

 一触即発いっしょくそくはつの空気であり、状況はあまり良くない。

 ここに現れるならば、理由など『他の魔王を倒して願いを叶える』つもりだろう。七柱の魔王によるけられない殺し合い。

 一体、誰が何のためにそのような仕組みを作ったのか――。


 ともかく、最初に思いつく理由はそれぐらいだ。

 うらみを買う事はしてないとは言い切れないが、勇者と魔王の存在を認知しつつ攻め込むという蛮行ばんこうという名の自殺行為など、普通は考えられなかった。

 しかし、現れた戦士は別の目的を口にする。


『貴様が真に正しいのか――正義であるのか、俺が見極みきわめてやる!!』


 変化はまるで見えないが、クワッと表情が強張こわばっているような感じがした。


『来るか――ッ!?』


 颯汰が敵から放たれる強い圧力プレッシャーから、戦いが始まる予感がした。リズは見えない星剣を出現させ、臨戦態勢を取る。敵が襲ってくるならば迎え撃つしかなくなる。

 しかし、魔王は動かなかった。

 ジッと見つめ、隙をうかがっている。

 颯汰たちも敵方の一手を見極めるために先手ではなく、待ちを選んだ。

 敵はそれでも動かない。

 風の音がする。

 下界の喧騒けんそうが遠い。

 いくさただよう死の気配――めた空気が流れていく。


『…………』


『……』


『……』


『…………あの』


『どうした』


『いや、なんで腕組んだまま空に浮かんでるのかなって』


『? 言っただろう! 貴様が正しいか、見極めると!』


 発言こそ妙に高圧的な魔王。

 コイツまさか……、と思った颯汰が質問を続ける。


『見極めるって、具体的にどうするつもりなんです? というか正しいって何んですか?』


 彼の求めている正しさの基準がわからない。

 正義なんてカタチが無いのだから、曖昧あいまい宣言せんげんであった。


『貴様が正しい魔王であるか、俺が見て判断はんだんする!! つまり、今この瞬間から、貴様の行いを俺は見続けるというわけだ!』


 まさかのまさかであった。


『えっと、待って、どういうこと? 何? ずっと見てるの? 結構キモい宣言だぞ?』


 肌が薄ら寒くなる感覚がしたのは、上空にいるからではない。

 戦いの気配と感じたのは、颯汰から『正』か『悪』かを見極めるために、魔王があまりに強く気合を入れたからなのか。そんなバカな。


『……いや冷静に考えたら、正義かどうかって殴り合い殺し合いでわかるようなものじゃないしな』


 正義を込めた鉄拳も、邪悪な意思で放った銃弾も、どれも誰かを傷つける。

 それで思想などわかるものではない。

 振るわれた拳が泣いている、と言う表現もあるがそんなもの読み取れる人間はいない。


『……というか俺、魔王じゃないんだケド、……って言って話が通じるんだったら簡単か』


 颯汰のそれは返答というより自問自答である。

 話が通じ無さそうな雰囲気ふんいきが強い。

 おそらく『悪』と断じたら最後、問答無用で襲ってくるにちがいなかった。

 ヒロイックな外見であるため、正義のヒーローを気取りたいのだろうか。

 正義は暴走しやすいという。

 正しさという理由で人は残酷になれるとかは、よく聞く話だ。

 悪いことをしたモノがイケないのは当然であるのだが、当事者でもないのに火を付け、おどらされてたたき、娯楽ごらくのように消費するのは如何いかがなものかと思える。人間とは自分が正しいと思い込んだものだけを信じ続け、場合によっては他者を攻撃・排除までするのだから度し難い。

 根も葉もないでっち上げなのではないか、と情報をきちんと精査せいさする必要もあるだろう。この魔王はおそらく、精査の段階に入っている。


『なるほど』


『なるほど。…………なるほど!?』

 

 魔王は腕を組みながらうなずいていた。

 颯汰の自身は魔王ではないといううったえが、通じるとは思わなかった。

 何度も合点がいったと納得するようにうなずいてから魔王は答える。


『気配が違う。むしろあっちに飛んでいる金髪の方がそれっぽいな』


 迂回うかいしながら飛行をして、場合によって奇襲をかけるつもりであった紅蓮の魔王を、彼は目線で示しながら言った。


『だが、貴様はなぞが多い。とても不思議で強大な力を持っている。あの映像、観させてもらったぞ! そっちの娘が、勇者であるとも放送()ってもいた』


 映像とはもちろん、勝手に紅蓮の魔王が首都中(どころか自国中と隣国までにも)放送した編集されたモノを指す。

 颯汰たちが鉄蜘蛛――白の巨神ギガスと戦っている間に、この男が入り込んでいたことが明らかになった。自国のセキュリティを見直す必要があるだろう。


『…………。それで、あっちが本物の魔王だケド、あれを監視かんしする? それなら全然止めませんが』


『いいや、俺は貴様が正義であるかを確かめに来たと言ったはずだが』


『……魔王だから、観るってわけじゃないのか』


 目的はあくまでもアンバード国王(立花颯汰)だと言う。話が通じ無さそうな男も、理由を知りたいと気づいたのか自己紹介を兼ねて語り始めた。


『俺の名はマウリシオ。マルテ王国の戦士だった(、、、)


『!』


 出身で理由が見えてきた。目線が一瞬だけ横にいく。

 颯汰は別の意味で喉が渇いてきたのを感じる。

 自国のゴタゴタでいそがしかったが、マルテ王国との因縁は続いている。


『任務の途中、ちょっとした事故で俺は死にかけて“魔王”に覚醒した。急に前世の記憶とか特別な力とかを授かったけど、思ったよりすんなり受け入れられるものなんだな。てっきり、前世と今の二つの人格が争って頭おかしくなるとか、ちょっとそんなイメージもしてたんだけど』


 魔王になった者は、この世界の記憶を有している『別人』になる印象であったが、綺麗に溶け合うらしい。全員がそうなのか、彼だけがそうなのかも今は確かめる術はない。


『任務内容はヒルデブルク王女の奪還?』


『あぁ、そうだ。転生者(マオウ)であるからと言って、すぐ仕事を放っておくってのもな。昔に世話になった人もいるし、恩返しがてら任務続行というわけだ。ただ……』


『ただ……?』


 あごに手を当てて首を少し傾げた魔王が、少し考えたような間を置いたあとに語りだす。


『噂に聞いたほど、貴様が悪い奴じゃないようだから、困っていた』


『困っていた、か』


 堂々と言い放つ。

 確かめる判定になったのは一旦、大きいとして颯汰は捉えた。

 即座に『悪』と認定されていた場合は、対話など無かったのだろう。


『最悪の魔王が姫をらい、それをダシに我が国をおどした、と国中にささやかれていた』


『見方によっては間違いではない』


『だけど見方を変えると違うものも浮き出てきたってもんだ。故に、俺の目で見極める必要が生じた』


 邪悪な王をつという名目で高まった士気。

 エサをぶら下げれば食いつくといった感じに、政府が国民を操る。仮想敵を憎ませ、自国の政治への不満のけ口へと変える手法はどの時代でも変わらないものか。

 ……実際、王女が嫌だといって脱走したが、他国に囚われているという解釈かいしょくになんら間違いはない。


『……ウチの勇者が苦しそうだから一旦地上で話さないか』


 このまま駄弁だべっていたら、いつリズが暴走するかわからない。

 ただ対話の意思があるならば、続ける必要が生じていた。

 時間稼ぎではなく、情報を引き抜くためだ。

 敵として立ち塞がるにしても、それは貴重な情報となる。


『ん。あぁ、わかった。ずいぶんと顔色が悪いしな』


 あっさり了承りょうしょうする魔王。

 颯汰は後ろからはリズに声を掛けた。


『古城に戻ろう』


 リズは荒い呼吸のままうなずき、方向転換をしてから移動する。

 速度は向かった時より遅いのは、不調というよりも一応案内をしているからである。

 背後を飛びながら付いてくる魔王。

 颯汰は少し後ろをチラッと見ながら心の中でつぶやく。


 ――……普通についてくるんだな。背後から襲う気もない


 あえてすきを作っているが、乗ってこないのか本当に戦う意思がないのか。それすら見抜いて乗ってこないだけか。重要なのは首都の真上での戦闘を避けることと、彼が颯汰の『目的の魔王』であるかを確かめることにある。


 ――やつの能力が異世界に人間を召喚しょうかんするたぐいなものであれば……


 簡単に聞き出せるようなものではないだろう。それに偽の情報を提示する可能性だってある。

 慎重しんちょうに多くの情報を聞き出して判断すべきだ。

 一行は古城の門を越えた辺りに着地をした。

 ある程度開けていた場所であり、紅蓮の魔王からも援護が受けられる状態だ。

 アスタルテたちは事前に避難ひなんさせているため、もしも襲ってきた場合は気兼きがねなく対処できる。

 遅れて着地したマウリシオと名乗った青年は王権をいた。ベルト型のそれも光に還って消えていった。

 現れた好青年から、陽キャの気配がただよっている。

 颯汰はどちらかと言えばいんの者寄りではあるが会話はこなせるタイプで、陽キャラ相手でも立ち回れるような男ではあった。苦手意識はギャルよりは無い。

 値踏ねぶみするほどではないが敵を観察しつつ、リズの様子も見る。

 王権を解いたことにより、少しリズの呼吸が楽そうになっていた。

 だが、内面では抗い難い衝動がついて回っている。

 颯汰がこの魔王と“契約”し、命を結べば同じく“契約”が結ばれているリズの衝動は大幅に軽減されるが、互いによく知らない間柄あいだがらでそのような事もできるはずもなかった。


「なんでそんな風になっているの?」


 マウリシオが問う。

 先ほどの姿のときと、少し雰囲気が異なっていた。

 意図的だろうか。ヒーロー時は強気で、通常時は優男的な?

 そのこだわりなんてどうでもいいが、彼の口ぶりからどうやら事情を知らぬようなのがわかった。勇者は世界でふたりだけで、そのふたりがアンバードに居るのだから、他所から来た魔王が知らぬのも当然であった。

 説明をすべきか一瞬考えたとき、そこへ紅蓮の魔王が合流してきた。飛行して降り立った神父の格好かっこうをした怪物かいぶつはマウリシオを一瞥いちべつしてから、リズと颯汰に近づいていき耳打ちするような声量で言う。


「少し、はなれよう。我が王、それでよろしいですね?」


『ええ、お願いします』


 懸命に衝動を抑えるリズを、出現した巨大な手に乗せて飛んでいく。

 颯汰を守る者が、シロすけだけとなった。

 ふっ、と飛んで颯汰のかたに乗る。欠伸あくびをするほど余裕は見せなかったが、えるほど威嚇いかくはしていない。ジッと見つめ様子をみていた。

 勇者の対魔王への衝動は、ある程度の距離を離れれば治まるものなのか、一度敵を見つけたら殺すまで付きまとうものなのか。どちらにしても立派な“呪い”だ、と颯汰は思う。


『勇者としての本能です。無理矢理あなたを殺さぬように抑えたから辛かったんだと』


 責めるようには言っていないが、少し冷たく鋭かった声。


「マジっすか。……それは、なんと言ったら……。悪いことしたかな」


 青年はかがみながら上を向いた後、溜息と共に下を向く。

 肩を落として、やってしまったのかという深い反省を感じさせる。


 ――魔王なのに善性がある……? 妙だな……


 魔王とは思えぬ善良さに、かえって颯汰の中で疑念が増した。氷麗の魔王に聞かれたら氷漬けされかねない思想である。されないとしても問い詰められは絶対にする。

 背筋に悪寒が奔った。風邪だろうか。



作者はインフルエンザです。

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