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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
嵐の向こうに待つもの
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49 決戦! 白の巨神(後編)

 まさかの頭突ずつきであった。

 通常の武器が通らぬほど堅牢けんろう装甲そうこう――石頭どころか金属頭をぶち当てられて、気絶で済むならまだマシだろうか。

 突然とつぜんの交通事故が颯汰を二度()す。

 数十ムートもの距離きょりを飛びながら、そのまま地面に激突し、終わるかに見えた。

 宙を転がりながら、死を待つだけであった颯汰であった。

 そんな彼をふちから呼び戻す声が響く。


神よ(陛下)ーッ!!」


 大声によって気絶から立ち直ったのと同時に、落下しながら態勢を整える。

 気絶は一瞬だったため、状況をどうにか打開することができそうだ。

 ななめ方向に落ちながら、向かう先にさけんだ英雄えいゆうたちがいる。

 鬼人族の戦士が鉄蜘蛛製の大盾を構え、その後ろに種族が違うものたちが支えながら立っていた。

 声の主は間違いなく狂信者の一人である。字面だけだと神にいのっている場面に思えるが、颯汰を呼び掛けたのだと多くの者が知っている。ちょっと嫌な共通認識。

 着地地点で待ち受けている彼らを見て、颯汰は何をしたいのかを理解できた。肉体で受け止めるのではなく――。

 五名の英雄たちは大盾にて衝撃を受け止め、さらに膂力りょりょくで突き飛ばすように返した。颯汰も蹴り抜くように盾を壁や足場のようにして、跳ね返っていく。大盾を構えた者だけではなく、後方で支えとなって受け止めてくれた人物たちまでもが、その衝撃で転がっていった。

 

『すまない!』


 短いがはっきりと言葉を口にして、再び敵に喰いかかる。

 リールで糸を巻き取るようにして、距離をめる。

 引っ掛けた巨体に向かって飛んでいるが光るひものせいで軌道きどうが丸わかりである。

 白の巨神ギガスは自由がく左手で、前方に伸びきっている紐をつかみかかる。そのまま引きずるなり、糸の先に居る颯汰を地面にたたきつけるなりができる。生命をにぎっている状態に近かった。

 右腕はぐるぐると三本のワイヤーロープで巻かれロックされている状態。剣も満足にれないからこそ左腕を使ったわけだが、白の巨神ギガスはここで敵をつよりも拘束こうそくくことを優先させた。

 眼前に伸びている光る紐を手繰たぐせ、剣のある右手に近づける。

 左腕は動かせる。ワイヤーが張っているからこそ自由がうばわれている状態なのだから、右手を後ろに張らせる原因げんいんである目の前の光る紐をたつつ。

 このまま接近してきた颯汰を攻撃するのも良いが、確実に殺せる武器を選ぶあたりが女騎士である。

 剣をるったときには、まだ白の巨神ギガスは気づかなかった。

 赤熱したヒートソードは颯汰が辿たど一本(、、)の糸を切断する。

 右の手首ぐらいしか動かせない状態であったが、人体と異なるロボットであるからぐるぐると何回転もできる。そのため剣を握ったまま人体ではあらぬ方向に手を動かせた。強引に熱をびた剣にあてがった。斬るために振る必要もなく、刃を押し当てて熱にて糸を断つ。

 これで糸の緊張状態はほぐれ、すぐに腕を動かせる。

 右腕に付いた糸を巨神ギガスはそのロボットの指でまもうとこころみる。

 強靭きょうじんな作りである糸と呼ぶには少しばかり太いワイヤーであったが、巨人サイズからしたらか細い糸である。と、取れないのは指がふといからじゃないんだからねっ。ふてえからだよ。

 摘まむには金属の指では難しいようだ。 

 右腕がまだ、引っかかる。


『…………?』


 何故だ。元を断って張るはずがない金属繊維(せんい)がまだ腕にからんでいる……?

 少しゆるみ、金属の指でも摘まめるはずなのに一向に絡まる糸が取れない。

 白の巨神ギガスは改めて周囲をツインアイと体のあちこちに搭載とうさいされた各種カメラで確認を取って、原因に気が付く。


『引っかかったな』


 地べたに転がってなければドヤ顔も決まるというのに。

 颯汰は立ち上がって砂埃すなぼこりはらいながら言い放つ。


『右腕を拘束し、背中に回ったとき、既に一度切り離していたんだ。それ(、、)に引っ掛けた方が良いと思いついてね』


 “それ”とは、巨大なオブジェクト。動かなくなったがら

 白の巨神ギガスが生まれ出た『鉄蜘蛛』であった物体。それを越えたところで白の巨神ギガスはレールキャノンを発射していたのである。

 抜け殻となっても巨蟲・鉄蜘蛛、超重量であるからこそ白の巨神ギガスであっても動かせなかった。

 抜け殻となった物体に向けて颯汰は『亜空の柩(ノスフェラトゥ)』を構えた。

 棺から射出した剣も三本。先ほどまで伸びていた光る弦にそれぞれが結びついていて、放たれたことで一旦、切り離された。例えるならば、それぞれの糸の両端に縫い針が付いているような形がワンセット。それを三つ作ったのである。

 颯汰はさらに工夫をらす。『亜空の柩(ノスフェラトゥ)』から伸びた三本の糸を絡ませながら一本の強靭な紐として、先端付近で再び分かれた三本の剣はモノを引っ掛けるための()の役割をになうようにした。三方向に伸びた剣が上手く抜け殻の内部――白の巨神ギガスが出てきたところ中に引っ掛かった。ついでに垂れた首回りにも絡めたため外れにくくなるようにも細工した。

 その後に、新しくワンセットの針『光束ねし白銀の弦リリパット・ストリング』を作り出す。

 新規で作った白銀しろがねの弦は最初に右腕に巻かれたものとは繋がっていない。ゆえに――女の子の華奢きゃしゃな腕(笑)ではビクともしなかったのだ。

 

 いつの間に……! 

 とでも言語を語れるならば機械仕掛けの騎士は思っただろうか。

 シロすけの援護射撃は確かに武器を持つ右手を狙ったものであったが、それも布石ふせきであった。


 ただ今立っている場所から抜け殻に近づくだけで緩み、紐を切断すれば解決するという誰でも想像がつく弱点を抱えている。スラスターで浮く必要も、走る必要もない。ただ一歩踏み出せば状況じょうきょうが変わる。もちろん颯汰たちはそれを理解しているからこそ、波状攻撃を止めないのである。

 今度は正面方向から、左腕に向かって絡みつこうと伸びてきた光の紐。

 ツインアイを離したわずかなすきなど、見逃されるはずがなかった。

 貫通力を高めた一射が、颯汰の『亜空の柩(ノスフェラトゥ)』から放たれ、盾を破る。女騎士の腕自体を撃ち抜くにはいたらないが、ラウンドシールドに突き刺さった。

 再び巻き取りを始め、突き刺さった腕に向かって立花颯汰が接近する。

 それだけでは終わらない。

 墜落ついらくした闇の勇者も起き上がり、飛び出してきた。

 暴風を巻き起こし、リズが飛来して突っ込んでくる。

 白の巨神ギガス耽美たんびな顔に向かって、不可視の剣を叩き込もうとする。

 ふたつの強烈な殺意に、巨人は左腕を使って対応しようとした。

 巨人女騎士は左手の盾で、そのままリズを叩き落そうとする。


 そこに意識を向けたのが過ちであった――。


 何よりすべての無駄に思える颯汰たちの行動が、この為の布石(、、)であったのだ。

 警告けいこくのアラートが機神の内部で鳴り響いたが、もう間に合わない。

 右膝裏に強烈なエネルギー弾が叩き込まれる。

 右脚部にじ込まれた光弾――本物の『神龍の息吹(ドラゴン・ブレス)』が直撃した。圧縮した風が爆発的に広範囲こうはんい拡散かくさんするのが今までのモノであるが、颯汰とリズが巻き込まれぬよう、発生した気流の飛ぶ方向を指定した。上方向に流れるようにして被害ひがいおさえる。並みの生物であればブレスの光弾に直撃しただけで絶命するが、仮に生きていても身体が上昇気流に巻き込まれて浮かび上がるので、そこからの生存は難しいだろう。

 騎士――英雄たちにも被害が及ばない暴風が巻き起こる。

 衝撃を痛みとして伝わらない機械であっても、危険信号としてめぐる。

 風のエネルギー弾は膝裏に着弾して、回転し続けた。脚部の装甲がめくれ上がり、破片などはがれ、風に巻き込まれてグルグルとう。

 外殻がいかくが飛び、内部フレームが強制的に露出ろしゅつされたところに、エネルギーが弾け飛んだ。爆ぜたときに銀白色の右脚が吹き飛んだのである。

 バランスがくずれる。自重を支えるための脚が一つ失うことで、機神とはいえバランスが取れなくなった。

 空を切る左腕の盾。紐に引っ張られたままの右腕。

 爆ぜて失った右脚。残った左脚に――。


「――突っ込めえええッ!!」「――引っ張れえええええっ!!」


 今が好機チャンスであるとして、武器を持ってせまる。

 白の巨神ギガスが、一本の足でグラついていたのをぎゃくかろうじて紐のおかげで立てていたところに、殺到さっとうする英雄たち。

 颯汰は円形の盾に刺さった剣のつかに付いた紐を解除し、新たに生成した剣に『光束ねし白銀の弦リリパット・ストリング』を付与して左脚に刺しこんだ。鉄蜘蛛由来の超硬度の糸は伸縮性や粘着性などがない代わりに、その堅い殻を使っている

 颯汰はそのまま突っ込むのではなく、その場で光の紐を引っ張った。

 さらに、そこへ騎士たちが集う。

 大きなカブではなく、脚を物理的に引っ張ったのである。

 たくさんの人間が、綱を引き左脚を前へと引っ張ることで完全にバランスを崩壊させ、白の巨神ギガスを転倒させた。

 唯一の支えであった足が崩れ、女騎士が仰向あおむけで倒れた。

 その衝撃でラウンドシールドは吹き飛び、少しはなれたところへ落ちる。

 巨人にむらがる小人たちの熱が、最高潮さいこうちょうに達する。

 歓声と共に、夜の空へ飛び出つものがいた。

 風のボードで空を飛ぶリズと颯汰、それに合流するシロすけ。

 見下ろしてくる邪悪な王に、聖なる女騎士は左手で掴みかかろうとする。

 天に掲げた手のひらがたとえ巨人のものであっても、届かずじまいであろう。

 当然、女騎士の攻撃行動は回避される。

 銀嶺ぎんれいの王は左腕を向けて、『亜空の柩(ノスフェラトゥ)』から再び放たれる。

 もはや剣ではなく、杭であった。かなり簡素かんそな作りのもの。

 次々と放たれては生成を繰り返す。

 二射目で一組が完成する、光る紐に繋がれたもの。

 今度は白の巨神ギガスを直接狙ったものではなく、横たわる女騎士型ロボットを拘束する。杭と杭の間にある強靭な紐によって、倒れたまま身動きを取らせない。もちろん、まだ動力が生きている巨神ギガスが抵抗しないわけがない。スラスターによる跳躍ちょうやくは颯汰がレールキャノンの砲弾ほうだんを打ち返して爆破させたときに少し故障こしょうしたようだ。脚部が壊された今、バランスが取れないのもあったが、出力を上げようとすると誘爆する危険性もある。ただ他の機能はおおよそ問題なく動いたため、身体の強度は人類を軽く超えている機械女神に暴れられると危うい。

 ゆえに周囲に散開していた英雄たちが集まり、杭に全体重をかけたり、紐によじ登ったものをさらに引くなどして外させないように全力をくした。脱出など許すわけがなかった。さらに、女騎士の動いている指におのを叩き込む騎士も現れ始める。誰に言われなくとも殺してやるよ、と言わんばかりの戦の熱が、女騎士を襲ったのである。武器も防具もなくなった神に、なさ容赦ようしゃなく攻撃と拘束が繰り返された。そして拘束がすべて済み、動けなくなったところに降り立つ颯汰とリズ。

 さすがにメカだから若干不自然だけれど僅かにれるように動いた双丘の、無駄な技術力に感服しそうになった。だがリズの目線が少し笑えない段階になってきたので颯汰も真っすぐ――女騎士の顔の方へと歩いた。

 かぶとの下がここに来てハッキリと見えるようになった。

 まさに芸術と言わんばかりの彫刻ちょうこくじみた美しい顔である。

 美人だからと言って遠慮えんりょなどするような颯汰ではない。

 特に言葉を交わす必要もないと見て、プロテア・グランディケプスを振り返ってから叩き込む。

 敵をたおすならば、首を飛ばす以外にも手段はある。 

 巨顔の方へ歩いたのは、丁度いい位置に移動するためであった。

 英雄の剣にて、敵機の胸部を物理的に開く。振り下ろされた斬撃によって堅い金属に切れ目が入り、そこへ捻じ込む布型霊器のディアブロと瘴気しょうきアギト。それらを用いて胸の中身を無理やりこじ開けた。

 横向きに開いた胸の中心部にあわい緑の大結晶が見えた。

 『神の宝玉(リーゼ・クライノート)』。

 周囲のマナを吸い取り、増幅して拡散するという巨大な結晶物。

 胸部の中にギチギチに詰まったかのように搭載されていたそれを見て、颯汰の表情が若干だけくもった。


『こいつ……まさか……』


「?」


『……まぁいいや。自爆とか何か余計なことされる前に』


 颯汰は余韻よいん躊躇ためらいも無く、結晶物に剣を突き刺した。 

 心臓部にあたる結晶物に刺さったプロテアは光り輝く。


『……偽『神の宝玉(リーゼ・クライノート)』。……純度が低いだけなのか? そもそも別の物質なのか、最初から贋作がんさくとして造られた物なのか……』


 女王個体と呼ばれた機体。

 本物よりも出力が低い結晶物がくだけているのを見ながら、そんなことをつぶやいていた颯汰。あまりに隙だらけに映る。

 ゆえに、戦女神は最期さいごの力を振りしぼって、一矢報いっしむくいろうとする。

 動かなくなる前に首を上げ、兜のバイザーも上げ、するどき眼光で外敵をにらむ。

 白の巨神ギガスの赤いツインアイからビームが放たれた。

 赤い光線は真っすぐ、突き進む。

 それに気づいたリズが前に出て、不可視の双剣にて対応する。

 ビームを刃で受け、反射した光が女騎士自身の銀白色の装甲を焼く。

 最期に振り絞った光は、次第に弱まっていった。じわじわと距離を詰めていたリズが、ビーム照射が止まった瞬間に駆けだした。

 リズは力無く下がった首に向けて、空中で全身を捻った回転による斬撃を放つ。

 放たれた回転斬りの後、機械の頭の額に上がったバイザー部分を踏み、さらに跳んで着地をしたところで、ゆっくりと首が切断面に沿って落ちていく。

 闇の勇者が、白の巨神ギガスの首を斬り落とした。

 ゴトンと味気ない音が響いた後、夜の空の下で喝采かっさいが起こる。

 英雄たちが、英雄の遺児たちが、かつて大陸全土を恐怖におとしいれた脅威きょうい――災厄さいやくの『鉄蜘蛛テツグモ』をち取ったのであった。


 こうしていつわりの王は、偽りの神と対峙たいじし、それをほろぼすことに成功する。

 だが、これで終わりではない。

 最後にやり残しがある。

 いや、――むしろここからが本題と言える。

 新たな金属のむくろの上で、称賛しょうさんの声をびせられて微妙びみょうな顔をしている颯汰が、視線に気づいた。

 目と目が合う。

 馬上にてたたずむ三大貴族が武人、バルクード・クレイモス。

 内乱を起こした張本人と、内乱を起こされた王。

 けられない決着のときが、近づいていた。


(何度もルビを振りながら寝落ちしかけたので間違ってるかもしれません)

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