表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
嵐の向こうに待つもの
419/435

48 決戦! 白の巨神(前編)

 英雄えいゆうたちが戦場を進む。

 討伐目標とうばつもくひょうは白き女神――機械仕掛きかいじかけの女騎士おんなきし

 神々(こうごう)しいちをしているが、災厄さいやく化身けしんたる鉄蜘蛛てつぐもの背から生まれ落ちた存在である。

 人類に対して敵意を持ってくるった怪物かいぶつ――鉄蜘蛛の新たな姿に、おそおののくところを、英雄たちは勇気をしぼって前へ行く。

 だれが合図したでもなく、人々はいくさの熱のやられたように狂奔きょうほんしていた。 

 勝算など考えていられない。

 ここで現れた女騎士――“白の巨神ギガス”をたねば人民に生きる道がえるとわかっていた。

 しかし兵をあずかる身である将は、そういう訳にはいかない。

 勝てぬ戦いはしてはいけない。

 ゆえに、バルクード・クレイモスが指揮を飛ばす。

 本命(、、)到着とうちゃくがほぼ同時であると予想し、早めに進軍を開始していた。敵機から二射目のレールキャノンが放たれるよりも先に、またがったウマにて疾駆しっくし、命令を下した。

 

 ――あの巨体で武器をるわれては、ふせぎようがない


 基本的に合戦とは、人間同士のぶつかり合いだ。

 常に優位に立てて、攻撃が一方的に通るとは限らない。

 だからこそ、最前線でたてを構え、敵の攻撃を受け止める者が重宝ちょうほうされる。

 だが、あの巨人からはなたれた一撃はきっと大盾など意味を成さない。

 月の光にあやしく照らされた銀白色の女騎士――。

 鉄蜘蛛にくらべるとかなり小さいが、人体など優に超える大きさ。

 人間など軽く吹き飛ばせるほど力があるにちがいない。

 厄介やっかいなのは、その体格差から放たれる各種攻撃行動にある。

 攻撃範囲こうげきはんいも破壊力も人類を凌駕りょうがしているなど簡単に予想できる。

 自軍の攻撃が届く前に、固まっていたらはらわれてしまう。

 陣形じんけいも人間や魔物などまでを想定しているものだ。決して巨人など相手に訓練くんれんなどしていない。だからこそ、まずは敵の出方を見る必要があるだろう。


「伝令である!」


 先行する部隊に、乗馬して追いついた伝令役が大きな声でさけぶ。

 松明たいまつを片手に、兵たちに呼びかけた。

『混成軍であるし、士気しきは高くとも練度れんどは少しばかり低い。ゆえに合図だけで陣形を組めるとは限らん、貴様らの指示に掛かっていると言って良い』

 とは、バルクード・クレイモスの言葉。

 これは騎士たちをあなどっているわけではなく、戦場でいきなりアドリブの指示に、柔軟じゅうなんに対応して動くという事のむずかしさを知っているがゆえの発言であった。いきなり連携れんけいしろといって何十何百もの人間が、その場で実行するのは難しい。

 ゆえに出した命令は単純たんじゅんなもの。

 ともかく考えなしの猪突猛進ちょとつもうしん厳禁げんきんという事だ。

 ただ向上した士気を下げるような指示――その場で待機たいきとは命じなかった。

 いくら貴族階級とはいえ職業軍人たる騎士は、粗野そや粗暴そぼうな部分が少なからずあると見ていい。ここまでイケイケ押せ押せゴーゴーゴーなテンションな状態で急ブレーキは、彼らの良さをかせなくなる。


「重い装備の者よりも、回避かいひに自信がある者が前に出よ!」


 それに加え、敵が何をするかわからないためビームなどで広範囲を焼かれる可能性を考慮こうりょして『散開さんかいして包囲ほうい』するようにと命じた。

 敵が何をしでかすかわからない巨人相手なので、騎士たちも納得なっとくして命令にしたがってくれたようだ。敵の行動を読み次第、すぐに攻め入る手筈てはずとした。

 八ムート弱の巨体の周りに、英雄たちが集まっていく。

 伝令の叫びの一端いったんが、自分の耳に届いたバルクードは自嘲じちょうする。


「かなり、無茶な要求をしたものだな。我ながら」


 高まった士気と、さらに確実に敵をきつけ役の『王』がいるからこそ成立する無茶であった。


閣下かっか……」


「なに、無駄死になどさせぬ。我も前に出るからな!」


 前線へとけるバルクード・クレイモス。

 彼自身がすでに死にたいだというのに、その命がきる前に走り切ろうとするように燃え上がっていた。


 一見すると、何も意味を成さない包囲網ほういもう展開てんかいされている。

 だが、って多方面からせまかげに、白の巨神ギガスは完全に無視むしなどできないでいた。動くものがセンサにといらえられる。たとえ小さい虫であろうと、機械的に情報を取得してしまう。人間でいうところの集中がみだされている状態に近しかった。敵の装備で危険度も測定そくていしてしまう。


『…………』


 白の巨神ギガスのボディの強度は、巨蟲きょちゅう・鉄蜘蛛と同等以上であるため、簡単にきずはつかない。だが何百もの戦士にってたかって暴力を振るわれれば、いつかは壊れて(死んで)しまう。それでも女騎士たるもの、絶対にクッしない気概きがいではあるようだ。

 雑魚ざこなど構っていられない、と思っても意識が他へ向こうとする。

 だが彼女は機械でもある。殺戮兵器さつりくへいきから再誕した戦女神いくさめがみだ。

 彼女の電脳ユニットが、本来の標的だけをしぼむように働いた。


『――!』


 巨神ギガスが空を見上げる。

 見当たらなかった標的が飛翔ひしょうしたことに気づいた。

 月からこぼれ落ちるしずくのように――。

 銀嶺ぎんれいの王がやいばかかげてりてきた。先ほどのキショい金属バットは解除かいじょされ、再び全身に装甲そうこうまとっている姿となっている。

 立花颯汰は英雄の剣にて、敵機をほろぼさんとした。

 それを迎え撃つように、剣を抜いた“白の巨神ギガス”。

 女騎士のような姿をした巨人は、迫りくる敵――排除はいじょすべき脅威きょういに対して剣を赤熱させたヒートソードを振るった。

 光と光が衝突する。

 宙から降りた絶望の使者は、真っ向からその赤く燃える剣に向かって白銀に輝く剣を当てる。しかしそのまま斬り合うつもりなど最初から無い颯汰は、迫る巨剣に対して角度をつけてぶつけた。刃にて巨刃を防ぎつつ、その場で前転するようにコロがり巨剣の剣身の上を滑り込んだ。そして態勢を整えた後、剣身を足場として利用し、り抜いた。

 熱さをうったえながら、気合を込めて叫んで跳び掛かる。

 軌道を変え、颯汰は女騎士の頭部に向かって攻撃を仕掛けた。


もらったッ! ――……っ!?』


 視線は、女騎士の赤く光るツインアイ、さらにそこから下へと向かう。

 英雄の剣プロテア・グランディケプスにて、その頭部から丸ごと斬り裂く――つもりであった。

 だが敵は人型。

 右手を抜けたその先には、左手が待っている。

 剣をくぐり抜けた後、女騎士ロボのてのひらが颯汰の全身をとらえたのだ。

 人の肉や骨ではなく、かたい金属をたたきつけられた感触。

 走る自動車にまれた感覚が近いかもしれない。

 衝撃しょうげきが、理解と痛みよりも先に全身をめぐる。


『――でっ……がぁっ……!』

 

 飛ぶはえなぞ、一叩きで充分であった。

 空中ですさまじい勢いで、右方向に突き飛ばされた颯汰。

 何時いつぞやのように、そのままどこか遠くの星にかえるところを、シロすけとリズが救助するのであった。

 シロすけが風をあやつって飛ぶ勢いを殺し、リズがボードで飛行しながら受け止める。少し船体はらいだが、大きく態勢がくずれることもなく、颯汰の保護に成功した。

 風のボードをほぼ真横にたおしながら受け止め、水平方向にもどしながら飛行を続けてみせる。れた様子で速度は多少落としながらも、空を飛び続けていた。

 痛みは当然あったが絶命にいたるほどではなかった颯汰は、苦悶くもんの声をあげながら立ち上がる。頭までクラクラして夜空よりも近くに星が見えたにちがいない。


『くっ……強烈きょうれつだった。ごめん、ありがとうリ、……何ですその視線』


 無理をし過ぎた心配より、ほのかに感じる侮蔑ぶべついかり。不満ふまんが見える。

 何に対してかを気付いていない訳がないのだが、颯汰は気づいていないふりをする。斬る際にたまたま視界に入った程度だったと弁明べんめいをしたかった。だが過剰かじょうに反応をしめせば、それを認めることになるため、すっとぼけたのである。

 例えつくり物でもいいのか、などとめられたらいてしまう自信が颯汰にあった。なさけない自信である。

 そもそも、女騎士ロボは籠手ガントレット具足グリーブまとい、こしにはスカートアーマーが付いている。それなのに、たわわな金属がどういう仕組みか防御力ゼロみたいな状態。胸部装甲がうすすぎる。実際、全身が鉄蜘蛛装甲ゆえに堅牢けんろうであるから、鎧自体が不要なのだろうけど。ただ、一応丸出しではない。下半球は何のために造られたのか永遠の謎になりそうである。ロボットのくせにちょっと揺れるのはおかしい。あれのせいで変に誤解ごかいを生んでしまったに違いない。製作した変態ヘンタイ趣味しゅみだろうか。などと頭に色々()かべていたが、むっつりとして颯汰はかくし通すつもりだ。


『とにかく、両手をどうにかしないと厄介だ』


 コイツ……みたいな顔されたが、リズも流線型となった風のボードを操りながら、視線を白の巨神ギガスへと向ける。セーフ。

 女騎士は放熱している剣と、変形して展開されたラウンドシールドを構えていた。

 赤い眼が敵意に燃えている。シロすけがそれを見てうなる。

 リズが念話にて、ふたりで突撃して両腕を攻撃するのはどうだろうか、という作戦を伝えてきた。


『どうかな……。危険だと思う。敵の動きをふうじるには……――ハッ!』


 ハッとしてひらめく。

 散々幼体としょうされる機体になやまされた拘束攻撃、粘着弾ねんちゃくだん

 それを再現はできなくとも、着想は良いものであった。

 巨体を封じるイメージ……それに相応しい形を考え出す。


『動きを封じる、拘束、糸。……!』


 言葉に呼応こおうするプロテアと亜空の柩(ノスフェラトゥ)

 既存きぞんのものに手を加えることで即席で道具が完成する。


『これでいく。ぶから、頼む。……(ぅわ、ちょうーっと、だけこわーぃ)』


 説明がつたないというよりほぼ無いまま、颯汰はボードから再度降りた。

 後半に小声で何かボヤいていた気がするが、それは別段気にしなくてもいい。風を切って進むボードの音の方が大きかった。

 他の騎士たち同様に、彼だって勇気を出す必要があろう。


 颯汰は白の巨神ギガスに目掛けて落下する。

 常に見張られいた状態であるため、それ自体が奇襲きしゅうとはなり得なかった。

 近づいてきた外敵に向けて、白の巨神ギガス警戒けいかいして事に当たる。

 今度こそ赤熱する刃で撃墜げきついするつもりであった。

 それに対し、颯汰は左腕に装着した亜空の柩(ノスフェラトゥ)を突き出すように前へ向けた。左腕に付いたひつぎ――普段は剣を抜くさやとなっている部分から、逆向きに剣の刃が飛び出てくる。その剣はくいのようで先端に向かって鋭い形をしていた。


『……!』


 射出するのは予測できたそれが、自機に向けられていた。

 ゆえに攻撃行動であるとして、女騎士は剣を振った。夜に赤く燃える光の軌跡きせきがくっきりと映り、するどい空気を切り裂く大きな音がする。

 むかえ撃つために剣を振るう中、左腕から飛び出したはりが、三本に増えた。

 異変に気付いた女騎士ではあったが、既に動き出していたため止めることできなくて、ヒートソードを振り切ることにした。

 落下速度を計算し、敵を正確に捉えたはずの一撃。

 だが颯汰は左腕は真下へと向けると同時に、剣が射出された。

 射出された剣が、颯汰よりも先に地上へと到達した。

 地面へと吸い込まれた剣は、荒地に深々とさり込む。それだけだと無意味な行動であったが、剣から不思議な光が伸びていた。その剣の柄頭から射出口――颯汰の亜空の柩(ノスフェラトゥ)まで伝うあわ白銀しろがねに輝く紐状ひもじょうの物体。鉄蜘蛛由来の金属で造られた糸であった。

 

光束ねし白銀の弦リリパット・ストリング!』


 地面から伸びた光の糸を辿たどるように――コード付き掃除機のコードを巻き取るように引っ張られ、斬撃ざんげき回避かいひしてみせた。

 落下速度を早め、残光と熱が、寸で通り抜ける。

 直後に颯汰は腕部のスラスターから青い火を吹かせた。

 そのまま巨体に向かってではなく、振るった剣を持つ右腕に向かって飛んだ。

 敵の変則的な機動に対し、女騎士はツインアイで捉えて左手で追ったが、腕の外側まで颯汰がはみ出していった。

 光の糸が三本、腕にからみつく。

 触れただけで痛みなどは無い、ただ光るだけの金属糸。

 糸は地面から腕を伝い、女騎士の腕を支柱にしてぶらぶらとその先でぶら下がる颯汰。ただのたわむれなどではなく、そこからさらにスラスターで飛ぶ。

 右腕全体に糸を巻きつけるために颯汰は回転して腕に絡めて、今度こそ捕まえようとした手を逃れ、リズに回収された。すさまじい勢いで加速してげられただけではなく、巻かれた腕が糸に引っ張られ、白の巨神ギガスの意思とは無関係に後方に持っていかれる。

 武器を持った右腕の自由を一瞬、うばった。

 当然、女騎士ロボがそれで屈するわけもなく、糸の切断を試みる。

 右腕に持った剣にて切断をしようとしたとき、


『!』


 咄嗟とっさに手首を動かし攻撃をかわす。

 竜種ドラゴン砲弾ほうだんらしき光が通り過ぎていく。

 データよりもはるかに出力が低い『神龍の息吹(ドラゴン・ブレス)』は――フェイクである。

 そちらに意識を向かわせ、颯汰たちは今度は左腕をねらった。

 そのまま右腕に絡んだ糸を引っぱりながら、白の巨神ギガスの背を通り、左脇から左腕に絡めていく――ところに巨神の頭突きが襲い来る。 

 突然のヘッドバットは予想外であった。戦う女騎士がおしとやかな訳がない。

 全身が堅い金属であるため、ぶつけるだけで凄まじい打撃となった。

 その直撃を喰らって、大きく態勢たいせいくずれるリズと、そのまま落下する颯汰。

 闇の勇者は航行不能状態で回り続けながら遠くへ、やや緩慢な速度でちていく。

 銀嶺の王は気絶し、白の巨神ギガスから正面方向に離れた位置の地面へ落下する。

 一瞬のうちに、絶体絶命の危機におちいったふたり。

 颯汰はそのまま地面にペシャンコになって、てたガムのようにへばりついて終わるかに思えた。


(次話、遅れるかもしれません。)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ