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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
嵐の向こうに待つもの
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47 不撓

 夜の空の下、輝く流星が放たれる。

 展開した砲塔ほうとう――二対のレールの間に乗せられた弾丸が射出された。

 人型兵器。白の巨神ギガス

 鉄蜘蛛の後ろ足に格納かくのうされていたパーツを二つ、組み合わせて作り出した兵器――白銀の女騎士が持つレールガンから、青い光がほとばしった。

 八ムート弱の見上げる巨躯きょくから、レールガン(突撃槍ランス型レールキャノン)にて放たれた弾丸は音速の六倍を超えて、颯汰たちに向かって直進していく。

 この距離きょりであれば、空気抵抗などで勢いが減衰げんすいし、落下することもなく着弾するため、正面から見ると逆に止まって見えるという現象も起こるほどであった。

 ただそれを長く感じる間もなく、すぐに死は到達とうたつする。

 颯汰の脳内で思考が加速していた。

 

 ――実弾! マグネティック・フィールドでもダメだ、貫通される!


 レールガンの電磁気力で射出される弾は非磁性ひじせいであっても、ローレンツ力にて加速される。仮に弾丸に磁性があったとして、颯汰が磁場を発生させたとしても、既に音速を越えた速度でせまる弾丸など、受け止められやしない。

 命の終わりは音を突き破って飛来するのだ。

 けるのにも鋼鉄こうてつむくろから飛び降りる――そんなわずかな時間もない。

 思考は加速し続ける。

 防ぐ以外に道はない。

 一体、どう防ぐか。

 颯汰が持つ異能たる「危機察知」が発動し、闇夜よりも世界は漆黒にしずむ。

 死を回避すべくビジョン、白い辿たどるべき足跡あしあとは少し先へ進んでいく。

 起こりうる未来――颯汰をかばうように前に立つリズも見えた。

 颯汰の頭に過るは絶望の光。

 以前見た、赤い雷の魔槍にて貫かれた彼女の姿であった。

 

 ――そんなの、二度と御免ごめん


 歯がきしむような音を立てるほどみしめて、颯汰は足跡そくせきなど目もくれず進む。

 前にび出すリズ、に合わせて颯汰が左に並ぶ。

 横を見て目を張る闇の勇者に、颯汰が声を出した。


『いくぞ!』


 刹那せつなの間、短い言葉で成立する。

 

 ――ここで、ふたりでやるしかない


 回避は間に合わない。つばみ込む間もなく到達する。

 であれば、彼らに残された選択肢せんたくしはひとつ。

 『迎撃げいげき』。

 つまり、この場で音のかべを突き破って衝撃波を放つ飛翔体を、切り伏せる。


 仮に、避けられても次弾が放たれれば一溜ひとたまりもない。

 接近するにも時間が掛かる。

 機械が動揺する訳がないが、攻撃が効かないと分かれば行動が変わる可能性がある、と読んだ。また弾丸をくしたり砲身が焼けたりして攻撃が止めば、こちらのものだ。

 第二波をどうするかよりも、まずこの一射目をどうにかしないと終わる。

 止まる時。呼吸までも停止する中、颯汰が思い浮かべたのは一つの絶技。

 それを成すには幾分いくぶんも実力が足りない。

 ゆえに、補助ほじょを求めることに躊躇ためらいはない。

 ちんけなプライドなど生存のための足枷あしかせとなるならば、躊躇ちゅうちょなくてられるのも、この少年王の強みでもあるだろう。

 左腕にあった『亜空の柩(ノスフェラトゥ)』が瞬時に右腰部に移動する。

 颯汰はそこへ英雄の剣・プロテア・グランディケプスを差し込んだ。

 さやとして機能して、刃を呑み込む『亜空の柩(ノスフェラトゥ)』。

 頭の中でイメージを加速させた。

 神速の抜刀ばっとう――と、その補助をになう機構を想像する。


 き放つ際に車輪によって加速させる。

 複数付けたそれはまさに補助輪! 補助輪抜刀術!


 ネーミングが終わっているが、有効な手ではある。

 並んだローラーによって抜刀の速度を速めるというもののだ。

 最速で移動しながら敵を斬り捨てる奥義だが、今回は移動の必要がない。

 人智を超えた早さで剣を振り切ることに、全神経を集中させる。

 もっと強く、もっと速く。

 であるならば、敵ですら模倣もほうしてみせる。 

 何よりも今放つ絶技もまた、先ほど敵対したから叩き込まれたものだ。


 最速で構築させる。

 『亜空の柩(ノスフェラトゥ)』の内部もそうだが、外観もわずかに変わる。

 一瞬たりとも心内に思考や迷いがなかったかのように、展開された。

 大きくても遠目でよく見えないが、敵の持っている筒状つつじょうの兵器に似た――光のラインと鞘となる部分から、少しだけ青い電気が奔るのが見えた。


 二対にレールの電磁気力にて刃を加速させる。

 抜き放つは音速を超える斬撃! 超電磁抜刀術!


 こちらを採用し、さらに颯汰は骸の上で構えを取る。

 全力で加減かげんをされていたとはいえ、足運びや気迫きはくは本物であったし、あとはそこに自分の力と想像を加える。

 最強の剣士が放つ最強の剣技を、再現する。


 一方で、リズは死を恐れていなかった。

 自棄じきになっていたわけではなく、ただするどい剣のように集中力をまして、最初から敵の攻撃を斬り伏せるつもりであったのだ。

 そこで颯汰が彼女がまたたてとなってるのではと思い込み、踏み出してきたのでおどろいてはいたけど、余計に安心できたのである。

 ふたりであれば、ただ飛んでくるだけのかたまりなぞおそるるに足らずだ。


 時間は動いている。

 間延びした世界で、刃を構えたところに弾丸が到達した。

 騎士たちは立ち尽くす。

 矢よりも早く、想像の埒外らちがいであるレールキャノンの発射体が、平地の上を突き抜けていく。

 耳をつんざく音。光のように放たれた弾丸は空気をえぐりながら、鉄蜘蛛の遺骸の真上に直撃した。

 回転せず真っすぐ飛ぶ弾丸は人体など衝撃しょうげきですりつぶせるほどであるが、それを真っ向からむかえ撃つなどという狂気の行動を、王と勇者が成す。

 颯汰はひつぎおさめたプロテアを、引き抜いた。


『天鏡流剣術――蜃燕(シンキロウ)!』


 それは予備動作も無く一瞬で敵と距離をめ、斬り捨てる最速の剣技。

 蜃燕しんえんが、カウンターとして放たれる。

 合わせるようにリズも不可視の双剣をるう。

 視界をめ尽くすほどの大きさをほこる金属の塊。

 それを、英雄の子たち――ボルヴェルグ・グレンデルとマクシミリアン・ハートフィールの遺児いじたちが、斬り裂いてみせた。

 直撃して肉片や何かが吹き飛ぶのではなく、広く響き渡る金属音。

 巨神から遺骸に向かって――後方にはじけ飛ぶ残骸ざんがいが猛スピードで転がっていった。三分割された特大の弾丸であったもの。

 何が起きたか、多くの者は理解するのに時間が掛かった。

 砲弾や銃火器についてもう少し理解が深かった場合、絶望の光景を思い浮かべてしまっていただろう。それすら脳内で描写びょうしゃするに至るよりも早く、レールキャノンの弾は骸の上に到達したのだ。


 そして、月夜に静かな空気が流れる。

 突然の連続であったが、視線の先にいるべき影――発射体の直撃コースにいたのに、潰されることもなく存在し続けるふたりに向かって、注目が集まった。

 ふたりの英雄の子たちは――空気をぶち抜くレールキャノンの弾を、叩き切ってみせた。


『――』


 歓喜の声をあげる場合ではないことは、英雄たちも理解していた。

 すぐさま、騎乗しているものはウマを走らせ、歩兵は死ぬ物狂いで巨神ギガスに向かって走り出す。

 勝てる勝てないではなく、止めなければならない。

 敵は、まだ動いているのだから――。

 白の巨神ギガスは、次弾の装填そうてんを始める。レールガンはコンパクトなサイズに収まったが、ゆえに装弾数が限られていた。

 あと二射、放てる状態ではある。

 だからすぐさま、ねらいをつけた。

 一射目は命中したが標的が死ななかったのは何かのまぐれであった、などという考えではなく――継続けいぞくして火力を出し続ければ、相手も防ぎきれないという計算からであった。

 巨神ギガスのその考え自体は何ら間違まちがいではない。

 実際、何度も斬り伏せられる訳もなかった。

 集中力も次第に低下していくし、剣を振るうのにも体力がいる。

 超重量の物質が音速を超えてやって来るのを、何度もタイミングを合わせられるとも限らない。いくら互いに命を結んだ颯汰とリズであっても、近い内に失敗するだろう。女騎士に接近しなければならないが、距離を詰めるには相手のレールキャノンによる射撃が邪魔じゃまをする。


 ――まだ来る、どうする。このままだと……


 ジリひんというか、次の一発でけずり切られる自信があった。嫌な自信だな。

 極度の集中の末に、師匠ししょうの動きまで真似てどうにか斬り裂けても、それを継続して何度も放てたら今頃紅蓮の魔王にだって勝て……るかはちょっとまだ厳しいくらいではある。

 何度も上手くいけるはずもなかった。

 思案が浮かぶ前に、女騎士が持つ砲から再び殺意の光りが灯る。

 それに対するように、颯汰の手にした剣からはさらに強い光が放たれた。


『!?』


 プロテア・グランディケプスの剣身から激しい光。

 颯汰は驚きながら、聞こえぬ声にしたがうように剣を天にかかげた。

 すると、剣から発生した白い光が様々な方向へ伸びていく。

 それはまるで意思を持った白の手。

 発光する白い巨木を思わせた。

 木の枝のように分かれ、拾い集めていく。

 光は、今し方颯汰たちがバラバラにした鉄蜘蛛の遺骸に結びつき、中心にある剣へと引き寄せられていく。プロテアの『捕食ほしょく』が始まった。周囲の金属を集め、刃が輝き、意図を理解した颯汰も動く。


『――接続コネクト!』


『接続:承認完了――。

 システム:正常動作を確認――。

 第五拘束、限定解除――。

 リアクター起動開始――。』


 己の装甲のすべてを剣にまとわせる『廃滅の魔導剣(バースト・キャリバー)』を発動させた。

 プロテアに宿る精霊の意思を読み取り、行動を合わせたつもりであった。

 プロテア・グランディケプスがその形状を変える。

 颯汰が纏っていた籠手や具足が変形して剣と一体となり、さらにそこへ加えて周囲にあった鉄蜘蛛由来の金属まで集合した、特殊な合体。

 至高の一振りが、完成した――。


廃滅の魔(バースト・キャリ)――……いやこれ、ちょっと……えっ」


 掲げたもの、完成したものを見て名前を呼ぶのを止める。

 形状がおかしい。

 何を意図しているかは、わかるけどわかりたくないというのが颯汰の思い。

 各種素材の大きさからみると、非常にコンパクトなサイズとなったと言える。

 それでも、プロテアの剣身に金属が集まり、身長を優に超えた道具となっていた。

 ただそれは武器と呼ぶに相応しくないモノだ。

 自分の見間違いだと思い、颯汰はゆっくりと掲げたモノを下ろす。

 改めて見ても、それは棒状のもの。

 先端に向けて太くなっている。

 というか先端に、斬り落とした鉄蜘蛛の首をスケールダウンしてくっ付けられている。敵の首を武器にくくりつけて見せつける蛮族ばんぞくがやりそうなアレかと思ったが、そういう意図ではないらしい。


「……、野球、バット? 打ち返せ、……ってコト!?」


 剣が変形して大き目なバットになった。イカレてる。

 長尺で、颯汰の身長よりある、バカなげ馬鹿バカのバット。

 正気をうたがう驚異の変形ではあるが、迷っている時間などない。

 鉄蜘蛛の鎌首モデルという近未来サイバーサイコスリラーなバットを、輝くガラス体のように透けたままの右手をも使って、両手にてグリップをにぎりしめる。


「離れて! 巻き込まれる!」


 リズに退避するように命じ、覚悟を決めた。

 闇の勇者は颯汰が何をしようとしているのかわからないまま、彼の後ろへと移動した。その瞬間、遠距離にある砲塔が光ったのが見えた。


 ――真芯ましんを、とらえるんだ。さっきの蜃燕シンキロウと同じ!


 同じか?

 バッターボックスに立つように、打ち返すために構えた。

 リズもバルクード・クレイモスも、他の者もここで何をやろうとしているかに気づく。そんなことが、可能なのかと思うのは、正常な思考力が残っている証。

 だが常識を打ち破る発想でなければ、この災厄さいやくは乗り越えられやしない。

 迫る巨大な投球に対し、颯汰はフルスイングをぶちかます。

 野球部でもないため、必死に記憶の中にある最適な打撃フォームを引っ張り出して再現する。颯汰だけではなく“獣”まである意味で振り回されていた。


「――ずぇええいッ!!」


 裂帛れっぱくさけびと共に、あり得ない速度でやって来る巨大な球にバットを当てる。狂気のてに、栄光の星がきらめいた。

 上体を回転させ、振るわれた一打。

 野球ボールの比じゃない大きさと速度の弾丸の、真芯を捉える。

 再度聞きなれない音が戦場を駆け抜けたと思われた矢先、光が返っていく。

 来た方向にレールキャノンの弾が打ち返された。

 白の巨神ギガス咄嗟とっさに回避しようと思ったが間に合わず、手に持っていたレールキャノンに、バットで打ち返された弾丸が直撃して、爆発する。

 二射目もかわされることを警戒けいかいして、すぐさまレールキャノンの発射準備をしていたところに打球でぶち抜かれ、内部機構が燃焼し、爆ぜた。

 小規模の爆発とはいえ、身体がよろける女騎士。

 絶対にくっしないとばかりに両脚部にてバランスを取ったところ――遠くにいた標的を見失ったことに気づく。暗視用カメラモードでも、地面に群がる小さき者どもが迫るが、抹殺まっさつすべき対象が見当たらなくなった。

 別のセンサを用いて索敵さくてきしようとした途端とたん、見つかった。

 月光の下、上から飛来する影たち。

 人型の巨神ギガスは腰部にそなえた剣を抜き放ち、左腕部から円形の盾を展開し、構える。

 流線型の風のボードを操るリズとシロすけ、一緒に乗った颯汰が女騎士ロボに接近し、そのまま飛び込み撃破を試みた。

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