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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
嵐の向こうに待つもの
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30 飛躍

 アンバード、内乱を起こした側の兵たちは震えた。

 現・国王たる立花颯汰と叛逆者であるバルクード公爵。

 眼前の災害の前に、並び立つ両雄の姿があった――。


「して、鉄蜘蛛てつぐもを屠る武器を作り出せたのか」


「……本来は、鉄蜘蛛を素材にして武器を作るのが一番確実でした」


 止めた戦車チャリオットの横に、乗馬するクレイモス公がいる。

 目線の先、颯汰が射出した武器を用いて戦う精鋭の騎士たち。二十名も満たない少数だというのに、次々と鉄蜘蛛の幼体たちを破壊していく。

 尾の光線を放とうとすれば、割り込むようにたてを構えてやって来る騎士。

 光線の反射で自身や仲間の装甲を焼き切られるのをおそれて、攻撃を中断せざるを得ない。

 であれば近距離で粘着弾を放つが、彼らの武器がそれすらいて見せた。

 

「作ったのは第八騎士団だな。……しかし、いくらなんでも武器を作るには早すぎる。あの本数はどういった奇術か」


「敵相手に話すと思います?」


「ふふふ。そうであったな。そのとおりだ」

 湖畔こはんから北上するために、軍勢は準備に取り掛かっていた。

 あわただしく人々は動き出すのは、国のかなめを守るため。

 首都に向かって進む巨怪きょかいちに行くためだ。

 荷物にもつの整理、手入れした武具の点検などをしている中、ある者たちは集まって会議を始めていた。

 颯汰たちや各騎士団長たち、第八騎士団は副団長の他に騎士団員一人と、もう一人を会議に参加させていた。

 すでに王が出立の準備を命じたが、これからの方針ほうしんを決めるのだ。

 円卓えんたくかこい、話し合う。

 作戦会議用のテントの中は人でひしめき合うとまではいかないが、七名で語るには少し手狭てぜまであった。

 軍議ぐんぎはまだ始まったばかりではある。

 

「――……とりあえず、様子をうかがいながら北上していく感じね」


 第八騎士団の副騎士団長がうでを組んでうなずきながら言う。

 突然姿を消した動く災害が、今度は別方向から首都を目掛めがけて行進を始めたのだから北上するのが正解だろう。

 問題はこの報告を受けた段階でタイムラグがあるため、急いでも間に合うかどうかわからないぐらいである。全員分のウマがあるわけでもない。さらにせまる問題が他にもある。


「現状、改めて戦力を確認したい。我ら第五騎士団は皆戦えるが、如何せん装備が彼奴等きゃつら、鉄蜘蛛に通じないとなるとな」


「ウチら第六も支障ししょうはないけど、あの鉄蜘蛛を加工した武器ってのがやっぱり欲しいところだね。きばつめじゃ全然、きず一つ付かないし近づくだけリスクありだし」


 守るために戦いに行くが、実力が無ければ無駄死にである。

 鉄壁をほこる機械の魔物に対し、有効な策が必須ひっすだ。

 つまり、鉄蜘蛛の装甲そうこうを斬りける武器。鉄蜘蛛の光線をふせげる防具。

 第八騎士団の騎士団長ナフラに視線が集まるが、先ほどしゃべっていた副騎士団長カール(ジュディちゃん)あごをしゃくって説明をさせる。

 ナフラの指示に彼も嫌な顔もせず、うなずいて説明をした。


「武器に関しては――そこの、コックムから来た竜魔の元気な男の子が持っているハルバード以外だと、今し方作成中のを含めて三つね」


 腕を組みながらドヤ顔を見せる青年。

 隊長クラスではない人間がこの軍議に参加しているのは、この場にいる第八騎士団員たるグシオンが対鉄蜘蛛装備として試作品のハルバードを彼に使わせているためだ。身体が異常なほどに頑丈がんじょうな作りをしているため、装備のテスト役として彼を採用さいようしたのである。

 

「……四つだけなのか!」


「しかも未完成?」


「あとはいだり微調整びちょうせいだから、出発には間に合わないがどこか休めるところで作業ができれば問題ねえ。夜通し行軍するってなると話は別だが」


「いえ、距離的にどこかで補給ほきゅうも要るでしょうから……、バーレイが空いてるなら話が変わってきますが」


 当然なことだが生命の体力は無限ではない。

 だからこそ夜通し動ける鉄蜘蛛――自立型機動兵器は脅威ではある。大型機はエネルギーを自家発電し、小型機へエネルギーを供給しているものと思われるが、定かではない。


「間者はバーレイに送り込んでおりますが」


「その報告で状況を知るにも、北上しながらの方がいいだろう」


 ここで待っているだけ無駄だ。少しでも守るべき首都――乱を起こされて占拠せんきょされた土地を目指すべきであった。


「すべてハルバード型なの? さっき借りたけど、かなり重たいね」


 マルコシアスが言う。

 使いづらいが基本的に鉄蜘蛛は一匹に対して複数人で囲んでボコるのが有効なので、重量を活かせて、なおかつリーチのあるハルバード型を採用する予定ではあった。


「だろうな。だから各騎士団長サマに合わせた武器にしたぞ」


 言葉こそぶっきら棒で男勝りであるが、声も見た目も少女なナフラが答えるとグシオンが完成品のひとつを持ってきた。


「もう一本ハルバードとナイフは完成した。今は軍刀を調整中だ」


 ナフラが続けて言う。卓に置かれたかわのナイフケース。マルコシアスが手に取って思わず、


「おっ、ずっしり感……」


 会議用のテントで武器の持ち込みは御法度ごはっとものだが、気にせずナフラはいて刀身をながめていた。


「でも、やっぱ武器の数がネックですね……――あっ」


 堅牢けんろうな装甲を破る手段が限られている。武具が全員分あれば、かなり安定して迎え撃てるだろう。だが現実問題、その武具を用意するのが難しい。日数も足りない。

 無茶むちゃかさねてきたが、自分も戦闘に加わることを視野に入れねばなるまい、と颯汰は考える。颯汰の右腕は使えず烈閃刃チェイン・エッジも使用不可であるが、剣に魔力を流して強化する銀剣は使える。そこで颯汰は思いついたのだ。


「……鉄蜘蛛装備、一から作るのが間に合わないなら――」


 颯汰が左腕に装甲をまとう。

 黒き瘴気しょうき籠手こてとなり、さらに追加武装である『亜空の柩(ノスフェラトゥ)』がきらめく。

 右腕代わりに深紅の布であるディアブロを操り、盾にもさやにも似た形の縦長のひつぎの上部分に巨手をかざして引き抜く。――剣こそは並みの武器であるが、その剣身は白銀の光に包まれていた。


「――こんな感じに既存の武器にコーティングする形で増やせませんかね?」


 武具のすべてを鉄蜘蛛の装甲から加工して作成するとなると時間がかる。だが刃の部分だけコーティングならいくらか時間も削減さくげんできるし、その分多くの鉄蜘蛛を殺せる武器を作れるという算段であった。


「おぉ! さすが陛下!」


「ふむ。確かにそれが可能であれば、有利となるでしょうな」


 マルコシアスとサブナックから賞賛を受けた。

 天才的なひらめきだと颯汰はちょっと自信をつけた。


「あー……」


「……スマン、それ、もうためしたわ」


 ばつが悪そうな顔をする第八騎士団の三人。颯汰は現実に打ちのめされた。技術屋で鍛冶のプロである第八騎士団が、それをためさなかったわけがなかったのである。


「私たちも何度も試したのよね。でも、どうにも難しいみたい。安定性が欠け――金属同士がけ合ったり、もろくなってしまうの」


「他の鉱石で試したが、どれもダメでしたね。モルモットくんがるってくれたけど一発でくだけてしまいました」


 グシオンにモルモット呼びされている青年であるが、いやがる素振そぶりを見せていなかった。言葉の意味をわかっていないのか、何かのあだ名程度と思っているのかもしれない。

 それどころか、ぷるぷるとふるえた後、颯汰を指さして笑っていた。


「ぷぷぷぷぅ……、ハハハ! 素人しろうと風情ふぜいが口を出したところではじをかいただけだったな! いやぁー恥ずかしーい!」


「その通りなんだけど、ムカつくなぁ! そんなキャラだっけ君!?」


 普段、ちょっと中学校二年生ぐらいの感性豊かさを持ったまま成長した青年である彼が、突っかかってきても颯汰は大抵のことはスルー出来ていたのだが、ちょっと今回は自信があった分、失墜しっついしたせいで余裕よゆうがなかったようだ。


「……ダメかぁ」


 かたを落とした颯汰。周りの大人たちはどうなぐさめようか迷っていた。

 そんなときである。

 颯汰の左腕が痙攣けいれんするようにガタガタとひとりでに震えだす。

 おどろいて見つめると、亜空の柩(ノスフェラトゥ)が振動していたのだ。

 何事かと左腕を上げると、引っ張られるような感覚がした。実際に腕が引かれていた。


「えっ――あ、オイ!」


「陛下!?」


 自分の意思と関係なく、左腕は進み颯汰がいかけるという奇妙きみょうなかたちをとっていた。呼び止められても左腕が向かおうとする方向に足で付いて行かなければバランスをくずしてたおれてしまいそうであった。

 作戦会議用のテントから出て、変わった足取りでみちびかれる颯汰に、他の兵たちも足を止めてしまう。


「どういうことだ!? おいおい!」


 準備でいそがしい兵士たちの間をすりけながら、辿たどいた先は――、


「……これは、鉄蜘蛛の?」


 足を止めたところで、会議室にいた全員が追いついた。

 突然とつぜんの王の奇行に幾人いくにんも理解は追いついていない。

 着いた場所は第八騎士団の移動工房の中、解体かいたいした鉄蜘蛛の装甲板の目の前である。

 颯汰がなんとなく手を向けたとき、黒の瘴気しょうきおどりだす。

 集まった黒いけむりアギトを形成し、金属板にみついて引っ張った。 

 自分の身長と変わらないほどの大きな金属塊きんぞくかいが、左腕――亜空の柩(ノスフェラトゥ)の中へみ込まれていく。


「えっ、えっ?」


 騎士たちも驚いているが、当人が一番驚いている。武器の類いは収納しゅうのうしたことはあるが、ここまで大きく自分の体重以上の金属が入るとは思わなかったのだ。まれて消える。腕が重くなった感覚はない。颯汰が左腕を振って見るが特に変化はなかった。


「な、なんだ……?」


 かかげる左腕。下から亜空の柩(ノスフェラトゥ)ながめていたら、それは突然現れる。


「……! あの時の、ハンマー?」


 純白じゅんぱくをベースに金銀の装飾と青い宝石のような部分がある。アルゲンエウス大陸、ニヴァリス帝国内で見知らぬおじいさんにたくされた金槌かなづちが、亜空の柩(ノスフェラトゥ)の前に現れる。


「今思えば、これも霊器れいきだな。……なんか半透明?」


 展開されて浮かぶは円形の陣。光る黄色の円はハンマーのの先を中心として出来上がり、一定間隔でハンマーが動き出す。


「時計……いや、タイマーか?」


 ハンマーの頭の部分についた宝石部分が秒針びょうしんだろうか。

 カチカチと動いて一周すると甲高い音が響く。

 何が起きているのか颯汰すら理解できていない状況じょうきょうで、それは飛び出していく。


「うわッ!?」


 颯汰の左腕――向けた垂直方向、真上に飛ぶ物体。先ほど吸収した金属版が出てきた。

 移動工房の天井――雨除あまよけの布にすぐぶつかり、布を巻き込む引っ張るが、突き抜けることなく星の重力に引かれ始める。落下だ。反射的に騎士団長たちが颯汰をかばおうと動く、その前に颯汰は何が起きたか理解した。


「――そういうことかよッ!」


 亜空の柩(ノスフェラトゥ)から布型霊器ディアブロで形成した右手で引き抜く。

 落ちてきた金属塊は、颯汰に直撃――せず、両断される。

 響く金属音。直後、真っ二つにされた装甲板が床に落ちて音を立てる。


「き、斬った……?」


 何か色々備品を巻き込んだが、怪我人は一人もいなかった。

 立ち尽くす一同。颯汰は手に持った――剣を見やる。


「コイツが、鉄蜘蛛コーティング剣……!」


 クソダサい名前を口にしたが、そういう事である。

 鉄蜘蛛の装甲板を『亜空の柩(ノスフェラトゥ)』の内部に取り込み、素材として使って、平凡な剣の剣身だけをコーティングして強化をほどこしたのだ。

 転がった金属板もよく見ると、斬った部分以外にも少しけずれ、消費しょうひされている。


「なるほど、素材として使ったわけか。……上に向かって排出する意味は無いよね!?」


 素材を消費しますよという親切心であるならば、他の手段で伝えてほしいところであった。

 現行の鍛冶師かじしいま到達とうたつできなかった地点に、その剣は生まれた。仮に颯汰が居なくとも、後の世を歩めば人類は、この技術に到達していたのかもしれない。

 ことなる世界の者が関わったことで、思考も技術も加速し世界は変わっていく。

 颯汰はこの剣を数本、第八騎士団に託して作戦を改めて決めたのであった。


 ◇


 そして現在――。

 武器を仲間に与える役を颯汰はになう。

 以前もやったように、武器を一から生成できるが魔力の消費をおさえるため、亜空の柩(ノスフェラトゥ)の中に大量の武器と、持てるだけの鉄蜘蛛素材をめ込んだ。

 結果、生まれた“移動工房”。

 素材百パーセントよりも質は落ちるし、武具自体は比較的壊れやすくなっている。だが使いてを前提ぜんていに武器を大量に生み出し、それで削り切るという作戦を立てたのだ。

 颯汰たちは軍勢ではなく、精鋭せいえいだけ――付いてこれた者だけ戦場にいる。

 想像していた以上に鉄蜘蛛は早く移動していたが、兵の足止めがなければ今頃バーレイは火の海にしずんでいたであろう。


「行け――!」


 颯汰がけ声をかけ、武具を投擲とうてきして設置せっちされる。

 軽い体重の少年が、ウマ四頭による馬力で機動して幼体ようたい翻弄ほんろうしつつ、さらに精鋭が武器を使って敵を減らしていく。

 熱光線は盾で防ぐ。反射機能を有しているのは二枚だけなのだが、デザインが統一とういつされているせいで、すべての盾が反射するというり込みがなされた。ブラフが通じ、鉄蜘蛛は熱線をまったく撃たなくなっていた。


「なるほど。やるではないか」


 戦車チャリオットで前線へ向かった颯汰を見てバルクード・クレイモス公爵は不敵に笑んでいた。


「か、閣下……」


 おそる恐る声をかける部下。


おくするな。第一から第三の騎馬隊きばたいは付いてまいれ。他は待機たいきじゃ」


 そう言ってバルクード・クレイモスは参戦する。

 颯爽さっそうと騎馬でけ抜け、地面に刺さっていた武器をうばい、鉄蜘蛛の幼体に斬りつける。一撃にて敵機を斬り裂くすさまじい切れ味に、思わずバルクードは手に取った剣を眺めた。装甲の表層を傷つけてまだ動く機体に対し、華麗かれいなる馬術で方向転換しさらに深く斬り込んだ。


「地位の簒奪さんだつの次は武器の泥棒どろぼうかー!?」


 戦車チャリオット操縦そうじゅうと武器の生成で余裕もなく、遠くで声を張り上げる颯汰に対し、バルクード・クレイモス公爵は笑って返す。


「手数は多い方が良いだろう?」


 そう言いながらまた一体破壊する。鉄蜘蛛の足先の鋭利えいりとげによる刺突しとつも難なく切りくずした。続く軍勢も武器を手にし、バルクード・クレイモスの指揮しきしたがって戦い始めた。


「……良いケド、すぐに壊れるから過信すんなよ」


「その都度、作ってくれるのだろう?」


「確かに原材料はゴロゴロ転がってるが……」


 おそらく、三十以上いた機体は次々とほうむられていく中、一番の巨蟲きょちゅうが黙っていなかった。

 激しく耳障みみざわりなさけびの後、明確に颯汰を危険分子として狙い始めた。

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