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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
嵐の向こうに待つもの
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23 再会の巨影

 ヴァーミリアル大陸南部。

 アンバード領内。

 国境をえ、南から北上する集団がいた。

 軍勢と呼ぶには少ないが、旅行者とも異なる。

 ある意味で旅芸人と呼べるバラエティ豊かさはあるが、『魔女の夜(ヘクセンナハト)』でもない。

 馬車が早足で進んでいく。

 中にはウマを操る御者ぎょしゃになう男と若い女性。

 さらに女の傍らに、黒衣でありながら花のように飾られた小さな子ども。

 せまる“敵”からげるため必死であった。

 馬車の周囲を走る影が十数もあるが、それらは敵の追跡者ついせきしゃではない。

 共に厄災やくさいから避難ひなんする仲間であった。

 四つ足で進む黒い猛獣もうじゅうたち――すべて大きなネコ科である。

 マルテから脱した獣刃族ベルヴァシーの民だ。

 彼らはある種の来客であり、颯汰が待ち望んでいた相手でもある。

 そんな馬車と砂の民の後方にいる敵はマルテ王国から追走してきたが、マルテの軍隊ではない。

 彼らは一応、正規の手段で国からだっしていたし、馬車を動かす男にいたっては砂の民(彼ら)を受け渡しが済み次第、帰国する手はずとなっていた。

 馬車を操る男の名はドミニク。マルテ王国の優秀な双剣使いでもある伯爵はくしゃくだ。

 伯爵自らが手綱たづなにぎり、アンバードの王都バーレイに向かっていた道中であった。

 彼は少し前、一万の軍勢を用いてマルテの王女たるヒルデブルクを捜索そうさくしていた。偶然ぐうぜんにも“魔王”と遭遇そうぐうし、どうにか生還したものの、その魔王から王女を人質に取られてしまった。

 そのことを報告しにマルテへ一度、帰国をしていたのであった。

 偽りの魔王である颯汰と遭遇、鉄蜘蛛との交戦後――先に報告するためにふみを持たせて早馬にて先行させた兵が王城に到着とうちゃくさせた。

 文書を読んで国王は驚愕する。

 娘のヒルデブルク王女を返してほしければ、奴隷どれいである獣刃族ベルヴァシーの民、全員を解放し、忌まわしき魔族の国であるアンバードへ引き渡すようにというむねが親書という名の犯行声明・脅迫文きょうはくぶんに書かれていたのだ。

 マルテの国王は大いになやんだ。

 敵に屈するのか。アンバードが戦争直後に疲弊ひへいしている内に侵攻すべきか。しかし、破滅の光を目にして戦うという選択をするほど、国王は夢想家ではなかった。

 だが、敵の要求を聞いたあとに人質が返還される保証などないのでは、と元老院との協議中に指摘してきされもしていた。

 確かに彼の王が約束を守るかどうか誰にもわからない。

 国同士であれば、経済的な制裁や軍事行動などによる直接的な抑止力によって簡単に反故ほごにされることはないが、単体で国を滅ぼせる“魔王テンセイシャ”は通常では誰も止められない。意思のある殺戮兵器さつりくへいき、上位に位置する存在が、人間ムシ相手に本気で約束を守るだろうか。

 議論はそこで止まってしまった。

 数日後、傷だらけの軍を率いてドミニク伯が帰ってきた。

 王の間にて謁見えっけんする前、宰相さいしょうの男だけが先に待っていた。

 宰相も、作戦失敗したという報告を既に受けていたからこそ、小言を口にしようとしていたが言葉を失う。

 かなり傷を負い、たまわった『聖剣』の一つが失われて敗走したドミニク伯の姿を見て、なんと声をけるべきか迷った様子であった。

 ただ、普通であればその身なりだけで王城への立ち入りを禁じられてもおかしくないほどにボロボロであるが、門番などの制止をり切り、伯爵はあえて身を清めることもせず、怪我の手当ても最低限のままにのぞんだのであった。

 ドミニク伯も結構な策士さくしである。

 だがそれでも、最悪は想定していた。作戦失敗の責任として、処される可能性は大いにあったのだ。

 実際に、多くの貴族階級のものが彼の失敗をわらっていたし、直接ではないがヒソヒソとわかりやすく陰口かげぐちを叩いていた。

 ドミニクがひざまずき待機していた中、王が入場する。

 王の許可きょかを頂きおもてを上げ、ドミニク伯の口から仔細しさいを報告をした。

 アンバードを支配した新たな王と遭遇し、王女が人質に取られたこと。さらに鉄蜘蛛との戦闘になり、王から賜った剣が破壊されたことを真実とウソを交えながら語る。

 彼は敵である魔王と共闘して鉄蜘蛛を撃退したという話をした。

 これは自分自身の保身の為ではなく、颯汰が信用に値する人物であるということ――また王女が婚約相手の男を気に入っていないとわかって逃げたことを理解してでの発言であった。さすがにそれを王に伝えはしなかったが、王女のワガママに彼の少年王は振り回されている、とまで見抜いていた。彼女は悪気もなく人を巻き込む性質があるのを、ドミニク伯は深く知っていた。

 刀身がくだけたどころか、面影がわずかに残るすふか何かでまみれた金属と化した霊器『ボルティセ』を返還し、彼は王の問いかけに応えた。

『要求を飲まねば、王都に破滅の光を必ず落とす』

『彼の魔王は、必ず約束を守るだろう』と。

 宰相も動揺している中、王はうなり決断を下す。

 そうして王は、シーの民たちを奴隷から解放を決めた。

 砂の民が彼の地にしばられた理由――“黒真珠”たる次代の王ヴィネを連れ、ドミニク伯は王城から発った。

 彼らは目立つ。

 ただ歩いているだけで視線を集めた。

 砂の民の百年に一度の『王』と、負傷して衣も変えてない武人。

 何が起きたか理解できていないものが大勢であっただろう。

 一度、伯爵の館へ戻り、妻に事情を説明して準備に掛かる。


『――そういうことだ。すまないネ』


『どこまでも御供しますわ。あなた』


『…………おぉ』


 夫婦のやり取りに感動して息を漏らすヴィネ。

 彼らは荷物を最低限まとめて、館を出る。

 貴族の中には、彼がもう二度と、もどらぬつもりなのではと邪推じゃすいしていた。

 負け帰った男を、他の貴族の中には見下すものもいた。

 彼が寝返るとうったえる者もいたが、代わりに使者としてアンバードへ向かうのかとたずねられたところ、顔をそらしたという。

 国境から侵入を阻む長城が首都という歪な街ロッソから出ていく。

 城門前に広がる砂漠さばく――。

 そこに二十を超える影がある。砂の民が獣化を解き、主の前に侍る従者のように進むべき道を左右に分かれて跪く。

 ただ一人だけ、女豹めひょうたるシトリーだけが苦虫をつぶしたような顔をしていた。それでもここにいる者たちをひきいている長として感情を抑えて跪いている。仲間たちもそれを気にしていた様子だ。

 迎えられた“黒真珠”と共に、アンバードへ向かっていった。

 気ままな旅とはいかない。

 ドミニク伯たちにとって道中、いつ殺されてもおかしくない状況だ。何故なら彼らを縛った鎖を握った人族ウィリアであり、マルテ王国の伯爵の地位にいる男なのだから。

 砂の民が心を開いていないのは当然である。

 沈黙の多い旅になる――かに思えた。

 野営を済まし、移動を開始しようとしたときにそれは現れた。

 遭遇した記憶のあるドミニク伯の顔色は青ざめ、砂の民たちも毛を逆立てて唸る。

 らめく赤い光が六つ。大地をみしめてガチャガチャと鳴るのは、鎧のぶつかり合う音ではない。多脚から奏でられた騒音だ。


「――あれは……、鉄蜘蛛てつぐもッ!」


 ヴァーミリアル大陸に跋扈ばっこし、一時期多くの人間を絶望のふちに叩き込んだ機械仕掛けの怪物。目的も不明の暴走獣が迫る。

 一体、二体では済まない。

 三十を超える機械が、ぞろぞろと後方から迫る。

 金属の化け物たちが地をおおう。

 目的は不明とされるが、ともかく人間を追って襲うというのは体験した、報告された通りであり、こちらに向かって追いかけてきた。

 速度はそれなり、馬車でゆったり進んでいると追いつくぐらい。

 問題は、彼らは一定の速度のままどこまでも、追いかけてくることだ。鋼鉄の魔物に対して、生物の体力には限りがある。生き物が休みを挟まないで長距離の移動はきびしいものがある。鉄蜘蛛は単体でエネルギーを回復する術は持ち合わせているように思えないが、過去に数日をかけて移動したというのに、ずっと追いかけてきたという記録が残っている。

 その真偽を確かめるのは自殺行為にも等しいし、そんな余裕はない。ともかく引き返せない今、アンバードに救援を求める他なかった。

 ちょっとした些細ささいな問題として、王都で内乱が起きてしまったことを彼らは知らない。

 かなり重要な問題に思えるが、そんなことはない。

 なぜなら彼らの前に――、


「予定が少し狂ったけど、行こう」


 立花颯汰の軍勢が待つ。


「わざわざ迎えに……!?」


 感動するように目を煌かせる黒の女豹シトリー。良くも悪くも彼女は喜怒哀楽の表情の変化が激しく思える。好きなものは好きだし気に食わないものに対してはしぶい顔をする。多少我慢を覚えたようではあるが。

 距離があるから互いの声も、口を動かしたかどうかさえもわからない。だが颯汰が口にした通り、予定外の事態だ。


「どうするんです? 陛下。迎え撃つにしては結構な数だ。本陣には負傷者も操影者やつらもいますぜ?」


 レライエの問いは最もである。


「あの発射台――兵器も使い物にならなくなったみたいですから、あの数を相手にするのは厳しい……というか無理な気がします」


「ふむ。」


「……後のことを考えたら交戦していられない。だけど、はさちにされても厄介やっかいです。まずはお客様たちの回収し、撤退てったいしましょう」


 颯汰は冷静に判断する。

 先の操影者ソウエイシャおよ黒泥コクデイ戦に使った鉄蜘蛛の幼体を改造して作った兵器の銃身は焼き切れてしまった。さらに言えばエネルギーをどうやって補給ほきゅうするかもわかっておらず、現状だと使い切りの状態であった。重量はあってもさすがに放棄ほうきしたら何者かに回収される危険性もあるため移動は必須ひっすだが、そちらよりも人命を優先させて、一時的に埋めたり木々の合間に置いた偽装工作ぎそうこうさくをしてどうにか誤魔化ごまかしていた。

 現状、颯汰たちに戦える術はあるが、消耗しょうもうが激しく、犠牲者が出てくることは予想できた。鉄蜘蛛の堅牢けんろう装甲そうこうを破る手立てはあっても、三十もの数を相手取るのは難しい。

 ゆえに、一旦引いて援軍を待つ。

 元より東西に分かれた仲間たちを集結させ、その後に王都に攻め入るつもりであった。今は操影者たちを襲撃した直後であり、まだ合流をはたしていない。

 颯汰は操影者五人からきちんと“欠片カケラ”を回収してある程度は回復はしたものの、本調子からは程遠い。

 先の戦闘で、結構な無茶をしていたのだ。


「しかし陛下、あの数をくのも難しいのでは」


「……どうしよう。結局奴らの行動パターンがわかってないんだよな。何が目的で行動してるのか。……あの数だとおとりとして騎馬や獣刃族ベルヴァの人たちを向かわせてもかわし切るのは難しいだろうし」


 一番機動力のある者に囮として立ち回ってもらうか。あるいは騎馬隊で向かわせ注意をくか。

 そういう役目はもっと命の危険と程遠い怪物がやるべきだが、それに適した人物はいない。


「……爆風や閃光で気づかれるかもしれないけど、最悪の場合、シロすけと一緒にぶっ放すしかな――」


 少し考えた末、短絡的な結論が出かける。

 現在、肩に乗っているシロすけと共に最大火力で砲撃をすればそこそこの被害を与えることはできるだろうが、直撃した以外の敵機が行動不能になるか怪しいところではある。だが、時間は稼げるだろう。

 ただ敵――バルクード・クレイモス公爵に自分たちがここにいるとバレる可能性が高い。できれば戦力を集め次第に孤立無援こりつむえんとした王都で決戦を迎えるつもりであった。その前に兵を送られ連戦は避けたい。

 颯汰の言葉は、途絶えた。

 誰かにさえぎられたわけでもなければ、攻撃を受けたわけでもない。

 空気が変わった。

 地面が大いに揺れる。巻き上げられる土。

 鳥が飛び去る影がいくつも見える。

 羽ばたく音と悲鳴が空に舞う。

 それは“巨神の再来”とまで呼ばれた巨大機動兵器。

 八つの足、赤いひとみふくらんだ後部までは幼体と共通している。

 逆に言えばそれ以外が全く別と言っていい存在である。

 脚部は一つ一つが長く、そびえる塔のように生えている。

 金属でありながらナノマシンで形成された繊維状せんいじょうの物質が、どこか生命であるかと錯覚さっかくさせる。金属特有の光沢と、機械であることを示す光の明滅だというのに脈動しているように感じた。

 黒く染まったボディに横開きの口と鋭い牙。

 小さな脚、あるいは補助的な手のような触手しょくしゅじみたものが四つが胴体どうたいから伸び、漂うように動いている。敵をつかむためにあるのだろうか。

 頭部も蜘蛛とは異なり、首があって少し長い。

 バイザーの下に複数のカメラアイが光っている。

 

「――……ディムからの手紙通りだな。タイミングが最悪だが」


 クラィディム国王の親書から、ヴェルミの南西からマルテ方面にかけて鉄蜘蛛が多数出現するといった情報を得ていた。

 だが、本来の想定を超えて早期に―― “成体”と呼ばれる真の厄災が姿を現したのであった。


「……どいつもこいつも、デカけりゃいいと思ってない?」


 ながめる巨躯きょく。二十ムートは超える大きさに思えた。

 颯汰のそのボヤキは風に流れていく。

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