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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
嵐の向こうに待つもの
372/435

02 裏切り

 さびしげな風が枯草かれくさでるように吹く。

 んだ空気はかわき、冷たさをび始めていた。

 夏のすような日差しから、少しばかり和らいだ今日この頃。

 ヴァーミリアル大陸の西部は荒地であり、東部と比べると格段に木々が少ないが、その中でも点在する木のかげで休む魔物の姿も見える。アライグマに似た小型の雑食動物だ。

 他には離れたところでも存在感がある大きさの、双角の草食種たる魔牛のたぐいや、毒性を持つ大きな蛇型の魔物など、人里から少し出ただけでそういった生き物も生息しているのが見て取れた。少し離れてコヨーテのような肉食の魔物は警戒けいかいするようにこちらを真っすぐと見据えているのもわかる。

 立花颯汰ご一行は合流してきた六人の騎士たちと共に、コーラルという村から出てきたところであった。


 立花颯汰を支持する側――内乱を起こした三大貴族に反発した勢力の呼び名はまだ定まっていなかった。

 正規軍、あるいは現政権派、もしくは颯汰派、神の軍勢(笑)などを自称し各々(おのおの)が活動をしていたものの、不便であるため敵方である叛徒はんとたちからは『賊軍ぞくぐん』と呼ばれ、弾圧されたのであった。とはいえ直接的な戦闘は全体を通して見ればそれほど無く、だいたいは脅迫きょうはくしという名の交渉こうしょうによって賊軍は瓦解がかいしていった。

 それでも官軍かんぐんである叛徒たちを討つべく、抵抗し続けていた者たちが各地にいた。現政権を束ねる偽りの魔王――立花颯汰の帰還きかんを待っていたのである。


 そんな中、一人の青年が出自を語り出した。

 不在中に内乱を起こした三大貴族。その中でもかつて武闘派であったというバルクード・クレイモス公爵の血縁者であるという。


『父であるバルクード・クレイモスを倒したい』


 そんな言葉を放った赤毛の青年。

 それに対し、颯汰は平静なまま問う。


「どうして? あなたのお父上は一見すると正しい行いをしている。正当な後継者をかつぐことはなんらおかしな行為ではないでしょう? 反発する理由がわからない」


 自分の父親と一緒に勝ち馬に乗った方がいいだろう、とらんを起こされた当事者が続けたことに他の兵たちが困惑していた。

 理由を尋ねられたベリトは、一瞬だけ面を食らった形ではあったが、すぐに立て直しよどみなく、答えてくれた。


此度こたびの乱にて、三大貴族と敵対する側に立った者たちはみな陛下へいかが勝つと確信しているからです」


 現国王である化け物(主人公)が突き立てた“光の柱”を見て、反旗はんきひるがえすのが馬鹿ばからしいと思うのが普通である。王都バーレイとその近郊きんこう以外の場所では、だいたいの理由がこれである。元を辿たどれば魔王という化け物がアンバードを暴力で支配し、それをったヤバいやつが王位にいたのだ。その王が不在の内に国をっても取り返されたうえで粛清しゅくせいされるだけであろう。


「それに、彼奴きゃつらに正当性があるのならば、なぜ陛下が不在の時を狙う必要があったのでしょう? 本当に先々代の王の血統かも疑わしく思います」


 ――……そこは、どんなに正当性をかかげても暴力で押し切られるのをおそれたからだと思うな。……まさか誰も俺が戦えないとは思ってもいないわけだが


 問題は颯汰がその手段が使えない点だ。

 右腕が負傷どころか常人では回復不能な域までダメージを受けたのを、持ち前の異常な回復力に加えて《王権レガリア》の支援を受けて再生中である。戦闘はなるべくけて回復を優先すべき状態なのであった。

 顔には出さず、士気しきいちじるしく低下させるであろう事実をかくして話を続けることにする。ネタ晴らしをするにもこのタイミングは適切てきせつではないと判断はんだんした。まだ、情報を取得すべきである。

 おそらく、颯汰の戦闘能力――あるいは敵地を制圧するだけの兵器としての虐殺能力が無いという事実を知ろうが、命じれば戦い続けるであろうファラス(狂信者)って入ってくる。


「我が神よ。ベリト殿はなかなかに見所のある猛者もさであります。私は彼に助けられ、こうして再び神のご前に立てています」


「……、恩人おんじんというわけですか」


「はい。バーレイから脱出する折にですね。そして我が神、お伝えしたいことがいくつかあります」


 首都からびた彼からの情報は(誤認の有無を抜けば)信用できる貴重なものだ。

 聞きのがさぬように耳をかたむけたところに、今度は最初に声をかけた騎士が割り込んできた。


「陛下。それにファラス殿も。ここで足を止めるのは得策とくさくではありませぬ。どこぞに間者がひそんでいるやもしれません。すぐに南東へ進み、ボルドーを目指しましょうぞ」


 彼の意見は最もである。

 現在の情報だけでも、敵は正義をかかげて首都をほぼ制圧し終えている。ファラスが撤退てったいを選ぶという事態じたいにまでおちいっている状況なのだ。

 颯汰としても 人質がいる以上は姿を見られるのはけたいところ。


となり――というには少しばかりはなれていますが、ここより大きな村で我々のウマを休ませているんです。そこでなら馬車も調達できるはずです。つのる話もたがいにありますが、今はできるだけ急いで移動した方がいいでしょう」


 もう一人の甲冑かっちゅう騎士が言う。

 重装備のわりには騎乗する馬のたぐいが見当たらないなとは思っていたところだ。

 颯汰は諌言かんげんを聞いた瞬間に処罰しょばつを行う狂王ではないが、何か少し考えをめぐらせるように曖昧あいまいな表情のままうなずいた。

 一同はゆっくりではあるが移動を始める。

 実際、敵方がまだ此方を認知していない内に情報を収集し、勢力をまとめて行動を起こした方がいい。もっとも、敵の狙いが単純に王位だけであるならば、くれてやってもいいと颯汰は考えている。


 ――敵の狙いが権力、王位の奪還だけならば正直すぐに問題は解決できる。ゆずるからね


 戦ってくれた者たちから顰蹙ひんしゅくは買われるだろうが、無駄に争う必要がなくなる。しかし、既に颯汰は感じ取っていたものがあった。

 味方の優等生的な発言に対してか、ベリトは「ケッ……」っと気に入らなそうに吐き捨てた。それに対し他の騎士たちの言葉による反応はない。聞こえなかったとも思えないが、特に憤慨ふんがいすることもいさめることもなかった。そんな些細ささいなやり取りでも、読み取れるものがあった。


「………………」


 颯汰は黙って観察を続けるが、やはりわざとらしく見るのではなく先導する騎士たちについて行くように自然に歩くに留めていたのもまたいやらしい。

 疑念ぎねん芽生めばえていたところ、再びベリトが声をかけてきた。


「ところで陛下――」


「なんですか?」


「こんな俺は、信用できますかね……?」


 少しばかり不安があり、自然と笑ってしまっている。ベリト青年兵はどことなく愛嬌あいきょうがよさそう思えた。

 争乱を起こした張本人の息子を軽々しく信用するようなものは普通はいないだろう。

 それに判断できるほど会話を交わしていない。

 このタイミングでたずねるようなことではない。

“答えなど、決まっている――”ような問い。

 思わず振り返り動いた仲間の騎士と、そのかたつかんで制止させる仲間の騎士。

 肩に幼き龍を乗せた闇の勇者はめいじられればいつでも動けるように待機していた。

 リズもジッと、疑わしい目で見ている。

 その視線に気づいたベリトであるが、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 颯汰は足を止め、考えてから応える。


「……貴方はウソはついていない。だけど、真実もまだ言っていないですよね」


 交わすべき言葉が少ないのもあるが、本心をまだかくしていると少年王はだんずる。

 その言葉に多くのものがおどろきの反応を見せる。当事者であるベリトはあばかれたという恐怖や羞恥しゅうちといった負の感情ではなく、喜びを見せていた。予想外であり、求めていた答えとはことなっていたというのに目を輝かせた。

 予想を裏切うらぎられるというのは、物事に勝手に期待をし、そのハードルを越えてくれなかったいきどおることをすならば――、これは予想を上回る答えであった。つまりは、期待以上のものを突き付けられた驚きと感動である。


「……おぉ! さっすがぁ。一日に何十もの近づいてきた刺客しかくを見破ったというだけはありますね」


「それはちょっと盛りすぎ」


 それはもう暗殺ではなくカチコミというやつでは。

 そこまで崩壊ほうかいした王城跡とそこに立てたログハウスの警備はゆるくない。

 ちょっとした談笑の空気が流れる。

 それを引き裂くするどい音色。

 さやから抜き放たれ剣がうなる。

 光が見えた時には喉元のどもととらえ、突きさる。


「――が、はっ……!」


 声を出すは、鎧騎士。何が起きたか理解できてない様子のまま、絶命する。赤く染まった剣を引き抜くは、ベリト・クレイモス。

 つるぎよろいつのは容易よういではない。

 だから、あらかじめ鎧の方に細工をしていた。首まで保護するはずだった金属板が機能を果たさず、ベリトの剣にてあっさりとつらぬかれた。

 一人をたした後、ベリトは速攻で襲い掛かる。

 突然の奇襲きしゅうに、こしに帯びた剣を抜こうとした二人目の鎧騎士。剣を抜かれる前にベリトは突進し、転倒させたところにかさず、赤く染まった剣を喉元のどもとにあたる部分を突き刺した。短い悲鳴が響く。


「裏切るつもりか! ベリトォ!!」


 剣を抜き放ち、応戦し始める三人目。

 切り付けられたのを、引っこ抜いた剣で受け止める。


「何のつもりだ……!」


 激昂げきこうする鎧騎士。兜で顔が隠れていても怒りで燃えているのがわかる。困惑こんわくしつつ理由を訊ねてはいるが、答えを得る前にそのまま切り殺しそうな勢いであった。

 しかし、誰もこの戦いに介入かいにゅうはしない。

 颯汰たちが手を貸すことはない。

 そんな中、立花颯汰は仲間に声をかける。


「レラさん」


「応よ! あの木だな!」


 颯汰が指し示そうとしたよりも先に気づいていて、いしゆみを準備していたレライエ。

 撃ち放たれた矢が、颯汰が指した瞬間しゅんかん、木に向かって飛んでいく。

 まだ辛うじて夏の色味を残した葉の隙間にい込まれ、「ギャ!?」という悲鳴と共に落ちる。

 木に登った魔物ではなく、ヒトであった。

 木の葉で身を隠した兵士だ。

 その手に同じような弩がにぎられていたが、その腕に矢が突き刺さり、痛みにあえぎ落下する。


「もしエルフで弓持ちだったら先手でやられてたかもしれん、よかったよかった」


 射手であるレライエが安心そうに息を吐いて言った。

 それは颯汰たちが向かっていた場所とは外れていたが、間違いなく進んでいく内に射程圏内しゃていけんないに入っていた。

 その突然の行動に目をいた鎧騎士。

 目の前で殺し合いをしつつも、仲間を殺されたあとに背後から矢が飛んで、隠れていた仲間(、、)が撃ち落されたならば冷静さが欠けても仕方がない。


すきありだぜ!」


 剣を弾かれた鎧騎士は咄嗟とっさに首を守るように左手が動いたが間に合わない。 

 上から下ろしてる途中の指を巻き込み、すべるように指の隙間すきまから切っ先が通り抜ける。

 喉をとらえるのは三度目であった。

 赤々とした血が剣を伝って流れ出る。

 騎士から力が抜け、手から剣がこぼれ落ちた。

 声ならぬ音、カランと剣が落ちた音が追う。

 ベリトは剣を引き抜いた。

 力なく倒れる騎士だったもの。

 それを見下ろす目は、少し物憂ものうげであったように思えた。


「裏、ぎり、もの……!」


 攻撃が浅く、まだ息のあった二人目の騎士がう。呪詛じゅそを込めた言葉をく前に、ベリトは鎧騎士をころがして仰向あおむけにさせてからトドメを刺した。


「訳を聞こうか」


 戦いの余韻よいんひたる間も与えず、颯汰が言う。

 颯汰の目線が一瞬、唯一残った鎧騎士を捉えた。戦意喪失したように見受けられるが、きっとベリトの仲間なのだろう。割り込んで戦うつもりもなかった。

 リズと紅蓮の魔王、ファラスたちは、アスタルテとヒルデブルク王女を守るように動いていたのも確認できた。


「信用を得るため、どうするべきかをまず考えました」


 ベリトは剣を再度引き抜いたが、血とあぶらまみれた剣を投げ捨て、遺体から剣をうばいながら彼は続けて言った。


「奴らは敵側の人間で、陛下をワナにはめるため誘導ゆうどうする役割だったのです」


「むぅ!? なんですとぉ!?」


 へぇ、という颯汰の反応をき消すさけびを挙げた鬼人のファラス。

 お前も驚くのかよと颯汰は彼を見た。


「ファラス殿には話してませんでしたからな。声がデカイので」


 同意するように二度(うなず)いた颯汰。

 反してファラスは驚き声をあげた。


「えぇ!?」


「半分冗談(じょうだん)として、監視の目があって話すひまがなかったというのが理由になります」


「なるほど。それなら納得です」


 それでいいのか、という目線を送った颯汰であったが、それよりも訊ねるべきことが増えた。

 だが先に、お喋り好きなのかベリトの方が颯汰に訊ねてきた。


「陛下は、いつ気づいたのですか」


 鎧以外にも顔に返り血を受けたまま、目にきらきらさせながら訪ねてくるのは中々のホラーみがある。


「木にヒトがいたことなら、ちょっと前。魔物があの木にだけ寄り付いていなかったから。何かがひそんでいるんだろうなって思いました」


ぼっちゃ……――陛下と同じでーす。それにしては単独って少なすぎでは?」


 レライエも敵が隠れるなら、と予想していたからこそ反応が早かったようだ。


「が、頑張がんばって根回ねまわしをしたのでね!」


 腕を曲げ、その上腕に左手を置きながらベリトは言った。労力がそれなりにあったのだろうとなんとなくレライエはさっした。


 ――実際のところ、ここに陛下が来るなんていうファラス殿の夢、大半のやつが妄言もうげんとしか思わんかったからなぁ


 傷つけぬように真実を隠す。

 ではベリトは狂信者の発言を信じたのであろうか。当然とうぜんいなである。当初からこれら三人を誅殺ちゅうさつするのが目的であった。ファラスが予知夢であると力説した中で、ベリトは努めて表情を変えずに対応したのが、鬼人の族長であるファラスにとってさらに信用度を加算させたのである。


 ――まさか本当に陛下と出会えるとは。自分でも驚くぐらいにスゲェや、俺のツキ


 自身の持つ幸運のおかげで目的に近づけたとベリトは思う。

 ニヤリと不敵ふてきに笑うベリトであったが――


「それはそれとして、義姉ねえさ……――ヒルデブルク王女とアシュの前で人を殺すのはできるだけやめてほしかったな」


 地雷をんだ気がした。

 表情も声音も平静である。

 だが、目が笑っていないように思えた。


「…………さて」


 ベリトは数瞬迷った様子であったが、覚悟を決めて武器を捨て、両腕を地面に付けながら平手を見せるように平伏・服従のポーズをとった。土下座に近い姿勢で、謝罪の言葉と敵ではないと真摯しんしな態度を見せたのであった。


「どうか、お命だけはご勘弁かんべんを」


 それに対して颯汰は、ため息を吐くだけに留めたのであった。


2024/11/23

一部修正

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