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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
氷の女帝と狂える巨神
338/435

137 巨神の最期

 てつく風の中、赤い闇にまれた世界――。

 爆発が起き、げたにおいも風に流されていく。

 元凶たる巨神ギガスは圧倒されていた。

 抵抗ていこうはしているが、もはや無意味に見える。

 文字通りの、雷霆らいていごとき速さにてすさまじい威力いりょく装甲そうこうを貫き破壊はかいしていく敵に、皇帝こうていすべも無くやられている。まずはその右腕部からそれは始まり、右半身が蹂躪じゅうりんされていく。

 誰もが思った――ニヴァリスが皇帝、機神となったヴラド帝は万策ばんさくきたのだと。

 敵対する魔王の片割れは、すでに勝利を確信していたけれど、立花颯汰は油断はしていなかった。

 だがヴラドにまだ、奥の手があるとは見抜けていなかった。

 巨神ギガスの、現状を打開することが可能な打てる手すべてを、き出させたと思い込んでいたのだ。


 崩壊する時の中で、皇帝は冷徹れいてつに思考がめぐらせた。機械仕掛けの神となったヴラド帝は、自らのほろびゆく鋼鉄のボディを見て何も思わない。激しい損傷そんしょうから生じる――存在しない神経から伝達されるいつわりの痛みを、皇帝は幻想であると認識していた。しかし完全に遮断しゃだんすることは出来ず、絶え間ない痛みは、呪いあるいは宿痾しゅくあとして皇帝の脳をむしばみ続けていた。

 さりとて、死にいたる恐怖など微塵みじんも無い。

 かなり絶望的な状況であっても、勝機を見出す必要があった。彼もまたニヴァリス帝国を建国した勇士の末裔まつえいであり、根は軍人いくさびとなのである。


 ――奴らの狙いは、わかっておる


 であれば、尚更なおさらのこと敵の猛攻もうこうを止めるべき場面にみえる。しかし皇帝は痛みにあえぎ敵の油断をさそう――好機チャンスうかがっていた。

 巨神ギガスの右腕部から標的とされている結晶物をくだかれ、迎撃用の対空砲などもすべて破壊され続けている。

 右肩と右腕の内部から大きな爆発が起きる。それにより装甲がめくれ、内部の機械と発生する黒煙こくえん、その中に漏電ろうでんの光がバチバチとほとばしるのも見えた。

 ふたつの光は、影さえ置き去りにする最速の移動と攻撃を織りなし、機神をめていく。

 人体が食らえばひとたまりもない、それどころか近くでかすめただけで肉がえぐれる大きさの銃弾じゅうだんの雨をけ抜け、逆に撃ってきたつつの中に雷撃をぶち込み、粉砕ふんさいしていく様は恐怖でしかない。死を運ぶ厄災やくさい騎兵きへいのように、吹きすさあらしの如き獰猛どうもうさをもって行軍する二対の光が縦横無尽じゅうおうむじんに、全身を駆け巡って攻撃してくるのだから。

 時折、雷撃の魔槍を投げつけて――ひざなどの遠くの弱点、ひそかに再生させようとした箇所かしょを破壊しながら、颯汰たちは逆転の丁寧ていねいんでいく。

 迅雷の魔王は一方的な破壊活動を楽しみ、立花颯汰は確実な勝利のためにつぶしていった。

 あふれ出す力により高揚感こうようかんをもたらすに充分な状況であったが、颯汰は油断せずに進む。

 その判断こそ正しい――正しいが、だからといって対応できるかは別の話だ。


 ――『“オーバークロック”、レディ……』


 巨神ギガスは静かに処理を進める。

 逆転の、真なる一手を打つ準備を整えた。

 機関最大稼働で砲撃ほうげきを放つわざも、フェイクだ。

 あの一撃で倒せるだけの敵であれば、それに越したことは無かったが、敵方は想定以上の怪物であったため、捨て身でかる。

 ナノマシン生成による自動修復の他に、巨神ギガス全機共通にそなえた機構のひとつ。それこそが、『オーバークロック』――機体を動かすためのあらゆる処理速度を、限界を超えて稼働させることにより、限定的であるが巨神ギガスを凄まじい早さで動かす荒業的な機能だ。

 それを一度、試したことがある。

 裏拳をかわされたが、その拳が生んだ烈風により颯汰の身体は巻き上がり、俊敏しゅんびんな動きで羽虫のように叩き落した時――あの動きもオーバークロックを使ったのであった。鈍重な様子から一変して、人体じみた柔軟じゅうなん軽快けいかいな動きをみせた。

 機体への多大なる負荷ふか、さらに魔力槽内のにえを数人分消費してしまうため、安易に連発ができない。

 だからこそ、この状況で使う。

 すべてを出し切って敗北はいぼくする――ように見える状況で、むのだ。

 勝利を確信し、優勢であることをうたがわずにいるおろか者によく刺さる。愚者ぐしゃあらずとも、この状況で一瞬たりともすきを見せずにいられるものだろうか。敵対するものを二人がかりで圧倒している――少なくとも、迅雷の魔王は勝ちを疑わずにいた。

 ひざひじかたそれぞれ左右にある大結晶を砕き、所々にある同じ色の比較的小さい結晶物まで破壊していく中で、いよいよラストスパートとなる。

 抵抗するように別の箇所――腰部や二の腕やらにも生やそうとしたが、雷撃の槍が突き刺さり、爆ぜていく。再生が始まっていた箇所も、両腕の砲を放つ際にそちらにリソースを割いたがために完全に直り切らずに壊された。

 大本である背部の神の宝玉(リーゼ・クライノート)以外の残りは、左腕の二か所となる。


 ――『今だ!』


 残り一か所よりも、二か所の時にヴラド帝は実行した。

 一瞬で二か所を破壊される可能性もあったし、何より最後に一か所だけだと敵も集中して取り掛かるかもしれない。

 皇帝ヴラドは瞬間的に動作速度を極限きょくげんを超えて高めた。右腕――既に中破して使い物にならなそうな砲を向ける。右腕部だけ普段よりも数倍、異常なほどの早さで動いた。内部のシリンダーのパイプがきしみ、亀裂きれつが入っており、砲だって黒く焦げている。この一撃で右腕はもう使い物にならなくなるであろう。

 壊されて不自由となった視界――巨神ギガス各所に設置していたサブカメラも破壊されたが、それがなくても計算で敵の位置を割り出し――向けたと同時に、砲を放つ。

 めの時間も必要ないほどに早く、ほとんどノータイムで撃てた。出力はある程度抑える羽目となったが、先ほど迎撃したときの光の束とだいたい同じ太さと威力はある。


『――っ死ィィねェェええ!!』


 皇帝の殺意を込めた叫びと共に――。

 黒く焦げた砲から、ありとあらゆる生命も金属も融解ゆうかいさせるビームが照射しょうしゃされた。

 熱線は寸分すんぶんくるわず、敵の予想地点を射貫かんと伸びていく。自身の左肩と装甲、及び結晶物がたとえ焼き尽くされようとも構わない。


『!』


 颯汰は、光の照射に気づいた。

 魔法で造られた投げ槍をつかんで投げつけようとした直前で、固まる。迫る光の前に、驚いて目をいた。

 ヴラドは最高のタイミングで、ビームを狙い撃った。計算尽くされた必殺の一撃――。

 回避は、間に合わない。

 颯汰の視界が黒い闇に包まれたが、死をけるための光の道標みちしるべは現れない。


『兄弟っ!』


 直撃コースを僅かにまぬがれた迅雷の魔王が、颯汰を引き揚げようとくさりに手をかけた。

 しかし、颯汰の視界は黒に染まったままだ。

 完全なる不意打ちに、ヴラド帝は勝ちを確信した。痛みさえ消し去っていたならば、笑んでいたであろう。

 

 だが――。


 狙いを定めていたのは彼だけではない(、、、、、、、)

 収束した光のエネルギーが伸びきる前、それ(、、)は着弾する。

 うなる新緑の風――。

 くる烈風れっぷう剛矢ごうしが皇帝の右肩を射貫いぬく。

 エネルギー弾が右肘みぎひじに直撃し、爆ぜることなく表面装甲をけずりながら数瞬留まり、そして突き抜けていった。その衝撃で腕が勝手に動いてしまう。


『ぬぉぉおお……! ば、バカなぁあああ!?』


 腕の位置が変わり、放射される光線は皇帝自身を焼く。しかもそれは頭部の飾りどころか、頭そのものを吹き飛ばし、背部のユニット――神の宝玉(リーゼ・クライノート)と本体を繋ぐバックパック自体と接合部分までもを、熱で溶かしていった。

 背中の、大本である特大結晶はエネルギーを増幅ぞうふく循環じゅんかんしていく機能を有するため、巨神ギガス本体と同様に、下手に攻撃すると何が起こるか予測できない。すべてにおいてギリギリの綱渡りであったがそれを制したモノがいた。


 仮に頭部が健在であったならば、皇帝は忌々(いまいま)し気にめつけていたであろう。

 白き竜種ドラゴン――次代の王者が漂うように宙に浮かんでいた。

 幼きシロすけは、巨神ギガスの行動を察知、あるいは予想して見抜いていたのかは定かではないが、確実に巨神ギガスが右腕を向ける前にそれを放っていた。


 風の竜術――竜種の放つ最大出力の『神龍の息吹(ドラゴン・ブレス)』では、颯汰たちを巻き込む可能性があった。

 ゆえに、貫通力を重視する。

 両翼から生み出されたうねりをあげる二対の風が混ざり合い、その集合させた暴風を操り、押し込むように威力を抑えた神龍の息吹(ドラゴン・ブレス)を加える。

 機を窺っていたのは皇帝だけではない。

 シロすけもまた、敵に付け入る隙を逃さずに狙い撃ったのだ。

 膝を突いた皇帝。

 二対の光はすかさず、巨神ギガスの左肩と左肘にある最後の結晶を一瞬で破壊する。


『――ありがとう。シロすけ』


『ハッ、やるじゃねえか』


 巨神ギガスの打てる手段てだてがこれですべてついえたかの判断はつかないが、これにて決着をつけるべく――、


廃滅の(バースト・)魔導剣(キャリバー)で決める』

 

 すべての発生機関を潰し、皇帝の真上で佇む光が二つ。それが、再び一つとなる――。


着装解除クラッド・オフ――』


 立花颯汰が身に着けていた手や顔の装具が外れ、身体をおおう黒の表皮たる装甲も消え失せる。

 外れた装具の鎖の先にいた迅雷の魔王は、纏う王権レガリアはバラバラになり、中身であるシルエットは同色の光となって刃に収束する。


英雄えいゆうつるぎならば、……耐えて、みせろ!」


 颯汰が左手首の上から――さやのようなひつぎ型兵装から飛び出した黒い柄をにぎり、引き抜くはかがやく白刃。

 アンバードのグレンデル家に伝わる秘宝、本物の(?)義姉から押し付けられた最高の一振り。

 ボルヴェルグ・グレンデルの剣だ。刃以外は漆黒しっこくであり、飾りのような赤い宝玉――精霊が宿る霊晶コア・スフィアが颯汰の叫びに応えるが如くきらめいてみせた。


『接続完了――。

 システム:正常動作を確認――。

 第五拘束、限定解除――。

 リアクター起動開始――。』


 響く左籠手からのアナウンス。宙に浮かぶ鎧装たちが一人でに動き始める。

 巨神ギガスの上、上空にて颯汰は英雄の剣を両手で握り、天にかかげた。

 迅雷の魔王であった光は刃に溶け込み、バラバラとなった二人分の装甲の、大部分が剣を囲い、残った一部が颯汰の脚部と一体となる。


「行くぞ! 合体がったい王剣おうけん――」


 剣は新たな形を成す。

 颯汰がその剣を振るうと、剣身を覆うように青紫の雷光の力を宿した結晶の刃が形成される。


廃滅の(バースト・)魔導剣キャリバー――!」


 この刃は、敵を仕留しとめるために振るったのではない。解き放つために造り上げたのである。


「いっ、けぇぇぇえええッ!!」


 身の丈を優に超える長さを誇る大太刀となったが、それで事を解決ができるほど単純ではない。

 颯汰は思い起こす――。

 一度振るったくらき焔火ほむらびの剣『カーディナル・ディザスター』。紅蓮の魔王が持つ星の加護を受けた大剣を使った時の記憶を、だ。

 柄を握った両手がただれるほど熱かったことではなく、振り回した際に発生した飛ぶ斬撃の方だ。

 感覚が覚えている、今ならば放てる――!

 全身を使って振るった大太刀から、刀身の数倍ではきかない特大の斬撃が放たれる。武器に込められたエネルギーだけではなく、三つの《王権(レガリア)》から受け取った魔力までを上乗せし、刃から放たれた真空波の斬撃は飛翔する。

 刃と同じくき通る青紫の光が三日月のようなえがいて飛んでいき、機神皇帝の背中にあるバックパックを完全に切断することに成功する。

 一刀にて決着をつけた颯汰は、叫んだ。


「――今だ!」


 機神は完全に沈黙ちんもくし、ナノマシンを生産し排出する機関は潰し、さらに神の宝玉(リーゼ・クライノート)と分離された今こそ、待ちに待った瞬間が訪れる。

 事前に話していたわけではないが、その言葉で強風が吹く――ヒト同士の争いに介入かいにゅうさせないがために待機たいきさせていた世界の守護者たる四大龍帝しだいりゅうていが一柱、“颶風ぐふう王龍おうりゅう”――彼女がおどろくべき速さで飛来し、外した赤い大結晶を両手でつかんで飛びあがった。

 白い羽毛のやわらかい、天国の心地のある雲海の背に、颯汰は気づいたら乗せられていた。

 飛び込んできた彼女が上昇した際に、颯汰を一時的に離脱りがつさせるために乗せたのだ。


「本当ありがとう。助かったよシロすけ。それにペトラ……さんも、ありがとう」


 シロすけも無邪気に鳴いて母の後を追い、すぐに並んで飛んでいる。先ほどのこともあり、まだ気を引き締めるべきなのだが自然と颯汰の表情がほころぶ。

 長い龍の背中に乗って空へと上がったところで、世界は変わる――。


『――閉じよ……!』


 どこか遠くから響く、女魔王の声――。

 

 元より寒々とした空気が引きまるように澄んだのを感じる。赤く染まっていた世界が、夜明け前の暗い空のように変わった。

 明確に世界に変化が起きたのを認識した途端とたん、雪が舞う。

 白銀の煌めきを連れた風が巨神ギガスを包囲するように、上から下へと全身をくるくると右回転で回りながら降りていく。

 雪の結晶をかたどった白銀の光が、巨神ギガスの足元まで降りた途端、光が広がっていく。

 巨神ギガスを中心として、足元に巨大な陣がかれたのだ。

 巨神ギガスをも超える巨大な、青白い氷を思わせる色の雪の結晶が中心から広がるように展開される。木々のように枝を伸ばし、あるいははなのように開いていった。

 雪の結晶が巨神ギガスを超えて広がっていき、中心部からおよそ巨神ギガス二体分の長さで止まる。すると結晶がぼんやりと光がともったと思った瞬間に、光の柱が屹立きつりつする。


『ぐ、ぬぉおおおおおッ――!?』


 顔のない巨神ギガスから悲鳴があがる。

 凛冽りんれつなる白銀の抱擁ほうよう――巨大な雪の結晶から発生した白銀のベールに包まれ、巨神ギガス――ヴラドが爪先からこおり付いていく。

 侵食する凍結とうけつは止むことはなく、ヴラドは光からのがれようと、必死に動こうとしたところで無駄であった。すでに氷が全身を包み、光の外側へどうにか出た手の指先さえ、凍り付いていた。

 巨大な氷塊は、既に墓標で相違ない。

 皇帝はもう、動くことすらかなわない。

 なぜなら巨神ギガスを守護していた“黒鉄の呪い”は発生しないからだ。本体の動力源となっていたエネルギーを供給していた神の宝玉(リーゼ・クライノート)は離れ、本体のナノマシンを生産し放出する機関も潰された。

 そして彼の身に降りかかるは“魔女の呪い”。

 危険な兵器と判定が下った一切合切を、文字通り凍結させ使えなくさせる、一種の“封印魔法”が発動させたのだ。

 王権レガリアを颯汰に譲渡し、準備を整えた氷麗の魔王がそれを放った。


『敵機:機関、完全停止を確認――。』


 その声を左腕から受け取り、大太刀を手にしたままの颯汰は颶風王龍の背から飛び降りる。

 高所への恐怖は無い。

 地下から伸びる巨大な鎖に巻き取られ、地の底へ落されるという過去(ゆめ)の恐怖さえも乗り越えた。

 であれば、あとはやることは一つ。

 破壊した際、暴走して爆発する危険性が消えた今、裁きが――刑が執行しっこうされる。


「これで……――終わりだッ!!」


 颯汰は、極限まで強化された二ムート(約二メートル)を超える大太刀を振り回し、斬りつける。空中落下の速度を合わせ繰り出された刃は鋭く、氷塊ごと巨神ギガスを、両断した。

 狂える巨神は、通り過ぎた閃光の跡――真ん中からぱっくり割れ、氷ごとズレ落ちていく。

 叩きつけれた金属塊きんぞくかいにより白い雪が舞い上がり雪はけむる。

 赤く染まった地獄みたいな景色は、いつしか青い静寂せいじゃくを取り戻していた――。

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