表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
氷の女帝と狂える巨神
333/435

133 凶獣

 くだき、引きき、たたつぶす。

 見上げるほどの体躯たいくの奇怪な巨人たちを、次々とほうむるは――白銀の魔神。

 破壊せねばならぬ兵器たちであるが、それよりももっとシンプルな理由で壊していく。身体を動かさねば、のう支配しはいされてしまうという強迫観念きょうはくかんねんられていたのだ。

 実際、甘美かんびいざないは強烈であり、破壊行動を取らねば正気でいられない。

 いな、正気などとうに失われているに等しかった。

 もはや暴虐ぼうぎゃくいやせるようなかわきではない。

 欲望よくぼうが人間性をて去れとささやく。

 その音ならぬ声をき消すために絶叫ぜっきょうし、襲い来るすべてを粉砕ふんさいしていく。

 ルクスリアの獣――。

 颯汰は《王権(レガリア)》――迅雷の魔王が所持していた王冠おうかん型の魔王のあかしを復元し、その身にまとった。

 “雷瞬ライシュン”と呼ばれる独自の移動手段はまさに雷と見紛みまがうほどの加速を生む。

 もう巨神ギガスとなったヴラド帝であっても、《神滅の(ルクスリア・)雷帝(アエーシュマ)》に追い付けない。

 魔王が相手であれば絶対的な防御・迎撃げいげき性能があった巨神ギガスであるが、それをすりけるイレギュラーたる立花颯汰が、雷霆らいていごとはやさを得た場合は手を付けられなくなるのは当然の帰結である。だが一つ、懸念けねんしていた事が起こる――《王権(レガリア)》もまた、ヒトの身に余る力だったのだ。

 欲望の化身――“魔王”とはかつて異なる世界に生きていた者が、欲界を経て再臨した――転生者の総称だ。魔王たる証とも呼べる《王権(レガリア)》を、魔王の固有能力(イデア・スキル)により、転移という形で召喚された颯汰では、えることなど土台無理な話であったのだろう。

 己の内側から欲望をはげしく刺激しげきされる。

 感覚がくるう。全身に重く圧し掛かる見えない粘液ねんえき状の欲望が、肌を突き刺し焼き続ける痛みすら小さく思えるほどに、人間性を捨て去れという甘い甘い囁き――強すぎる刺激が脳を侵さんとする。

 群がる機械で出来た巨人たちであるからこそ、まだこわすという選択を選べた。もし仮にこれらが人間であったならば、たしてどうなっていたのか颯汰は自分でもわからない。

 両手で自分自身を抱きしめるようにしてかたつめを立てる。加えた自傷のさらなる痛みで正気を保とうと試みていた。だが、その損傷そんしょうはすぐに再生する。

 甘いしるでもおぼれるほどの量であれば呼吸が出来ずに死んでしまう。颯汰はまさにみつの中のアリハエのように藻掻もがき続けていた。

 巨大な腕部わんぶや武器を振るう機械の巨人――機械人形オートマタを破壊し、蹂躪じゅうりんくす。

 小枝でもあつかう感覚で腕部が折れていった。

 幼き龍の援護など必要としない速さで戦場を荒らしていく。羽ばたきによる風の魔法であれば、皇帝の周りに漂う“黒鉄の呪い”が動き出すし、ブレスによる竜術であれば颯汰であったモノを巻き込む可能性がある――すなわち敵対行動とみなされる危険があった。幼き龍の悲し気に鳴く声は誰にも届かない。ぶつかり合い壊れる音が雪原をおおう。

 雪を蹴り、び付いて巨人の頭をもぎ取り、着地。頭部をボールに見立ててすぐさま放たれた雷の足蹴シュートが、離れていた巨人たちの胴を貫き、その余波で十数体を巻き込んでいく。

 面白い。面白い。

 しかし、これでは足りない。

 すぐに巨人オモチャが全滅してしまう。

 敵のうでごと引きちぎり、武器として振り回して敵機を破壊する。

 真に苦しみが快癒かいゆすることはない。

 なおも足りない。

 一機で数百の兵に匹敵するほどの戦力など、王権レガリアを纏った怪物にとっては、造作もない鉄屑に等しい。


 巨人たちは作戦を変え、ルクスリアの獣を囲い、遠距離からの射撃で削ろうとし始めた。それぞれの腕部が変形させ、銃砲じゅうほうの形を取る。その腕で狙いをつけ、銃口から火がいた。

 連射された弾たちはそれぞれが等間隔に放たれ、獲物えもの目掛めがけて殺到さっとうする。死を与えんとするが、雷の魔神にとって鉛玉など止まっているかのようにすり抜けられるものであった。

 一瞬で距離を詰められ、巨人一機の両腕が引きかれ、残ったボディをそのままたてにされる。

 え間なく鳴り響く、狂おしい哄笑こうしょうにも似た――けたたましい金属同士がぶつかり合う音。弾が頭部に直撃し、配線や何やらが引き千切れ、漏電する音と共にガクリと項垂れた。命など最初から無いというのに、すべてを諦めたかのように力が抜け切っている。

 ルクスリアの獣は嘲笑あざわらうように声をあげつかんだゴミを投げつける。銃弾を弾く壁として使いつつ、そのまま追い打ちをかけ、敵ごといた。

 吹き飛ぶ鉄塊てっかいの盾の下敷したじきとなった敵機ごと、その雷撃を込めた魔爪まそうにて打ち抜く。掲げた右腕を、雷鳴と共に振り下ろした。

 口から漏らすうなり声――しかし、余韻よいんに浸る間は与えられなかった。

 そこに目掛け、放たれたのはグレネード弾。次々と後を追いはじけたのは七発。ぜて赤黒い炎が広がってみせたが、その程度で絶命するわけがない。黒煙こくえんの中からおどり出たルクスリアの獣は、新しい玩具おもちゃを見つけたかのように歓喜していた。

 大きく飛び出してきたのを展開した爪で着地の勢いを殺し、即座に雷光の如き機動性を発揮する。同じ装備の巨人にサッと一瞬で近づき、背後に回り込み、頭部を肘鉄ひじてつで砕いた。ジャンクの頭がひしゃげ、人間でいうところの目にあたる部品のカメラのレンズが粉々に砕けて飛び出す。そして、指先から流し込まれた雷にて、機械の巨人は自らの肉体のコントロール権を剥奪はくだつされる。

 颯汰だったモノが背中に飛びつき、正面からの攻撃を当たり前のように鉄屑で防ぎつつ、腕部からグレネードを放つように命じる。右腕から擲弾てきだんが飛び出し、着弾地点で爆ぜた。敵を大勢を巻き込み、自動装填オートリロード機能により連射させたが、四発ほどですぐに弾切れとなる。カチッ、カチッと空撃ちの音がして弾が出ないと知るや否や、ルクスリアの獣は後方に飛び降りながら雷を手から発した。その電撃でんげきが、もう用済みのガラクタが持ち上がた。ガラクタを鉄球と見立てると、電撃はつなくさりの役割をにない――全身を大きく使ってのハンマー投げの要領で機械人形オートマタを振り回し、他の敵機をぎ払っていった。

 破壊衝動で解消しきれなくなっているというよりも、はじめからそうであったのを、無理に誤魔化ごまかそうとして敵を破壊し続けていたのだ。身体を動かすことで無心となる……的なものも期待していたが、限界に達していた。

 けてしまうほどに熱い。

 き立つ血が、肉を求めて止まない。

 壊しても壊しても、なおもはち切れそうなほどに欲望は肥大化ひだいかを続けていく。

 声も精神もれ果てるのではないかというほどに叫び、破壊を楽しむように玩弄がんろうしていく。仮にそれが生命であっても、わらうようにえていられたのだろうか。

 己が乖離かいりしていく。

 自我が遠退くのではなく、欲望に染まって自分を上塗りされていくような――恐ろしいことに、身をゆだねてしまいたい感覚であった。


 ――あぁ、ダメだ


 諦観の念。

 これはどうあってもヒトが対抗たいこうできるものではない。ある意味でヒトであるからこそ強い欲望に支配しはいされてしまう。はがね自制心じせいしんがあろうとも、知性のある生命である限り、決してあらがえないたぐいだ。

 制御せいぎょが効かない。

 既に身体が、自身の意思で動いているのかどうかもさだかではなくなっている。

 振り回していたジャンクのハンマーはすぐに砕け、文字通り使い物にならなくなった。

 するとルクスリアの獣が遠吠とおぼえの後、両手を掲げ始めた。両手の先――頭上に形成される大光弾。中心は蒼白く、外は紫色の電撃がバチバチと強くほとばしる雷の大玉が形成された。

 ルクスリアの獣はその場で跳躍ちょうやくし、収束した光弾を一帯にいる敵の方へと叩きつける。爆発する雷は直撃した地面からドーム状の円を描いて周囲を巻き込む。十数ムートもの大雷球が、残っていた敵機を一網打尽いちもうだじんにした。

 赤い空の下、雪原をけがすように廃棄物はいきぶつが散らかっている。相当な数がいたはずの巨人たちのむくろと呼ぶべき残骸ジャンクが辺り一面に転がっている。


 本来、皇帝の号令の下に機械の軍勢が各地へ侵攻しんこうし、その予備戦力として造られた兵団。隣国シルヴィアや、疲弊ひへいしたヴェルミやアンバードを制圧できるほどの戦力を有していたはずだった機械の巨人たちは、わずかな時間をかせぐ以外に、役に立たなかった。


 だがその僅かな時間が皇帝を再起させ、反撃に移すチャンスを与えた。

 影がくなる。巨神ギガスは再び天高くから叩きつけようと手を挙げ、振り下ろしていた。

 ひざを突きながら、貫かれていない右拳を握り締め、ついの如く神のさばきを下す。

 巨腕が凄まじい速度で迫るが、“雷瞬”であれば容易に脱出できたはずであった。 

 くるい、たける雷の力――。

 自在にあやつれれば、皇帝を圧倒できるだけの力であるが、このまま早晩に悲劇が起こる。生涯しょうがい汚名おめいを残し続ける羽目になるであろう。

 勝利のあかつきに、尊厳そんげんは失われ、“全生命の敵”としてさだめられる。もっとも最悪なのは、自分の意思を無視して皇帝を放置し、帝都に向かうことだ。そうなれば間違いなく、この世界(クルシュトガル)で最も不幸で悲劇に満ちた都市はガラッシアとなる。


 ――しかた、ないか


 全身をむしばむような快楽と痛みで脳がやられる寸前に、颯汰は決断を下す。

 どんな結果が待ち受けているかわからない。制御不能となる前にその行動を取るのだが、今度は別の手綱たづなを強くにぎっていなければならなくなる。けに近い行動だ。それもかなりの悪いモノであった。


着装解除クラッド・オフ


 静かにげると、颯汰が身に纏っていた《王権(レガリア)》が左手に収束し、元の王冠の形に戻る。颯汰は、巨神ギガスから攻撃が始まっている最中に、デザイア・フォースの変身状態に戻ったのだ。背部ウィングユニットは無く、頭をすべて覆う仮面すらない姿。誰が見ても自殺行為――多くの者、敵も味方も、観客のほとんどがその瞬間にそう思った。

 加速する巨大な手。迫るそれを見ても颯汰は平静に次の一手を打つ。左腕を前に突き出し、右手で支えるように置いて、叫んだ。


限定行使リミッド・ライド――幻霊召喚サモン・ルクスリア――!』


 王権を握ったままの左手。左腕の黒鉄に煌めく籠手が変形し露出したリアクターユニットが内部で回転し始め、蒼銀に輝きを放つ。

 放出された光が魔法陣を形成し、雪の上に投影される。そして魔法陣も同じ光を強く放ち、呼び出すは――蒼白い光のシルエット。

 しくも、ヴラド皇帝が巨神ギガスの内部情報をサルベージするために電子の海をもぐったときと似たような、ヒトをかたどる光の集合体が形成された。

 すかさず、颯汰はさらなる命令を実行させる。

 開いた左手から王冠が上に少しだけ浮かび、光になる。収束しゅうそくして生まれたエネルギーを、つかみ取るように颯汰はにぎりしめた。

 そのまばゆい光がれている手をかかげ、叫ぶ。


限定鎧装リミッド・オーバーライド――レガリア・フォース!!』


 地をり、全霊ぜんれいを込め、蒼白あおじろい光と迸る雷撃らいげきの紫――溶け合った光を放つエネルギーの塊を、召喚しょうかんしたシルエットにじ込んだ。

 ぬっと突っ立っているヒト型の背中に突き刺さり、内部へ溶け込んでいく。

 微動びどうだにしなかった召喚されたモノが、ったと同時に、シルエットからすさまじいオーラが迸り、慟哭どうこくにも似た叫びを放つ。

 解放された颯汰はその場でたおれ込み、天をあおぐ。その左腕が放つ光が異なる色となっていたのだが、それすら身体を動かして見てやろうという気持ちにすらなれない。それほど消耗しょうもうしていた。

 ただ、空も見えない。

 雲は消えても、赤い視界をも埋め尽くす影。

 光を覆うような黒い物が上からせまる。

 皇帝の握り拳が振り下ろされていた。

 ズン、と大きな音がする。

 雪原に叩きつけられた拳から、衝撃が波を打って周囲に伝播でんぱする。

 余波よはで雪はい、散らばった残骸ジャンクも吹き飛ぶ一撃。


『……?!』


 巨神ギガスと化した皇帝が動揺どうようする。

 呆気あっけない幕引きだと願いたかったが、その拳が地面にはれていないと知る。


『はあ!? ――っ、ち、っくしょうがぁぁあああああッ!』


 ヴラド帝の巨拳の下から声がする。それは立花颯汰(、、、、、、、)のものではない(、、、、、、、)

 ヴラドの巨拳は受け止められ、力を入れてもつぶせない――それどころか、じわじわと上に持ち上げられているではないか。

 声の主が、一瞬だけ触れていた巨拳を両手にて弾くように押し飛ばす。そして、構えを取る。下方向に握り締めた右拳を運び、降りてくる巨拳に合わせて殴り掛かった。


『――ッァ! 雷閃拳ライセンケンッ!!』


 振り上げた拳が巨拳をさらに浮かび上がらせ、右足の膝から爪先にかけて帯電させて蹴り抜く。


『吹き飛べ! 光波刃コウハジンッ!』


 宙返りをしながら放った足蹴あしげは、まさに光の刃と化していた。巨神ギガスの右手に切れ目が入り、金属が赤熱してだいだいに燃えている。

 さらに雷を纏ったりをくうに放つたびに、電気の衝撃波が発生する。

 引っ込めようとした手が押し返されるどころか――後を追う三つの衝撃波、さらに一瞬で跳び付かれて再度放たれた雷撃がめられたこぶしにより、皇帝は再び態勢をくずされた。

 野太い叫びと落下する轟音ごうおんを気にせず、技を繰り出した魔神が雪の上に着地をし、振り返って問う。


『オォイ! どういうことだぁ、これは!?』


 その姿は細部は異なれど、紛れもなく魔神――『神滅の(ルクスリア・)雷帝(アエーシュマ)》』。その首に輪がかけられ、鎖が伸びている。紫の光で作られた首輪と鎖の先は、ずっと寝転んでいる立花颯汰の左腕につながれていた。


『どうなってやがるんだ兄弟(、、)!』


 それなりに動揺どうようしながら颯汰を呼ぶ。

 つながれた怪物は既に舞台から去った者――。

 観客としてあとはどう転ぶか、演目をただ見ているだけを決め込もうとしていた。


『誰が兄弟だ。――迅雷の魔王(、、、、、)


 颯汰が召喚した怪物の名を呼ぶ。

 怨敵として誅戮ちゅうりくした王者の名を。

 本来の王権レガリアの持ち主が、その鎧と化した装備を身に着け、現世うつしよに現れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ