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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
異世界転移
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28 夕餉

 プロクス村で一番大きな木造の屋敷の中。

 そこは家具一式もだいたい木をベースにして作られている。暖かみのある部屋であるが、夜になれば燭台(しょくだい)の火やカンテラたちが光源となるのはどこの家庭も同じであり、そこは特別性はないと言えるだろう。

 外は徐々に暗みを帯び、濃紺(のうこん)(とばり)が奥の空から見て取れる。

 暖炉はこの時期はもう使わないため寂しそうに黒の闇に沈んでいた。

 電気の普及が遅れた世界では、夜闇の世界を星と月、炎とでしか照らせないのだ。

 本来はもっと暗くなる前に、早めに夕飯をいただく予定であったのだが、颯汰が帰宅に遅れたのと、家主の息子であり、シャーロットの父であるジョージがいつまで経っても家に戻ってこないとで遅れたのであった。


「森の魔物――ブリーズウルフの群れがジワジワと勢力を伸ばしていてなー。それで村の皆と会議してた。……とりあえず柵の増設と、子供たちは森の方へ近づくなと注意喚起するってところで落ち着いたよ。あー腹がペコペコだー」


そう言ってジョージは木の椅子に疲れからか、勢いよくドサリと座った。

 ジョージの見た目は頼りない二十代前半のお兄さん、という感じであるが狩りの名手だ。家業である畜産より狩りを優先とし、他には森の管理なども任されているエルフだ。男であるが長い髪を束ねてポニーテールにしている。そういう女々しいところも、どことなく頼りない雰囲気(ふんいき)を出しているのかもしれない。格好だけは革素材のもので立派であるのだが。


「魔物か……、やはり騎士の派遣は難しいのか」


「どうにも。領土を守るのも騎士の仕事だけど、人民を守ることは()いては食糧を守ることであり、国への奉仕に繋がる! とは言ってやっても頭が固い役人どもを動かすに至らないんだよ。あいつら、誰のおかげで御飯(おまんま)が食えると思ってんだか」


「……そう思うなら狩りばかりではなく仕事の手伝いをしろ」


「いや、父さん? こういった調査――森の管理も重要な仕事よ?」


「お前の場合八割が狩りであとは次いでだろうに」


「人には得手不得手があって……」


「たわけ」


「はいはい! ケンカはご飯を食べてから!」


父と祖父が言い合いになる前に、シャーロットは作った夕飯を食す事を勧めた。

 そんなテーブルの上に並ぶ料理に男児二人は(つば)を飲み、老人は溜め息を孫娘に悟られぬように鼻から吐く、母がいないこの家庭で父であるジョージだけではなく祖父もまた頭が上がらないのだ。

 食卓を囲うのは家の主たる長老グライド、その息子ジョージ、孫娘であるシャーロット、颯汰の四人に加え龍の子シロすけの一匹であった。


「お父さんもソウタも、ちゃんと手洗った? 綺麗にしないとダメよ?」


 名指しされた二人とも返事だけはきちんとしているが、既に(さじ)(にぎ)()めていた。

 その姿に呆れつつも、少女はセミロングの髪を揺らし、ルビーの目が光る。


「食べる前に、きちんとお祈りをするの。全く、お父さんがきちんとしないからソウタも真似してるでしょ」


 叱られた父は匙を置き、背筋をピンと伸ばしてから祈り始める。食材や自然の恵み、三女神への祈りである。颯汰は宗教の事はよくわからないので形だけは真似て祈った。


「では、いただこうか」


グライドがそう言うと次にジョージがまるで子供のように祈っていたとき合わせていた両手を叩き、


「いただきまーす!」


すぐさま目の前の料理にかぶりつく。

 本日の料理は鹿肉(しかにく)入りのシチューであった。颯汰は事前にシャーロットに聞いていた。その時、数瞬(すうしゅん)表情が(くも)ったのを彼女は見逃(みのが)さなかった。


 とろとろに煮込まれた鹿肉と香味(こうみ)野菜(やさい)に、赤ワインやトマトをベースとしたとろみのある褐色(かっしょく)のルーが混ざり合い、食欲がそそる(にお)いを生む。

 ちなみに鹿肉はジョージが狩ったものである。


「いただきます」


「…………」


颯汰が静かにそれを口に運ぶ。食べる側も、作った側も共に不安そうな顔をしていた。

 鹿肉は(てい)脂質(ししつ)で高タンパク、更には鉄分が多く含まれている、つまりはヘルシーで栄養価が高い肉なのだ。欧州(おうしゅう)では最上の肉として振る舞われるそうだ。

 一方、日本では馴染(なじ)みが深いと言えるほど普及(ふきゅう)していないが、北海道にて近年、エゾシカの数が(いちじる)しく増えた事で農地などだけではなく森の生態系に被害が増えた。そのため『森をエゾシカから守るために食べよう』といった活動が行われ、鹿肉を食材としたハンバーガーなども作られた。

 颯汰も一度だけ食した事があるが、あまりにも(くせ)のある臭みに吐き出しそうになったのを思い出していたのだ。肉の味や食感は覚えていないが、ただ強烈な臭みしか記憶(きおく)に残っていない。ゆえに苦手意識があったのだ

 しかし――。


「…………美味い!」


「…………!」


 ジョージは狩ったその鹿肉の血抜き作業を丁寧に行い、シャーロットはワインや野草などで臭みを消すなどの下処理をきちんと行っていたためだ。

 故に、颯汰が心配していた獣の臭いが全くしない、食感も牛肉に近くてかなり満足できる味となっていた。

 小さくだが確かに喜ぶ少年を見て、調理をした少女はホッとして息を吐いて顔色が晴れやかになる。


「ん~! シャルの料理は絶品だ~!」


「いつでもお嫁に行けるわ!」


「ん~! 絶対行かせな~い!」


「なんでよ!」


娘の料理に満足げな父であるが、幼き娘を離れさせる気はサラサラない。

 そんなジョージとシャーロットだが、どう見ても親子というより少し年の離れた兄妹にしか見えない。長命のエルフだからなのだろう。そして失礼な話であるが、祖父のエルフだけ老人相応の見た目をしているから不思議な家系だなと颯汰は思った。

 そこへ、シチューの代わりに鹿肉を焼いたものをムシャムシャと(かじ)り付いていたシロすけであったが鳴き声を上げて颯汰の方へ近づいた。


「竜神さま? シチューを食べたいんですか?」


言葉を話せない龍の子に、シャーロットは語り掛ける。

 神と同義である龍に対し、当たり前だが誰も颯汰が命名したシロすけとは呼ばない。


「シチューは熱いぞ~? 生まれたばかりの竜神さまには早いん――」


ジョージが指さしながらからかうように笑うと、シロすけは躊躇(ためら)いもなくエルフの男の指を()んだ。


「――痛ッ!! (いった)~~~ッ!! なんだよぉ! 卵を見つけてやったのは僕だぞ!?」


「ジョージ、竜神さまが本気で噛めば人の指なぞ簡単に噛み千切(ちぎ)っている。(わきま)えろ。礼節(れいせつ)を忘れるな」


「うぅ……僕ばかり噛まれてる……」


父の厳しい言葉に息子は一人噛まれた指を見て涙目となっている。颯汰が目撃しただけで七回くらい噛まれているはずだ。この男もいい加減学んだほうがいい。

 そんなことはどうでもいいからとばかりに、再び颯汰を見て小鳥のように(さえず)るシロすけ。


「なんだシロすけ、本当に食いたいのか? 仕方ないな……。食べて大丈夫なの?」


疑問に思いつつ、手に持った木製の匙でシチューと肉を掬う。動物によっては毒となる食物だってあるのだ。代表的なのでチョコレートやタマネギ、ブドウやアボカドなどは犬や猫には有毒だ。

 ではドラゴンの子は……?

 生物の頂点に立つと呼ばれる最強にして孤高の存在である竜種。ただでさえ個体数が少ないから情報(データ)が足りなく、誰も知りもしない。


 ――これで死にかける事はないだろう。さすがに


まだ熱を持っているので少しでも冷まそうと颯汰は息を吹きかける。

 それを龍の子の口へ運ぶと、大口を開けて匙を噛むように包む。

 まだ熱かったのか、静かに口を開けてからゆっくりと離れ、もっと冷ませと強請るように颯汰を見つめた。

 仕方ないなと更に息を吹きかけて、ようやく食べられるようになると満足げに声を上げたのだ。


「美味いか? 姉さんの料理は美味いよな」


そう声を掛けると、同意したのか幼龍は鳴く。その様子を見て微笑ましく、シャーロットは優しい目をしていた。


「ところで、なんで懐いているんだろ? 鳥みたいに産まれて最初に見たものを親と思い込む『刷り込み』?」


「だったら僕に懐いてるでしょ?」


颯汰の疑問をジョージが否定する。そんな彼もまさか龍の卵とは思ってもみなくて(かえ)って出てきたその姿を見て腰を抜かしていた。

 一匹を除く家族全員で考えては見たが特に目ぼしい答えは得られなかった。


「しかし、コイツがいるから何も手伝いが出来ないままなのは……居候(いそうろう)の身としては、本当に申し訳ないです」


「なに、我々村の者からすれば竜神さまも大事だ。(わし)も生涯で一度でも拝見できるとは思わんな、非常に良い思いをさせてもらっている。それに子供は遊ぶのも仕事の内だろう」


「でも……」


シャーロットを思わず見てしまう。何故か幼くなった自身と同じくらいか下手すればそれより小さい彼女は働いているのだ。

 いくら家主であるお爺様にそう言われようと、颯汰は、居候となっている身で衣食住を無償(むしょう)享受(きょうじゅ)するのは居心地が悪いと感じてしまうのだろう。そこら辺、プロとなれば一切を気にせずに受け入れられるらしいが、未熟者(みじゅくもの)若輩者(じゃくはいもの)である彼はまだその域に至らないでいるようだ。


「お姉ちゃんはソウタよりオトナだからいいんですぅ! 何その目? 文句あるの?」


(あか)綺麗(きれい)(ひとみ)(いぶか)し気に颯汰を(にら)む。

 シャーロットは見た目こそ小学生であるが料理――否、家事全般(ぜんぱん)を完全にこなす実力者であった。

 母親がいない環境がそうしたのであろう。どういった訳で母親がいないかは分からないが、さすがに他人の家の事情というナイーブな問題に首を突っ込むなんて、地雷原を素足で駆ける行為を颯汰は避けている。


「そうだぞ、子供は遊ぶのがいい。……聞いたぞ? 村の女の子と()けオセロをやって脱衣(はいぼく)し続けたってさ」


「あ、ちょ、それは……」


ジョージが颯汰の失態(しったい)を茶化す。テレビゲームもない、本はあっても読めない、田舎の村であるから殊更(ことさら)娯楽(ごらく)というものが少なくなってしまう環境下であったが、数少ない子供たちが遊んでいたものの中にオセロがあったのだ。オセロといったルールが簡単なものは教育の有無に関係なく万人向けのゲームと呼べるゆえに普及したのだろう。

 相手は人族(ウィリア)の姉妹であったが、まさか負けると脱ぐというローカルルールなのか、この世界では公式なのか分からないまま、颯汰は外套(がいとう)以外全て、下まで(、、、)脱がされるまで負け続けたのだ。勝てば服が一枚ずつ着れるという事で自棄になったがまさか完敗するとは思っていなかったのだ。

 さすがにその事実を他人に言われると恥ずかしいので颯汰は止めてもらおうと席を立とうとした瞬間だ。


――ダンッ


 木のテーブルが叩かれ、食器が揺れた。

 その震源を見ると、輝かしい紅い瞳が血のように濁って見えた。

 照明の心許ない光の強さのせいだろうか。


「ねぇ……、それやったの、だれ?」


シャーロットの声であるはずなのに、数秒前までの明るさは微塵(みじん)もない。ただ冷ややかで無感情の声音であった。


「ソウタ? そんな(はずかし)めを受けたの? だれに? だれがやったの? 記憶喪失(きおくそうしつ)なのを付け込んで、そんな最低なこと、だれがやったの? お姉ちゃんに教えて? (かば)う必要はないの。ただ、教えてくれれば全部お姉ちゃんがなんとかしてあげるから」


 ――めっちゃ早口で何か言ってるー!?


 祖父グライドは一瞬でその場から足音もなく離れていた。地を滑る阿修羅の如く挙動で巻き込まれまいと姿を消した。


「な、なに言ってるのさ、そんなことしてな――」


「――とぼけないで」


「はい」


間違いなく、声に圧が加わっていた。何か、良からぬ惨劇へのボタンを押してしまったのか。

 そんな暴走寸前の少女を(いさ)めるべく、父はまさかの余裕の表情で立ち上がる。親の威厳を見せる時だ。


「シャル、よく聞くんだ……」


「?」


「彼は、男だ」


「? 当たり前じゃない」


無感情に答える娘に、父は暴論を武器に切り込んだのだ。


「ならばッ!! ……男が女の裸を見たいと思うのは当然じゃないかい!?」


 ――この状況で何言ってんだコイツゥー!?


正しいが状況を見てものを言えと颯汰はジョージを睨むが、視線は親子の間だけで交差していた。


「ハッ――、そ、それは……」


 ――瓦解(がかい)、はやない?


「そ、ソウタには、そんなのまだ早いから!」


「男は生まれてから死ぬまで思春期だ! 早い遅いはない!!」


 ――ナニイッテンダ、フザケルナ!


正しいが状況を(中略)。


「………………」


 ――そして、まさかの少女完全沈黙


頼りない照明の下で(うつむ)かれれば表情は全く読めない。そこにジョージは強引に撤退をはかった。


「そういう訳で男同士で青春の語り合いをしてくるから! 風呂、先に入るよ! よし、ボーイに竜神さま、行くぞー!」


颯汰を小脇に抱えて、風呂場へすっ飛んで行く。陶器の皿(かわらけ)に首を突っ込み、ムシャムシャとシチューを(むさぼ)っていたシロすけであるが、颯汰が離れるとなると、すぐに起き上がって飛んで追いかけた。


 しばらく、一人取り残されたシャーロットは、


「わ、私はどうすればいいの……!」


先の怒りはどこへやら。両手で顔を押さえながら俯いてぼそりと一言を放つ。

 居候の弟へ、これからどう接すればいいのかを考えあぐねて知恵熱を起こしそうになっていた。

 そんな顔を真っ赤に染めていた孫を、物陰からグライドはただ無言で見つめていた。

ナズェ(中略)

久々に剣を一話から見たくなりました。

――――――

過去の投稿で修正されてないやんって記事が散見されてますが、

注意を受けたものは最優先で直し、

一区切り終えてからきちんと修正したいと思います。


次話は来週までには投稿します。

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