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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
異世界転移
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27 辺境の村にて

 ヴェルミ王国――王都ベルンにて行われた式典により新たな時代の幕が開けた、と言って過言ではないだろう。

 今までひた隠しにしていた血縁者にて継承者――クラィディム=レイクラフト=ザン=バークハルト王子の登場により、ベルン中で民は祝福を贈っていたが、それが総意ではない。

 大いなる光の誕生、その陰は色濃く――深く(いびつ)なものであった。


 その日から、三月(さんつき)以上もの時が流れた。晩春(ばんしゅん)の温もりを空から受けながら、少年は大きな欠伸(あくび)をする。空は既に西へ(かたむ)き始め、赤々と色を変え始めていた。

 丘の上、辺り一面が草で生い茂った草原の上で立花(たちばな)颯汰(そうた)は寝そべって、ただ流れる雲に視線を送る。

 雲を見ていたと言うより、脳裏に浮かぶ情景を、雲をスクリーン代わりにして映して見ていると言った方が近いかもしれない。


 ――なんだか、色々なことがあったな。


無意識のうちに嘆息(たんそく)を吐き、ここまでの事に思い更けるのであった。



 まずは、王都の出来事だ。あの後は、衝撃的なデビューを果たしたクラィディム王子であったが、直接はコンタクトがあったわけではない。ただ父――ボルヴェルグが『王子と友人になるとは……名誉であり素晴らしいことだ』と心なしか(ほこ)らしげに言っていたため、(ディム)は割と早い段階でボルヴェルグとの関係を見知っていたのだろう、そしてそれを保護者に伝えたのだ。

 それとなく王子の機嫌をボルヴェルグに訊ねて(うかが)ったが、どうやら機嫌を損ねるような問題を起こしていなかったと知り、颯汰は心を撫でた。

 友人であると認められ、心が若干落ち着かない変な気分であった颯汰だが、もう王子となった彼とは身分の差から、直接会話を交えることもないだろうな、と考えている。


 続いては、リーゼロッテとの別れだ。王都を離れる準備を整え、いざ出発と行く前に、彼女は現れた。

 この時、颯汰はただプロクスという村に再度訪れるだけで、今後も旅を続けるものだと勝手に思い込んでいたから、彼女とも今生の別れとなると思っていたのだ。

 最初は、彼女が懸命(けんめい)に言葉を(つむ)ごうとしていたのを、待った。颯汰も別段その時間は苦ではなかったし、待っている騎士や保護者がニヤニヤと笑っているのにも気付いていなかった。

 彼女の頬が赤から青へ変化し、ついに泣きじゃくる寸前となって、さすがに颯汰が心配して両肩に手を置いた。


「お、おう!? 無理しなくていい! 何だかよく分からないけど!」


フルフルと震える少女を、とりあえず泣かすのだけはダメだと思い懸命に(なだ)める。妹たちがいるからこそ、年下の涙に弱いのかもしれないと颯汰は後に自己分析をしていた。


「また今度、ディムと一緒は難しいだろうけどさ。遊ぼう、な?」


『未だ何のために彼女が最後に会いに来たかよく把握(はあく)できていない』という鈍感系ならまだ救いがあったのだが、『他に友達がいないから、自身に会いに来た』と割と最低な決めつけをして、そうであると思い込もうとした(、、、、、、、、)颯汰はその場に合わせたような言葉を吐いた。また会えるとは思っていないうえでこの台詞である。


「あ、あの!」


そんな心だけ大人の主人公(クズ)の考えに気付いていない純真無垢(じゅんしんむく)の少女は、やっとの思いで、その想いを言の葉に乗せた。

 ビクリとした颯汰は肩から手を引き、一歩下がる。


「わたし……、わたし、強く、なる……から! お父さんみたいに強くなって、今度は私が、あなたを守るから……!」


「え、あ、おう、……おう?」


言葉の意味が分からない。でも彼女の誠意は何となく伝わった。

 リーゼロッテは不良から守ってもらった事も、劇で手を差し伸べてくれた事、泣いた時も今も黙って待ってくれた事に心から嬉しく思い、感謝の気持ちを言葉にして、今度は自身がお礼をすると言い放ったのだ。


 ――逆じゃない?


自身より気弱のせいか数スケールも小さく見える少女に、守護(まも)ると(ちか)われた立花颯汰はそんなどうでもいい感想が心に浮かんでいた。

 そして、彼女は颯汰の言葉を待たずに走り去って行った。被っていた薄灰色のローブのフードがめくれ、栗色の長い髪が風に(なび)いていた。

 結局、彼女の素顔を正面から見ることもなく別れたのであった。


 そして、次はプロクス村に住む事になったのをボルヴェルグに聞かされたのも驚いた。だが、反論できるはずもなく、受け入れるしかなかった。身寄りもない颯汰に決定権もなければ、一人で旅をして元の世界に帰る(すべ)を探すのは、あまりに無謀な行いであると自覚していた。

 そして深く考える間もなく、このまま旅をし続け、野宿を延々と続けられるかと言えばノーであると思った颯汰は一先(ひとま)ず、プロクス村で生活をして足場を固めようと、その決定を受け入れたのであった。

 どうやらその村であれば魔人族(メイジス)も受け入れてくれるらしい。理由は村人の中に戦争を経験していなく、魔人族(メイジス)を恨んでいる者がいない点が挙げられた。実際、颯汰は村人に思いのほかよくしてもらっているが――それは別の理由(、、、、)が大きいだろう。



 その場で上体だけを起こし、颯汰が両手の親指と人差し指を直角になるように伸ばしては合わせて、四角い枠を作り出す。カメラで写真を撮るような仕草で景色を見渡した。

 そこに村が指カメラの枠に納まった。

 斜陽に照らされ鮮やかな橙色に染まるそれは、村全体がゲームに出てくるエルフの村のように『自然に生えている大樹を利用している』『日陰で暗い』というイメージとは異なり、木の温かみがあるログハウスばかりであった。

 村の近くに川が流れている。村には珍しく外壁といものはなかった。強いて言えば家畜用と害獣対策の柵ぐらいか。


「もう、二ヶ月くらいか……」


 颯汰はため息を吐いて枠から目を離し、滲む太陽へ視線を動かして、辺りの山や森までも見た。プロクス村での生活がもうすでにそれくらい過ぎていた。

 しかし、今現在――村に魔人族(メイジス)は一人もいない。

 では、ボルヴェルグはどこへ行ったかと言えば――祖国(アンバード)である。

 そこで家族を全員連れてこの村に住むと言い始めた時はさすがに正気かと颯汰は尋ねた。

 戦争までには至っていないが未だ睨み合っている国から、英雄と呼ばれた男が戻ってきて、次は簡単に抜け出せるはずがないと反論をしたが、男はもう決めた事だと頑なであった。

 彼は愛馬ニールと共に一度南下し、エリュトロン山脈の脇を通り隠密行動で祖国を目指したのだ。

 ルベル平原の近くの村でボルヴェルグと別れることになった颯汰は、プロクス村まで三十スヴァン程の道のりを馬より早く動ける鳥型の魔物――ガルカーゴに引かれた車により、途中で村で何度も休憩を挟んでも二十数日くらいで村へと着いたのだ。

 ガルカーゴは白いふさふさとした羽毛を持つ鳥の仲間だ。あまり飛距離は飛べないが、代わりに足の速さに特化して進化したのだろう。持久力もあって良い事尽くめな動物――であるのだが、かなり臆病で運よく野盗や魔物に()わなかったから良かったものだ。それを考慮した道で進んではいたのだが、もし遭えば主の言う事を聞かずに逃走を優先してしまい予定は大幅に狂っていただろう。

 ガルカーゴは希少な動物であり、そう言った面もあって一部の貴族ぐらいしかガルカーゴの車を利用しないのだから、ある種貴重な体験を得たと言っていいだろう。ただし、あまりの速さと揺れに颯汰は二度と乗りたくないと零すほどのものであった。


 そうして、二枚の手紙――片方はボルヴェルグが書いたもので、もう片方はマクシミリアン卿が書いたものを持って村で一番大きな屋敷へ向かい、送り届けてくれた騎士とともに事情を説明し、書状を渡した。その結果、一時的に屋敷の家族とともに過ごす事になったのだ。

 どうやら手紙には今までの経緯とこれからについて書いていたらしい。


 ――今度会ったら、あのおっさんに字を絶対教えてもらおう。


 ガルカーゴに乗る以前の日に、ボルヴェルグから文字を教えてもらっていた颯汰。簡単な部分だけであるが、紙もなければ土で棒で線を引いて教える事しかできなかったのでそこまで深く学べなかったのもある。


 ――そして、……ちゃんと話そう。自分の事を。


 自身の出生を信じて貰えないとは思いつつも、きちんと話すべきだと改めて思ったのだ。突拍子もなく、子供の戯言の流されるのではないかと当初思った感情は未だ消えてないが、この世界から帰るためにいずれ村から出て行きたいという意志があると話すべきだ。

 いつ帰ってくるか分からない家族を想い、颯汰は決心した。

 自身が、日本という異世界からの来訪者であると――。


「そうしないと、進めないな……っと」


そう独りごちる颯汰の目の前に、思い返している衝撃の的な出来事のひとつである存在が近づいていた。

 指の枠の中に捉えたそれは、点のような飛翔体であった。どんどん近づいてきて大きくなる。颯汰は顔面への激突は避けよう、と手の枠を解除し顔の前に両手を差し出して構えた。その瞬間、


「きゅ~~~~っっ!!」


甲高い鳥の鳴き声にも似た音を発しながら、それは颯汰の顔に目がけて突進した。


「どぅへッ!」


両手で防いでも衝撃で身体は押され、変な声を吐き出しながら草原に倒れ込んだ。

 一瞬ブラックアウトした颯汰の視界にパタパタと飛んでいるものが映り込んだ。


「きゅ~?」


「あー……起きちゃったか、シロすけ」


「きゅー!」


 颯汰がシロすけと呼ぶその物体は白い小さな翼をはためかせて、宙を飛んでいた。

 全身が白く滑らかであり、身体に緑のラインのような模様がある。生えかけている角と爪は黒色で、蒼玉の瞳を持って颯汰を見つめていた。――幼龍である。作り物であるはずがない圧倒的な生命力と存在感の前に、改めて異世界に辿り着いてしまったと納得せざる負えない。

 このシロすけとの仲は、この村に着いた直後に始まった。

 村の納屋(なや)で保管していた卵から孵り、その騒ぎから何事かと訪れた颯汰と目が合ってからずっと懐かれいた。具体的に言うと出会って五秒でダイビングボディプレスをされていた。

 理由は不明であるが基本的に颯汰にベッタリ甘えている。その癖、シロすけは他のモノに対しては大抵威嚇をするせいで、颯汰は殆ど家畜の世話などの手伝いを行えないでいた。幼龍はほぼ四六時中、颯汰の周りを飛ぶか、小さな手足を使って颯汰の頭に乗って過ごす事が多いため、本能的に生物の頂点に立つ竜を恐れている動物たちの世話が出来ないのだ。

 また、ドラゴンは王や神に等しい存在という扱いである。より正確に言えば、ドラゴンは野生の動物や魔物といった類ではなく、異次元からやってきた守護者としての認識が正しいのだが、神に匹敵する力を持っているという点では間違いなく、どの国でも大抵は崇められる存在だ。

 残された古文書によれば、仙界から選ばれし王のみがクルシュトガルに顕現するという……まず出会う事すら困難であり、卵から生まれた龍が現れるのは前代未聞である。

 颯汰は村で衣食住を約束された身であるが、他の作業を行う事が出来ないためそんな崇められている龍を育てるという大役を颯汰は任されている。そう言えば聞こえはいいが、実際はただ日に遊び回ることしか出来なかった(、、、、、、)のだ。

 

 そして、そんな龍の子――シロすけの後を追いかけて、(ゆる)やかな傾斜の丘をわざわざ登ってきた人物がいた。


「もーう! ソウタ! ご飯が出来てるのにいつまでも遊んでるのよ!」


幼い少女の声が響き、颯汰はその声の主に素直に謝った。


「あ、姉さん。ごめん、ちょっと考え事していた」


もう西日がかなり(かたむ)き、遠くの山の稜線(りょうせん)の彼方へ降りていく、そんな頃合いとなっていた。

 辺り一面の草だけの緑は、すっかり夕日によって黒さが目立ち始めている。


「全く……、お姉ちゃん心配したんだからね……!」


()ねるように少女は小さく独り言ちる。

 淡い金色――プラチナブロンドの髪にルビーの様な真紅の(ひとみ)を持つ、外見年齢が今の颯汰と相違ない(むしろ幼く見えるくらいの)美しい少女の名はシャーロット。

 颯汰が仮に住んでいる屋敷の一人娘であり、長老グライドの孫娘である。白を基調とした麻の服の上にエプロンを付けているのは今晩の料理は彼女が作ったのだろう。

 そう察すると颯汰の腹から自然と音がなる。

 それを聞いた少女は顔を上げてから笑い、


「もう、仕方がない子ね! ご飯が冷める前に戻るわよ!」


上機嫌になって家へと戻るシャーロットの背を、今度は颯汰と幼い龍が追いかけた。

怒涛のダイジェスト。

少年編(仮称)もクライマックスで、そろそろタイトル詐欺しないで魔王と魔王のぶつかり合いを始めたいなって思ってます。



来週までには次話投稿する予定です。



どうでもいい事ですが幼龍より幼竜の方が字面が可愛いと思うので迷ってました。

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