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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
氷の女帝と狂える巨神
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122 一条の星

 り下ろされた剣が、来た方向にかえっていく。

 颯汰がはなった白銀の斬撃ざんげきが、はじかれたのだ。

 みの金属きんぞくであれば、強化したやいばにて両断りょうだんはできるはずであった。

 りつけた物体から、立花颯汰は咄嗟とっさにバックステップで距離きょりを取り、右腕の烈閃刃(チェイン・エッジ)を展開する。強引にけずり切るのならばこれが有効な手段ではあるが、斬りつけた対象を見て動きを止めた。左手の剣をにぎった手が、弾かれた時の衝撃により若干じゃっかん痛む。

 周りの景色は草原でも、地獄でもない。元の機械だらけであるが、目的地に着いていた。


『ここが心臓部エンジンルームか』


 比較的、広い部屋だ。

 機械で出来たジャングルという印象を受ける。

 壁面へきめんまで植物のように張りめぐらされたパイプ。

 おそらくメンテナンス時に使われる台座型のアクセス端末たんまつ。それと並ぶ計器。さまざまな機器も備わっている。これらすべてが神を動かすために必要な要素なのだろう。

 目の前の物質が、この巨大なる神を動かすものではない(、、、、)

 中心部にある巨大な装置が心臓エンジンだと一目で確信できる。祭壇さいだんまつられているように鎮座していた。

 心臓エンジンは一際大きく、光を放つ。

 機械が付いた結晶状のリアクターが青紫色の輝きと、浸食しんしょくするようにつながったパイプから流れ込む、赤い光が溶け合って見えた。

 素人目でも、膨大ぼうだいなエネルギーが強い光を放ち、これが機神皇帝を動かすものだとわかる。

 部屋全体を赤と青の光が染め上げている。

 心臓エンジンをすぐさま停止させる前に、やるべき事があった。

 眼前の物質――これもまた無視できないほどのエネルギーのほとばしりを感じさせる。

 大きさは成人よりも少し大きくて、人が納まるに丁度いいサイズに思える。その縦長で箱状の六角形の物体は、正面に十字架じゅうじかを包むように交差する二対の蝙蝠こうもりつばさのレリーフが付いていた。

 物体はちゅうに浮かびながら、可視光となるほど濃密のうみつな魔力を発している。光が伸びる先は周囲の六か所――それぞれがとげ先端せんたんが球体となったアンテナのようなものへと光が繋がっていた。エネルギーを巨神ギガスから吸い取っているようにも見えるし、受け取ってるようにも映る。これもまた何かの装置につながれていた。


『こいつが幻影を……?』


否定ひてい――。

 当器は拡張ユニット――名称:

「アームズ・コフィン:ヴァーニー・ワン」。

 コフィン内部にて強大な魔力反応を確認――。

 王権レガリアユニットであると断定――。

 推奨すいしょう:早急にユニットへの接続――。』


 左腕から声が響く。

 さらっと衝撃的な言葉が出てきた。


『コフィン……ひつぎ? 拡張ユニットってこれ、何、お前の装備品なの? なんでこんなところに……。しかも魔力を巨神ギガスへ流している。これ、明らかに敵方に利用されているよね? どうなってんの?』


 浮かぶ棺を指さして颯汰は訴える。

 しかし左腕からは返事は徹底されている。


『推奨:迅速なユニットの確保――。』


『無視かよ』


“獣”自身が今まで所在がわかっていなかった可能性もある。少し経緯を問い詰めたい気持ちはあるが、そんな時間はない。今はあきらめた。


『……わかったよ。で、これがソフィアが言ってた王権レガリアを封印しているモノ。棺型の霊器れいき、なのか。……というかこれ本当にふうじてるの? 魔力が漏れ出てるし、近づいた人間に幻覚見せるとかヤバすぎでしょ』

 

 ソフィアは王権レガリアを封印していると言っていたが、この霊器の内部に閉じ込めたのだ。そうして、身体を分けて記憶きおくを消した。おそらく、二度と魔王にもどららぬために、だ。

 彼女たちの説明にうたがいはない。だが本当に封じ込めているかどうかは疑わしく感じてしまった。

 幻覚どころか疑似人格のある分身を造り出して世に放つぐらいの芸当げいとうを単独でやってのけたのだから、あやしんでも仕方がない。

 元より魔法や超常と無縁な世界に生きていたとはいえ、王権レガリアが持つ力や未知な部分が、あまりにこの世界(クルシュトガル)においてでも埒外らちがいすぎるものだと改めて認識する。魔王に連なる、危険なモノだ――。

 颯汰は語彙ごいが死ぬくらいに、王権レガリアの所業の異常さを感じてはいた。


『推測:途方もなく長い年月をかけ、封印を解こうとしたと考えられる――。

 絶対なる封印を破るに至らなかったとはいえ、外部へ分身を飛ばしたのは驚嘆きょうたんに値する――。』


 棺ユニットの性能を知るからこそ、魔王が持つ王権レガリアの強大さにおののいている様子だ。

 同時に、装備品についてはわりと絶対的な自信がある様子もうかがえた。 

 まさか内部からエネルギーを放出して外部から封印を解こうと働きかけるのと、無尽の魔力エネルギーを利用し、機神の起動を補助ほじょする役割をになうとは、おそるべき存在である。元よりそういった機能が備わっていたのか、長年封じられた呪詛じゅそが意思を持つまでに至ったのか、現時点では不明だがやはり常識の範疇はんちゅうから外れているのは確かである。


『これ、接続し制御下におけば魔力垂れ流しも分身作るとか勝手なことやらせないようにできる、ってことなんだな?』


『肯定――。』

 

『…………でもこれ、近づいた途端、また分身がドーンって現れたりしない?』


『否定――。

 呪符により現時点での再召喚は困難――。

 時間経過により再召喚が可能と推測――。』


『なるほど。じゃあ、ちゃっちゃと済ませないとまずいってわけだ。……あの幻覚は最期の抵抗、みたいなものか。――よし、接続コネクト!』


 恐れながらも近づき、左腕を向けて号令する。

 あふれ出した黒の粒子りゅうしが逆巻き、おどり出る。

 光を呑み込むように黒が包んでいく。荒れ狂う瘴気が、遂に光を遮ろうと吸着したところで、


『接続:開始――。

 …………エラーを検知。』


『早速やばくない!?』


『内部より放出魔力量、増大――。

 魔力障壁によりコフィンへの接続を阻害されたため、アプローチを変更。

 強制接続:実行――。

 魔力エネルギーを転換、結晶化を開始――。

 内部結晶増殖――。』


 何を言っているかわからないため、颯汰は首を傾げていた。棺から放たれる光が弱まっていくあたり、おそらく成功していると思われる。


『結晶間接続:強制実行――。

 システム掌握完了。正常動作を確認。

 左腕追加兵装『ヴァーニー・ワン』接続――。』


 闇が晴れ、棺が動き出す。

 勢いよく吸い付くように左手の前に棺ユニットが突っ込んできたので、ちょっと颯汰はビクリとしていた。

 棺が光になって溶けて左腕の中へと吸い込まれていく。そして、左腕に変化が起きた。

 左手の甲の下、手首あたりから肘を超えて伸びる盾が出現する。それは先ほどまであった棺が小型化したような形であり、他にも細部が異なる。黒い棺を囲うふちあおく発光し、レリーフは銀色で悪魔の如き翼は交差せず、十字架の後ろで下方向に広がっていた。それらのふちと追加された宝玉のような飾りもまた同じく蒼銀の光を放っている。


シールド? いや、違う。……武器庫、あぁ、拡張ユニットってそういう……?』


 己の左腕を眺めながら、颯汰はブツブツと呟いていた。防御にも転用できそうだが本質は異なる、と身体の一部のように馴染なじんだ装備の性能を、颯汰は自然と理解できた。


『強制接続し、凍結処理を実施。これにより一時的に魔力の放出を停止させることに成功――。

 巨神ギガスへ供給されいるエネルギーをカット完了――。

 しかし、巨神ギガス背部大型結晶ユニットからの供給ラインが整っているため、機能停止に至らないと断定――。』


『……起動や維持のために王権レガリアからエネルギーを受けていたケド、今はもう不要ってことか。……』


 見上げる神の巨大な心臓エンジン

 内部でまぶしい光が目を眩ませるに充分な光量を放っている。あれを止めれば勝ちだ。颯汰は早速、盾を構えるように左腕を前に出した。


『現在、コフィンは封印が施されているため機能を制限中――。』


『……格好つかないなぁ』


 装備し、中で暴れようとしているヤバいアイテムは抑え込んではいるものの、そのアイテムを奪われないための封印がコフィンの機能までも封じ込めてしまっている。要するに今は純粋に盾としてしか使えない。颯汰は少しガッカリした風に息を吐いてから、巨大な核へと近づいていく。


『あれを停止させる』


 右腕部の兵装、烈閃刃チェイン・エッジを展開する。光の刃は高速回転し、対象を削り切る。


『警告:エンジンユニットへの直接攻撃は誘爆の可能性が大――。

 ルーン化シミュレーション:開始――。

 検証結果:現時点で結晶化は困難と断定――。

 推奨:供給パイプラインの破壊――。』


 どれだろう、と足を止めて周りを見渡したとき――それは突然起こった。


 ガコンと音を立てエンジンルームの各所から、突出する物体。

 それは――例えるなら大きな試験管。

 外側は透明で中は緑の透き通った液体で満ちていた。


『…………!!』


 絶句ぜっくする。

 言葉を失う。

 十二基の大型カプセルがエンジンルームの各所から大きな音と煙を立てて展開される。

 それの内部には――、


『こ、ども……?』


 颯汰は酷いき気に襲われた。

 仮面越しに口元を押さえるほどに、強い拒絶反応きょぜつはんのうを起こす。のうで理解するのをこばんでいる。

 全身が見える透明な機械――酸素カプセルを思わせる大きさのそれの中は、何らかの薬液に満たされ、ひとつひとつに子供がいた。


『なん、で……――』


 子供たちの誰もが目を閉じながら、静止している。

 助けようという感情が湧かないのは、それを見た途端に不可能だとわかってしまったからだ。

 子供たち全員が、既に事切れている。

 それは巨神ギガス心臓エンジンよりもはっきりと、誰であろうと一目でわかる。


『――なんで、頭が、開いてるんだよ……!?』


 開頭かいとうされ、脳を摘出てきしゅつされた生命が、生きているわけがないのだ。

 ふよふよと液体の中で漂う“フタ”。

 半身が溶け、消えている者もいた。

 みんな見覚えのある顔なのは、先ほど見せられた幻覚の中に登場した人物であるから――。

 それはとても、人間の所業しょぎょうとは思えなかった。


『推測:エネルギー供給が断たれたため、予備エネルギーの補充を実行中――。

 脳は巨神ギガスの補助電脳として用いられている可能性:大――。』


 颯汰の感情を読み取り、語る“獣”。

 カプセル内の肉体はエネルギーを生み出すための燃料であり“消耗品しょうもうひん”、摘出した脳は機体の各種制御の補助を担うために利用した。エネルギーとするなら成長した大人の方が確保できる量も大きいが、本命は補助電脳。そのために子供たちが選ばれた。

 無作為ではなく、最初から、候補としてげられていた。首都から遠くでも、わざわざ手厚く歓迎かんげいし、ガラッシアへとまねいたのだ。

 巨大な機械を動かすに必要な補助電脳の修復は間に合わず、一から製造するよりも“代用品”を用いた方がコストが安いと皇帝サイドの連中は判断した。

 そうして、巨神ギガスは皇帝の目論もくろみ通り、起動した。


『……警告:予備電源槽の破壊は非推奨――。』


 冷静に、救えぬ命に拘泥こうでいせず、目的を果たせと言っている。お前が今一瞬思いつた行動は無駄であると制するように、颯汰へ警告した。

 だが凄まじい寒気の後、激しい感情がせいする。

 この巨神ギガスは、世にあってはならない存在だったと颯汰は改めて知る。

 大義を掲げていようが、己が欲望のためだろうが関係ない。大事のために人々の――ましてや子供の命を小事として切り捨てる姿勢がゆるせない。颯汰は自分が正義を掲げる英雄ヒーローなどと名乗るつもりなど一切ない。そこまで清廉潔白せいれんけっぱくになれる気がしないし、自分だって欲望のために行動している。天秤てんびんにかけたとき、他者の命や願いをみにじることをしてしまうだろう、と彼は自己分析している。それが人間という生き物だとも認知していた。それでも――許容きょようできない邪悪さに対し、使命感にも似た感情に支配しはいされる。

 義憤がきつける。

 許せない。許せるはずがない。

 例えどんな願いであろうと、人間として超えてはならない一線というものがある。

 人間を始祖吸血気オリジン・ヴァンパイアに近づけようという実験も目的は不明ではあるが軍事転用している時点でそれもまた非常に罪深い。


『これが、人間ヒトがやることか……?』


 軽々しく、何度もラインを超えた皇帝に対し、ある種の恐怖すら覚えた。

 皇帝サイドが何を思っていたのか――苦悩くのう躊躇ためらい、まよいの有無があったのかわからない。ただそれでも結果的に一線を越えてしまった。

 戦慄わななく声。反して激しい怒りの感情が、今にも爆発寸前であった。


『接続先へ緊急要請:要請受諾を確認――。

 感情エネルギーの送信:実行――。』


 今すぐにでも跡形もなく消し飛ばしてやりたいという衝動に駆られていた――だからこそ、“獣”は湧き上がった燃え上がる感情を、契約先へと送り飛ばす。

 契約者たる紅蓮の魔王はその過大な熱を受け取り、引き続き魔力を送り続けてくれた。


『……――ッ、ファング、目標ターゲットをマーカーで示せ!』


 焼けるような怒りを鎮め、本来の目的を果たさんとする。指令を受けた瘴気はそれを実行する。

 仮面の下、視界がかなり狭まっていそうな印象を外からは受けるが、実際は生身の時よりも視える情報が増えていた。


『解析中:結果を順次視覚情報に追記――。』


 視覚から得た情報からデータ分析し、拡張現実(AR)としてデジタル情報を表示する機能が備わっている。そうして心臓エンジンから繋がっているパイプラインの、破壊すべきものを青い丸で囲い、誘爆の危険性があるものを青いバツで表示された。単純にすべて斬ればいいという話ではなかった。中には二種類のパイプが並んでいて、一気に斬りおとす事ができない箇所もある。


『五か所……。いや増えたか。七つ、八つ……、いや数は問題ない。全部、処理していくだけだ』


 颯汰は冷えた頭で行動を開始する。“獣”の処理を待つのではなく、任せている内に潰していこうと考えたのだ。

 正しい判断ではある。

 颯汰は左腕の盾、棺でいうところの上部分に手をかざす。

 コフィン自体の機能は封印中であるが、本体のストレージにはアクセス可能であった。

 まるで棺がさやのようにして剣が解き放たれた。

 改めて颯汰は剣を手にし、剣身に左手をかざす。刃を研ぎ澄ますように手をスライドさせると、白銀の光に包まれた。

 颯汰は跳躍する。

 狙うはもっとも近い箇所。

 一気に距離を詰め、両手で握った剣を振りかぶって、下ろす。


『――ハァッ!』


 斬撃は正確にパイプを切断する。

 可視光となるほどに濃密な魔力が粒子となって切断個所から放出される。まるで破られた血管からき出す血を思わせる勢いであった。

 颯汰は切り裂けたのを見て、心のどこかで安堵あんどしていた。どうあれこれにて決着がつく。

 次いで最速で斬りかかろうとしたとき――突然、眩い光がが駆け抜けた。

 颯汰は目が眩む。

 エンジンはずっと光を放っていたが、周囲が見えなくなるほど強烈きょうれつな光ではなかった。

 それが今、何もかも正常に見えなくなるほどに強い閃光――もし直視していたら目が潰れていたのではないかと思うぐらいに眩しかった。

 反射的につぶった目。

 そしてほぼ同時に、身体にはしる重すぎる衝撃。


『ぐッ――!?』


 感覚が狂う。

 目が潰された途端とたん、身体は吹き飛んでいく。

 体験したことはないが、全身で大型トラックの突撃を受けたと思うほど――無防備となった身体に何かが当たってきた。

 何が起きたかを颯汰が理解する前に、音が鳴る。

 すぐに心臓部エンジンルームの壁に激突するやと思われたが違った。

 ノイズに塗れた視界が徐々に戻っていく。

 颯汰の視界に映る景色は魔都と化したガラッシア。倒壊した建物が見えた。


『なッ!? 外……!?』


 轟音と共に、巨神ギガスの胸部が大きく開き、吹き飛ばされたまま壁に激突することもなく追い出されてしまった(、、、、、、、、、、)のだ。

 しかも相当な勢いで、弾丸のように射出された颯汰は、帝都の転落防止用の柵を壊し、放置された祭りの山車だしを巻き込み、壁をも壊して、建物の中へ転がり込んだ。


いっっぅ……!』


 颯汰は甚大なダメージを追った身体を懸命に起こそうとする。破壊した建材などの粉やほこりを被りながら、顔を上げた。

 テーブル席やカウンターの作りからどこかの飲食店のようだ。本来は人が大勢訪れる場所であるが、今は当然人の気配はない。

 そこへ容赦ようしゃなく、巨腕が伸びる。

 沈黙を続けた皇帝は、颯汰が外に出た瞬間から動き出し、手を伸ばしていたのだ。

 建物を、人々の営みを破壊しながら、皇帝は敵を追い詰める。


『これ以上、好きにはさせんわ』


 反応するよりも先に、皇帝の手によって掴まれた颯汰。手のひらに収まる。指の圧によって蟻のように潰される危険性があった。内臓が飛び出る前に、手足に力を込め、必死に抵抗する。

 万力に絞められながら、颯汰は声にならない叫びをあげていた。


『ッガァ、ッ……ァ……!!』


 指から加わる圧は強まっていくが、それでも颯汰はなんとか潰されまいと抵抗を続けた。

 それを見てヴラド帝は別の行動を取ることにしたようだ。


『旧き世界の王よ。しばし貴様にはこの舞台から降りていただこう……!』


 笑みこそないがその声音には勝利を確信した喜びを感じた。現状で、直接始末が困難ならば――敵を無力化するだけでいい。そう判断した皇帝は、全スラスターから青白い火を放った。

 宙で停止していた灰の巨神ギガスたるヴラド帝が上昇する。ロケットのように、真っすぐ上へと。ニヴァリスを冷気から守るべく設置した、透明とうめいなドーム状の天盤てんばんとも呼べる部分を、巨大な神は突き破った。もろ硝子ガラスのように砕け散った上の部分から、巨神はガラッシア上空へと飛ぶ。

 事態の変化はわかったが手の中にいるため外の様子が見えなかった颯汰は直後に絶望する。

 自分を掴んでいる右手ごと、右腕が動いたのを感じ、再びどこかへ叩きつけられるのを颯汰は予期していた。だが違った。

 外の空気、景色、すべてを理解したときにはもうどうにもできなくなってしまっていた。


『さらばだ……――!』


 人よりも遥かに巨大な機械仕掛けの神は、外敵を、力いっぱい――投げた。

 かたを使い、豪快ごうかいな投球。放たれた弾丸は音速に近い速さに達する。

 遠くへ、遠くへ、どんどん遠くへ――。


『嘘だろぉおおッ!? うわぁああああああッ!』


 一瞬で稜線を超え、雲を突き抜けて赤く染まった空を超えていく。

 元より小粒の大きさであった敵対者が、小さくなっていき、キラリと光る星になった。

 それをヴラド皇帝は腕を組み満足そうにながめていた。


コロナの後遺症がまだ続くため次も投稿遅れます。

ひと月近く続く咳。

咳のしすぎで肺辺りが痛いのと、加えて肋骨が骨折しました。

人体はもっと強靭な作りであってもよかったのではないでしょうか。

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