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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
氷の女帝と狂える巨神
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120 断ち切る

 いち早く危機を察知さっちされ、少し距離を取られる。

 女帝の周囲が空気ごとこおり付いた。魔法による波動は、鉛玉なまりだまの暴雨をふせぎきるだけではなく、攻撃にも使えるため、颯汰は即座そくざ離脱りだつした。

 そしてすぐに接近するのではなく中距離でチクチク攻めながら距離を詰めることは、既に行動パターンから予測できた。

 しかし女帝の予測と異なり、新たに攻撃手段が加わる。


『ほぅ……』


 短い声。怒りが一瞬(しず)まる。

 黒鉄の右腕に颯汰が取り付けたのは不可視の斬撃を放つ籠手こて。ソフィアが所持していた霊器れいき――ロサ・ムルティフローラである。

 明らかに剣でも槍でも届かない十数ムートの距離から放たれる攻撃が避けようと動いたかたかすめる。女は鼻で笑う。


 ――姿が見えぬと思えば、おくしたか


 自らの最大の武器を託したとなれば、片割れの女はいよいよ戦力外である。女帝にとってはソフィアなどもはやどうでもいい存在と化しているが、視界にウロチョロさえしなければ、慈悲じひ深くも捨て置いていいとさえ思っていた。

 颯汰が少し距離を取ったため、皇帝の鉄拳が飛んでくる。破砕鎚はさいついの如き一撃は空を切り、拳圧の暴風で身体があおられる。

 颯汰の予想到達地点へ、置く様に放った氷柱の弾丸は並大抵の武器よりもするどさを有していた。

 風によって姿勢が崩れながらも、颯汰は宙をって軌道を変える。重力にさからって足が上を向いていても、赫雷かくらいほとばしり、エネルギーの足場が一瞬だけ形成される。妙な術を使う、と女帝は目を細めて嫌悪した。

 その勢いで剣の間合いに入るべく近づく――ふりをして中距離からナイフやクナイの投擲とうてき、そして魔法による攻撃を混ぜ、それを防がれて近距離から剣を振るう……と見せかけ死角から瘴気しょうきアギトによる奇襲。不可視の斬撃も乗ってくる。しかし、すでに女帝は対応できる。

 次はついに剣による斬撃が迫る――……そう彼女は読んでいた。

 距離を詰めようが離されようが、どちらでも構わない。時間さえかせげれば勝利は確定する。そして敵方は確実な死を与えることは不可能。であればもしものために余力は残しておきたい――と考えるのはおかしくもない。この戦いで最も警戒けいかいすべきは魔王と勇者であり、アンノウンとはいえそのどちらも該当しないし戦って底も見えたと断じた女帝にとって、軽く遊んでやる程度でいいという評価を下した。

 下して、しまった。

 ゆえに、突き刺さる。


『……え』


 短い声。体が横にそれる。

 何かが起きたのはわかる。

 だが、眼前の敵――立花颯汰の攻撃ではない。

 何が、起きた……?

 ゆっくりと己の脇腹を見やる。

 見開いた目で捉えたのは、金色の宝槍。

 フォン=ファルガンの国宝たる槍だなんてこの女が知るわけがなく、たかだか槍が突き刺さった程度で魔王が死ぬわけがない。

 しかし、目を剥く理由がある。

 槍の先端に付けられたものが、穂先と一緒に自身の肉にめり込んでいる。


『き、きさまッ! まさか――……』


『そのまさか、さ』


 颯汰が腕を組みふんぞり返る。

 女帝は槍を掴んで引き抜こうとするが、手に力が入らない。


破呪はじゅ! そんな、まさか貴様……!』


 正式名称そうなんだ、と今更ながら知った颯汰は消滅する敵の様子を見て、言葉をつむぐ。


『お前の正体を聞いた。お前と王権レガリアとの繋がりを断てばどうなるか。どうやら効果覿面こうかてきめんのようだな』


『くっ、おのれ……! おのれぇえええッ!!』


 苦しみ悶える女帝が叫ぶ。

 颯汰の言葉よりも、槍が飛んできたであろう方向にいる瑣末さまつな存在に怒りの目線を送る。

 そこには、赤い布型霊器であるディアブロを手に持ったソフィアがいた。周囲に気を失っている吸血鬼化した兵士が寝転がっている。

 女帝はすべてを察した。

 取るに足らない存在だと見逃した相手が、魔力を赤い布の霊器に込め、布が槍を掴んで投げたのだ。ミサイルのような速度で飛翔した槍は、正確に女の脇腹に突き刺さった。

 ソフィアと交換するかたちで渡したものが符であるが、元を辿ればそれこそソフィアの同類――ウェパル・ファミリー(命名:立花颯汰)である魔女バーバヤガに渡されたものだ。

 形は黄色の短冊。呪符に赤い文字で書かれているが、癖が強すぎて何て書いてあるか読めない。中華系のキョンシーの頭に貼られるそれ(、、)のようにも見える。紅蓮の魔王との契約けいやく破棄はきさせようと、魔女が渡してきた品物は攻撃性能こそないが、解呪の力は抜群ばつぐんにある。

 怨嗟えんさを込めながら、肉体を変化させて近づいてくる。まるで墓場からあふれ出た呪の気が集合したかのような、肉体を解かし悪霊となって颯汰に迫る。


『恨むならお門違いだ。去れ、王権レガリアの中に』


 霊を真正面から斬り伏せる。

 感触はなく、煙を斬るようなものであったが、悪霊と化した女帝は、この場から消え去った。


 ……――

  ……――

   ……――


 時間をわずかにさかのぼる。激突する前に敵の正体についてソフィアは語りだした。


「いい? アイツの正体は、私たちじゃない(、、、、、、、)。魔王の王権レガリアが生み出した、……そういう存在なの」


『…………、……え? どういう、こと?』


「大方、魔王が戦いを放棄したときの保険、なのかな? 私たちは分離し、記憶を消して魔王ではなくなった。その際に王権レガリアも、とある霊器の中に封印した。厳重に、今も封じられている……」


『……封じられている確信はあるんだ』


「うん。私たちが持つ封印を解く鍵を揃えなければ王権レガリアは出すことはできない。……おそらく、だからこその処置ね。王権レガリアが模倣人格を生み出し、自らの封印を破るために出てきた」


『いや、もう、なん、……なにそれ。もうなんでもアリじゃん?』


「と言われましてもー」


『……まぁ、それなら逆にやりようがあるか』


「? というと?」


『良い物を貰ったんだ。それを使えば……』


 左腕からなにか引き抜くように右手を動かす。

 天に掲げた右手。

 その指に挟まれたのは一枚の呪符。


「それは……――」


 見覚えがあるに決まっている。

 魔女の記憶が流れ込んでいるためだ。

 己が憎悪に染まっていても、復讐に他者を巻き込むことをどこかで恐れていたからこそ、差し出した品である。


『これで王さま――紅蓮の魔王との契約を切れと言ったよな。これで、王権レガリアとの繋がりを破壊できるんじゃないか?』


 ソフィアは少しうつむき、颯汰に訊ねる。


「…………それで、いいの?」


 悪魔との契約を切るチャンスでもあるし、もしもソフィアが真に魔王となったあかつきには、約束など破り、怒りのまま紅蓮の魔王を殺しに掛かり、万が一仕留めれば契約者たる颯汰も道連れとなる。そういったリスクに対し、青年は真っすぐ彼女を見つめて返す。


『? だって協力、してくれるんだろう?』


 射貫かれた心。身体が凍り付く。

 ゆっくりと息を吐いて、自分の身体が動くことを確認したソフィアは、静かに歩み寄った。


『ん? なんで近づ、いや近い近い距離が近い! 顔を、このクールな仮面越しに、頬をぺちぺち叩くな!』


 ――……

  ――……

   ――……


 意思を持つ災禍たる障害をひとつ、取り除いた。超えるべき壁を消失させ、大いなる神へと挑む。過去のやり取りを思い起こしている内に、間髪入れず、機神の鉄槌が下りてきた。

 ズォンと拳が通り過ぎて鳴る音と発生する風圧が避けた身体をあおる。


『――……いや、洗脳が解けるんじゃないの!?』


 握られた拳が降り、街がまた甚大なダメージを受ける。螺旋状に展開した街の通路を貫通した。


「御札で退去させただけだよー!!」


 口元に手を当て大声で叫ぶソフィア。

 彼女もまた離脱したいが、周囲にぐったりと倒れこんでいる者たちがいる。見捨てるという選択はしないつもりのようだ。残り少ない魔力を込めて、ディアブロに注ぐ。結晶内の精霊が、呼応して糸を操りだした。颯汰が敵の注意を惹いている隙に、隠れるために移動し始める。霊器ディアブロのおかげで六人分の重さをそのまま引きずることはなかったが、それでも足取りは重い。


「うっ、重っ……はやく、行かなきゃ……!」


 両腕で赤い衣を抱きかかえるように進むが、鉄で出来たかのようなズッシリとした重量を感じる。それでも早く離脱せねば巻き込まれてしまうだろう。「わたしは騎士、誇り高き騎士……」とぼそぼそと何度も自分を振るい立たせながら、ソフィアはヨタヨタと奥にある街へと進んでいった。


 颯汰は大丈夫かなと何度も視線をそちらに向けるが、再び死の鉄槌が下りる。途中、正拳突きが混じるも、単調な攻撃ばかりである。受ければ死を免れることができないこと以外に問題はない。攻撃の補助を担う、氷の魔法が止んだ今――光をさえぎることはできない。


『そんなものかよ! ニヴァリスの皇帝!』


 明らかな挑発。視線は心配そうに逃げる背を追う。皇帝はそれに気づいているのかいないのか、凄まじい絶叫と共に両手でハエを潰すように柏手かしわでを打つ。

 実際、彼の巨神ギガス視点でちょこまかと高速で飛び回る颯汰は、鬱陶うっとうしい羽虫に相違ないことだろう。恐ろしいのは明確に敵意を持ち、弱点を探っていることだ。


 ――死角で、装甲が薄いところは……あそこか


 命を燃やしながら、飛翔し巨腕をくぐる。皇帝の攻撃も早さが増していて、颯汰も口から血を零しながらも確実な一刺しのタイミングを計る。


『滅びよ! 旧き世界の王――!!』


 左手で上方向に飛翔する颯汰を掴みかかると見せかけ、腰を軸に巨大な右拳を振るう。


 ――速さが増し、……!


 皇帝が凄まじい抵抗を見せる。それこそ、背部に搭載とうさいした結晶体ユニットが馴染んできた証拠に他ならなかった。

 オレンジに赤熱する拳が装甲の表皮を削る。直撃を避けたが、錐揉きりもみ回転しながら颯汰は凄まじい勢いで落下する。皇帝は、一度己が巨神の手を見やり、指を握っては放しを繰り返す。


『フッ。やっと馴染んできたわ』


 指の人工筋肉の繊維が、赤く輝く。

 そして、落下地点に白煙に向けて、皇帝は右拳を叩き込む。

 その刹那――。

 煙を巻き上げながら飛翔する物体が、機神皇帝の巨腕を沿うように真っすぐ昇る黒い影。


『むッ……!?』


 立花颯汰にしては大きすぎる。

 それは、翼をはためかせ――てはいない。

 金属の翼を広げ飛ぶは、造られた怪鳥である。

 

『行っけぇええッ!!』


 それは芸術品。

 颯汰が落下したのは偶然ぐうぜんにも公園であり、その最大にして最高傑作の遊具こそ『ロック鳥』。その背に立花颯汰、彼の手には小さくて飾りの付いた金槌。地下の老爺ろうやに託された金槌の柄を縦にしてレバーのように柄の頭を掴んでいた。

 最初からこういう風になる設計ではもちろん無い。颯汰が左手で触れ、意識を回す前に金槌を取り出して怪鳥型の遊具の背に無理矢理突き刺した途端、命が吹き込まれたかのように飛翔を始めたのだ。

 飛ぶ機構もあるはずもない遊具が、本当に命を吹き込めるはずがない金属が、たった一瞬だけ本物のように翼を広げて見せた。

 呆気にとられた皇帝の腕を滑走路のように通過した巨鳥は、皇帝の肩をからすぐに重力に引かれ落下していく。機械の眼で皇帝は捉えるも、その左手で掴むことはできなかった。

 巨鳥が肩から落ちる際、颯汰は金槌を手に飛び立ち、巨神ギガスの背後を取る。

 背部に装着された神の宝玉が搭載されたユニットではなく、注視したのは巨神のうなじ部分。

 背部のウィングユニットが光の翼を展開し、金槌を瘴気に収納したと同時に武器を手に取る。

 颯汰は右手に烈閃刃(チェイン・エッジ)、左手に剣身を強化した剣を手にして突撃した。


『ッ!? グゥォオオオっ!?』


 二つの刃を突き立て、人工筋肉の壁を斬り裂かんとする。分厚い壁、一撃では簡単に通さない――さらに繊維が意思を持っているかのように、切断されたもの同士が繋ぎ合わさろうと、ウネウネと動いていた。しかし颯汰も負けじと激流の如き乱撃を繰り出し、道を切り開いた。ナノマシンによる自己再生に追い付かせず、肉壁を突破する。

 

 ――今だッ!


 危機を感じ急速再生する壁。その隙間を縫うように最速で飛び込んだ。勢いで内部の壁に激突する。格好悪い声を出し転がった青年は頭を押さえながら立ち上がる。そこは巨大な皇帝の内部。一つの施設を思わせる空間であった。

 手狭ではあるが、一人が歩くのに充分な廊下が広がっている。


『攻撃は……今はやめた方がいいか。下手にやって爆発したら嫌だし、大爆発でもされて帝都中の人間を巻き添えとなったら……。うん、素直に心臓エンジンルームを探そう。そこを押さえれば、勝ちだ』


 独り言を口にし、心臓を止めに病原体、あるいは一寸法師が冒険を始める。神たる皇帝にとってこれほどの脅威は無いことだろう。

 そして、颯汰は気づかない。

 あれだけ騒ぎ動いていた皇帝が、ぴたりと動きを止めたことに。


活動報告にも書きましたがコロナウィルス陽性反応でました。自粛期間中後にも咳が止まらず再び病院行ったらまた陽性反応が出ました。からだよわよわ。現在も朝昼晩と咳が止まらなく、次回も投稿遅れてしまうかもしれません。申し訳ございません。

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