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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
異世界転移
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25 太陽祭2日目 其の参

「待たせてすみません」


「……こちらは問題ない」


マクシミリアン卿は包帯男に謝罪する。そして隣に立つ黒騎士カロンへ声を掛けた。


「カロン君、実は君がここに来たのは、彼と戦ってもらうためです。私が王に推薦(すいせん)しました」


「なるほど、それで……! 彼の(うわさ)に違えぬ戦士と、腕試しで競える……!」


喜びに打ち震えるカロンであったが、次の言葉で全てが台無しとなる。


「私の教え子であるカロン君の実力は折り紙付きです。ですが――」


誰もが続く言葉を予想しなかっただろうからだ。


「――此度(こたび)は、私が剣を取ります」


そう言って、抱えた上着を落とすように地面に置いた瞬間、(こし)を下ろした姿勢で駆け出していた。

 騎士学校長は歩み寄ってきたときには丸腰であったように見えたが、いつの間にか両手に一本ずつ木剣を握り締めていた

 低い姿勢のまま()め寄り懐へ、引き裂くように突き立てた二本の木剣が左右へと振られる。

 その奇襲も、ボルヴェルグは(すく)むこともなく冷静に手に持った木剣で受け止めて防いでいた。


「――!?」


「すいません。一戦だけよろしいですか? 娘がたまたま見ているのでいい所を見せたいのです。あ、加減は要りません。娘にバレたら恥ずかしいので」


(うけたまわ)った。しかし、相変わらずだな貴殿は……、全く(おとろ)えを見せない!」


二人の男は言葉を交わし、剣をも交わす。

 誰もが声を失う。美しい剣戟(けんげき)の嵐に目を奪われていた。先に紅角騎士たちとの闘いを見ていた者たちは、全く本気を出していなかった事を思い知る。

 マクシミリアンの二刀から繰り出される一太刀一太刀が荒れ狂う波の如く変幻自在であった。

 その連撃も長い木剣で見事に(さば)ききる包帯男は応えた。既知(きち)の中であるからこそ容赦(ようしゃ)ない先手を打たれても、ボルヴェルグは動じなかったのだ。

 そんな同じ場所にいるのに蚊帳(かや)の外となった黒騎士カロンは、この不条理にどうすべきか分からず、ただ立ち尽くすしかなかった。


 闘いが始まって(わず)か数十秒。

 それだけしか経っていないのに、人々の目に焼き付くほどの斬撃の応酬が繰り広げられていた。

 突き出される二刀を払い、唐竹(からたけ)を割るどころか砕く勢いで振り下ろされた一撃を舞うように(かわ)す。回りながら飛翔し、()じった身体の勢いのまま襲い掛かる木剣を、刹那(せつな)に振り上げた木剣で弾く。

 そんな光景を目の当たりにして、誰かがそっと呟いた。


「これ……試合、だよな?」


命の奪い合いではないと信じているのだが、眼前で行われている剣舞に一切の迷いがない。素人目であるからか、本気で木剣で命を取りに行っているようにしか映らない。

 石畳の円全体を使うだけには止まらず、そこを囲う壁や柱までもを足場として使いはじめた。垂直に駆けあがっては双刃を叩きこもうとする。それに対し一刀で受けるように見せかけ、即座に後退し、着地を狙って間髪入れずに踏み込んだ。

 正面に下ろされた鈍器となった木剣を、二本交差させ受け止める。すかさず腹部を狙い足を上げて蹴りを打ちこむが、読んでいたとばかりに残った手で防がれる。普段なら顎を狙っていたが長身である包帯男には届かないと踏んだのだろう。

 互いの得物は同じ材質でも、長さと本数が異なる。背の高い包帯男は力が優れていて長めの木剣を手の一部のように軽々と扱い、両手に持った木剣を振るう男は素早い身のこなしで翻弄(ほんろう)する。それで攻守せめぎ合うが、決定打とは至らない。


「ところで、何故フォードハム卿の申し出を断らなかったのです?」


「肩慣らしには丁度いいと思ってな。本番はてっきり黒狼騎士を率いるあの男がやって来ると思ったのだが……」


「カロン君も相当優秀ですよ? 後は経験を積めば私をも抜くでしょう」


「ハッ――! そいつは恐ろしいですな!」


包帯のせいでぐもった声にどこか喜びが含まれているように聞こえた。

 二人は、剣を休める事もなく会話を続ける。振るって風を切る音や地面を蹴る音などでその会話は外部に殆ど聞こえていない。目敏(めざと)い観客が口が動いてることに気付き戦慄していた。


「どうです? 私たちも何か賭けをしましょうか? フォードハム卿のように」


「賭け?」


「はい。あなたが勝てば、私の領地であれば好きな所を住ませましょう。私が勝てば、不夜の森の前に構える――南東のプロクス村に住んでもらいます。あ、辺境とか言われてますが立派な村ですよ? 畜産業が盛んでね。村人に人族(ウィリア)も多く、差別意識は他の村や街に比べれば無いに等しいでしょう。私が保証しますよ」


「あぁ、泊りはしなかったがここに来る際に立ち寄った。のどかでいい村であった。……こちらとして問題ないのだが、何故その村に?」


「まぁこの際ですから話しますが、既にお気づきでしょうけど、貴方を快く思っていない――この国に置きたくないと考える方々がいます。皆がフォードハム卿のように直接、かつ倫理的(りんりてき)配慮(はいりょ)をしてくれるとは限りません。性質(たち)の悪い悪戯(いたずら)なんてされるとご家族にも迷惑がかかるでしょう。ですからまず、私の領内に。それなら他の貴族もそう簡単に手出しできないでしょう ――そこだッ!」


明るく自然豊かな国であるが、その陰には濃い闇がある。研鑽(けんさん)せず、ただ怠惰(たいだ)に生きれば人の心は時間が経つに連れ(くさ)り落ちる。それが長寿のエルフであれば尚更(なおさら)の事であろう。長くその地位・権力に胡坐(あぐら)をかいていれば、自身は強大な力を持っているのだと(おご)りが生まれるものだ。己の地位を守るために新しい脅威を取り除こうとするのは人――生き物の習性であるのは間違いないが、そうした者がどんな悪辣(あくらつ)に走るかは想像に(かた)くない。――何せこの国の王子や貴族などは行方不明になる、毒による暗殺などで死ぬといった例があるのだから。故に毒物の管理は王や王の直属の騎士が行う決まりとなっているが、万が一の事もあるので用心するに越した事はない。


「――おっと!! ……正直に言えばこの国のただ一人、人族(ウィリア)の貴族である貴殿だからこそ、私や家族を受け入れてくれると信じていた。それにこの魔人族(メイジス)を抑え込むだけの武力もあれば、他の連中も安心するだろう」


「貴方が槍を持てば私は抑えられる気がしないのですがね。それでプロクス村の理由はですね……、最近、魔物が活発になったらしく、怪我人どころか家畜にまで被害がありましてね」


「……兵を回したいところだが、アンバードやマルテの情勢が気になりそれができないと」


「えぇ、詳しくはわかりませんが、何かしらの動きがあるのではと。ある貴族はあなたが間者となると恐れてできれば東に、ある貴族はマルテの盾に使いたいとルエ砦に送り込もうと考えていたそうですが、それは待っているご家族が大変でしょう、気が立った兵やその親族に何をされるかわかったものではないですから」


「…………なるほど。何にしても一度家族を迎えに戻る際に、情報収集はしておく」


「まるで間者ですな」


「それで戦争が起きて、必要のない犠牲者が出るのならば。売国奴と(ののし)られようと構わん。それに――」


「?」


「――いや、なんでもない。プロクス村にて魔物退治、しかと受け入れよう」


「賭けになりませんな」


「フッ……勝てば己の(ほま)れとなる。それで充分では?」


「――確かにッ!!」


そうして彼らの口頭での会話は終わり、武器での語り合いが過熱する。

 お互いが一歩も引かぬ攻防を目にし、颯汰は静かに呟く。旅をした中で幾度(いくど)脅威(きょうい)にあった。海賊との戦いは一撃で片が付いた場面しか見ていなかったから知らないが、少なくとも他の敵に対してはボルヴェルグの圧倒的な武力で制圧していた。確かに武器は木剣だ。だが、それが双方とも完全に間合いの中にいるのに、直撃してないのだ。


「あの人、めちゃめちゃ強い……!」


他の観客や生徒も、騎士学校の長に任命されるくらいには実力はあるとは知っていたが、まさかここまで人ならざるような動きを見せるとはと驚き――そして、それを引き出したあの男は一体何者なのだろうか、と浮かぶ疑問も眼前の情報量の多さで曖昧なものとなっていた。ただ純粋にこの戦いはどうなるのかと分からぬ答えにどこか期待をしていた。


 そこへ、新たな局面を迎える。


「くっ……!」


置物と化していた黒騎士カロンが動き出し、姿を消すと、すぐさま木剣を持って戻ってきた。


「お二人方! 私も乱入()ざらせて頂きます!」


この一言に、歓声が上がる。民の誰もが黒狼騎士の実力を知っているが、誰もが実戦での戦いを見知っているわけではない。

 これはどうなるか見物であると期待が更に膨れ上がった。


「こうなれば、一人と言わず、挑みたい者は掛かってきなさい!」


人族(ウィリア)の男がそう言うと双刃で彼へと襲い掛かり、混戦状態となる。

 その申し出に騎士学校の生徒たちは(ざわ)めき始める。その中で、勇気を出した者たちが階段を下り、木剣を手に校庭(せんじょう)に足を踏み入れていく。計八名の猛者(もさ)が狭い戦場で入り乱れていた。


「なんだこれ」


そんな戦いに見入っていた一人であった立花颯汰も混沌を極める現場に思わず感想を吐露(とろ)する。そして自身の外套の裾の、後ろの部分を掴んでいた少女が一層、(うつむ)いていた事に気付いた。

 何事かと声を掛ける前に、隣に立つ少年が空気を読まず、


「リーゼロッテのお父様は武闘派と聞いてたけどやはり強いね、でもこれだけ本気で動いたのは初めて見たよ……!」


そう言ったディムの声音に驚嘆が混じる。


「ん? お父様? アレが?」


颯汰が暴れ回り飛び回る二人の片割れの――木剣二刀流の男を指さして、少女に確認を取る。その少女は髪や被ったフードで目元までは隠れていたが、明らかに頬が紅潮し、口をパクパクさせていた。何か言葉を発そうとしていた時、


「我が娘、リーゼロッテ!! パパが最強だって証明するからな!」


まるでタイミングを見計らったかのように、あるいは運命の神の悪戯(あそび)なのか、既に半数の脱落者を生んだ円形の校庭で、久々に本気を出した事で戦の血が騒ぎ――妙にテンションが上がった騎士学校の校長は変なコトを大声で宣言し始めたのだ。


「ならば! 我が息子、ソウタ!! 父として男として、この場で頂点に立つ男の雄姿を見逃すなよ!」


顔に巻いた布のせいで聞き取りづらいが確かに響いた。どうやら乱戦の合間に、颯汰が見物している事に気付いていたのだ。

 ディムが横にいる友人たちの方を向くて、二人とも両手で顔を押さえているのが見えて、さすがに掛ける言葉が見つからず困惑してしまっていた。


「恥ずかしい……名指しは恥ずかしい……」


「…………」


少年も不可解な恥ずかしさに赤面し、少女の方は顔から湯気が出ているのではと思うほど、赤みを帯びていた。

 そして、ある決心がついたのか、少女は走り出した。


「あ、ちょ、どこへ!?」


驚いたディムとそしてそれに気づいた颯汰は彼女の後を追うが、彼女は身体も小さくぶつかる要素が皆無な愛されボディで、人混みを難なくすり抜けていく。そして――。


「お、お父さん!!」


彼女が、叫ぶ。校庭の渡り廊下から一歩踏み出したところで。

 そして彼女に呼び出されたマクシミリアン・フォン・ハートフィールはまるで縮地法(しゅくちほう)響転(ソニード)のような地を蹴り、まるで瞬間的にそこへ現れたかのような移動を見せた、が、次の瞬間――。


 響く――。

 空気を爆ぜさす(むち)のような音――。

 神速の一撃――。

 それは学園最強である事を証明した男に対し、

 刹那の間もなく即座に放たれた――ビンタであった。

 

 愛娘からの、愛ではなく怒りが込められた一撃。


「いい加減に、しな、さい!」


この一撃を以って、後に太陽祭騎士学校乱闘事件と称される事件、その幕が下りる決定打となったのだ。

風邪で更新遅れました。更新が長らく止まった場合は察して頂けると幸いです。


世間がモンスターを狩るのに熱中するなか、ガチの熱で仕事を休んで寝込んでました。



2018/01/28 10:28

サブタイに誤りがあったため修正しました。

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