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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
氷の女帝と狂える巨神
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91 決裂

 暗がりから光と影が差す。

 ペイル山の中腹にある洞窟どうくつおくには、マナ教の神殿しんでんがある。信奉しんぽうする者が減ったためすたれ、一部崩落(ほうらく)しかかっているという触れ込みで、立ち入り禁止にしていた。だから中までやってくる物好きな者は、この世界でそうそういない。

 入口が、少しまぶしく見えた。

 瞭然りょうぜんとした太陽の恵みを、久しく受けていない大地ではあるが、雲の向こうで陽が沈むには、まだまだ時間がかかる真昼である。

 立ちはだかるかげっすらととびている。

 ただ、それを目にしなくても――、


『『……!!』』


 颯汰も、リズも、紅蓮の魔王も気配を感じた。

 たとえ目に映らなくとも、それは感覚が教えてくれるであろう――強い感情がうったえかけてくる。

 ヒルデブルクとアスタルテ、ソフィアはそれに気づく前に、三人の変化におどろいた。静かに、息を殺したような、ほんの短い悲鳴があがる。

 隣にいたのは、強くも優しく頼りになる仲間たちであったのに、強い敵意、殺意をたぎららせた三体の怪物に変わっていたのだ。


紅蓮の魔王(王さま)ッ!!』


 最初に動いたの怪物かいぶつは“獣”である。

 さけびにおうじた契約者けいやくしゃは、身のたけある大剣を現出させ、追おうとした闇の勇者を制止させた。

 目の前にけるように熱い、星の力を宿す剣身が現れ、ふさがれる。


『落ち着け。み込まれるな』


“勇者”たちはやって来た『敵』を知っている。

 紅蓮の魔王が邪魔しなければ、惨劇さんげきけられなかったであろう。それは犠牲者ぎせいしゃが敵一人であっても、共にいる少女たちの心に、えない傷をつけてしまうものであった。


「…………」


 向けられたのが、抜身ぬきみやいばでないだけかなり温情ではある。魔にちる前の星剣であれば、その剣身に反射して、鬼気ききせまるリズ自身の顔が映ったことだろう。


「……」


 乱れた呼吸を整え、闇の勇者リズは大丈夫だと首を振る。しかし依然いぜんとして“敵”へ意識を手放さないでいる。戦士として当然であった。

 己の中に芽生めばえた感情の正体を、息を吸い、吐いて再確認をし、瞬間的に爆発しそうな強い殺意を、リズはどうにかおさえ込んだ。

 あれ(、、)は、滅ぼさねばならない――。


 洞窟の出口の光の先へ、縮地しゅくちの走法である無影迅にて立花颯汰は飛び出した。

 立ちはだかる陰に向けて、手を伸ばす。

 内なる“獣”の衝動はあっても、勇者が抱えるものと比べれば弱いものである。

 冷静に“敵”を視認して、手段を選ぶ。かばうように前に出されて交差する両腕を、颯汰は触れた。


『――ぅおるァッ!!』


 入り口の前にいた“敵”を、颯汰は勢いに任せて突き飛ばす。衝突前に踏み込んで放った掌底は、重い。

 数ムート後方へ飛んだ相手に、颯汰はさらに追い打ちを――かけなかった。


 雪の上を舞うように宙から降り立った“敵”。

 突き飛ばされたものの両足で着地し、氷の上を滑りながらも体勢を崩すこともなく、正面から襲い掛かって来た颯汰の方を見つつ後退していった。


「ふふ……」

 

 待っていた人影はあわはかなく、雪に溶けて散りそうな深窓しんそう令嬢れいじょう。その姿に覚えがあった。

 白磁はくじの肌に青みがかった黒髪。

 赤いひとみが妖しげに光る若い女。

 格好こそ、防寒具で固めているが酷く寒そうに見える。


『…………お前か、ウェパル』


 帝都に残っていたはずの女は笑んだ。


「いきなり、とんだご挨拶あいさつだねー」


 状況に似つかわしくない、気がけるような声で親し気に話しかけてくる。ただ、息遣いきづかいと言葉の節々、肩の動きから、かなりの疲労ひろううかがえた。

 無理をしているのは明白だ。ただ、先ほどの一撃が効いたとは思えなかった。

 どのタイミングかは知らぬが、山を登り颯汰たちを追いかけたならば、整備された山道であろうと、疲労状態なのはなんらおかしくない。


『何を、しにきた』


「何ってー……今、帝都がすごーく、大変なことになってるんだよー? ほら、あれを見て」


 ウェパルが指をさす。

 中腹から離れた帝都が見えた。

 ほんの少し、それに従うのを躊躇ためらいつつ、颯汰は目線だけをそちらに送り、帝都の状態を視認してつぶやく。


『…………なんだあれ』


 少し離れた巨大なドーム状の都市に変化があった。球体の中、霧に包まれてけむるのが常であったガラッシアが、内側から変わっているのがわかる。

 大いなる《神》を蘇らせた代償はあった。

 帝都中の電力を賄う大結晶だいけっしょうのエネルギーが底を尽き、辺りは闇にまった。

 すぐに予備電力で照明しょうめい暖房だんぼうの類いは回復したかに見えたが、じきに限界が来る。

 神の宝玉(リーゼ・クライノート)という物質は解明されていない謎が多い。

 大気中や地中の微小なマナを集め、増幅ぞうふくしているのはわかっている。

 ヴェルミの首都ベルンにある緑の大結晶は増幅したマナを地中に還元し、荒地であったヴァーミリアル大陸に豊かな実りをもたらしたのだ。

 極寒の地であるアルゲンエウス大陸で生きるために、ニヴァリス帝国は神の宝玉によって得たエネルギーをヒトの営みへ利用していた。

 それを、一時的とはいえ使い切ってまで、皇帝は巨神(ギガス)を呼び出した。

 スノードームのような円形が、白く濁り靄がかっていた頃は、真珠パールの輝きを思わせた。

 それが今、変貌していた。

 血を浴びたと呼ぶより、中から染み出たように赤黒く、けむりに満たされている。


「皇帝が《神》を蘇らせて一体となったの。今はたぶん、神の宝玉(リーゼ・クライノート)を取り込もうとしてるの」


『取り込む……?』


「《神》ってのは、比喩ひゆと言えないくらいちょーっと危ない巨人みたいなかんじ。巨神(ギガス)って呼ばれてるのー」


 巨神(ギガス)を実際に見ていないのは確かであるが、存在すら認知していないと思いウェパルは颯汰に説明する。


「空中庭園の下部についてた大きな赤い結晶を覚えているー? あの結晶体のエネルギーで、帝都地下最奥のアルマナ・システムを起動させてー、神の本体を修復ー、でもあの結晶自体が巨神ギガスの要。だから結晶を中に取り込むつもりなのー」


『ある、まな……?』


 強烈に引っ掛かる名前。

 覚えがないはずなのに、颯汰は反応していた。

 大丈夫と言いたげに首を傾げるウェパルに、颯汰は問題ないと首を横に振った。


『要するに、モバイルバッテリーで3Dプリンターを起動し、出来上がったスマホ自体にそのモバイルバッテリーを接続というか合体させるって認識であってるかな』


「ごめんぜんぜんわからない」


 たちが悪いのはそのモバイルバッテリーが黙っていても勝手に充電されることだろう。


『…………。無尽のエネルギーを得るわけか』


「うん。帝都全体のエネルギーをまかなえるし、一気に放出さえしなければ生成量が上回る計算だから、基本的にガス欠しないものだよー。今回はあの修復のためにすっからかんのハズなんだけど……」


『(魔王の王権(レガリア)と似たもの、か……)なるほど。いやに詳しいじゃないか』


「ふふ……わかってるでしょ?」


 その言葉に颯汰は一瞬、目を伏せる。


『お前、あの氷の魔王だな?』


 ニヴァリスで皇帝一族と通じ、紅蓮の魔王と浅からぬ縁を持ち、彼を深く憎悪していた女。

 地下にいた海鱗族(セーレ)の女――彼女の中に眠っていた魔王は、自我を持って動き出した。

 話はわかる相手ではあった。

 出会いもかなり最悪のカタチで殺されかけ、温厚とは言いがたいが、颯汰の境遇きょうぐうに同情し、心から心配していたとは思う。

 しかし、彼女もまた転生者(マオウ)。ゆえに、内なる“獣”も勇者たちも衝動に駆られたのである。

 ウェパルであった女は手を掲げた。

 白磁のような真白な細腕の先の儚げな手。

 宙に描く氷の軌跡。

 手を動かした後にきらきらと粒子が舞う。

 亜人種の始祖吸血鬼オリジン・ヴァンパイアとなればこれくらいの芸当はできるものではあるが、


『……(うげっ)』


 出かけた喚声かんせいを殺す。

 彼女の指先に集まる魔力が氷の刃――颯汰を一度穴を開けた氷柱つららが形成される。

 さすがに颯汰もトラウマ化しているためか、表情は強ばるし、咄嗟とっさに構えをとっていた。

 臨戦態勢を取った黒い“獣”に対し、女はあやしげに笑んでから言う。くるくると氷上を舞うようにして、余裕を見せた。


「そうだよー。そして同時にあなたの知っている仲いいお姉さんのウェパルでもある」


『ちょっと何言ってるかわかんない』


「それはふつーに傷つくんだけどぉー?」


 変わらず談笑しているが、空気は張りつめていた。いつ何かがきっかけで爆ぜるかわからない。


 ――魔王なのは、わかった。だがなんだ、この胸騒ぎは……?


 巨神に対する感覚ではない。明確に目の前の女が危険であると断じて、洞窟で誰よりも先に飛び出した。相手が魔王だから……とも違う。


『それより、いいのか。王さま――紅蓮の魔王がすぐそこにいるぞ』


「…………一発氷柱(これ)、胴にめり込ませていい?」


『いやそれ間違いなく殺し合いになるでしょ』


 ちょっと一発殴ってやる、みたいな口調で言ったが、確実に激化する。

 第一、その一発目が当たる未来が見えない。

 即座にかわされて、気付いたときに首が飛んでるヴィジョンなら容易に想像ができた。

 颯汰のおふざけ無しの返答に、魔王ウェパルはかたをすくめた。


「今は、まずいかなぁ。それにあいつの顔みたら抑えきれないかも」


『だったら早く要件を言ってくれ。なんかやばい神さまが現れたって忠告しに来ただけじゃあないんでしょう?』


 魔を統べる王らしく、威圧いあつ的で苛烈かれつな一面を有するが、わりと甘い女だ。善意でわざわざ颯汰たちに、帝都に近づくなと言いにきたのかもしれない。しかし、颯汰はその可能性を直感で除外する。

 欲望の塊である魔王(テンセイシャ)ならば、何らかの要求があって然るべきである、と。


「ソフィアを渡して」


 同行者のひとり、霊器によって姿をまるっきり変えて男の客員騎士エドアルトを演じていた若い女――この目の前の女魔王曰く、ニヴァリスの正当後継者にして現皇帝のヴラドの隠し子。見た目では一回り二回り以上年の差を感じるが、長男ヴラドレンより年上とのこと。

 唐突に帝都で指名手配となり、颯汰は彼女をかくまい、逃がすためとはいえ中腹まで、過酷な登山に同行させたのであった。


『……なぜ、彼女に固執する』


「なぜって、あの子が必要だから」


 颯汰は腕を組み問う。洞窟の奥にまだ待機しているが、そこへ視線を移すことはしない。口ぶりから、一生にいる事とそこにいるとまでバレてるとは思うが、あえて真っすぐ彼女を見据えるに留めていた。

 問いに対し、ウェパルは淡々(たんたん)と答え、続けた。


「真の後継者で、皇族の血筋だからね。あの子なら、巨神(ギガス)を止められる。皇帝から引き剥がせるのよ」


『…………』


 この場で真偽を確かめる術はない。

 嘘を吐くメリットの有無から慎重に判断する。


「わざわざ無駄に血も涙も汗も流さずとも、あの子がいれば万事解決するんだ~。だからソフィアを――」


 わざわざ無駄な労力を使わずに、簡単に事態を収拾することができると女魔王はいう。


『――……俺も、巨神あれを止めたいとは思う』


 颯汰が女の台詞に割り込む。

 女は彼の言葉を聞いて、パッと明るい顔で笑む。


「! へぇ。だったら目的は同じだね」


 女から差し伸べる手を、


『いいや違う――』


 颯汰は取らない。

 むしろ振り払うように拒絶きょぜつの言葉を口にした。


『――俺たち(、、、)は、あれをぶっ壊す』


 力強い宣言。

 その言葉で寒空の下、気温がグッと下がったように思えた。別の意味で空気が変わる。


「………………は?」


 声の大きさは何一つ変わっていない。


「何を、……言ってるのかな?」


 響きも変化なし。

 それなのに、女魔王から凄まじい圧を感じる。

 山颪やまおろしが吹く。冷たい風が駆け抜けた。

 高まる緊張感。だが颯汰はおくせず答える。


『そういう約束をした。だから内部からデカブツを破壊する』


「…………ふふ」


『?』


 女はくすくすと笑い始め、次第に声が大きくなる。冷めた空気に、腹を抱えて笑う声だけが響く。風の音はほんの僅かな間だけ、止んでいた。

 女は、一通り笑ってから、大きくため息を吐く。

 笑い終わった女を、ジッと颯汰は見つめている。

 颯汰は再会からずっと怪訝そうな仏頂面であった。


「だめだよ~。あれは皇帝から奪うの」


 目は笑っていない。

 善意からの警告――あんなものと戦うなんて馬鹿らしいというものではない。止めるまでは同意見であったが、巨神の破壊は許すつもりは無いらしい。


「魔王を凌駕りょうがする神の力。そのままポイなんて勿体もったいないでしょ?」


『……魔王を凌駕するだって? そんなに危険なやつなのか』


 なお更、そんなものを野放しにはできない。

 しかし、ウェパルの考えは違うようだ。


「ソウちゃんの目的はたしか~……、他の魔王に会って、転移系の固有能力(イデア・スキル)持ちに元の世界に帰らせてもらうんでしょ~? だったらアレ、あった方が便利だとわたしは思うな~。交渉でも、撃退でもなんでも使えるんだし~」


『いいや。手に余る力は危険だ』


「紅蓮の魔王と契約を解消するときも、巨神は使えるよー? このままだとソウちゃんはあのクソ野郎の“身代わり”になるよ? それでいいのー?」


『あのヒトの、固有能力(イデア・スキル)か……』


「契約と称してその命が人質になってるとか、洒落しゃれにならないでしょー? ここはチャンスだと思ってさぁ。ね?」


 甘い言葉。

 常人ならば、耐えられまい魔性を帯びた甘言。

 精神ココロほどけ、理性は溶け、常識を捨ててでも彼女に奉仕したいと無意識に思い込むような“呪い”が込められた声。それを抗うには意志の力だけでは心許こころもとない。

 握り拳の爪を、黒鉄の掌にめり込ませる。痛みはあり、見えないが血も出ているのは間違いない。

 それを悟られぬように、颯汰は険しい顔のまま言葉をつむいだ。


『王さま――紅蓮の魔王を、心から信用しているわけじゃあない』


 一歩ずつ、雪をめて女に近づく颯汰。

 女は鷹揚おうよううなずき、今度こそ手を取ってくれるに違いない――『陥落かんらくした』と確信して手を差し伸べては歩み寄る。邪気を微塵に出さずに、むしろ何か聖母のようないつくしみをもって近づいていく。反吐へどが出るような醜悪な心を有し、女は少年に対う。

 あと少しで、その手を取る。

 その刹那せつなであった。


『――シッ!!』


 白銀がはしる。

 前に出した握手に応える右手。

 それを隠すように後ろに回した左腕が振られる。

 一度追撃を止めた颯汰であったが、動き出した。

 間合いに入ったその一瞬であった。

 左腕の黒の瘴気しょうき格納かくのうした剣を抜き、躊躇ちゅうちょなく女を斬り捨てにいく。だが――、


『――ッ!』


真芯をとらえたはずの一撃。胴から肩にかけて通るはずの刃が、止まった。

 立花颯汰は白く細い指に抑え込まれた剣を驚いて見た後に、眼前の者を敵としてにらんだ。



『……!!』


 指で摘ままれた部分から、剣が凍っていく。

 颯汰は刃を引いて左足を、女の腹に目掛けてじ込んだ。装具があっても感触が巨岩、あるいは氷塊を蹴りつけたようなしびれがあった。 

 だが、ここで止まらず、颯汰は追撃を敢行かんこうする。

 刃を白銀にきらめかせて斬りつける。強化された斬撃。切っ先は雪の上を滑り、今度は両の手で握った剣を叩きつける。

 二撃目が虚空こくうを切り、かわした女は体術で応戦を始める。少し身体をずらし、最小限の動きでウェパルは攻撃を回避かいひする。通り過ぎた刃、振るったその腕に向かって一歩踏み込む。受け流すために右手で押し込み、空いた左手で颯汰の顔面を掴むように手を伸ばした。白どころか凍り付いた魔の手が伸びる。触れれば危ういとすぐに判断した颯汰は両腕のスラスターと脚力を全開に使い、後方へ跳び退いた。


 ――……ッ、危なかったぞ


 たった一瞬のやり取りなのに汗がにじむ。

 ほんの少し遅れれば文字通り命取りであった。


「ひっどいなぁ~……。さすがにちょっと、ショック大きいよ~?」


 けらけらと余裕そうな言葉を吐く女に、颯汰は様子をうかがいながら、彼女の疑問に応える。


『王さまを信用してるわけじゃない。だけどな、お前の方が信用できない。……何が固有能力(イデア・スキル)は『多重人格』だ。お前はウェパルの肉体を奪った――りついたの間違いだろ』


 元から地下の海鱗族セーレのもう一人格だと言い張っていたが、話が違う。

 この女は何かまだ大事なことを隠している。


『なぜ、ソフィアさんがお前の、魔王のことだけ記憶にないんだ。お前は本当は何が目的であのヒトに近づこうとしている?』


 柄を握りながら、女を問いただす。

 それに対しウェパルは、失望したような溜息だけで返す。答えるつもりは無いようだ。

 今度こそ文字通り、空気が凍り付いた。


わらわがこんなにも優しくしてあげたというのに』


 凛冽りんれつたる颪に、地吹雪が舞う。

 視界が白に染まる。

 

『つけあがるか。小僧』


 声の響き方が変わった。

 既知なるもの。

 姿顔形に変化はない。

 ただ大きな変化はあった。

 その内面と、一つの装備――否、異物が違う。

 白い衣服に浮く“黒”。

 先ほどまでなかったものが、浮き出ていた。


『……!』


 ウェパルのベルトから、闇があふれる。ぐつぐつと煮えたぎるように、液状の黒が這い出てくる。

 女は苦悶くもんの声を押し殺し、精一杯笑んでみせる。

 颯汰はフッと息を整えた。差し伸べた手ですくえるものは、そう多くない。

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