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Regalia of DESIRE ~転生魔王大戦~  作者: キリシマのミナト
異世界転移
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23 太陽祭2日目 其の壱

 太陽祭――二日目の朝となった。


「起きたか、友達が待ってるのだろう? 朝食を食べたら行きなさい」


朝っぱら、寝起きで顔に刺青付きのゴリゴリのマッチョマンのドアップには相変わらず慣れないな、と思いつつ颯汰はベッドから上半身だけ起こす。

 開いていた窓から入ってくる風にでられ、そこへ視線を移すと、外から喧騒けんそうが響いてくる。祭りの二日目でも熱は冷める事はない。

 周りを見て、颯汰は自身が賓客室ひんきゃくしつ寝泊ねとまりしていた事を思いだした。

 当初は予定通り宿屋で済ませる筈だったのだが、宿は既に一杯になっていた。そこで王の計らいでここへと招かれたのだ。

 ボルヴェルグは確かにふみで宿の予約も頼んだはずだが……、とボヤいていたが颯汰も彼も結果的にこの部屋で満足していた。

 王宮内は、無駄にゴテゴテとした金ぴかの装飾だらけであるのかと颯汰は思っていたが、当初の街の雰囲気にあった落ち着いた空間だ。

 賓客室は大樹との調和をイメージして、木と自然をテーマにしたシックでおもむきのある部屋であった。家具は当たり前だが木製で、三人掛けのソファが向かい合う、間にあるテーブルの上のバスケットには何種類かのフルーツが置かれていた。見覚えがあるようでない――日本にはないだけなのか、この世界固有の物なのかは分からない。大開きの窓からベランダに降りられ、そこには綺麗な水が溜まっている。ちょっとしたプールなのかもしれないが、そういうデザインのインテリアの一種なのかもしれない。何にしても泳ぐつもりは颯汰は端からないのだが。

 そして奥を覗けば、街が一望できる。ここは大樹から伸びる枝の上に建てられていて、外からは景色に溶け込んでいてそう簡単に気づかれない場所らしい。

 あまりの高さに一日目の夜、訪れた際に颯汰は腰を抜かして卒倒しかけたが、何とか誤魔化し今に至る。

 朝食の匂いを感じ、そこへ視線を移す。テーブルの上に並べられた料理は、さすが王都のものと称賛しょうさんすべき豪華さであった。

 パンにチーズ、魚のソテーのホワイトソースあえ、生ハムがトッピングされたシーザーサラダもある。

 どうやら人族ウィリアの舌に合うものを用意されたらしい。思わずゴクリと喉を鳴らす。

 大抵の食事を狩猟や採取で済ませてここまで来たのだから、何であれご馳走となる。

 すぐさま平らげて、上下の衣服をちゃんと着替えるなどの身支度を済ませたのであった。外套は個人的に気に入っているらしく、それを被りはためかせながら、颯汰は飛び出していった。


 昨日は三人で出店の散策をしていたが、日が沈んで解散となった。

 颯汰が王宮前に着くと、並ぶ兵士たちから少し離れたところの壁に寄りかかって待つボルヴェルグと再会を果たした。

 そうして部屋に案内され、互いに何かあったかの報告会となった。

 颯汰は路地裏の一件を伏せながら、エルフの少年と人族ウィリアの少女と街を回ったと報告すると、男は静かに、しかし大いに喜んだ。

 ボルヴェルグは王宮にて、どんな話をしたのか何か差別的なことを言われなかったのかとそれとなく聞いたが、彼は微笑みながら親指を立てて安心しろ、とだけ言った。


 颯汰とディムが初めて会った路地裏が待ち合わせ場所である。

 そのまま引き籠るという選択肢を選べば、もれなく全身を包帯で隠した保護者に連れまわされるだろうと分かっていたので、大人しく街へ出て彼らと会う事にした。それはそれで悪くもないが、勝手にされたとはいえ約束を反故するのも忍びないと考えてか、颯汰は路地へ駆けた。


「ほら、ちゃんと来たじゃないか」


時間の指定は“朝”とだけであったが、路地裏では既に二人が待っていた。


「…………それで? 今日も出店の散策か?」


颯汰の問いに二人は首を振った。


「一日で一通り回ったからね。今日は貴族層にいる劇団たちの劇を見ようと思うんだけど、それでいいかい?」


「劇団?」


「そう、旅の一座らしい。今日着いたばかりなんだ」


 ――思えば、演劇とかはあまり観る機会がなかったなぁ


颯汰の記憶を巡らすが、過去に学校でやった小さな劇か、部活動の出し物、授業の一環として観たくらいであった。いづれも昔の記憶であるせいか朧気おぼろげであるが、わざわざ足を運び、料金を支払ってまで観たことはないのは確かであった。


「……いい機会だ。俺はそれでいいよ」


「ははっ、決まりだね。それじゃあ、これ」


「?」


ディムが後ろに回して隠していた手から何かを差し出し、颯汰がそれを受け取る。


「これは……?」


木版チケットさ。一番見やすい席を取ったんだ!」


褒めてとばかりに鼻を鳴らして胸を張る少年と、その隣の少女も両手で木版を持っていた。


「なんだそのドヤ顔。……というか聞く前に決めてたな?」


そう言って値段を続けて訊きながら、革袋から金銭を出そうとしたが、


「子供はサービスだから無料だよ、ね?」


隣の少女に同意を求めると、リーゼロッテはビクリとしてから恐る恐ると頷いた。その態度に特に気にならなかった颯汰は素直に受け取った。


「へぇ~……ならいいか」


実はそれなりの額が掛かっていたのだが、颯汰がそれに気付いたのはかなり後になってからである。


 劇をやるという大きなテントの前へ移動し終えると、三人が係員に木版チケットを手渡すと場所に案内された。

 組み立てられた特設ステージの前に、切り株状の椅子が並んである。そのステージの最前列の三席がディムが取った座席であった。

 映画館であれば首も目も痛むため避けたい席であったがそこまで高くないステージの上で繰り広げられる物語の鑑賞には丁度いいかも知れない、と颯汰はボヤっと考えて眺める。

 座席に座り待つと、しばらくして空いた席も親子連れや子供で埋まり、劇が始まった。

 木で造られたステージの垂れ幕が上がると、客席から見て左端に妙齢の女性が立っていた。黒髪が長く耳が隠れているが、肌の白さからエルフだろう。不思議な色香のある二十代半ばくらいの見た目だ。


「みなさ~ん! こんにちはー!」


「「こんにちはー!」」


女性が元気よく挨拶をすると、子供たち――颯汰を除く子供が挨拶を返す。その声に艶やかさが少し入り混じっているように思えたが、気のせいだろう。


「あれれ~? 元気がないぞ~? もう一度元気な声で~! こんにちはー!!」


「「こんにちはー!!」」


「はい! ありがとうございます! 本日はー、我々『魔女の夜(ヘクセンナハト)』の劇にお集まりいただき、誠にありがとうございます! ――っと、失礼、子供たちもワクワクして待ちきれませんよね。では早速始めたいと思います! 此度こたびの劇は皆さんご存知の英雄伝説『赤き光の勇者レグルス』……から、視点を兄である『夜闇の勇者ノクス』へと変えた物語を、只今より、上演致します!」


子供たちの歓声と拍手が響き渡り、劇が始まった。


 それは過去の叙事詩じょじしを基に作られた物語であった。魔王と呼ばれる存在の暴虐を許すまじと立ち上がった兄弟が苦難を乗り越えていく話の一部分を、宣言通り人族ウィリアの勇者兄弟――『兄・ノクス』の視点で繰り広げられた。

 そんな終盤――。


『フハハハハハッ!! この地は我が奪い取った!! 赤き勇者も今は我が手に堕ちた! 愚かなニンゲンどもを皆殺しにしてくれるわ!! 行けぃ! 手下どもよ!! そこにいる子供たちを生贄として捧げるのだぁ!! アーッハハハハ!!』


男性の“魔王”が高笑いを上げると、その部下であるどこかの誰かに似た包帯姿にオオカミの被り物――本物の毛皮を被った“手下”が二名、ステージからおどり出て、観客――子供たちの前へ現れたのだ。


 ――あ、これ知ってる。劇? 劇ではある。うん、劇ではあるケド……


『クソォ!! この縄を解きやがれッ!!』


颯汰が既視感の正体を思い浮かべている中、縄で両手を後ろで縛られてステージ上に座らされた“勇者レグルス”が叫ぶ。子供たちも「頑張れー!!」と叫んでいた。


『さぁ、魔王様の生贄となる質のいい魔力を持った子供は――キミだ!』


手下が観客席前に立ち、騒ぐ子供たちの中から誰を選ぶか吟味ぎんみするような仕草をした後、最前列のディムの右隣にいたエルフの少年がターゲットに決めたようだ。迫りくる手下のオオカミ頭たち。すると、


「うわああああああいやああああああああ!!」


本気ガチの悲鳴による拒絶きょぜつと共に、繰り出された連続パンチが“手下”の一人に多段ヒットする。ドスドスと腹部に連打を叩きこまれた。それは子供の力とて痛いものだ。


「ぐふっ」


 ――あぁ! 頑張れ! 手下のウルフ!


素の痛がりを見て、颯汰は思わず敵役の大人を応援してしまう。

 そして、本気の嫌がりを見て、『お、おっと勘違いだったな……おまえじゃない』と上司からターゲット変更の指令を行う。手下はヨロヨロとよろけていたが、さすが演者だろうか、すぐに役に戻っていた。

 泣いている子に向かって強行をせず、別の子を選ぼうと“手下”が辺りを見回そうとした時だ。泣いて抵抗した少年に左隣、リーゼロッテの右にいた少年――ディムが立ち上がって両手を広げていた。


「――……さぁ!」


 ――さぁ、じゃないが


思わず内心で颯汰がツッコミを入れる。

 十字の光が宿るが如く、目を輝かせて見つめてくる少年に“手下”は動揺を隠しきれないでいると、


「この命は民を守るためにある! 僕を連れて行くがいい!」


 ――なんだこの、なに…………?


「へ、『へぇ、勇ましい子供だ! そこのお前に決めた! やれ!』


そう魔王が言って手下の一人がディムをたる米俵こめだわらを扱うようにかつぎ連れ、ステージまで上っていく。連れ去られた少年はまだまだ目をキラキラとさせていた。


『さぁ、あと一人は……お前だ可憐かれんなお嬢さん!』


ディムが連れていかれオロオロとしていた、髪とフードで顔がほとんど隠れているリーゼロッテが選ばれてしまった。単に近かったのと、他の子供の拒絶が強かったせいもあるだろう。近づいただけで他の子供は泣き出している。戦争で負けた兵や食えなくなった傭兵が野盗に堕ち、無法を行う事もあるこの世界であるから、あり得ないものとして子供たちは捉えられないのだ。

 さすがに女の子を担ぐのは色々と問題があるのか、手を引き立たせることから始まった。力は込めないように、優しくする辺り配慮はきちんとしていると見て取れる。

 席を立ち上がらされた少女は左隣に座る少年を見つめながら、その上着の(すそ)を掴んでいた。それに気づかない“手下”は少女のこしに左手を回し、ゆっくりと押しながら右手を引き移動させる。

 そっとはなれる手と裾。指先からこぼれて、自然と上がっていた腕から布がパサリと落ちる。少女は、数瞬だけその手を伸ばそうとするが、あきらめてろしてしまった。そんな少女のうるむ瞳を初めて見て、隣に座っていた颯汰はつい、立ち上がる。


「――待ってくれ」


『…………ん? なんだぁ? この子の代わりになるとでも言うのか?』


「そうなると、その子は一人で待つハメになる。だから一緒に連れて行ってくれ」


右手を差し出す。振り向いた少女は左手を。そして、颯汰がその手を掴む。


『なんと勇敢な! 貴様らはきっと大きくなれば、彼の勇者たちに比肩ひけんし得る偉大な戦士となろう! だが残念だった! 勇者の一人はもう我らの手で死ぬ! 貴様らはここで魔王様の生贄となるのだ!』


悪役らしい台詞を吐きながら、“手下”は二人の後ろに回り、二人の肩に優しく手を置いてステージ上まで運んでいった。


『フハハ! 生贄が決まったか! ならばその幼き命をかてとし、残りの勇者も今度こそほうむってくれようぞ!!』


ステージの真ん中で、高笑いする“魔王”。子供たちの悲鳴の先に、未だ目を輝かせている少年とうつむく少女、その手を掴む気だるげな表情の少年もいた。


『フッ……!! そんなこと――させると思ったか!』


響く、低く冷静さを持った声が激情に身を任せ変化する。

 現れたそれは模擬剣による容赦ない先制攻撃を“手下”たちに浴びせた。肌に当たらぬギリギリで振り抜く刃によって、“手下”は悲鳴を上げて倒れていく。男はすぐさまに人質となった少年たちの方へ駆け寄り、手下の首元へ振るってみせた。


『ぐわあぁああ!!』


手下は悲鳴を上げてその場で人質である少年たちにぶつからないように気を払いながら倒れる。


『貴様は!! ――臆病者おくびょうもののノクス!!』


魔王の叫びを無視し“勇者ノクス”は弟である“勇者レグルス”の縄を剣で斬って解く。おそらく最初から切れ込みを入れていたのだろう。すぐさま立ち上がっては腰にある剣を抜いた。…………何故武器を携帯したまま拘束されていたのか、とたずねるのはあまりに無粋ぶすいか。

 剣戟の合間に二人の勇者に連れられ、人質役となった三人は席へと戻ると、ディムは隣にいた腹パン連打少年と短く会話を交わしていた。


『臆病者――、か。だが俺はもう迷わない。この剣に、大地に、人にちかった!! ゆえに、俺は勇者だ……!! 行くぞ! レグルス!!』


『――……あぁ!! 兄者!!』


『くっ……!! ものども!! 奴らを倒せ!!』


さらに追加で現れる手下四体を、二人は華麗な剣技で打ち倒して、魔王へと斬りかかった。二本の模造剣を片手ずつ手で掴み、魔王は跳ね返すように押し出した。


『甘いわ!! 本気の我が、たかだか人間が敵うはずもなかろう!!』


『くッ――このままでは!!』


『兄者! あれをやろうぜ……!』


『……あぁ! よいぞ!! 我らの星剣せいけんを束ねる時だ!!』


そう言って、二人は交差するように掲げると、語り手たる司会のお姉さんが客席の子供たちに声を掛けた。


『会場の皆んな!! 二人の星剣に力を貸して!! 君たちの声援を乗せるの!! せーのっ!! 『頑張ってー!!』』


「「「がんばれぇぇぇええ!!」」」「「「負けるなああああ!!」」」「「「ノクトぉぉおお!!」」」


『ありがとう! 子供たち!』


『行こう、兄者!!』


二人は叫びが、会場の声援と重なり合う。振るわれた最後の一撃が、悪しき魔王を切り裂く。


『ば、ばかなああああ!!』


魔王は叫び崩れ落ちるようにステージの陰――端の見えない場所へ消えていった。溢れ出す歓声の波が、特設会場のテント内だけではなく貴族層全体へ伝わったやもしれない。


 ――うん、完全に一昔前のデパートとかでやるヒーローショーだよねコレ


 そうして、劇は終わり、太陽は既に中天に差し掛かっていた。

そろそろ少年編(仮称)を終わらせようと思っているのに、まさかのヒーローショーで一話を費やしてしまいました。


――――

2018/01/27 一部脱字につき修正。

風邪を引いてしまい更新が遅れてます。申し訳ありません。



――――

2018/05/28

カクヨム、エブリスタに投稿と合わせて一部修正。

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